mystery 2005
著者名 タイトル 出版社 恩田陸 ネクロポリス(上・下) 朝日新聞社 森博嗣 迷宮百年の睡魔 幻冬舎NOVELS キャロル・オコンネル クリスマスに少女は還る 新潮文庫 森博嗣 女王の百年密室 新潮文庫 薬丸岳 天使のナイフ 講談社 森博嗣 赤緑黒白 講談社NOVELS 森博嗣 朽ちる散る落ちる 講談社NOVELS 歌野晶午 女王様と私 角川書店 東野圭吾 容疑者Xの献身 文藝春秋 森博嗣 捩れ屋敷の利鈍 講談社文庫 森博嗣 六人の超音波科学者 講談社NOVELS 中井英夫 虚無への供物(上・下) 講談社文庫 麻耶雄嵩 神様ゲーム 講談社 森博嗣 恋恋蓮歩の演習 講談社文庫 森博嗣 魔剣天翔 講談社文庫 森博嗣 夢・出逢い・魔性 講談社NOVELS 森博嗣 月は幽咽のデバイス 講談社文庫 乾くるみ リピート 文藝春秋 森博嗣 人形式モナリザ 講談社文庫 森博嗣 黒猫の三角 講談社NOVELS 奥泉光 モーダルな事象 文藝春秋 横山秀夫 震度0 朝日新聞社 東野圭吾 予知夢 文春文庫 東野圭吾 探偵ガリレオ 文春文庫 J・M・スコット 人魚とビスケット 創元推理文庫 荻原浩 さよならバースディ 集英社 藤原伊織 シリウスの道 文藝春秋 坂木司 切れない糸 東京創元社 伊坂幸太郎 死神の精度 文藝春秋 石持浅海 扉は閉ざされたまま 祥伝社ノン・ノベル 桐野夏生 アイムソーリー、ママ 集英社 近藤史恵 賢者はベンチで思索する 文藝春秋 松井今朝子 家、家にあらず 集英社 光原百合 最後の願い 光文社 田中啓文 笑酔亭梅寿謎解噺 集英社 沼田まほかる 九月が永遠に続けば 新潮社 恩田陸 ユージニア 角川書店 宮部みゆき 日暮らし(上・下) 講談社
日暮らし(上・下)(2005.2.5)
宮部みゆき 講談社
多分わたしは、宮部みゆきとは相性がよくないんだろうなあ、と思う。
何を読んでも、それなりに面白いんだけれど、「ふーん」で終わってしまう。
今回は初めて彼女の時代物を読んでみたわけだけれど、どこでも絶賛されているらしい本書もやっぱり感想は「ふーん」で終わってしまった…。失敗の原因は、この作品がどうやら『ぼんくら』という作品の続編であったにもかかわらず、そちらを飛ばして本書を読んでしまったことにもある…のかも…。
江戸の町での人情味豊かな人々を描きつつ、そこで起こる小さな日常の謎を解決していく連作短篇集…?と思いきや、実はそれは人物紹介を兼ねた前座で、上巻も半ばにさしかかる頃に
「日暮らし」は始まる。こういうやり方ってあまり見かけないから、やっぱり宮部みゆきはうまいなあ、と思う。
話はどうやら前作で舞台となったらしい「鉄瓶長屋」の人々の後日譚だ。悪人らしい悪人というのはあまり登場せず、いろいろな人たちの止むに止まれぬ事情から小さな悲喜劇が起こる、というのはもはや時代小説の常套なのかな。だとしても、その演出の仕方がやっぱり宮部みゆきはうまいなあ、と思う。
そう、いつも思うのよね。
「宮部みゆきはうまいなあ。」
それ以上に、言うべき言葉が見つからない。
だから、やっぱり相性がよくないんだろうなあ。
ユージニア(2005.2.17)
恩田陸 角川書店
ユージニア、私のユージニア。
私はあなたと巡りあうために、
ずっと一人で旅を続けてきた。
遠い夜明けに震えた日々も、
今日で終わりを告げる。…
日本三大庭園を有するK市のとある街で、地元中の尊敬と憧れの的だった篤志家の一家。その家のお祝いの最中、大量毒殺事件は起こった。犯人らしき人物は見つかったものの事件は謎を残したまま、いつしか世間に忘れられていた…。果たして真犯人は誰だったのか。そして現場に遺されていた詩の意味は…?
とにかく装丁が凝っているので、買った人は必ずカバーを裏返して見るべし。そしていざ読み始めようと表紙を開くと、またまたこれが凝った作り。
不思議な毒殺事件。インタビュー形式を中心に、さまざまな事件の断片を集めながら進んでいく物語。見えたかと思うとするりと手から逃れてしまうような真実のかけら…。恩田陸の面目躍如。雰囲気は『Q&A』と似ているかな。
ラストの締め方も、恩田陸なのに!(笑)うまく締めたなあ、という感じ。いや、やっぱり恩田陸なので(笑)、若干弱い感じは否めないけれど、読後の余韻にきちんと浸れた。
クライマックス前までの雰囲気は東野圭吾の傑作『白夜行』を思わせる。それとちょっと違うのはそれ以降の展開。ううーん、何を書いてもネタバレしそう…。ただ、ヒロイン(?)緋紗子は
ちょっと型どおりっぽいかなあ。もうすこし凄味を利かせてほしかったような。全体的に人物同士の確執が、もっとドロドロ書き込んでよさそうなのにサラッと流されてしまってもったいない感じ。第三者が事件を調べていくような形なので仕方ないのかもしれないけれど。この形だからこその不穏な雰囲気、なのだし。
やたらひっぱった詩もすごく雰囲気がいいんだけれど、ユージニアの謎(?)がわかる章では
「えっそんな理由なの…」という気持にならなかったといえば嘘になる(苦笑)。
それから、わたしが読んでいて一番不気味だったのはこの、正体のしれないインタビュアー
だったんだけれど(何の目的で事件を調べているのか、調べながら何を思っているのかがまったく描かれていないから)、このインタビュアーの正体がわかってからが若干拍子抜け。いきなり感情的になっちゃうし…。この人物は徹底的に冷静で何を考えてるのかわからないような人であってほしかったようなそうでないような(笑)。
ただ、『Q&A』と同じ良さがあって、それはホントに人のちょっとした小さな感情が作用し合って恐ろしいことになってしまうということかな。そういう怖さ。最後読者にいきなりポンとすべてを預けてしまうようなラストも、読み終わった後で作品をずっと引きずらずにはいられなくなって、個人的には好きだなあ。
なんだかいろいろ難癖をつけてしまったけれど(笑)、それはそれだけこの作品がおもしろかったからであって、個人的にはかなり好きな作品なだけにいろいろとアラが目についたというか
(苦笑)。
ただ、人を選ぶ作品だと思う。万人受けはしなさそう。
わたしは非常に好きですが、これは気軽に誰にでもはオススメできない。
本を読んでもやもやするのが好きな人には是非(笑)。
