チルドレン(2004.6.29)
伊坂幸太郎 講談社
伊坂幸太郎は自分の世界をきっちりと確立してしまっている、とつくづく思う。こ
の作品は5つ短篇で仕上がった連作短編集なのだけれど(帯によると「短編集の
ふりをした長編小説」だ)、時系列がバラバラなのももう彼の得意技といっていい。
一見めちゃくちゃな順番で無秩序に並んでいるように見える物語が、読み進めて
いくうちに収まるべき所に収まり、伏線がきっちりと収斂されていくのは爽快。単
なるひっかけのために時系列を混乱させるような書き方をしている作品とは一線
を画しているのだ。
物語のキーパーソンは、陣内という男。彼の周囲の人間が、彼を含んだ自分の
物語を語る、という形で物語は進む。一見むちゃくちゃで、自分勝手で、ハタ迷惑
な陣内に最初は眉を顰めながら、気がつくとうっかり彼の言動に感動させられて
しまっている自分。伊坂ワールドはいつでも、非現実的な事件を普通の口調で語
りながら、最後は気持ちよく感動させてくれる。
なんだかそんなつもりはなかったのに、気づくとベタ褒めだなあ…(笑)。
自分の中で最高の一冊にはならないのに、つねに上位を占めているような、そ
んな作品。
今昔続百鬼−雲(2004.7.17)
京極夏彦 講談社ノベルス
サブタイトルに「多々良先生行状記」とあるとおり、あの『塗仏の宴』の多々良先
生を主人公にした連作短編集。前半まったく乗れずにかなり苦労した。だんだん
慣れたけど…。
個人的にはそんなに好きな作品集じゃなかったかも(汗)。冒険小説、と銘打っ
ているけど、これはミステリになるんじゃないかなあ。それも、あんまりできのよく
ないミステリ(失礼)。みんななんとなく先が読めるのよね…。収録作は「岸涯小僧」
「泥田坊」「手の目」「古庫裏婆」の4篇。
とにかく、多々良先生、ぶっ飛んでますな…。
「岸涯小僧」
狂言回しの沼上蓮次とセンセイこと多々良勝五郎の出会いと初めての事件遭
遇。それにしても、 事件の真相が突然沼上の回想で語られるのにはちょっと興
ざめ。そこを端折るってどうなの??
「泥田坊」
これは、駄洒落ですな…。最初から最後まで。いや、最初の村人の登場シーン
を読んだ瞬間これは怪しいと思ったんだよね…。かなりがっかり。
「手の目」
これももう、読めちゃうでしょう。夜な夜な家を抜け出して集まる村の男達…って、
もう決まってるじゃん!!
でも、犯人の動機とか、伏線とか、これはかなりまともになってきた気が。
「古庫裏婆」
京極堂友情出演。これは京極堂シリーズを違う視点から見た、みたいな感じで
楽しく読めた。妙に京極堂がカッコよく感じたのは、多々良先生の行状を拝見しす
ぎたせいだろうか…(笑)。
最後に一つだけ言わせてもらうなら、挿画はいらない。ホントに…!
百器徒然袋−雨(2004.7.21)
京極夏彦 講談社ノベルス
本人が書いた、京極堂シリーズのパロディ同人誌、のようだ。榎木津礼二郎探
偵大活躍。榎木津ファンには必読の書。京極堂シリーズのあの重苦しい雰囲気
がダメだ…という人でも、これなら楽しめるでしょう。わたしも純粋に愉しませても
らった。
作品は「鳴釜」「瓶長」「山颪」の3つの中篇を収録。それぞれに「薔薇十字探偵
の憂鬱」「薔薇十字探偵の鬱憤」「薔薇十字探偵の憤慨」とサブタイトルが。どれ
も軽くて読みやすい。狂言回しである「僕」が依頼人として薔薇十字社を訪問し、
いつの間にやら事件に首を突っ込み、榎木津が事件に突撃して粉砕して京極堂
が後を丸く収める、というワンパターン。「それでは今回の一件の仕組みを僕が
直直に説明するから善く聞け!」「先ず馬鹿の雁首を揃える。揃った馬鹿連中を
僕が台覧して馬鹿の罪状を決める。そして馬鹿の度合いに見合った罰を与える。
神の裁きだから天罰だ。どうだ、解り易かろう!」(「鳴釜」より引用) 確かに解り
易いよ…(笑)。
それにしても、榎木津を中心に据えると、どうしても京極堂は出さないと済まな
いことになっちゃうんだろうなあ…。榎木津だけだと読者にも当事者にも、事件が
どう解決したのかさっぱりわからないもんね…。
そして今回気になったのが、今までのシリーズには出てこなかった事件を臭わ
せる台詞の数々。どうやら関口と榎木津は二人で白樺湖に出かけてそこで探偵
は事件に巻き込まれて(?)目を患ったらしい。その事件とはどうやら連続新婦殺
害事件であるらしい…。これってこの後に刊行された『陰摩羅鬼の瑕』のことなの
かな? それにしてはかなり刊行時期が空いてるんだけど…(『雨』は1999年刊
行、『陰摩羅鬼』は2003年刊行)。そんな前から細かいプロットは作ってたのね。
あと、個人的には今回の狂言回しである「僕」はあんまり好きになれなかった。
というか、いたたまれなかった。一生懸命「薔薇十字探偵一味」に参加しようとし
ながらずっと周りをぐるぐる回っているような…そんなイメージで。以下内容には
関係しないけれどある意味ネタバレなので反転。
この中篇集では「僕」はどうやら意図的に名前を与えられていないんだけれど、
誰も彼を名前で呼ばないまま話が済んでしまう、そのことがなんだか意図しない
イジメのようで、榎木津が彼を「いつかの何とかいう人!」と呼ぶたび微妙な不快
感があって笑えなかったわ…。
最後に、今回の挿画は『雲』ほど違和感がなかった。でも、やっぱり京極堂シリ
ーズは無理に挿画なんて入れなくていいのでは…。
陰摩羅鬼の瑕(2004.7.24)
京極夏彦 講談社ノベルス
信州は白樺湖のほとりにある通称「鳥のお城」。城の主人である伯爵(正確に
は元伯爵)は、過去23年の間に4度結婚し、4度とも結婚の翌朝に花嫁を殺害
されるという不幸に見舞われていた。嘆き悲しみながらも伯爵は5度目の結婚を
決意する。今度こそは花嫁を守るという強い意志を持って。彼はそのために、榎
木津礼二郎探偵を結婚の宴に招待する。しかし榎木津は直前に高熱から一時的
に失明してしまい、探偵事務所の依頼で関口が榎木津のもとに駆けつける。ふた
りは鳥の城の5度目の惨劇を防ぐことができるのか…。
おお、やっぱり『百器徒然袋−雨』で語られていた事件がこれなのね!
