fantasy 2005
著者名 タイトル 出版社 マヌエル・ムヒカ=ライネス 七悪魔の旅 中央公論新社 恩田陸 蒲公英草紙 常野物語 集英社 荻原規子 風神秘抄 徳間書店 恩田陸 光の帝国 常野物語 集英社文庫 上橋菜穂子 蒼路の旅人 偕成社 いしいしんじ ポーの話 新潮社 ジョナサン・ストラウド バーティミアスII ゴーレムの眼 理論社 平山瑞穂 ラス・マンチャス通信 新潮社 ジョージ・R・R・マーティン 王狼たちの戦旗(上・下) 早川書房
氷と炎の歌2 王狼たちの戦旗(上・下)(2005.1.11)
ジョージ・R・R・マーティン/岡部宏之訳 早川書房
思えば<炎と氷の歌>シリーズ第1部『七王国の玉座(上・下)』を読んでから約2年。いやーそんなに長いこと待ってたのか…。
前回下巻を閉じて「いったいこの先どうなるのよう〜〜!!」と心の中で叫んでから今回第2部を開くまでのブランクは見事に吹っ飛んだ。やっぱり面白いわ、このシリーズ。
ストーリーは前作のほぼ直後から始まる。スターク家の長男・ロブは「北の王」を名乗り南へ進軍を開始。鉄の玉座に座るジョフリーのもとではサンサが彼の婚約者兼裏切り者の娘としてまだまだ辛い生活が続く。城からうまく逃げ出したアリアはナイツウォッチの人員補給の一段に紛れ込むことに成功するも先には苦難が待ち受ける。ウンターフェルに残るブランとリコンの兄弟には予想もしなかった事件が。そして「壁」の向こうの偵察に出かけたジョンはどうなるのか??
とにかく長大な物語だから読むのも体力勝負になるんだけれど、それだけの価値はある。長い話が好きな方、重厚な話が好きな方、ハラハラドキドキが好きな方、そしてもちろんファンタジーが好きな方、これを読まなくちゃ絶対損ですぜ。
読み応えは抜群。2段組上下巻という厚さのなかに不必要な内容はほとんど皆無。次々と出てくる地名・人名にはかなり苦労させられるけれど、その苦労が報われることは確実。たくさんの登場人物の視点から多角的にひとつの世界が浮かび上がってくる様は、前作同様読んでいて背筋がゾクゾクする。
ファンタジーにしてSFにして戦国小説。4人の王が立ち、諸侯入り乱れての混乱する七王国、北からじわじわとにじり寄る得体の知れない驚異、南で王座奪還のために力を蓄えるドラゴンの末裔の女王。くーっ、これで面白くないわけがない。いったい先はどうなるの!?
ただ、この話はこれ1作で完結しているわけではなく、第一部『七王国の玉座(上・下)』を読んでいないと、話が全く見えないはず。しかも、まだまだいいところで「続く」の状態なのだ。はやく3作目が読みたい〜!!
(前作『七王国の玉座』の感想はこちら)
ラス・マンチャス通信(2005.2.8)
平山瑞穂 新潮社
第16回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
父母と姉と暮らす「僕」の家には、「アレ」が住んでいて、好き勝手に暮らしていた。
誰も「アレ」のすることを邪魔することは出来ない。しかし「アレ」は次第に「僕」の姉に興味を示しだし、「僕」はふとしたはずみで「アレ」を殺してしまう…。
異形のモノが普通に生活の中に存在する世界で、「僕」は正しく行動しようと足掻きながらもどんどんと追いつめられていく。施設に送られ、仕事を失い、そして…。
読んでいる間は引き込まれてぐんぐんと読み進み、読了して呆然とした。ええっ、結局いろいろな説明はナシのままなの!?