九月が永遠に続けば(2005.2.17)
沼田まほかる 新潮社
第5回ホラーサスペンス大賞受賞作。
夫と別れ、一人息子の文彦を女手ひとつで育ててきた「私」は、自動車学校で知り合った15以上年下の教官・犀田と関係していることにどこかうしろめたさを感じていた。ある夜、玄関先へゴミ出しを頼んだ文彦がそのまま戻らなくなる。焦燥して夜を明かした「私」は、朝刊で犀田が駅のホームから転落死したことを知る。
犀田の死は事故か他殺か。
文彦はいったいどこへ消えてしまったのか。
息子が犀田を殺したのだろうか――。
とにかく文章力が新人離れしていて、ぐいぐいと読ませる。人間関係がこれでもかというくらい複雑でドロドロしているんだけれど、話が混乱することもなく先へ先へストーリーを進めていくその筆力には唸るしかない。
文章が理性的なので、ドロドロがあんまりドロドロに感じられないところが個人的には読みやすかったかなあ。下手するとすごい下世話な話になりそうなんだけど。
ただし、反面淡々と話が進んでいくので主人公に感情移入がしづらいかも。彼女が陥るのはものすごく悲惨な状況だと思うんだけれど、なんというか主人公にどこか他人を拒絶するような硬質なところがあって、しかもかなり理性的で強いので、隔たりを感じてしまう面が。わたしだったら打ちのめされますよ、この状況…。
でも、そういう点を考えても、かなりおもしろくてのめりこんで読んだ。少しずつ謎が明かされていくその構成もうまい。
ラストがとても美しくて、暖かさを感じられて好きだなあ。
笑酔亭梅寿謎解噺(2005.3.1)
田中啓文 集英社
おもしろかった!!! ちょろいも絶賛(笑)。
両親を亡くし、親戚をたらい回しにされ、高校を中退してバンドを目指すもののもち前のガマンのきかない性格でステージを滅茶苦茶にし、行き場もないときに刑事から無理矢理大阪の噺家のもとに弟子入りさせられた鶏冠頭の竜二が落語の魅力にとりつかれていく物語。連作短篇になっているのだけれど、それぞれの作品にテーマとなる落語のお題があり、それと微妙にリンクする謎があり、楽しみながら落語も少し囓れるというお得な一冊。
落語の出てくるミステリーというとどうしても北村薫の傑作、「私」シリーズと比べてしまうのだけれど、タイプが違うこともありまったく見劣りナシ。超おすすめ!
田中啓文の名前は知っていたものの今回作品には初めて触れたのだけれど、これって多分今までとはガラリと変わった作品なのかしら?
何よりも落語に対する愛と、世間の人情を感じる。時代物よりよっぽど人情味溢れる作品。大酒のみで借金があって弟子をこきつかうだけこきつかって稽古もつけてくれない無茶苦茶な師匠・梅寿。けれど落語は絶品で、押さえる所はきっちりと押さえてくれる。最初はただただダメダメな若者・竜二が、いつの間にか落語が好きで好きでたまらなくなる過程もすごくいい。兄弟子・姉弟子、ピン芸人として新しいお笑いを極めようとするチカコなどの脇役も魅力的。悪人がひとりも出てこないところもいいなー、人情ものっぽくて。
これは続編が出るのかしら? 出たらいいなー。
(収録作:「たちきり線香」、「らくだ」、「時うどん」、「平林」、「住吉駕籠」、「子は鎹」、「千両みかん」)
最後の願い(2005.4.1)
光原百合 光文社
劇団φの旗揚げ公演に向けてスタッフならびに出演者を集める度会恭平と風見爽馬。彼らが仲間に迎えようとする人々は一癖も二癖もある連中ばかり。初めは恭平らの誘いに気乗りのしなかった彼らも、ふたりの驚くほどの鋭い頭脳と人を惹きつけてやまない魅力に、次第に劇団に興味を持ち始める。そしていよいよ旗揚げ公演まであとひといきというところに彼らはこぎつけるが…。
いい話だと思う。けれど残念ながらわたしには物語の世界に浸ることができなかった。原因の一つは文章かな。パラグラフ毎に度々文章の視点が変わるのだけれど、その視点が文を読み始めてしばらくするまでわからないことが頻繁にあって、一体誰の話なの?と気になってしまう。わざと視点を途中まで明かさない、という目的ではないと思うのだけれど。おかげで気が散ってしまいどうしても本に集中できなかった。
劇団φに少しずつ集まってくる個性的なメンバーたち。彼らについても、少なくともこの作品ではいまひとつ魅力を感じることができなかった。彼らの個性よりは彼らが抱えていた謎を解き明かすほうに物語の重心が置かれているので、それも仕方ないのかもしれないけれど、でもそれ
じゃああまりにももったいない。もっともっと強烈な個性を感じられそうなメンバーなんだけどな
あ。なんだか今回はメンバーが集まるまで、という序章だけを読まされたような気分。
それと個人的にはあまりに人が続々と死んでいるのがちょっと気になったなあ。彼氏に死なれた女優、ライバルに死なれたデザイナー、夫に死なれた資産家、それに火事から救ってくれた女性をその火事で亡くした男に自身が死んでしまった女優。わりと心温まるミステリだと思って読んでいたせいか次から次へ人が死んでいるのが少し多すぎる気がした。
家、家にあらず(2005.6.4)
荒山徹 文藝春秋
江戸は北町奉行所の同心の娘・瑞江は母の死をきっかけに、母の遠縁であるという浦尾のもとで外様大名・砥部家の奥女中として働くことになる。初めて足を踏み入れる女ばかりの世界は瑞江の想像を絶していた。やがて奥御殿には不穏な兆しが見えはじめ、それは殺人事件にまで発展してゆく。瑞江はいくつもの不審な点に気づき始める。
一方瑞江の父・伊織もまた、不審な心中事件の謎を追う。まったく無関係に見えたそれぞれの事件はやがて少しずつ絡み合いを見せ始めるが…。
長編時代ミステリー。
時代もののミステリーって今までまったく読んだことがなかったわけじゃないのだけれど、ここまで本格的なのは初めて読んだかも。非常に愉しんで読めた。
瑞江と一緒に未知の世界である大名家の奥御殿にドキドキし、気がつくと一緒に事件に巻き込まれている感じ。いやー、女同士の世界のかくも美々しく陰険なことよ(笑)。まるでドラマ「大奥」のよう(未見ですが…)。瑞江自身の秘密にはわりと早くから気がつくけれど、事件の真相は全然わからなかったわー。
時代ものってわりと敬遠されがちだけれど、これはミステリ要素が強いし、奥座敷の世界を垣間見るような楽しみもあるし、さらに文章が非常に読みやすいので取っつきやすいかも。少々厚いけれどとくに分厚いというわけでもないし。