しかし今回、序盤でいきなり伯爵の理論の瑕がわかってしまって、その後の展
開がかなりわかってしまったんですが…(泣)。まあ、それでも、花嫁である薫子
が助かるかどうか、でかなりハラハラドキドキはできたんだけれど。こういうのは
やっぱり、ラストで「そうだったのか!!」っていう驚きがないとちょっと淋しい。
おかげで、後半までのかなりの部分で、「その話はわかったからもういいよ…」
というもしかするとちょっと不条理な、イライラ感を味わってしまった。それで思った
けれど映画「シックス・センス」(ブルース・ウィルス主演のヤツですな)みたいな
衝撃のラスト、系の映画も、最初にネタが解ってしまう人はやっぱりこういうイライ
ラを味わったりするのかしら…。それともニヤッとしたりするのかなあ。
今回の作品はきっと、京極堂と『宴』の彼との対決だ!と思っていたわたしには
ちょっと肩すかしだったかも…。
ただ、それでもラストの伯爵の哀しさはかなり心に迫った。いやーこういうのって
ホントに切ないね…。
すべてがFになる(2004.7.28)
森博嗣 講談社文庫
森博嗣のデビュー作にして「S&Mシリーズ」第一作。
14才の時に両親を殺害し、無罪判決を得たもののその後の15年間を孤島の
研究所に幽閉されて過ごした天才工学博士・真賀田四季。偶然研究所を訪れた
N大助教授・犀川創平と大学1年の西之園萌絵は、研究所員たちとともに、彼女
の部屋からウェディングドレスをまとい、両手両足を切断された死体が現れるさま
を目撃する。
完全密室である真賀田博士の部屋。一体誰が彼女を殺害し、どうやって外に
逃れることができたのか…? そして完璧に証拠を払拭された真賀田博士の部
屋のコンピュータには、「すべてがFになる」という謎の言葉が遺されていた…。
おもしろかった〜! 理系理系と噂は聞いていたけれど、ナルほどこれが理系
ミステリなのか。なんというか、硬質な感じ。文章も、構成も。これがデビュー作だ
なんて…森博嗣、恐るべし。コンピュータ用語がばんばん出てきて、ちょっと文系
の人には難しいかもしれないけれど(笑)、完全に理解できなくてもちゃんと内容
はわかるはず。犀川助教授のキャラがいいですな。
ただ、わたしは萌絵ちゃんはうけつけないな…。中途半端なお嬢様、という感じ。
研究所なんかで謎解きに駆け回っている時と、お嬢様っぽい常識はずれなとき
の描写がちぐはぐなのよね…。それから、仮にも一度会って(?)話をしたことが
ある人が殺されて、さらにまだ暖かい第二の死体を発見して、その翌朝の台詞
が「なんだか、わくわくしてきません?先生」…。これが理系の人間なのか?(違)
まあでも、第二作ももちろん読むつもり。仕方ないから萌絵ちゃんにもつきあう
か…(苦笑)。
亜愛一郎の狼狽(2004.8.5)
泡坂妻夫 創元推理文庫
1976年、幻のミステリ雑誌「幻影城」の新人賞で佳作に入選した泡坂妻夫氏
のデビュー作を含むシリーズ短篇集。
探偵名鑑などが編まれた時に必ず先頭に載るように、という意図で名付けられ
たという主人公、亜愛一郎(あ・あいいちろう)。スラリと背が高く、整った端正な
顔立ちの上に隅々まで隙のないファッション。その気品のある佇まいは見るもの
の目を惹かずにはおかないものがある。ところが口を開けば一拍遅れ、行動を
起こせば運動神経がまるでないへっぴり腰。そんな彼が事件について語らせると
あっと驚く推理力、というのだから、もうキャラが立ちまくり。一度読んだら彼のこ
とは忘れられなくなること請け合い。
そんな彼が次々と解き明かす謎の数々には素直に驚かされた。いやもう、収録
作8篇すべて。ぜんぜんトリックがわからなかったよー。
後から考えると「…ん?」と思うようなものもあるんだけれど(笑)、読んでいる間
は「推理小説」を堪能した。ちゃんと伏線は張ってあるんだけどねー。わからない
よ、ホント…。
必ず登場する三角形の顔の洋装の老婦人も、どこで出てくるかわくわくしてしま
う。お楽しみのツボが押さえてありますな。どうやら彼女の正体は後に明らかにな
るらしい…? これはシリーズ全作読まねばっ。
(収録作:「DL2号機事件」、「右腕山上空」、「曲がった部屋」、「掌上の黄金仮面」、
「G線上の鼬」、「掘出された童話」、「ホロボの神」、「黒い霧」)
亜愛一郎の転倒(2004.8.7)
泡坂妻夫 創元推理文庫
「亜」シリーズ第2作。愛一郎氏のズッコケぶり&明晰ぶりは今回も健在。相変
わらずトリックは騙されっぱなし…。
それにしてもこのシリーズ、ホントに「推理小説」の名がふさわしい。重要なのは
トリックであって、犯人の心の闇だのそういうことは殆ど問題にならない。ぽんぽ
んぽんと材料を出して、さてこれっていったいどういう意味?ということだけを読者
に考えさせ、最後に鮮やかにそれを披露してみせるのだ。動機の説明なんてだい
たい終わりの方で数行、亜の口から説明されるだけ。最近のミステリからは考え
られないよなあ(笑)。
後から考えるとなんとなくムチャクチャな…と思うものも、わけのわからない単
なるバラバラのピースが目の前で美しい絵に仕上がっていく、という過程を楽し
むのだと思えばそう気にならない。収録作のうち「意外な遺骸」なんて、たぬきと
呼ばれている人物が猟銃で殺され、そのあと煮られ、そのあと焼かれ、そして木
の葉で隠されているのだ! 一体こんな殺人を亜以外の人間にどう解決しろとい
うのだ〜!
紹介してくれた友人の言葉を借りると「古いタイプの本格派」。…ということは、
古い推理小説ってこういうのが主流だった…ということなのか。いやー、実は古
典と言われるようなミステリって全然読んでいないのよね…ルパンシリーズくらい
で(汗)。
とにかく、この次のシリーズ最終作も楽しみ〜♪
(収録作:「藁の猫」、「砂蛾家の消失」、「珠洲子の装い」、「意外な遺骸」、
「ねじれた帽子」、「争う四巨頭」、「三郎町路上」、「病人に刃物」)
冷たい密室と博士たち(2004.8.14)
森博嗣 講談社文庫
「S&Mシリーズ」第二作。
犀川と高校時代からの付き合いで今は同じ大学の土木科助教授である喜多
からの誘いで、犀川と萌絵は土木科・極地研の低温実験室を訪ねる。興味深い
低温実験を見学し、その後の打ち上げに参加した二人。ところがその後、極地
研の施設内で次々と院生の他殺体が発見される。殺された二人が発見された
部屋は、どちらも完全な密室だった…。
前作『すべてがFになる』と比べると地味…という話だけれど、個人的にはこち
らの方が好み♪ 前作でかなりイライラさせられた萌絵ちゃんも今回はわりと許
容範囲(慣れたのか…?)。まあ、叔父様へのあのおねだりはいくらなんでもな
いと思うけどね…叔父様も叔父様だし…。
動機も前回に比べるとかなり真っ当なのでは(笑)。いやー前作は京極夏彦の
『姑獲鳥の夏』に通じる強引さがあったからなー。
今回の教訓。京極堂とS&Mはとりあえず1冊で判断しないこと(笑)。
笑わない数学者(2004.8.15)
森博嗣 講談社文庫
「S&Mシリーズ」第三作。
正方形のコンクリートでできた庭にオリオンの三つ星を配して建てられた通称
「三つ星館」。犀川と萌絵はそこでのクリスマスパーティに招待される。館の持ち
主は天才的な数学者・天王寺翔蔵。しかしかれは館の地下から10年以上、一
歩も外には出ていない。彼は毎年訪れる一族の人間に12年前に1度だけ、庭
にあるオリオン像を消すというトリックを見せたが、未だに誰もそのトリックを見
破ったものはいないという。そして12年ぶりに彼がオリオン像を消して見せた翌
未明、2つの死体が発見された…。
犀川&萌絵ちゃんだんだん接近してますな…。作品が進むたびに萌絵ちゃん
が普通化しているような。今回はかなり違和感が消えていた。まあ相変わらず
強引なところはあるけどね…。
オリオン像のトリック自体はわたしでもわかってしまうような単純なもの。ただ、
トリックを見破ることがこの作品の主体ではないそうな。メインテーマはすべての
謎が解けたあとの11章…ということなんだけど、確かにさわやかなラストではあ
るけれど、単純なわたしにはちょっと哲学的すぎるわ…。まあ、作者の本当の目
的にはとうてい到達できないわたしでも、愉しめる本ではあるけれど。
そして、今回も動機がちょっと納得できない…(笑)。犯人が被害者を憎むきっ
かけがよくわからないのよー。天王寺家の人々の心の動きも。そういうのって、
トゥリビアルなことなんだろーか(笑)。
そして、彼は結局、どっちなんだー!(笑)
亜愛一郎の逃亡(2004.8.18)
泡坂妻夫 創元推理文庫
「亜」シリーズ最終作。ああ、これでもう愛一郎氏のトボケた味わいともお別れな
のね…。ちょっと最後まで読むのが惜しい感じだった。そして相変わらずトリックは
ひとつもわからなかった…(笑)。
巻を追うごとに読みやすさがアップしたのは、わたしが泡坂妻夫の文体に慣れて
いったからなのか、それとも文章がこなれていったからなのか。実は第一巻の『亜
愛一郎の狼狽』を読んだ時にはなかなか波に乗れなくて最初苦戦したのだけれど、
今回はあっという間に読めてしまった。
最後まで通して読んで思うことは、このシリーズ、どこから読んでもたのめるけれ
ど、全作通して読むと愉しさは倍増する!ということ。さりげなくレギュラーっぽい人
がたくさんいるし。いちいち背広を裏返して丁寧にたたむ亜、なんて、1作だけ読ん
でもスルーしてしまうけれど、通して読むとそのシーンが出てくるたびにおかしい。
そして最後の「亜愛一郎の逃亡」だけは、かならず全作通して最後に読むこと!