帯に「カフカ+マルケス+?=正体不明の肌触り」とあるけれど、たしかにカフカっぽい不条理さやマルケスっぽいマジック・リアリズムが散りばめられている。でも、カフカもマルケスも、読み終わった後にこんな欲求不満な感じは残らなかった…。
説明をせずに放っておくこと自体が悪いわけではないし、それが効果的な場合もあるけれど、でももう少し親切にしてほしかったなあ…。
ただ、この独特の雰囲気はかなり好き。読んでいる最中は先が気になってやめられなかったし。次回作が楽しみだわ〜♪
バーティミアスII −ゴーレムの眼−(2005.2.13)
ジョナサン・ストラウド/金原 瑞人、松山 美保・訳 理論社
バーティミアス三部作(と勝手に命名)の第二弾。前作から2年の年月が流れ、主人公のナサニエルは魔術師ジョン・マンドレイクとして順調に出世を重ねていたが、<レジスタンス団>の暗躍に手を焼いていた。しかも大英博物館などが正体不明の敵から大規模な破壊を受け、その責任をなすりつけられて絶体絶命に。とうとうナサニエルは以前の約束を破り、再びバーティミアスを召還する…。
前作よりおもしろさはアップ。ナサニエルがいい感じにイヤなヤツに成長していて、他の同工異曲っぽい児童ファンタジーとは一線を画している。こんな主人公、普通いないよなあ。自意識過剰、自信過剰、卑屈でひねくれていて権力と富に対する欲望を隠しもしないナサニエル。けれど捨てきることもできない良心のかけら…。これが、よくある「なんだかんだ言っても根はいいヤツなのよね」レベルじゃないのよ!(笑)
そんなナサニエルにうんざりしつつまたまた活躍する(させられる?)バーティミアス。今回はレジスタンス団のキティからの視点が加わって、物語がより立体的になった印象。
ただ、魅力的な主役陣に対して悪役(?)はちょっと紋切り型かな…。
第三部ではもっと、ナサニエルの「孤独」をクローズアップしてほしいような。
とにかく、続きが楽しみな作品。
(前作『バーティミアス サマルカンドの秘宝』の感想はこちら)
ポーの話(2005.7.6)
いしいしんじ 新潮社
眠るように流れる泥の川が流れる町で、ポーはうなぎ女たちの息子として生まれた。善悪はもとより人としての感情も知らないポーは、鉄道員のメリーゴーランドとその妹ひまし油と知り合い、罪の意識と「つぐない」を知る。やがて町は500年ぶりの土砂降りとなり、泥の川が町中で氾濫する。濁流にのってポーは初めて外の世界を知ることになるが…。
いしいしんじの話は独特だ。舞台も独特なら登場人物もちょっと普通じゃない。しかし現実とかけ離れているかに見える彼らはリアリティ満点だ。完全な善人ではない、けれど完全な悪人でもない。世の中にいるのは大抵がそういう人間なのだから。
ポーは様々な人たちと接していくうちに、罪の意識を知り、死者を悼むことを知り、たいせつなものについて考えるようになる。
シュールな設定、独特のオノマトペ、ちょっと突飛な登場人物たち。いしいしんじが現代の宮沢賢治と言われるのも頷ける。
ただ、個人的には、ちょっと長すぎるかなあ…。特にラストあたり…。まあ、これは好き好きですが。
蒼路の旅人(2005.7.28)
上橋菜穂子 偕成社
「守り人シリーズ」から派生した「旅人シリーズ」第2作。 皇太子チャグムの祖国新ヨゴ王国に南の大国からの魔の手が迫る。
新ヨゴ王国の南方に位置する、たくさんの島々からなるサンガル王国。かねてよりさらに南方の大国・タルシュ帝国からの攻撃に苦しんでいたこの国から、新ヨゴ王国に援軍の要請が。しかしその要請にははじめから罠のにおいがしていた。
父王に疎まれ、かつては暗殺されかけた経験のあるチャグムは、海軍大提督である自分の祖父を見殺しにしかねない父の計画に異議を唱えたことから逆に祖父とともにサンガル王国への援軍に加えられてしまう。それがチャグムの排除を意図していることは明白だった…。
こうして、チャグムの苦しい旅が始まりを告げた。
前回の『虚空の旅人』でもチャグムの成長にうるうるしたわたし(笑)。今回はさらに成長してますなー。けれど今回のチャグムは本当に痛々しい。明るい場面もあるけれど、全体的に重苦しい雰囲気が。ほぼ絶望的な状況で、果たしてチャグムが道をきり拓けるような隙間が僅かでもあるのかと、心配しつつページを繰っていた。しかも、今まではバルサやシュガなどチャグムを助けてくれる人がちゃんといてくれたのに、今回はとうとう一人ぼっちですよ!