それにしても、これって直木賞候補作、『非道、行ずべからず』とシリーズ関係になるのね…。道理でタイトルも似ているわけだわ。こっちもちょっとおもしろそう。
賢者はベンチで思索する(2005.6.26)
近藤史恵 文藝春秋
デザイナーになる夢を諦めファミレスのバイトをしながら家族と生活する久里子。勉強をしている気配もなく自室に引きこもっている浪人中の弟・信を気にかけつつも何もできずにいる。そんな彼女の働く店にいつもやってきてはコーヒー一杯で粘っている謎の老人・国枝。近所では惚けていると言われる彼が実はまったく違う面を持っていることにやがて史恵は気づく…。
いわゆる「日常の謎」を扱ったミステリ。久里子の成長物語(?)でもある。謎のひとつひとつは確かに人の悪意を扱っているのだけれど、久里子ののほほんとした善人ぶりや国枝の知性を光らせつつもユーモア溢れる行動が、とげとげしい雰囲気からこの作品を救っている。どころか、どちらかと言えばハートウォーミング。恋に悩む久里子の様子なんかは見ている(読んでいる)こちらも微笑してしまうほどかわいらしい。素直な彼女がひとつひとつのアドバイスを真っ直ぐに受けとめ、実行に移そうとする様子は、「ああ、なんて真っ直ぐに育った娘さんなんだ」とつい近所のおばさんになったような気にさせられる(笑)。
ただ、たぶん一番の謎であろう「国枝老人は何者か」というのが明かされると、なんだか釈然としない気持にさせられた。この辺りは完全なネタバレになってしまうので詳しく書けないのがもどかしいけれど、彼が何者か知ってしまうと、それまでの彼の行動が逆に全然わからなくなってしまう。一体全体彼はどういうわけでそういう行動にでたのか。そういう人間性でそういう経歴があるのはどういうわけなのか。
なんだかどかんと大きな謎を残したまま「めでたしめでたし」と物語が終わってしまったようで、ちょっと置いてけぼりをくわされた気分が残った。
アイムソーリー、ママ(2005.7.19)
桐野夏生 集英社
『グロテスク』、『残虐記』と続き著者本人が「グロテスク三部作」と呼ぶ三部作のラストを飾る作品。前二作はどうしても実際に起こった事件を連想してしまうけれど(それがモチーフだし)この作品はどうやらまったくの創作らしい。それにしてもやっぱりスゴイ。さすが桐野夏生。人の悪意、醜さをここまでかける人はやっぱりこの人しかいないんじゃないだろうか。
まったく前知識なく読んだのだけれど、前知識がなくてよかった。おかげで第一章のラストからあっと驚かされた。主人公を誤解していたんだもん。あっと驚き、ゾゾゾっと怖くなり、そのまま桐野ワールドに引きずり込まれた。ああ、引きずり込まれたら絶対に気持ちよく本を閉じることはできないとわかっていてもやめられない(笑)。これでもかこれでもかと人間の醜悪さ、自分本位、悪意を見せつけられ、顔をしかめつつもしっかりとエンタメを愉しんでいる自分がいる。そうか、これってお化け屋敷かも。
この作品、というか三部作に共通することだけれど、邪悪な人間が、邪悪であるという理由で作品の中で否定されることがない、というのがスゴイと思う。普通邪悪な人間は邪悪っぽく書かれるものだ。その人間を語る文章自体に否定的なニュアンスがどうしても含まれてしまうものだ。悪人を主人公にしたノワール小説みたいなものは別にして。
けれど、この作品にはそれがない。かといって、その人間に感情移入させるような思い入れのある文章で語られているわけでもない。そのあたりのさじ加減が絶妙。
結局からっぽな人間が生まれてしまうのは生まれが悪いのか、育ちが悪いのか。愛情をまったく受けることなく育ってきた人間が曲がってしまうのは本人が悪いと言い切れるのか。愛情を与えなかった母親が悪いと断罪できるのか。
主人公がラスト近くで見る夢の光景に、不覚にも泣きそうになった。「アイムソーリー、ママ」。このタイトルのなんと重く響くことか。
ぐいぐい読ませるエンターテイメントでありながら、テーマは限りなく重い。わたしは三部作の中ではダントツに『グロテスク』がいろんな意味でスゴイと思うのだけれど、もしかすると扱っているテーマの中で一番キツイのはこちらかもしれない。
扉は閉ざされたまま(2005.7.20)
石持浅海 祥伝社ノン・ノベル
大学の軽音楽部の同窓会が、成城の閑静な住宅街に佇む豪邸を改装したペンションで行われた。集まったのは7人。その日、伏見亮輔は後輩の新山を殺害し、部屋を完璧な密室に仕立て上げた。完全犯罪のはずだった。ただ一人が疑問を提示したそのときまでは…。
倒叙モノミステリ。こういう形式って読んでいてドキドキ。追いつめられていく犯人に感情移入してしまうから。それにしても、この作品、ものすごい衝撃的な作品だ。なぜなら、「扉は閉ざされたまま」なんだもの!!
そう、最初から最後まで、扉は開けられない。殺害現場である密室は最後まで密室のまま、扉の外で犯人と探偵役の静かな対決が繰り広げられるのだ。こんな小説ほかにあるかしら!?
なぜ扉は開けられないのか、それについてもきっちりとした説明がなされている。
なぜ犯人は現場を密室にしたのか、それについても、ちゃんとした理由が伏線つきで語られている。
なぜ犯人は犯罪を犯したのか、それについても…語られてはいるんですが…こ、これがちょっと弱い…。動機は、まあもしかするとこの人ならそういうことで殺しちゃうかもなあ、という動機ではあるんだけれど、やっぱり説明不足の感が否めない。今まで犯人側に感情移入していただけに、その動機が明かされると「えっ、そんな理由なの…」と拍子抜けしてしまうのだ。もっともっと綿密に、彼が犯罪に至るまでの心境が語られていれば、あるいは納得したかもしれないんだけれどなあ。
ちょっとした恋愛(?)も絡んでくるのだけれど、こちらもちょっと理解しがたい。「冷静だけれど熱い男」と「冷静で冷たい女」という文章が何度も出てくるんだけれど、どっちかというとこの女性もかなり熱い気がするんですが…。だってかなり執念深いよー彼女。
まあ、いろいろ引っかかるところはあったけれど、でもそれを差し引いても強烈な意欲作であることは確か。ミステリ好きなら一読の価値はアリ!