でないとかなりもったいないことに…。
それにしても、最後はこう落とすか。今のミステリでこれやったら、怒られそうだ
よなあ(笑)。
何はともあれ、シリーズ3冊、愉しませてもらいました♪
(収録作:「赤島砂上」、「球形の楽園」、「歯痛の思い出」、「双頭の蛸」、
「飯鉢山山腹」、「赤の賛歌」、「火事酒屋」、「亜愛一郎の逃亡」)
ダ・ヴィンチ・コード(上・下)(2004.8.21)
ダン・ブラウン/越前敏弥・訳 角川書店
チャールズ・パリサー『五輪の薔薇』のような、どっしりと謎の詰まった上下巻&
二段組みの重厚なミステリかと思ったら、本を開いて二段組みじゃなかったことに
いきなり脱力してしまった(笑)。けれど、読み始めると一気読み! 重厚でこそ
ないけれど、エンタメ度の高い蘊蓄満載なミステリとして愉しめた。蘊蓄満載とは
いっても京極堂シリーズのようにしつこいまでに蘊蓄が語られるわけでもないの
で、ご安心を(?)。
物語は宗教象徴学の教授であるラングトンが、パリ滞在中の深夜に警察によっ
てルーブル美術館に連れてこられるところから始まる。そこでその夜、館長であ
るソニエールが何者かに殺害され、現場には謎のメッセージが残されていた…。
少しずつ解き明かされていくソニエールの残した暗号と、確実に迫ってくる正体
不明の追手。ラングトンと一緒に暗号を解明していくソニエールの美貌の孫娘。王
道ですな〜(笑)。随所で披露されるラングトンらの蘊蓄がまたおもしろい。わたし
は子どもの頃一時期日曜学校に通っていて、キリスト教も少しかじったことがある
ので余計に面白かったな。聖杯の正体は実は…というくだりとか、ダ・ヴィンチの
遺した絵に潜む数々の謎は素直に驚き。下巻の巻頭の見開きにダ・ヴィンチの
「最後の晩餐」がのってるんだけれど、本を読んでからその絵を見た時には正直
背筋がゾゾゾッとした。今まで何度も見たことがあるのに…。
ただ、ソニエールの最初の死体の格好にはちょっと無理があるのでは? もう
あと数分で死ぬかも知れないのに、あそこまでやることないだろう…しかも、必要
もないだろう…。それから、最初の暗号を暗号解読班が解読できない、というの
もちょっとお粗末では…。
ナイトの墓を飾る球体の暗号は、わたしにもわかってよ!!
まあ突っ込みどころはよく読めばいろいろありそうだけれど、よくできたエンタメ
作品で、読んでいる間は非常に愉しめた。ラストもわたしは好きだな〜〜。
昔学生の頃ルーブルに行ったことがあるんだけれど、その前にこの本を読んで
いたらもっといろいろじっくり楽しめたのになあ。グランドギャラリーの床とか、二つ
のガラスのピラミッドとか、国家の間の「岩窟の聖母」とか、もっとよく見ておけば
よかった。悔しいっ。
ちなみに、角川のオフィシャルサイトのギャラリーはすごーくよかった! 読んだ
人はぜひこちらも見てみてくださいませ。
風紋(上・下)(2004.8.23)
乃南アサ 双葉文庫
重い。読んでいてつらい。特に上巻は思わず何度も涙してしまった。個人的には
同じようなテーマの宮部みゆき『模倣犯』より断然コレ。東野圭吾の『手紙』も血縁
者が殺人者になってしまう話だけれど…うーん、やっぱりそちらよりもコレ。
母親を殺された高校二年生の真裕子と、加害者の妻である香織が主人公…に
なるのかな。あるひとつの、誤解を恐れずに書くなら「ごくありふれた」殺人事件が
いかに周囲の人々の人生に多大な影響を与えるか。それを筆者は淡々と描いて
いく。母親が殺されたばかりに、普通ならけして明るみにならなかったであろう事
実を次々と暴き立てられ、周囲の目に晒され、崩壊していき、そして少しずつ手を
取り合おうとしていく家族。いつまでも続くと思っていた平和な家庭がある日何の
前ぶれもなく根底から崩れ落ちる加害者の家族。
彼らは何をしたわけでもない。ただ、降って湧いたような事件に唐突に巻き込ま
れてしまっただけだ。そして、それはいつ自分の身に降りかかってもまったくおかし
くない。いつだって地獄の口は足下数センチのところにぽっかりと口を開けている。
気をつけようがないのだ。誰かが軽くポン、と背中を押すだけでいい。
とにかく真裕子が痛々しかった。一人で警察に行くシーンなんてもう本当に読ん
でいて辛かった。
最後はなんとか少しだけ、希望が見えてきた、というところかな…。
それにしても、この本が10年も前(1994年)に書かれていたなんて。乃南アサ、
すごすぎる。続編の『晩鐘』も、これは読まねば、でしょう!
晩鐘(上・下)(2004.8.25)
乃南アサ 双葉社
いくら『晩鐘』の続編と言ったって、もうあれ以上気持を動かされることはないだ
ろう…と、そう思いながら読んだのは大間違いだった。相変わらず淡々と描かれて
ゆく厳しい現実の世界。読み終わったときにはやっぱり泣いてしまった。
事件から7年後。今回の主人公は7年前に母親を殺害された真裕子と、加害者
の息子・大輔。24歳になった真裕子はハウスメーカーで働いている。父は再婚
し、姉も結婚して子供をもうけた。少しずつ事件は風化されているように見えた…
しかし、真裕子の中で過去はまだ過去にはなっていなかった。
一方、事件の後長崎の祖父母の元に、妹と共に預けられた大輔。当時4歳だっ
た彼は小学5年生となり、3歳下の妹の面倒をよく見る「優しい子」に成長してた。
しかし彼にとっても現実は優しくはなかった。やがてある事件をきっかけに、大輔
は「叔母」である香織と暮らすため東京へ行くことに…。
当時からこの事件にのめり込んでいた新聞記者・建部を接点としながら、真裕子
と大輔のそれぞれの「その後」が語られていく。真裕子も苦しい現実を生きている
けれども、とにかく大輔の暮らしは悲惨だ。こうして何の罪もない子供が成長過程
でねじ曲げられていくのを、大人は誰も防いでやれないのだろうか。誰かひとりで
も、心から彼を愛してやれなかったのか。
窓ガラスに映る自分が本当の自分。こちらの自分は「ニセモノ」の自分。だから
自分には父親も母親もいないのだ。ガラスの「むこう」の自分は立派な両親が揃っ
ているのに違いない…。
彼がそんな自分を夢想するのは痛々しすぎる。悲劇は悲劇を呼び、やがて破綻
が訪れる…。
彼はいずれまた冷たい社会に挑んでいかなければならないだろう。
どうか、どうか彼に、少しでも希望を与えてやることができますように。
イニシエーション・ラブ(2004.8.27)
乾くるみ 原書房
世間では大評判の本書。「今年最大の”問題作”かもしれません ぜひ、2度読
まれることをお勧めします(編集部)」というのが帯の謳い文句。確かに、読み終わ
った後はびっくりして読み返してしまった。ふーむ、確かにね…。
でも個人的にはあんまり好きじゃない話だなー。
仕掛けはびっくりだけれど、恋愛小説としてはそんなにスゴイと思えないし、ミス
テリとしても…まあ、いや確かにミステリなんだろうけれど。
目次が「大胆な罠」だそうだけれど、罠……?
