□■ 点鬼簿 ■□





 
その年の正月のことはもっと印象深くて当然なのに。
どうして自分はおぼえていないのだろう。

うす曇りの空から淡い日がさしていたことをおぼえている。
体調のすぐれない父を家に残して、母と二人、初詣に出かけたことをおぼえている。
その初詣で、父のことをなにひとつ祈らなかった自分のことをおぼえている。
そして。
夜になって容体の悪くなった父が、病院に戻っていったのをおぼえている。
「また帰ってくるから」
そう言い残して。

その時まで、自分は父の病気が治らないほど深刻なものだなんて考えてもいなかった。
たとえ目が悪くなっても、少しくらい痩せても。
それでもしばらくすれば帰ってくるものだと、そう思っていたのだ。
ほとんどその目は見えなくなっていたというのに、あんなに痩せてしまっていたというのに。

だけど、自分もようやく父の病状のどうにもならないことを認識した。
なにも言えなかった。はげますこともなにも。
家を出て行く父の後ろ姿は涙にぼやけて、見えなかった。
 


to be continued