死神の精度(2005.7.27)
伊坂幸太郎 文藝春秋
死神である千葉の仕事は、指定された人間が「死」を実行するに適しているかどうかを調査すること。7日間の調査期間で彼に「可」の報告を出された人間は、8日目にめでたく(?)死を迎える。彼は調査期間いっぱいを使って人間界での調査を実施する。目的は「みゅーじっく」だ…。
伊坂幸太郎の最新作は連作短編集。なんというか、もう「さすが」と言うべき貫禄。ちょっとピントのずれた死神が人間界と関わることによって何かが生まれる、と言うわけではない。けれど確実にどこか別の光があたる。そのライトの当て具合が上手い、ということなのかしら…。
伏線の貼り方のうまさも相変わらずで、通して読むと「おおっ」と思う箇所もたくさん。別作品とのリンクもちゃんとお楽しみとして用意してある。それぞれの短編もひとつひとつがまとまっているし「死」を扱っている話ばかりなのに相変わらず軽快だ。
でも、わたしがいつも伊坂作品を読むときに楽しみにしている、最後の最後でパズルのピースがばばばっとはまっていくような、あのちょっと鳥肌な快感は少し少な目だったかな…。まあ、連作短編集という性格上、それは無理というものか。
(収録作:「死神の精度」、「死神と藤田」、「吹雪に死神」、「恋愛で死神」、「旅路を死神」、「死神対老女」)
切れない糸(2005.8.3)
坂木司 東京創元社
大学卒業目前の父親の急死で、実家のクリーニング店の後を継ぐことになった和也。店があるのは濃いご近所づきあいがデフォルトの古くからある商店街。スーツ姿のかつての同級生をまぶしく見つつも、和也はなんとかクリーニングという仕事に誇りを持てるよう努力する。そこに集まってくる洋服たちとともに、それらの持ち主である人々のたくさんの事情も一緒に集まってくることにやがて和也は気づいた。
仕事を通して少しずつ商店街に馴染み、新しい友人と馴染み、彼の「何故か困った人(や動物)たちが寄ってくる」体質(?)ゆえに親友の力を借りて周囲の人たちの悩みを解決していく和也。クリーニングという仕事を通して成長していく彼とその周囲の人たちを描く心温まるミステリー。
…のはずなんだけど。
クリーニング屋が出された洗濯物から顧客の抱えている問題を推測し、解決するというその手法に個人的にまず不快さを感じた。たとえどんなに善意からでも、そんなお店に安心して足は運べない、わたしなら。連作短編の形になっているのだけれど、そのどれもが、相談されてもいない個人的な事情を汚れた衣類から推測して、アプローチをかける手法。しかも仕事柄わかった個人事情を簡単に友人である沢田に明かし、彼に頼り切った上でのアプローチ。それで信頼を得ていく、その展開の仕方になんだか無神経なものを感じてしまったのはわたしだけ…?
どうやらシリーズものになるらしい本作、きっと続編には手が出ないだろうなあ…。
シリウスの道(2005.8.5)
藤原伊織 文藝春秋
大手広告代理店・東邦広告に勤める辰村。ある日すでに会社と取引のある大手電機メーカーから、彼の所属する部署指名で新しい広告の新規競合の話が飛び込んでくる。予算は破格の
18億。しかしなにやらこの話は不自然な面が目立った。しかもその電機メーカーには、辰村が顔を合わせたくないと思っている男がいた。見ず知らずのはずのその男を辰村が避けるのには、忘れがたい25年前の友情が絡んでいた…。
生き馬の目を抜くような広告業界をハードボイルドに渡る主人公。このビジネスシーンがとにかく面白かった。デキる美人上司、才能ある部下、どこまでもイヤ〜な敵役、立て続けに湧き出る難題に次ぐ難題。これぞエンタメ! 辰村の下で好青年・戸塚が急成長を遂げるさまは、読んでいて心から応援したくなったし。
だからこそ、過去の話は余計だった気がする。なんだか某超有名作品みたいなシチュエーションだし。そこまで引きずるほどの魅力が明子に感じられなかったのが痛い…。彼女が最後にするシリウスにまつわるたとえ話も、正直「はぁ? ちょっと自意識過剰じゃないの…」と幾分ひいてしまった(苦笑)。
『テロリストのパラソル』の事件に触れているらしき箇所も、読んでいる人にはたまらないのだろうけれど読んでいないわたしには意味不明だった。もう少し説明してくれても…しくしく。
ちょっとほろ苦いラストは個人的には嫌いじゃない。白けるほど楽天的でもなく、鬱々とした気分になることもなく。なんだかんだ言いつつも、非常に愉しんで読めた一冊。
さよならバースディ(2005.9.8)
荻原浩 集英社
東京霊長類研究センターで、突然自らの命を絶った安達助教授の後を継ぎ、知能の高いサル・ボノボを使って言語習得実験を行う田中真。彼は共同研究者の藤本由起に結婚を承諾してもらい幸せの絶頂だった。しかし彼女はプロポーズを受けたその夜、謎の死を遂げる。彼女が自殺したという警察の判断に納得のいかない真は独自で彼女の死の真相を調べることに。果たして彼女は本当に自殺だったのか。彼女の死の一部始終を観ていたのは、研究対象のボノボ、「バースディ」ただ一人だった…。
キーボードを介して人間と簡単な会話をすることができるサルだけが恋人の死の真相を知っている、という設定にそそられた。バースディがとても魅力的だし! 真が真相に近づいていく途中で少しずつわかってくる大学の内情もドキドキするし、謎のライターがちょこちょこ現れては話を盛り上げる。エンタメのツボを押さえてるなあ、と思った。
それにしても、事件の真相が…。最後の真相を明かすそのやり方には「おおっ!」と思ったけれど、そこまで凝ったことするんだったらその時間でもう少し話し合うとか何とかできなかったのか…。真相がわかってしまうとなんだか一気にこちらがトーンダウンしてしまった。さらに、その辺りでの真のバースデイに対する行動を見ていると彼の真意もちょっと疑ってしまった。彼も結局は単なる研究者だということなのか…。
それにしても、同じ部署から立て続けに2名も死者を出してしまったら、真相が明るみに出ようが出まいがもうそれだけで大問題なんじゃないかと思うんですが。責任者はお咎めナシですむのかしら…。
何よりも実験動物の悲哀を一番に感じた…って読み方間違ってる気がするわ(苦笑)。
人魚とビスケット(2005.9.16)
J・M・スコット/清水ふみ・訳 創元推理文庫
”人魚へ。とうとう帰り着いた。連絡を待つ。ビスケットより。”
1951年の3月のある日、ロンドンの新聞に実際に載った3行広告。ここから始まった人魚とビスケット、そして”ブルドッグ”を交えた3行広告上での一連の謎めいたやりとりは、ロンドン中の話題になったという。この作品はその3行広告をもとに練り上げられた海洋冒険ミステリー。14週間もの間、インド洋上を漂った人魚、ビスケット、ブルドッグ、そしてナンバー4という4人の男女の極限の遭難生活とは、そして彼らの秘密とは…。ラストにはあっと驚く真実も。
この作品、ずっと<幻の名作>と呼ばれ入手困難な状態が続いていたらしい。人種差別的で問題のあったとされる訳も今回の翻訳で柔らかくなったとのこと。こ、これで本当に柔らかくなっているのか…。とちょっと疑問に思うくらい十分に差別的な気がするけど。
とにかく冒頭の、広告でのやりとりが抜群におもしろいのだ。謎めいていて、「一体4人の間に何が!?」とものすご〜〜〜〜く興味を惹かれてしまう。だからこそ、話題にもなり、こうして一つの物語までが生み出されたわけだけれど。そしてこの作品はかなりうまく物語を作り上げていると思う。よくぞあれだけの広告からこれだけの物語を…と感嘆。
ケンカっぱやいブルドッグ、事なかれ主義のビスケット、つねに冷静で心優しい人魚、そして、何を考えているのかわからない、”野卑なけだもの”のナンバー4。読み始めてすぐに読者も一緒にインド洋に投げ出され、彼らとともに海をさすらい、やっと辿り着いたイギリスでまたも謎に翻弄される。最後まで一気読み。あっと驚く伏線にすっかりだまされたわ〜。
ただ…きっと実際にあった4人の間の物語は、きっとこの作品とはまったく違う、と思う。どうしてビスケットは9年も経ったあとであんな3行広告を打ち出したのか? なぜ人魚に「何を恐れているのか、過去か、それともわたしか」と問いかけたのか? なぜ彼女にわざわざ「悪い思い出は皆忘れた。」と強調したのか? 何故再会を急いだのか?