ストーリーは「ぼく」が代打出席した合コンで「マユ」と知り合い、恋に堕ちて幸せ
の絶頂でクリスマスを迎えるまでがA面。そして続くB面では就職で東京に行った
「ぼく」が長距離恋愛になったマユと少しずつすれ違いを始め…という内容。読み
ながらマユのあざとさが鼻について、あんまり「ぼく」の恋愛に浸れなかったのが敗
因かなあ…。ぼくがマユに夢中になればなるほど、こっちはひいていく感じだった。
B面はB面でなんだかなあ…という感じだし。読み始めた時は「男版マイ・フェア・レ
ディ?」とか思いながら読んでいたんだけれど、それにしてはB面で育て方を間違っ
たのか…?なんて(笑)。
ラストはあっと驚くけど、正直に言えば「…だから?」って感じ(苦笑)。びっくり箱
を開いてしまったような感じで、後に何も残らなかった。
以下、ネタバレっぽいので反転。
それにしても、マユってそんなに怖い女? フツーだろう(笑)。
夏と冬の奏鳴曲(2004.9.1)
麻耶雄嵩 講談社文庫
初めての摩耶雄嵩。ちょっと前に読んだ本の解説でタイトルを挙げられていたの
をみてふと興味が湧き、作者に対しても作品に対しても、なんの予備知識もなく読
み始めた。
読み始めて4分の3くらいまでは、本にうまく入り込めずに、なんだかノらないなあ、
と思いながら意識して読み進めていた。
ローカル雑誌のライター(といっても準社員)・如月烏有(うゆう)が、編集長と縁が
ある女子高生・舞名桐璃(とおり)を仕方なくアシスタントにつけて取材に向かう。取
材先は日本海沖に浮かぶ、通称和音島。そこは20年前に、1本の映画を残したの
みのアイドル・真宮和音の熱狂的ファンが大資産家をパトロンとして共同生活を送っ
た場所であり、今、20年ぶりに、当時のファンがその島に集合して8日間をともに
過ごすことになっていたのだ。
しかし、ラクに思われたこの取材は、殺人事件によって一転する。果たして彼らが
持っている秘密は一体なんなのか。烏有は意志に反して、どんどん事件に巻き込
まれていく…。
…という話なんだけれど、なんだか回想が多いし、展開が遅くて、キュービズムの
講義も難解で。「これって結局どういう話になるのかなあ…」なんて漠然と思いなが
らだらだら読んでいたんだけれど。
とにかく終盤はどびっくりの連続。
そうか、そうなのかーと思ったらいきなりありえないような出来事が起こったり。
まあ、ありえないと言えば真夏の雪というのもすでにスゴイ話だけど…。
読了したあと、何が何だかわからずにしばしボー然。まさに、キツネにつままれた
ような…。
いろいろネットで検索してみたけれど、この作品、発表当時ものすごい賛否両論
の嵐だったらしい。
バカミスなのか?とも思ったけれど、なんだか難解で、わからないこっちがバカな
のか…という気分になったりも(苦笑)。
しかも、わけがわからないのに読後感は悪くないのだ、これが! こんなことって
初めてかも…(ドキドキ)。
とりあえず、麻耶雄嵩、もう少し追いかけてみたくなった。
亜智一郎の恐慌(2004.9.6)
泡坂妻夫 双葉社
亜愛一郎シリーズの愛一郎のご先祖様の活躍を描いた短篇集。
時は幕末。一見閑職である江戸城本丸「雲見番」。しかしそれは実は将軍直属
の隠密方だった。番頭を勤めるのは亜智一郎。一見整った顔立ちのぼうっとした
優男、しかしひとたび事件が起こると…。
愛一郎シリーズの流れをくみながら、時代小説としてもおもしろい。いろいろな
史実をうまく絡めてくるので、「おおっ、こうきたか!」と感動するシーンも。
ただ、シリーズの番外編として読むとおもしろいけれど(シリーズの登場人物の
ご先祖様がたくさん出てくるし)、これを一冊の独立した作品と考えると、愛一郎
シリーズに比べてちょっと弱いかなあ。なんとなくスッキリしない事件もあるし。智
一郎の活躍も、愛一郎に比べるとちょっと地味な気が…。
何はともあれ、このシリーズもこれで本当におしまい。
この作家の作品はこれからももう少し読んでいきたいなー。
(収録作:「雲見番拝命」、「補陀楽往生」、「地震時計」、「女方の胸」、
「ばら印籠」、「薩摩の尼僧」、「大奥の曝頭」、)
天使と悪魔(上・下)(2004.9.7)
ダン・ブラウン/越前敏弥・訳 角川書店
ラングドン・シリーズ第一作。先に第二作の『ダ・ヴィンチ・コード』を読んでしまっ
たのだけれど、順番が逆でも十分に楽しめた。それにしても、ラングドンの閉所恐
怖症の原因はこれだったのねー。
宗教象徴学者であるロバート・ラングトンは、明け方の電話で叩き起こされた。
電話の主は、見せたいものがあるから今からすぐに来てほしい、と非常識なこと
を言う。電話を一方的に切るラングトン。すると今度はFAXが。それをみてラングド
ンは驚愕し、すぐに出発することを了承する。FAXには無惨な一体の死体が写っ
ていた。その胸には、「イルミナティ」の烙印が…。
サスペンスあり、アクションあり、そしてもちろん恋があり。ハリウッド映画をその
まま本にしたようなラングドンの大活躍に、ページを繰る手が止まらない。もちろ
んハリウッド的な突っ込みどころもあるんだけれど(笑)、単純に愉しめた。なるほ
ど、これがあの『ダ・ヴィンチ・コード』の前作なのね。
深いことは考えずに、本の世界を楽しむのが正しい読み方のような気がする。
かなり重厚なテーマを扱っているのに、ちゃんと娯楽作に仕上がっているし。読
んだあと、無性にローマの史跡を見て歩きたくなること請け合い。それにしても、
イルミナティ・ダイアモンドってスゴイわ…。
でも、これと『ダ・ヴィンチ…』を続けて読むとちょっと食傷かも。『ダイ・ハード』と
『ダイ・ハード2』を二本立てで観る感じに近いのでは。
シリーズ第三作も刊行予定なようだけれど、やっぱり『ダイ・ハード3』のように
なるのかしら…。ちょっとドキドキ。
詩的私的ジャック(2004.9.8)
森博嗣 講談社文庫
「S&Mシリーズ」第四作。
だんだん普通になってくる萌絵ちゃん(笑)。今回はかなり恋愛ストーリー度高
し。もうあの『すべてがF…』の頃のエキセントリックさはないかも…。あんなに気
に入らなかったところなのに、なんだか普通になると淋しかったりして(笑)。
今回もまたまた起こる密室殺人。場所は犀川助教授が臨時講師を務めるS女
子大で、第一発見者は犀川と面識のある女子大の助手、杉東千佳。実は彼女
の夫は犀川が教鞭をとる国立N大学の大学院生であり、その弟のN大生・結城
稔は犀川が担任している(ことになっている)退学目前の人気ロック歌手。
何の手がかりもなく捜査が難航する中、今度はT大学で新たな被害者が。犯
人は誰なのか。わざわざ密室にする理由は何なのか。そして被害者たちの共通
点は何か…。
なんたって、国枝助手が今回は一番おいしいとこ持っていってますな(笑)。
カッコよすぎ!! 萌絵ちゃん、彼女の助言はちゃんと生かさないと!