それにしても、このシリーズは長くなりそうな予感。
児童文学にしておくのはもったいないほど素晴らしいファンタジーだと思うけれど、だからこそやっぱりこういうものには子供の頃にこそ触れて欲しい。『モモ』や『ナルニア』と比べてもけしてひけはとらないと思う。
早く続きを出してほしいと切に願うシリーズの1つ。せめてストーリーを忘れる前に(苦笑)。
光の帝国 常野物語(2005.8.16)
恩田陸 集英社文庫
今回、近々『蒲公英草紙』を読むだろう、という予定の上での再読。それにしても最初の一篇以外ほとんど内容を覚えていなかったわ…(大汗)。
普通の人々の中に紛れてひっそりと暮らす、さまざまな能力を持った常野一族を描いた連作短編集。超能力なんだけれどSFっぽくはない、どこか懐かしいファンタジー。
膨大な知識を頭に「しまう」ことができ、また、それを「響かせる」ことのできる一家の物語、未来を予知することのできる娘と結婚することになる顛末を描く「二つの茶碗」、夫を「裏返され」、今では突如現れる「それ」を「裏返し」ながら娘を育て、夫を取り返す機会を伺う妻を描く「オセロ・ゲーム」などなど、一族の能力はさまざまで、生き方もさまざま。けれど散らばっていた一族は、少しずつ集まり始める…。この先、物語はどんどん膨らみそうな予感を孕んでいる。
再読で気づいたのだけれど、この作品には恩田陸のあの独特の終わり方(苦笑)がないのね。それぞれの物語がほんのエピソード、的なものばかりで、きちんと完結した形になっていないからかもしれないけれど。けれど、読んだ後に肩の力ががっくり抜けるような気持にならなくてすむというのはかなり嬉しい。
そもそも恩田氏の発想の素晴らしさというのは群を抜いたところがあるから、そういう奇抜なアイディアが次々と読めるのが愉しかった。「しまう」とか「裏返す」とか、そういう言葉の使い方もすごく上手いし、「草取り」なんてよくそんな話思いつくわ〜と感心することしきり。そしてやっぱりゾッとする。この怖がらせ方も上手いのよね…。
(収録作:「大きな引き出し」、「二つの茶碗」、「達麿山への道」、「オセロ・ゲーム」、「手紙」、「光の帝国」、
「歴史の時間」、「草取り」、「黒い塔」、「国道を降りて…」)
風神秘抄(2005.8.21)
荻原規子 徳間書店
「勾玉三部作」の流れをくむ古代ファンタジー。いや、もう平家の時代だから古代とは言わないか…。
源氏側の雑兵だった笛の名手・草十郎と、抜きんでた舞を踊る遊芸人・糸世。二人は互いの笛と舞の持つ不思議な力に翻弄される。そして草十郎に常に寄り添う、人の言葉を話すカラス・鳥彦王。やがて上皇の願いを叶える為に笛と舞を披露することになった二人を思いがけない出来事が襲う…。
あいかわらず児童向けファンタジーにしておくのは惜しい荻原規子の作品。それにしても勾玉三部作を読んだのはもうかなり前で、ほとんど内容を忘れかけているわ…。いや、別に内容自体はほとんどリンクしていないと思うのだけれど。
草十郎のダメっぷりには糸世の気持になってちょっとイライラ。どうしてこうも考えナシなんでしょうか(笑)。けれどラストの落とし方はかなりいいなーと思った。
ただ、勾玉三部作を覚えていないので何とも言えないけれど、それに比べてこちらはちょっと冗長すぎるような気がした。もう少し短くてもよかったような…。まさか厚さのバランスを考えてこの長さ、ってわけじゃないだろうし。後半の草十郎の旅のあまりのいきあたりばったりさはちょっと…。なんだか昔ハマったロールプレイングゲームのようだったわ。村人の話を聞いて右往左往、みたいな。
鳥彦王のオババがどうして草十郎に目をつけたかも結局結果を見ればよくわからない! 不思議な力を持つ笛の音を出せるというのは確かにものすごい才能ではあるけれど、それが鳥彦王をつけるための必要条件にはならないような。彼に本当にその資格があったのかしら??