広告のやりとりで浮かんだこういった疑問にこの作品は答えてはくれない。また「ローリー」なる第5の人物はなかったことにされている。そのあたりが個人的にはちょっと消化不良…。
それからあまりにもナンバー4や漂流中に遭遇する日本人など、「非イギリス人」に対する差別感情が強すぎたのも、いまいち物語に完全にのめり込めなかった原因の一つ。ビスケットもブルドッグも、ものすご〜く鼻持ちならない人間に見えてしまった。
探偵ガリレオ(2005.9.27)
東野圭吾 文春文庫
まるで超常現象のような状況での殺人事件の謎を、天才物理学助教授・湯川学が解明していく連作短編集。S&Mシリーズの犀川センセがよく引き合いに出されるようだけれど、わたしは京極堂かと思ったわ。博学なところといい、高飛車なところといい(笑)。「草薙くん、この世には不思議なことなどなにもないのだよ…。」
ちょっと無理のありそうなシチュエーションを、巧みに説明してあれよあれよと白ける暇もなく最後まで読ませてしまうのはさすが東野圭吾。完璧文系なわたしにはトリックは説明されても何がなんだかだったけれど、「そうか、そういう現象はあるのねー。」と素直に納得。あまりにも物理学カルトなトリックに、自分で推理しつつミステリを読む人にはちょっと楽しみが少ないかもしれないけれど、ミステリを読むとき最初から推理を放棄している(笑)わたしには問題なし。
でも、これはトリックを書くために作られた作品なんだろうなー、と思った。はじめにトリックありき。その犯罪の周辺の人間模様や登場人物はその後。まさにそんな状況での人間の心の機微みたいなものを読みたいのよう、というわたしのような人間には、あまりそそられる作品ではなかったかな…。
(収録作:「燃える」、「転写る(うつる)」、「壊死る(くさる)」、「爆ぜる(はぜる)」、「離脱る(ぬける)」)
予知夢(2005.9.28)
東野圭吾 文春文庫
ガリレオシリーズ2作目。えっ、そっちの方に行っちゃうんですか、という感じで題材はすっかりオカルトになってしまった。相手が生まれる前から運命の女性だと信じ込み、ストーカー行為の果てに家宅侵入を咎められ、逃げる際に轢き逃げで人を死なせてしまう男。恋人が死んだその時刻に離れた場所で彼女の姿を見た男。ある時を境に古い家で毎晩のように起こり始めるポルターガイスト現象。ある女性が自殺する前日に、その自殺を予知する少女。「絞殺る」だけはオカルトじゃないか…。
今回は前作よりは少し難解度がダウンしている気がする(笑)。まあよくわからない、という点ではそんなに文系人間には変わらないけど。でもどの作品も無難にまとまっているかなあ、という印象だけしか受けないのよね…。あ、最後の「予知る」はわかっちゃったなー、予知の理由が最初に。でも背後の複雑な人間関係は複雑すぎてとても予測できませんでしたが。
確かにこういう作品はシリーズ化はしやすいかも。でも同じようなシリーズがさらに続いたら、正直わたしは読もうとは思わないかな…。ただ、この次の作品は初めての長編らしいので、今までとは違う新たな切り口を期待!
(収録作:「夢想る(ゆめみる)」、「霊視る(みえる)」、「騒霊ぐ(さわぐ)」、「絞殺る(しめる)」、「予知る(しる)」)
震度0(2005.9.12)
横山秀夫 朝日新聞社
阪神大震災の朝、N県警本部警務課長・不破が失踪した。彼はキャリア組の本部長や警務部長の信頼厚く、失踪の原因はまったく不明。しかし彼の失踪は県警本部に大激震を巻き起こした。6人の幹部たちはそれぞれの思惑から、不破の失踪に激しく動揺し、水面下での情報戦は激化の一方を遂げる。果たして不破はなぜ消えたのか…。
6人の幹部のそれぞれの思惑が錯綜する人間ドラマ。ちょっと『半落ち』っぽいけれど、汚い部分ばかりが描かれていてこちらの方が思いっきりドロドロ。でも個人的にはかなり好き(笑)。誰も彼も自分の保身ばかりが優先で、情報戦による激闘が繰り広げられ、目が離せない。
けれど、そのわりには失踪した不破がどういう人間なのか、それがいまいち伝わらない…。だから、6人がそれぞれ焦り、策を講じる気持はわかるのだけれど、彼らが不破自身についてはまったく頓着しないことに対しての怒りがあまり湧いてこなかった。
それから、なによりも阪神大震災を持ち出す必然性が…。これは被災者の方にはものすごく不快な小説なんじゃないだろうか。タイトルからしてインパクトを狙ったとしか思えないし。大震災をまったく出さなかった方が、警察小説としてこちらも純粋に愉しめたのだけれど。
モーダルな事象(2005.9.14)
奥泉光 文藝春秋
東大阪・麗華女子短期大学助教授・桑潟幸一、略して桑幸。しがない彼の人生はある日、彼の元にとある無名の童話作家の未発表の遺稿が持ち込まれたところから一転する。原稿発見の際の劇的なエピソードが話題となり、童話は出版されるや徐々にベストセラーに。しかし原稿を持ち込んだ編集者は死体となって発見され、原稿は紛失し、彼の元には編集者から託された「アトランチィスのコイン」が残される。はたして「アトランチィスのコイン」とは何なのか。遺稿はどこへ消えたのか。そして童話作家・溝口俊平とは何者だったのか…?
個人的には今年のペストスリー間違いなし! いやあ、小説の醍醐味を味わわせてもらったわ〜!
非常に異色な長編ミステリでSFの要素も入っている。読んでいる中に新聞記事や週刊誌記事が出てきたり、何よりユーモアの効いた文章がおもしろく、分厚い作品にも関わらずどんどん読み進めた。うだつの上がらない女子短大助教授、桑幸の、全然「スタイリッシュ」じゃないキャラクターが秀逸。もう一方の主人公のジャズシンガー兼ライターと彼女の元夫の元夫婦探偵っぷりもテンポよく読める。
桑幸のもとに舞い込んだ思わぬ幸運(?)が思いもしない方向へ彼の運命を誘っていくその先の読めないストーリーもおもしろいのだけれど、それ以上に、読んでいるうちにこちらもいきなり非現実へ持って行かれたり、いきなり爆笑を誘われたり、文章自体に翻弄される感覚が心地よかった。ベタなお涙ちょうだいの童話がバカ売れするくだりは皮肉も効いている。
どこまでもただ翻弄されている桑幸が、最後の最後に選択するその生き方に喝采を送りたくなった。桑幸、なんて素敵なんだ。そして、読了後には頭の中にダジャレがいつまでもこだまするのだ。「あっちから、ダサイおさむらいが来るよ」「ほう、さよう(斜陽)ですか」。ああ、こんなダジャレに涙が出そうになるなんて。
黒猫の三角(2005.10.4)
森博嗣 講談社NOVELS
S&Mシリーズに続く、Vシリーズの1作目。
瀬在丸紅子、保呂草潤平、小鳥遊練無、香具山紫子、の4人が豪邸での夫人の誕生パーティの最中に起こった殺人事件に巻き込まれる。それは1年に1回、ゾロ目の日に起こる連続殺人事件の4人目の犠牲者だった…。
まずは、すごい名前の登場人物ばっかりだなあ(苦笑)。遊んでいるとしか思えない…。相変わらず密室に拘る森助教授、今回の事件ももちろん密室殺人。しかし、犯人はともかく(ともかく?)ちょっとお粗末なような…。いくらなんでも、それはありえないでしょ!