シリーズも巻を重ねると、だんだん安定感が出てくるというか、独自の世界に
こちらが馴れ始めるというか。犀川先生のナンセンスギャグも、『すべF』では読
みながらどうリアクションすべきか悩んだのが、ちょっと笑えるようになるからあ
ら不思議(笑)。こうしてだんだん内輪ウケの世界に入ってしまうのかしら…。
それにしても、このシリーズはホントに全然先が読めないなー。理系センスが
ないから? 犯人はちっともわからなかったわ…。
でも、動機には個人的にはわりと納得。こんなに納得したのはこのシリーズで
は初めてかも(笑)。 そういうこと、あるような気がするな…。
封印再度(2004.9.10)
森博嗣 講談社文庫
「S&Mシリーズ」第五作。折り返し地点だ〜♪
今回は前作よりもさらにラブストーリー度アップ。この調子でアップし続けたら、
10作目はただの恋愛小説になってしまいそうだ…(笑)。
儀同世津子から、旧家に伝わる家宝の壺と匣にまつわる謎と50年前に起こっ
た自殺とも他殺ともつかない当時の当主の死亡事件を聞いた西之園萌絵。俄然
興味をもった彼女は当時の事件を調べ始めるが、そこへ新たな事件が起こる。
現在の当主である仏画師・香山林水が、50年前とかなり共通点のある状況で
死んだのだ。果たして彼らはなぜ死んだのか。またも残る密室の謎。そして壺と
匣の謎は解けるのか…。
今回は萌絵ちゃん衝撃の展開!
かなり発刊当時は物議を醸したらしいけれど、まあ予想できる展開かなあ…。
個人的には1作目の萌絵が一番嫌いなわたし。だんだん普通化していって、今
回また揺り戻しが…という感じかな?
個人的には萌絵よりも犀川先生の行動の方が衝撃的だったわ!
萌絵も変化してるけれど、なんたって桃子さんは丸くなったよ…ホント。「西之
園さん。ごちそうさま。」だもんねえ(笑)。
初登場の萌絵の叔母サマも強烈な人だ。「目的のためには手段を選ばない」
のね…。
壺と匣のトリックはまったく考えもしなかった。スゴイこと考えるのね…。今回は
この謎と事件がキレイに決まった!という感じで、事件の部分は読んでいて気
持ちよかった。今回は禅がテーマだそうで、何となく読んだ後の印象も潔さ、と
か美しさ、のようなものを感じた。
そして、警官は奔る(2004.9.12)
日明恩 講談社
武本・潮崎コンビ(?)シリーズ第二作。
今回は武本が前回の事件で移動させられた国捜隊からさらに移動した蒲田
署での事件。不法滞在外国人の子供の監禁事件に端を発し、児童ポルノ、幼
児虐待などかなりテーマは重い。かつてコンビを組んだ潮崎は警察を辞め改め
て受けた国家公務員I種試験に合格、現在は入庁待ちの民間人であり、武本の
新たな相棒は「冷血」と渾名される和田。彼にもどうやら暗い過去が…。
テーマは重いし、本も重い(ハードカバー500ページ強)のだけれど、テンポ良
くサクサクと読み進められる。武本も潮崎も相変わらずで、新たに登場する「冷
血」の和田と「温情」の小菅の対比もいい感じ。
今回のテーマは「刑の軽さをわかっていて何度も同じことを繰り返す人間に対
して、法は有効か」ということかなあ。ラスト近くの会話はかなり哀しい。
しかし、武本のあの揺るぎのなさというのはスゴすぎる。人間あんな風でいら
れるものだろうか。潮崎も小菅も、和田でさえも悩み、揺れているというのに。
武本の恋愛もそのうち描いてもらいたいわ(笑)。
幻惑の死と使途(2004.9.14)
森博嗣 講談社文庫
「S&Mシリーズ」第6作。
さあ、気分も新たに読むぞーと思ってびっくり仰天。なんとこの本、奇数章しか
存在しないのだ。何をやってくれるんだ助教授…と、わくわくしながらページをめ
くってさらに「おおっ!」。埴谷雄高の『死霊』からの引用がっ。なんだかわたし
好みの本を読めそうな予感…。
かつて名声を博した奇術師・有里匠幻が、那古野の緑地公園で行った世紀の
大脱出劇。ところがそのショーの最中、脱出が見事成功したところで、匠幻は唐
突に何者かにナイフで刺殺される。たくさんの観衆・テレビカメラの目前で行われ
た殺人劇に人々は騒然。そして彼の葬儀の最中、棺から匠幻の遺体は忽然と
姿を消す。有里匠幻、最後の脱出…!?
怪しい人たちがたくさん登場して、次から次へと不思議な事件が。すごくミステ
リっぽいミステリだと思う。相変わらずわたしには真相はまったくわからずじまい。
犀川センセ、鋭すぎます…。
犀川&萌絵のラブストーリー度が低めなのもいい感じ(笑)。
偶数章が抜けているのに加えて、何度も話が出てくる「犬山で起こったもう一
つのヤマ」。どうやら誘拐事件…? こちらが7作目の『夏のレプリカ』に当たるら
しいんだけれど、いったいこのきっちりと完結した作品に7作目はどう絡んでくる
のか。今からもう、興味津々!
夏のレプリカ(2004.9.15)
森博嗣 講談社文庫
「S&Mシリーズ」第7作。
前作『幻惑の死と使途』と対になった作品で、こちらは偶数章のみ。『幻惑…』
と時間的に同時進行で起こった事件を描いているけれど、具体的に絡んでいた
り、両方読んで初めてわかる謎!というのも、なかったみたい…。同時進行だっ
たために、萌絵ちゃんはかなり疲弊したのかな、と想像するくらいかなあ。
さて、『幻惑…』がショー形式の派手派手な事件だったのに対し、こちらは何と
も地味な事件。儀同世津子さんも地味だって言ってるし(笑)。けれど、結局、萌
絵にとってはこちらの方がずっとずっと重大事件になった。
2年ぶりに那古野に帰省し、同級生だった萌絵と再会した簑沢杜萌。彼女は
萌絵とマジックショーを観た後で、久しぶりの実家に戻る。しかし何故か家族は
不在で、初めて会ったお手伝いさんも杜萌が帰宅するとすぐに帰ってしまう。家
にはもう3年も顔を合わせていない義兄・素生がいるはずだが、疲れていた彼女
はそのまま自室で眠ってしまった。そして翌朝。家族の戻らない実家に突然一
人の仮面の男が現れ、彼女が誘拐されたことを告げる…。
柱となるのは杜萌一家を誘拐した複数の犯人達の殺人事件と、同時期に起こっ
た杜萌の兄・素生の失踪事件。前者はすっきりと片づくんだけれど、後者は…う
ーん、わたしには結局真相がよくわからないわ!
それにしても、今回もぜんぜんわからなかった…。
結構すぐに真相がわかったという人、多いのね…。まあ、言われてみれば確
かに、ここで事件は読める!というポイントはあったのにねえ…。
S&Mシリーズは、回を追うごとに人物が生きてきたような気がする。『すべて
がFになる』を読んだ時は、どの登場人物もちょっと理解できないところがあった
んだけれど、みんなに血が通ってきたような。
残すところあと3冊でシリーズは終了。
最後はどうなるのかな??