とまあ、いくつか気になる点はあったのだけれど、全体的にはとっても愉しめた。こういう質の高い和製ファンタジーはもっとガンガン出てほしいなー。そして『指輪物語』に匹敵するようなものが出たら日本人としては最高なんだけれど。この国にそれだけの歴史はちゃんとあると思うわ。そしてそういうファンタジーに日本の子供たちが小さい頃から親しんで育てたら、きっと素晴らしく素敵なことだと思うのだけれど。
蒲公英草紙 常野物語(2005.9.25)
恩田陸 集英社
東北のとある村の権力者として尊敬を集める槙村家。その家の裏手に土地を借り、診療所を開く医師が「私」・峰子の父親だった。いつも大勢の食客があつまる槙村家には体が弱くて学校へ行くこともかなわない末娘の聡子がおり、彼女とは1歳違いである峰子は、彼女の話し相手としてお屋敷に日参するようになる。峰子は聡明で心優しい聡子にすっかり夢中になるが、彼女には少し不思議なところがあることに気づく。
そんなある日、槙村家に新たな客がやってきた。春田と名乗るその一家は槙村の別宅に住み着くが、彼らは峰子たちとはまったく違う日常を生きていた…。
待ちに待った常野物語の2作目。ずっと時代を遡り、1900年代初頭、日清戦争が起こってきな臭くなってきた日本の片隅が舞台となっている。どこに行っても大絶賛なこの作品、美しく、ほろ苦く非常にうまーくまとまった作品だと思うのだけれど。
村の繁栄を願い、そのために身を砕く槙村家においてひときわ美しく輝く少女・聡子。彼女があまりにも清廉潔白すぎる。欲しいものはたくさんあるのに、それを諦めることを最初から知っている聡子。彼女の中には葛藤がない。学校へ行きたいという思いも、ほのかな恋心も、あがくことも苦しむこともなくはじめから自分には届かない思いだと静かに微笑んでいるような美少女にはわたしはとても共感できないわ…。
けれど今回、『光の帝国』ではいまいちよくわからなかった春田家の「しまう」能力のもつ本当の意味がやっと理解できた。なぜ彼らはしまい続けるのか、そこに込められた彼らの覚悟には胸を打たれた。
それから、ある意味衝撃的なラストもよかった。いつまでも胸に残る苦味のまじる余韻。「えっここで終わり?」という肩すかしとは今回は無縁だったわ!
七悪魔の旅(2005.9.13)
マヌエル・ムヒカ=ライネス/西村英一郎・訳 中央公論新社
『七悪魔の旅』? ラ米文学? と思わず身構えてしまったら、とんだ肩すかしだった。これは肩の凝らない、知的でユーモアたっぷりのエンターテイメントだ。
7つの大罪を担う7人(匹?)の悪魔が、地獄の大魔王の叱責を受けて、時空を自在に超えつつ指定されたターゲットをそれぞれの大罪に堕としていく。地獄は人材不足なのだ(笑)。叱責されたのは倨傲の悪魔・ルシフェル、貪欲の悪魔・マンモン、嫉妬の悪魔・レヴィヤタン、暴食の悪魔・ベルゼブル、憤怒の悪魔・サタン、淫乱の悪魔・アスモデウス、怠惰の悪魔・ベルフェゴール。彼らは想像しているよりもずっと卑小で、人間くさく、ユーモアに溢れている。言い争いはするは、旅の途中で記念写真に高じるは、挙げ句部下の動物たちに労働組合を組織され困惑するは…。
堕とす対象にされるのは、青髭伯爵の未亡人に西太后にポンペイの人々、さらには未来のシベリアの住人たちなど、バラエティ溢れる取り合わせ。果たして彼らはいかにして、ターゲットとなる人間たちを地獄に堕ちるべく導くのか…?
何の知識もなくてももちろん愉しめたけれど、世界史や神話の知識がある人たちなら、きっと存分に愉しめるだろう。最後の思いもかけない大ハプニングには思わず大笑いしてしまった。