あと、犯人が、犯行発覚前と発覚後ではあまりにも別人でちょっとびっくり。確かに装っていたのだろうけれど、それにしてもスゴイ豹変ぶり。
瀬在丸紅子も今のところさっぱりどういう人物か掴めないわ。「簡単に理解できない複雑な性格のキャラクター」らしいけれど。そういう地の文の説明もどうかと(苦笑)。
まあ、ともかくまだ海のものとも山のものとも知れないこのシリーズ、とりあえずは続けて読み進める予定…。
人形式モナリザ(2005.10.7)
森博嗣 講談社文庫
Vシリーズ2冊目。
長野のリゾート地のペンションで夏休みのアルバイトをする小鳥遊練無のもとに瀬在丸紅子、保呂草潤平、香具山紫子が遊びに行くことに。そのペンションのオーナーの奥方は、付近にある人形博物館を経営している一族だった。その人形博物館で、乙女文楽の上演中に演者が観衆の目の前で殺されるという事件が発生する。実は一族では2年前にも殺人事件が発生しており、未解決のままだった。
また、この博物館にはある芸術家の千体にも及ぶ人形が保管されていた。そのうちのどれかが「モナリザ」と題する作品であるはずだが、芸術家亡き後、どれがモナリザなのかは謎のままだった…。
前作よりは断然面白かったわー♪
今回は林を巡る紅子と祖父江七夏との壮絶なバトルも。やっぱりこのシリーズもラブコメ化していくのだろうか…それはそれでいいんだけれど。そして、天才というのは自分の子供を蔑ろにするものなんだろうか…、それもそれでいいんだけれど。
保呂草探偵の裏の顔も今回初登場。へーそうなんだ、ふーん。
そうそう、実はわたしはかなり後半まで、絵画を盗んだ犯人は別の人だと思っていたわ!(笑)
それにしても、この一族がめちゃめちゃ複雑で最初わたしにはチンプンカンプンだった。途中で家系図を書いてみてやっと関係が把握できたほど。最初から家系図をつけてほしかった…。
でもって、犯人の目的は結局はっきりしない…。まあ、意図はわからないではないけれど。あと、モナリザの謎は絵をみれば一発でわかりそうなんですけど…。
内容的に断然面白いミステリ!というわけではないけれど(苦笑)、ラスト1行は「おっ!」と思ったし(ちょっと『笑わない数学者』っぽいわん)、続けて読もうという気持はくじかれずにすんだわ(笑)。
リピート(2005.10.11)
乾くるみ 文藝春秋
大学4年の毛利のもとにある日、1本の電話が掛かってきた。「今から約1時間後の午後5時45分に、地震が起きます。三宅島で震度4、東京では震度1です。確認してください。」地震の予告電話−それこそが、毛利への「リピート」の誘いだった。
10ヶ月前の自分に精神だけが戻ることができる、それが「リピート」。10ヶ月分の記憶があれば、競馬で大儲けすることもできるし、失敗した受験をやりなおすこともできる。謎の電話の主・風間に誘われた9人の仲間たちが風間とともに10ヶ月前の世界へ。しかしそこでは毛利たちの記憶にない事件が起こり、仲間たちは次々と死んでいく…はたして誰が彼らを殺しているのか?
『イニシエーション・ラブ』に続いて乾氏の作品は2冊目。いやー相変わらず凝ってますな…。とにかくこの連続殺人の真相がわかったときには愕然。ぎゃー、全然思いつかなかったわ!!
ただ、設定はめちゃめちゃおもしろいのだけれど、主人公の毛利がまるっきり人間的魅力ナシなのが読んでいていたかった…。彼の語りで物語が進むものだからなおさら。ついつい本を放り出したくなってしまう自分をなだめすかしつつ読み進めた感じ(苦笑)。リピートする前は売名行為を考えたり後腐れないからとその気もない女の子の誘いにのったり、リピート後は10ヶ月限定でしかない万能感でひとり優越感に浸ったり、なんでこんな男がもてるのかさっぱりわからないわ!
一緒にリピートする仲間の鮎美もなんだかなーだし。今時ここまで男に依存する女の子も珍しいというか…。彼女の気持ちもさっぱりわからない。まあ、恋愛小説じゃないんだから、恋愛がリアルじゃなくてもオッケーってことなのかしら。というか、そもそも恋愛とは思えないしなあ…。
ミステリとしてはかなりおもしろい作品だったけれど、とにかく魅力的な人物がいなかったのが個人的には残念だったわ。風間が一番人間的だったかも(笑)。あ、ラストはひねっていていいんじゃないでしょうか。というかこういうラストはキライじゃない。もっと個人的に言えばこうなってくれないと!(笑)
月は幽咽のデバイス(2005.10.19)
森博嗣 講談社文庫
Vシリーズ3冊目。
近隣の人から薔薇屋敷、月夜邸と呼ばれ、他の住宅とは一線を画す孤高の大邸宅・篠塚邸。その屋敷にはオオカミ男が出るという荒唐無稽な噂があった。その篠塚家の令嬢・莉英の婚約披露パーティに瀬在丸紅子が招かれ、保呂草潤平も便利屋の関係で出席することになる。しかしパーティの最中、会場となったリビングに隣接するオーディオルームで招待客の一人が死んだ。彼女の遺体は衣服がボロボロになり、手足首に噛みつかれたような痕があるなど凄惨を極め、そして当然のことながら(苦笑)その部屋は密室だった。死体発見の直後に会場に到着した香具山紫子と小鳥遊練無。そして現場には祖父江七夏が駆けつける…。
ちょっとオカルトチックな展開で話は進むのだけれど…いやー、このオチはアリですか?アリなんですか?? むちゃくちゃするなあ、森センセも…(苦笑)。
確かにちゃんと伏線は貼ってあるし、いいんだけれど、別に。
でもかなーり、非現実的。こんなトリックを見抜ける人はいないでしょう、普通。
思うに、これは結局事件なんてどうでもよくて、単に紅子と林と七香の三角関係は!?とか、紫子ちゃんや保呂草の恋の行方は!?とか、そういう方に関心を持って楽しむシリーズなのね。
まあそれもわたしにはあんまり興味ないんですが…。しくしく。
夢・出逢い・魔性(2005.10.20)
森博嗣 講談社NOVELS
Vシリーズ4冊目。
香具山紫子が応募したことで、テレビのクイズ番組に出場することになった紫子・瀬在丸紅子・小鳥遊練無の3人組。保呂草も同じテレビ局の友人に会うという理由をかこつけて、4人そろっての上京。保呂草は友人の頼みでクイズ番組のプロデューサー・柳川に彼の知人である地元の探偵・稲沢真澄を紹介するが、稲沢が柳川に会う前、番組のリハーサル中に、別室で柳川が殺される。現場が騒然とし、リハーサルも一時中断する中、ゲスト出演のアイドル・立花亜裕美に頼まれて練無は二人でテレビ局を抜け出すことに…。
合間合間に犯人のモノローグが差し挟まれているにも関わらず犯人は最後までわからない構成。これはかなーりミステリっぽかったわ(笑)。ストーリーには直接関係のないラストのサプライズも素敵。「私がかぶっているものは、それが好きらしい。」という最後の一行も個人的には好み。なんと言ってもタイトルが凝ってる。「夢・出逢い・魔性」で「夢で逢いましょう」で「You May Die in My Show」ですから!! こういう言葉遊びはかなり好き。「初めは白い、白いはナプキン」で始まる「さよならさんかく」チックな章タイトルも遊びが効いててしかも今回はちゃんとタイトルと内容が合ってるわ(笑)。