百器徒然袋−風(2004.9.17)
京極夏彦 講談社ノベルス
京極堂シリーズの番外編である、薔薇十字団シリーズの2作目(ややこしい?)。
「五徳猫」、「雲外鏡」、「面霊気」の三篇を収録で、今回も前回に引き続いて、
あの彼が狂言回し。
前回感じたようなイジメっぽい雰囲気は今回は感じなかった。厚いけれど相変
わらずサクサク読めて、京極堂の活躍も今回は多少押さえ気味…かな? なん
だか今回の京極堂はちょっとキャラが違ってたような…。何度もどもったりして、
いつもの冷静さが足りないぞ。榎さんも最後の最後で優しいところをみせるんだ
けれど、個人的にはこんな優しさ榎さんにはいらない気がする(笑)。
読むたびにこのシリーズはなんだかパワーダウンしてるように感じる…。
「五徳猫」は人間関係が解りづらすぎ! つかみの話なのに、なんだかこんが
らがってすっと物語に入ることができなかった。雲外鏡は先が読めるし、面霊気
もいまいちまとまってないような。キャラ萌えな人には楽しめると思うけれど、ミス
テリとしてはイマイチ。あ、ミステリじゃなくって「探偵小説」か。いやいいんだけど。
いやー、けれどこれで京極堂はとりあえずコンプリート!
あとは首を長くして、次作『邪魅の雫』を待つとしますか…。
犯人に告ぐ(2004.9.23)
雫井脩介 双葉社
横山秀夫、福井晴敏、伊坂幸太郎の三氏が絶賛している帯を見て、この本を
手に取った人は多いはず。もちろんわたしもその一人。
児童誘拐犯を取り逃がした上に被害者を殺害され、マスコミの記者会見で叩
かれて地方へ飛ばされた経験を持つ巻島。6年ぶりに神奈川県警へ戻された
彼が担当したのは世間を騒がせている連続児童殺人事件。警察は前代未聞の
TVを使った公開捜査の顔として、彼に白羽の矢を立てたのだった…。
とにかく6年前の誘拐事件の経緯を描く第一章からつかみはオッケー。その
まま作品に引き込まれてしまう。上下二段組みがまったく気にならずにグイグイ
最後まで読み切ってしまった。
ただ、捜査本部内での情報リーク者との暗闘の方が、実際の犯人との対決
(といってもテレビでのやりとりなんだけど)よりもおもしろいというのは、いかが
なものか。
それから、巻島の人生を変えた強烈な犯人であるはずの「ワシ」のキャラが
ちょっと弱いよー。第一章であれだけ引っ張っておきながら!
まあ、そういう気になる点はあるけれど、全体としては楽しめた。テレビ局との
やりとりなんかも面白かったし…。個人的にはナイトアイズはニュースステーショ
ン、ニュースライブは筑紫哲也の番組、そして元大阪府警捜査一課長の迫田は
佐々氏のイメージで読んだ。キャスターのキャラなんかは違うけれど…。
ラストもわりとキレイにまとまっていた。収集つかなくなるんじゃないかと心配
していたんだけど(笑)。今年話題の一冊になってるのも頷ける内容だった。
グラスホッパー(2004.9.24)
伊坂幸太郎 角川書店
殺された妻の復讐のために怪しげな会社<令嬢>に潜入した鈴木。彼の人生
と交錯するのは、「自殺屋」の鯨、そして軽やかにナイフを扱う蝉、の2人の殺し
屋。
しかし鈴木が復讐を遂げるのを待たずに、<令嬢>の社長の息子である寺原
は死亡する。どうやら彼は「押し屋」に殺されたらしい。鈴木は寺原が死んだ現場
から悠然と去ろうとする槿を追跡する。果たして彼は本当に「押し屋」なのか…?
相変わらず伊坂節は健在…なんだけれど、今回はちょっとダークな展開。帯に
「コメディ?シリアス?サスペンス?オフビート?」とあるけれど、少なくともこれは
コメディではないよね…? コメディとしては笑えなかったんですが…。
それぞれの殺し屋の個性が際だっている。とくに鯨。重量感ありまくり。絶対に
見つめられたくない男ナンバーワン(笑)。対する蝉の軽やかさもいい感じ。どこ
までもクールで何を考えているのかわからない槿に、いかにも一般ピープルな
鈴木も、物語の構成上不可欠なキャラクター。
ただ、今回のこの結末はどうかなあ。
今までの清涼感がちょっと足りない気がするんだけど。
というか、今までとはちょっと展開的に違うのに、ラストは今までと同じようなテ
イストで、というのが無理があるのでは…。
今はもうない(2004.9.25)
森博嗣 講談社文庫
S&Mシリーズ第8作。今回は、今までシリーズを通して読んできた読者に対
するファンサービス、的な意味合いなのかな。というか、シリーズ通して読んで
なければこの作品最大の謎解きは全然楽しめない。もしもうっかり初めての森
作品としてこの本を手に取ってしまった人がいたら、そのまま読まずに本棚に戻
すことをオススメ(苦笑)。
事件は交通が遮断された嵐の山荘で起こる(この典型的な背景もファンサー
ビス?)。「わたし」が婚約者と訪れたとあるデザイナーの別荘で、ある夜ともに
女優である姉妹が隣り合った二つの部屋でそれぞれに死んでいるのが発見さ
れる。。部屋はもちろんどちらも密室で、偶然その夜は、隣の別荘の持ち主であ
る西之園家の令嬢が居合わせていた…。
シリーズで初めての一人称で物語は進む。幕間がちょこちょこっと入るけれど、
今回は犀川先生はかなり出番少な目。
シリーズをもちろん通して読んでいる読者は、「わたし」の報われない恋に同情
しながら(?)話を読み進むのだけれど、なんと話は意外な展開に。
いやー、これは騙されます。いや、いっつも騙されてるんだけど、わたしの場合。
痾(2004.9.29)
麻耶雄嵩 講談社文庫
もう慣れた。
もう慣れた。
もう慣れた。
もう慣れたのだ。
麻耶雄嵩の作品というやつに。
「あの」問題作『夏と冬の奏鳴曲』の続編。といって、時系列的にはそうであって
もこれは本当の意味での続編とは言えない。かといって、前作を読まなければこ
の本を本当に楽しむことはできないだろう。
和音島の事件から生還した烏有だが、彼は入院中にバナナの皮ですべって転ん
で(!!)事件の記憶一切を失ってしまう。
記憶が戻らないまま退院した烏有は勤めていた出版社・創華社に正社員として
迎えられるが、失った記憶に関する不安がつきまとう。一緒に生還した少女”桐璃”
は烏有の彼女であると言い張るが、彼女に関する記憶もまったくない烏有はそれ
を信じることが出来ない。
そんなある夜、彼は唐突に自分がある神社に灯油の入ったポリタンクとライター
持って立っていることに気づく。彼は憑かれたように神社に放火し、そしてその焼け
跡からは、彼の身に覚えのない他殺体が発見される…。
何せ『夏と冬…』を読んだ後だったので、かなり覚悟して読んだものの、そうして
身構えて読むと肩すかしを喰らった感じ。確かに他のミステリと比べれば変わって
いるとはいえ、かなり普通のミステリだ(笑)。いや、普通じゃないか…。
記憶を失った烏有は、前作の烏有とは別人のような感がある。”桐璃”(この作
品では彼女は“”つきだ)も別人のようだけれど、まあ彼女の場合はそれでもまあ
いいでしょう。
烏有が別人なので、話の展開も当然まるで別の話のようになる。今回はメルカ
トルもかなり大活躍なのだけれど、以前の烏有ならあんなにおろおろとすることも
なかったはずだ。
「痾」というのは「病気」という意味があるらしいのだけれど、確かにこの作品の
烏有は病気だ。記憶喪失はもちろんだけれど、以前の烏有と比べてかなり不健
康だ。
はたして彼は本当にこの後「銘探偵」になるんだろうか…。
個人的には、後半の藤岡の告白がものすごく気になるんだけれど!! きっと
そんな謎には麻耶雄嵩は答えてはくれないのね…。
ホット・プラスティック(2004.10.1)
ピーター・クレイグ/森嶋マリ・訳 アーティストハウスパブリッシャーズ
14歳のケヴィンは父親のジェリーとアメリカのモーテルを転々としながら暮ら