と、褒めまくってるけれど、ホントのミステリとしてどうか、と言われると、うーん、どうかな…。ミステリじゃない部分はかなりよかった(笑)。今までのVシリーズの中では一番好き、かな。
魔剣天翔(2005.10.21)
森博嗣 講談社文庫
Vシリーズ5冊目。ようやく半分だ〜♪
保呂草潤平はある日突然、各務亜樹良と名乗る人物に呼び出され、「エンジェル・マヌーヴァ」と呼ばれる宝剣を盗んで欲しいと依頼される。しかしその剣は所在不明のまま。
一方阿漕荘の面々は無料チケットを手に入れて、練無の先輩が参加する航空ショーの見学に。実はその先輩・関根杏奈は宝剣を持っているとされる画家・関根朔太の娘だった。
そして観衆の見守る航空ショーの最中、飛行中の航空機の中でチームリーダー・西崎勇輝が射殺される。保呂草はいつのまにやら事件に巻き込まれ…。
うーん、今回の読みどころは練無の初恋の顛末、かしらね…。
相変わらずミステリのトリックはさっぱりわからなかったけど、ヒューズの理由がわかったときには顎が外れそうになりましたわ。ベタすぎる…。絶対、そんな発想、被害者に湧くはずありませんて。あまりにベタである意味新鮮だった(笑)。子供の頃読んだなぞなぞ集みたい…。
ちらっと見たところ次作の『恋恋蓮歩の演習』にも各務さんは登場するらしい。なんか男言葉(というかぶっきらぼう)女性ばっかりどんどん増えるんですが…。
それから、まだ20代の紅子や保呂草が、練無や紫子の言動を見て「若い子は、若い子は」と言うのはいい加減やめてもらいたいな…。君たちだってまだ20代だろうが!!!
恋恋蓮歩の演習(2005.10.22)
森博嗣 講談社文庫
Vシリーズ6冊目。
保呂草に誘われて豪華客船ヒミコで1泊2日の宮崎への旅に出かけることになり、浮かれ気分の紫子。しかしもちろん、それは保呂草のお仕事。実は彼は各務亜樹良から、ヒミコに乗せられるはずの関根朔太の自画像を盗み出して欲しいと依頼されていた。しかし、自画像は見つからず、男性客の一人が消えた。なぜか船には紅子や練無も潜り込んでいて、そこへ祖父江七夏がヘリコプターで乗り込んでくる…。
事件が起きるまでがすご〜〜く長かった。半分くらいが前振り。
でもでも、最初の羽村冷人と大笛梨枝の出逢いでピンとくる人はピンとくるのでは…。
今回の焦点のひとつに、消えた絵画の謎があるのだけれど、この絵画、絶対見つかると思うのはわたしだけ??(笑) 警察だってそこはチェックすると思うんだけどなあ。
揺れる思いの紫子ちゃんですが、わたしは練無が好きなんだと思うんだけれど違うの? 本当に保呂草狙いなの? 思わず今回、ヒミコに乗船するも保呂草に待ちぼうけをくわされ、ひとり旅だった客船が海に沈んであわれ海の藻屑と消える紫子ちゃん…というストーリーがふっと頭に浮かんでしまったわ!(苦笑)
神様ゲーム(2005.10.23)
麻耶雄嵩 講談社
「かつて子どもだったあなたと少年少女のための」ミステリーランド第7回配本。
「ぼく」・芳雄はクラスメートのミチルに淡い恋心を寄せる小学4年生。近所でこのごろ起こっている猫の連続殺害事件を、同じ町内の同級生たちで作った探偵団で解決しようと頑張っている。ところが最近、トイレ掃除で一緒になった鈴木くんに犯人を教えてもらった。彼は、自分は神様だから何でも知っていると言う。新手のゲーム? ところがそのうち本当の殺人事件が…。犯人は誰? 鈴木君は本当に神様なの?
出版当時からかなり物議を醸していた問題作。気になっていたのだけれどやっと読めたわ。確かに「少年少女のため」とは思えないダークな物語。衝撃的だったわ…。わたしでこれだけ衝撃を受けるんだから、少年少女はいったいどうなるのか。麻耶雄嵩、少年少女にも容赦なし(笑)。
猫殺しの残酷さなんてかすんでしまうほどに後半は残酷で、容赦のない展開が待っている。そして一番残酷なのは、描写ではなくってその顛末。思いっきり読者突き放してますな…。
そういうわたしも簡単に突き飛ばされてしまった一人。ラストシーンが理解できなくってちょっとしたパニックに…。これ、少年少女に理解できるの…!?
あちこちでネタバレ掲示板やネタバレ感想を参照しまくり、自分なりにいろいろ考えた結果、わたしが出した結論は以下のとおり(ネタバレにつき反転)。
鈴木君は本当の神様だと思う。そして、結局ミチルと一緒に英樹を殺した犯人は母さん。天誅を下す相手は本人とは限らないのでは…という意見も見かけたけれどやっぱりここは本人に天誅を与えないとちょっとヘンだと思うわ。ミチルと母さんは同性愛の関係だったんですな…うーん、10歳で母親くらいの相手と同性愛。ヘビーすぎ。でもミチルは英樹殺害当時服を着ていた、ということもあるので、本当の意味の同性愛とはちょっと違う気もするけど。
でもって、後半芳雄が考える犯行説は結局間違いで、正しかったのは芳雄がミチルと一緒に本部に行ったときに考えた、「井戸の蓋の中に犯人が隠れていた」説。「母さんが小さいから」、「母さんが小さな躰を」と母さんの身体の小ささはちゃんと明記されているし、その説を芳雄がミチルに説明したときには「ミチルちゃんの顔が凍りつ」いたし。
まあこれはわたしが自分で出した結論じゃなくてあちこちのネットの意見を参照にした結果自分なりにこれが正しいんじゃないか、と思った解に過ぎませんがね…(自虐)。
正解はともかく、どちらにしても救いのない物語なことは確か。芳雄はこれからどんなにつらくとも、絶対に生きなければいけないし、絶対に36歳で死ななくてはいけないんだから。そんな事実を10歳で突きつけられて、彼はこれからちゃんと生きていけるのかしら…。
虚無への供物(上・下)(2005.10.31)
中井英夫 講談社文庫
”四大奇書”のひとつに数えられる中井英夫の「アンチ・ミステリー」。
宝石商で一度は栄華を誇った氷沼家の一族は、子どもたちに色にちなんだ名前を付け、その色の宝石をそれぞれに持たせていたが、火事や水難事故で次々と人が死に、今は没落して直系の兄弟・蒼司と紅司と従弟である藍司、そして彼らの叔父である橙二郎が身を寄せ合うように暮らしていた。蒼司らと親交のあるアリョーシャこと亜里夫はシャンソン歌手・久生と藍司を引き合わせるが、そこで久生はまだ起こらぬ「ザ・ヒヌマ・マーダーケース」を予言する。そしてその予言が的中し、氷沼家で第一の密室殺人が…。
ずっと読みたいと思いつつなかなか読めなかったこの作品。やっと読むことができたわ〜! どうも探偵役のひとり、久生のキャラクターが好きになれずに前半はかなり苦戦したものの、後半に入ってからは勢いに乗って読了。なるほど、これがアンチミステリってものなのね!