している。ジェリーの職業は、詐欺師だ。それなりにうまくやっていた二人の生
活はある時ひとりの魅力的な女性・コレットが加わったことから一転する。彼女
には詐欺師として天性の才能があった。そしてケヴィンはものごとに異常な程
こだわってしまう性格を生かしてコンピュータを使ったカードの情報操作や、手
先の器用さが求められる錠前破りの才能を磨いていく。
ジェリーの愛人となったコレットに、ケヴィンはどうしようもなく惹かれていく。
3人の関係は危ういバランスを保ちながら続いていき、そしてある日決定的な
出来事が…。
上下二段組だけれど勢いに乗って読了できてしまった。次から次へいろんな
詐欺の手口が出てきて、それだけでも楽しめる。3人の顛末もありがちでなく、
二転三転。そしてこれは何よりもひとりの少年の成長物語だ。
ただ、ケヴィンのこだわりすぎる性格も、コレットの悪女的な魅力と潔癖さが
同居する複雑な性格も、ジェリーの奔放で強引な性格も、いま一つ物語とぴっ
たり噛み合っていない印象を受けた。それぞれ魅力的なキャラクターになりうる
ハズなのに…。
ケヴィンの朝食メニューに対する異常な執着も、いきなり突拍子もない偽善
的な提案をするコレットも、その内面の葛藤のようなものが描き切れていない
ためにたんなる困ったちゃんとしてしか映らない。ジェリーも本当は単に自分の
意見を頭ごなしに相手に押しつけるわがままオヤジではないはず。
もう少し丁寧に3人の内面を描写してもよかったんじゃないかなあ。コレットな
んてもっともっと魅力的なキャラクターになれるはずだと思うんだけど。
でも、そうすると物語の疾走感がなくなってしまうのか。
物語の構成的にも、直近の物語と過去の物語が交錯しながら進む効果があ
まり感じられなかった。こういうのって普通、最後まで読んで初めて「最初のあ
の話はこういうことだったのか!」というのが一気にわかるところに醍醐味があ
ると思うんだけれど、そういうカタルシスが感じられないのよね…。
うーん。惜しい感じ。
形見函と王妃の時計(2004.10.5)
アレン・カーズワイル/大島豊・訳 東京創元社
とにかく、装丁が美しい。
こんなに美しい本を手に取るのは久しぶりだなあ、と思わず感慨に浸って表
紙を開く気が失せてしまうほどに美しい(笑)。定価3800円。この値段の半分
以上がこの装丁の値段では…と邪推してしまう。
出だしがまたいい。
” 探索が始まったのは一枚の図書請求票と、ある典雅な男性からの慇懃な
質問がきっかけだった。
「率爾ながら」
男性は、ほんのごくわずかに会釈をしながら言った。
「少々お時間を拝借させていただきたいが」”
こうしてニューヨークの図書館に勤める「ぼく」は、「典雅な男性」ジェスンに
よって思いもかけない冒険に引きずり出される。ジェスンの所有する18世紀
の「形見函」のたくさんの仕切りのうち、空白の仕切りに収まっていたものを
つきとめ、探し出すという冒険に。
この形見函を始めとするジェスンのコレクションはホントに魅力的。そして、
そのコレクションが収まるジェスンの屋敷もそれ自体がびっくりばこのように
楽しい。
さらに、もちろん素晴らしいのは「ぼく」の勤める図書館の描写。そこで勤め
る人々がまさに生き生きと浮かび上がってくる。
「ぼく」の妻であるフランス女性ニックもチャーミングなのよね。
作品自体も凝っていて、全60章、360ページでぴったり終わるように構成
されているところがニクい。
ただ、気になるのは、訳文がすごく読みづらいこと。このおかげで序盤は本
当に苦戦した。文章の意味が一発で取れずに目が活字の上を行きつ戻りつ
することがしばしば、おかげでまったく物語の世界に没入できないのだ。これっ
てものすごくもったいないよなあ…。
たとえば、今本をぱっと開いてみて目に入ったこの文章。
”図書館の調査部付属のものではあったけれど、このセンターは資金を外部
から、すなわち、多少とも猥褻なあらゆる形態における言論の自由を支持して
いる、あるポルノグラフィ出版社兼蒐集家から、受けていた。”
句読点が多すぎるし、文章自体が長すぎるよ〜。これって英文直訳??とに
かくこんな文章ばかりずらずらと並んでいるのだ。
さすがに後半は慣れて読むスピードも速くなったので、文章に気を取られる
ことなく物語世界を楽しめるようになったけれど、挫折するかと思った…(笑)。
ちなみに、この作品は著者のデビュー作である『驚異の発明家(エンヂニア)
の形見函』と対になる作品で、併せて読むともっともっと楽しめるらしい。未読な
のがちょっと残念。こちらも読んでみたいけれど、またこの訳文か…と思うと、
少し二の足を踏んでしまうわ…(苦笑)。でも、装丁も並べるととっても美しいと
いう話だからなあ…。いずれ、気が向いたら、読むかも。
ダンテ・クラブ(2004.10.9)
マシュー・パール/鈴木恵・訳 新潮社
1865年、ボストン。
この地で、まだ世に知られていないダンテの「神曲」を翻訳・出版することを目
的にしたクラブがあった。その名も「ダンテ・クラブ」。詩人のロングフェローを中
心に、ハーヴァード大学の教授や元牧師など5人からなる、私的な集まりだ。
ある日、この街で身も凍るような殺人事件が起こる。事件を調べていた市で
初めての黒人警官・レイの目の前で、一人の身元不明の男が意味不明な言葉
を囁き窓ガラスに自ら飛び込んで死亡する。レイは彼の遺した言葉が事件に深
く関わっていることを直感した…。
実在した人物を登場人物に配し、当時の雰囲気を見事に再現しつつダンテの
「神曲」に絡んだ連続殺人として物語を仕立て上げた意欲作。よく『ダ・ヴィンチ・
コード』の引き合いに出されているけれど、あまり共通点は見あたらなかった…。
強いて言えば過去の芸術作品と殺人事件が絡んでいるってこと? ただしまる
でハリウッド映画並みなノンストップサスペンスアクション大作な『ダ・ヴィンチ…』
と比べて、こちらはもう少し腰を据えた感じ。前半はかなり読み進めるのがつら
かった…。
殺人方法はかなりショッキングだし、予想外の犯人だし、エンタメとしてもっと面
白くなりそうなのに、ちょっとテンポが悪い。登場人物も多すぎて時々混乱。もう
少しひとりひとりをじっくり書き込んで欲しかったな。特にホームズ医師父子の葛
藤とか。
事件も犯人から振り返ってみるとなんだかあまりにご都合主義というか、うまく
被害者見つかりすぎ!というか。わりと安易…?
前半かなり苦労して読み進めたわりに、読み終わった後あんまりその苦労が
報われた感じがしなかった(苦笑)。ラストもだらだらと続いてスッキリとまとまっ
てないのよ〜。
前評判が高すぎた、というか、わたしが期待しすぎた感じかなあ。特別悪い作
品、というわけではないんだけど…。
実在の人物をつかったりした縛りが大きすぎたのかしら…。
数奇にして模型(2004.10.16)
森博嗣 講談社文庫
S&Mシリーズ第9作。
模型交換会「スワップ・ミート」が開催される公会堂で首のない死体が見つかっ
た。被害者はM工業大学教授であり有名モデラーの娘。彼女は才能ある彫刻家
の妹でもあった。死体が発見されたのは「密室」であり、そこには模型交換会の
スタッフ・寺林が頭を殴られた状態で気を失っていた。
同じ夜、公会堂のすぐそばにあるM工業大学の研究室でも、女子大学院生が
絞殺死体で発見される。こちらも現場は「密室」。果たして事件に繋がりはあるの
か。疑惑は寺林に集中するが…。
萌絵の母方の従兄であり、犀川と喜多の高校時代の同級生でもある異色キャ
ラの大御坊(だいごぼう)がいい味出している。萌絵は相変わらず猪のように危
険に突っ込んでいきますな…。同級生の金井君、大活躍。
今回も犯人は全然わからなかったんだけど、でもちょっと今回、ズルくない!?
ああいう犯人のキャラ設定がもう最初からズルい気がするんですが。常識が通
用しないんだもんなあ…。まあ、常識が通用しない人間はこのシリーズではよく
いるといえばいるんだけどね…。すでに萌絵に常識が通用してないし!(笑)
有限と微小のパン(2004.10.18)
森博嗣 講談社文庫
いよいよS&Mシリーズ最終作。ぶ、分厚い…。
やっぱり登場しましたあのお方。そりゃ、英語タイトルが THE PERFECT OUT-
SIDER だもんねえ。出なくちゃ嘘ですな…。
超有名なRPGソフト「クライテリオン」の開発元であるナノクラフト。その本社は
長崎にあり、広大なテーマパーク「ユーロパーク」もナノクラフトの持ち物だ。ゼミ
旅行でユーロパークを訪れることになった萌絵は、友人である洋子、愛とともに
メンバーに先駆けて長崎へ旅立つ。実はナノクラフトの社長である塙安芸良と
萌絵とは、両親が口約束で以前結婚の約束をしていたことがあった。
しかし、3人の目前で次々と殺人事件が起こり、レジャーは一転する。そして萌
絵はナノクラフトの秘密の研究所で、真賀田四季と再会を果たした…。
最終作にふさわしく、壮大なスケール。いやー、ここまで大掛かりだとは…。分
厚いにも関わらずサクサク読める。この展開は全然読めなかったなあ。
それにしても気になるのは物語が終わったその後なんですけど!!! これ
で終わっちゃっていいの!? ラブラブストーリーの結末は…。
頑張って読んだらいつかわかる日がくるのかしら…???
夏の名残の薔薇(2004.10.23)
森博嗣 講談社文庫
場所は山奥のクラシカルな豪華ホテル。毎年秋の終わりになると、ホテルはと
ある3姉妹に貸し切られ、優雅な社交が繰り広げられる。夕食の席では、姉妹に
よる不思議な決まり事が行われ、彼女らが各々の部屋で個別に行うお茶会では、
次の年の招待客が選別されているという噂がまことしやかに流れている。しかし
今年は何かが違っていた。そこに流れる不穏な空気…。果たして、何が真実で
何が嘘なのか。
各章は「主題」と6つの「変奏」と名付けられている。一つの「主題」が少しずつ
異なった曲相で繰り返し、少しずつ時間を進めながら描かれる。その趣向に最初
はおおっ?と惹き込まれた。間に引用されるとある映画の原作(?)も不思議な
雰囲気を盛り上げる。
しかし、最後の章ですっかりがっかりしてしまった…。このラストはないでしょう!
いや、ラスト自体が悪いわけではない。むしろこれしかない!というラスト。でも、
そのラストを演じるキャラクターが役者不足なのよー。
読み返すと、まず桜子のキャラがなんとなく変容している。「変奏だから」と言わ
れると返す言葉もないけれど、でも、最初の頃の桜子はもう少し魅力があったと
思うわ! さらに天知先生も全然別人。少なくともあの印象的な言葉遣いが最初
だけってのはどうしても納得いかないんですが。まあ、あの話し方で地の文やら
れたら読みづらいことこの上ないけど…。
3姉妹の過去の物語も、謎に包まれている時はホラーっぽくてゾクゾクするのに、
蓋を開けてみるとそんな大した話でもない気がするし…。まあ、恩田陸は蓋を開
けるまでのゾクゾク感が素晴らしいんだけれど。
変奏、という発想は素晴らしい。読んでいても本当にゾクゾクして、最後まで読
む手が止められなかった。でも、だからこそこのラストはちょっと…(泣)。
それから、帯。
「山奥のクラシカルなホテルで、毎秋開かれる豪華なパーティ。その年、不吉な
前兆とともに、次々と変死事件が起こった。果たして犯人は…」って、全然内容
が違うんですけど!!!!!! コレ読んだらぜったい本格ミステリだと思うよー。
本格ミステリマスターズの配本だし…。これはないよなあ。
魔術師(イリュージョニスト)(2004.11.8)
ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子・訳 文藝春秋
映画化もされた『ボーン・コレクター』で有名なリンカーン・ライムシリーズの第
5作。実はこのシリーズはこれが初めて…(大汗)。
ニューヨークの古い音楽学校のリサイタルホールで女学生が殺害された。死
体はまるでマジックショーのように足と首とをロープで縛られていた。犯人が立
ち去るより先に警官が現場に踏み込むが、犯人は立てこもった出口のないホ
ールから忽然と姿を消す。しかしこれは連続殺人の始まりに過ぎなかった…。
首から下は左手の薬指以外麻痺した科学捜査専門家のリンカーン・ライムは
警察官のアメリア・サックスとともに犯人に挑む。果たして彼は連続殺人を止め
ることができるのか? そして犯人の狙いはいったい何なのか?
いやー単純に面白かった。どんでん返しにつぐどんでん返しで全く先が読め
ない。なるほどそうかーと思うとそれは誤導(ミスディレクション)で、そうかーこ
れが真相なのか、と思うとまたしても…。何たって相手は怪人二十面相か、は
たまた怪盗ルパンか?ってな具合の殺人マジシャン! 手品師を敵に回すと
怖いわ…。
上下二段組だけれど一気読み。非常によくできたエンターテインメント。ちょっ
と凝りすぎ…?という気がしなくもないけれど、まあテーマが誤導だから、それ
でもオーケーかな?
しかしここまで綿密に、かつ壮大に計画を練って殺人なんて、考えた犯人に
(いや作者に?)脱帽…(笑)。
まどろみ消去(2004.11.10)
森博嗣 講談社文庫
S&Mシリーズ番外編(?)の短篇集。かなりいろいろなタイプの作品が揃って
いる感じ…。シリーズを読んでいる時は飛ばしてしまったのだけれど、まあ確かに
読まなくってもシリーズには影響はなかったわー。萌絵ちゃん登場が2作品、犀
川先生にいたっては1作品のみに登場。
森氏の趣味が出ているのか、観念的な作品も多い。ちょっと同じ印象の叙述ミ
ステリも重複。最後の「キシマ先生の静かな生活」はミステリじゃないよなあ。
読んでいる間はそれなりに愉しめた。個人的には「やさしい恋人へ僕から」がか
わいくてラストでやられたーって感じで好きかな。「心の法則」はごめんなさい、わ
たしの頭ではちょっと理解できないんですが!! 求む、解説!
でもやっぱり、森博嗣は長編の方がおもしろいかな…。
(収録作:「虚空の黙祷者」、「純白の女」、「彼女の迷宮」、「真夜中の悲鳴」、「やさしい恋人へ僕から」、
「ミステリィ対戦の前夜」、「誰もいなくなった」、「何をするためにきたのか」、「悩める刑事」、「心の法則」、
「キシマ先生の静かな生活」)
地球儀のスライス(2004.11.11)
森博嗣 講談社ノベルス
S&Mシリーズ番外編(?)の短篇集第2弾。これで本当にS&Mシリーズ制覇!
これも観念的な作品が多いなあ。前作に引き続き理解できなかった作品が…。
「僕に似た人」。これ一体どういうことなの???? いや多分ある意味これもシ
リーズに含まれるのかな…ってのはわかるんだけれど。だとしても、だから? え、
もしかしてそれだけなの?みたいな…。「有限要素魔術」や「河童」も、わかるよ
うなわからないような…(苦笑)。
噂ではこのシリーズの中の「気さくなお人形、19歳」が次のVシリーズに繋がっ
ていくらしい。この子が主人公になるのかしら?? うーん、苦手なタイプだわ(笑)。
(収録作:「小鳥の恩返し」、「片方のピアス」、「素敵な日記」、「僕に似た人」、「石塔の屋根飾り」、
「マン島の蒸気鉄道」、「有限要素魔術」、「河童」、「気さくなお人形、19歳」、「僕は秋子に借りがある」)