次々に起こる奇怪な殺人事件の謎解きになぜか薔薇や不動明王が根拠として持ち出されたり、どこまでが偶然でどこまでが必然なのか、はたまたどこまでが現実でどこまでが虚構なのか…争うように挙げられる推理合戦にいったい真相はどれなのか、とにかく翻弄されっぱなし。そしてラスト近く、「”あなたが犯人だ”って指さす」というくだりでは思わずゾワッと鳥肌が。
動機については高尚すぎるとか、現実的じゃないというような意見も見られるようだけれど、個人的にはこの動機はものすごく納得できるものがあったけれどなあ。
読了後、さまざまなことを考えさせられ、複雑で味わいのある余韻が。ああ、個人的にこの作品、すごーく好きだ。
六人の超音波科学者(2005.11.4)
森博嗣 講談社NOVELS
Vシリーズ7冊目。
山中の超音波研究所を訪れたいつもの面々。6人の科学者が日々生活しながら研究を続けるその研究所で行われるパーティに紅子と練無が招かれたのだ。しかし招待客が揃ったところで研究所に通じる橋が爆破され、研究所は陸の孤島と化す。そしてパーティの最中に死体が発見された…。
またまた密室です。そしてまたまた秘密のエレベーター!
今回の読みどころはなんだろう。感情を爆発させる紅子さん、かしら。
研究所の長である土井博士の研究メンバーの集め方がむちゃくちゃで笑えたわ。そんな基準でメンバー集める人がいるのか? 「死は我々とともにあり、死は我々とともにない」この言葉を使いたいがため?
いつもいつも紅子と顔を合わせなくてはならないハメになる七夏にちょっと同情。(苦笑)
捩れ屋敷の利鈍(2005.11.5)
森博嗣 講談社文庫
Vシリーズ8冊目。
なんと今回はS&Mシリーズの西之園萌絵ちゃんが登場!そしてVシリーズのメンバーは保呂草のみ(紅子さんはちょこっとだけ、犀川センセは電話でだけ登場)。
熊野御堂家の別荘に招かれた保呂草と萌絵。この別荘には「捩れ屋敷」と呼ばれるメビウスの輪の形状のコンクリート建造物があり、その捩れた部屋の中にはあのエンジェル・マヌーヴァが安置されていた。しかし捩れ屋敷の中で死体が発見され、盗み出すのは不可能だと思われたエンジェル・マヌーヴァも失われる。さらに、敷地内のログハウスの中にも別の死体が。果たして萌絵は密室の謎を解き、保呂草は訪問の目的を遂げることができるのか…?
今まででいちばんむちゃくちゃなミステリだったかも…。
萌絵と保呂草の対決(?)はまあ楽しかったけれど、肝心の殺人事件の動機が結局わからないってのはミステリとしてどうなの? いやいや、それ以前に、犯人が判明するのが推理じゃなく目撃者による(ネタバレにより反転)ってのは!?
さらに、エンジェル・マヌーヴァの盗み方、それってアリなの〜!?
かなりの反則技連発でちょっとひいてしまった。Vシリーズはミステリとして読むべきじゃないような気はしていたんだけどね…(苦笑)。
ただ、どうやらこの8作目は四季シリーズに向けての重要な伏線になっているらしい。紅子が萌絵を知っているらしかったり、いろいろ四季シリーズを読めばわかるような記述があるそうな。
そうか、やっぱりこのシリーズは人間関係を楽しむべきシリーズなのね…。
容疑者Xの献身(2005.11.5)
東野圭吾 文藝春秋
つきまとう元夫を思わず殺害してしまった花岡靖子。呆然とする靖子母娘の部屋に隣人の数学教師・石神から電話が掛かる。「どうされるのかなと思いまして。…女性だけで死体を始末するのは無理ですよ」。
天才数学者が計画する完璧な犯罪隠蔽工作。ガリレオ博士こと湯川学は、旧友である石神の企てを察知するが…?
ページを開いたら最後、ラストまで一気読みのおもしろさ。個人的に東野作品は『白夜行』がベスト、と思っているのだけれど、これは『白夜行』に並ぶわ!!
とにかく石神の完全無欠に見える計画がすごい。わかってしまう人もいるようだけれど、わたしには最後までわからなかったわ。そして彼と対決する湯川の苦悩。そうまでして靖子を守ろうとする石神の真意。読んでいくに連れてどんどん息苦しくなった。
靖子はとりたてて素晴らしい女性というわけじゃない。元ホステスで、おそらくは美人で、お弁当やさんに勤める中年女性。追いつめられれば目の前に差し出される救いの手に縋りつくし、逃げ場がなくなれば息苦しさを感じる。少し嬉しいことがあればつい浮かれる。
けれど、完璧な女性ばかりに恋してしまうわけじゃない。そうじゃないことのほうがよっぽど多いものよね…。
切ないラストには胸が詰まった。
ガリレオシリーズの三作目に当たるけれど、シリーズを前もって読む必要はまったくなし。とにかく傑作!
女王様と私(2005.11.15)
歌野晶午 角川書店
これはちょっと反則じゃないのかなあ…。ミステリとしてどうかと思う。剣と魔法の世界のファンタジーだってこんなのないでしょ。
高校を中退して以来ひきこもりの真藤数馬は妹とバカな会話をするのだけが心の慰め。そんなある日、彼は女王様と運命的な出逢いを。彼女との関わりでやがて少しずつ社会と関わりをもちはじめる数馬だが、女王様の回りで次々と連続殺人事件が。現場に残された睡蓮は何を意味するのか。数馬は犯人を見つけだし、女王様を守ることができるのか…?!
まああらすじを書くのはかな〜〜り難しいんだけれど、当たり障りなく書くとこんな感じかしら。序盤の、女王様と出会うあたりまでのくだりは、ちょっとした叙述トリックがまぶされていて「おおっ」と思う。『葉桜〜』をちょっと彷彿とさせるような。でもそれからがねえ…。女王様も最初だけだしなあ。
途中でちょこっとネタが明かされてからはラストは想像がつくんだけれど、でもそれにしてもこれはヒドイ。ミステリ好きなら納得行かないでしょ!(以下ちょこっとネタバレかもしれないので反転)章タイトルで最初からちゃんと断ってる、というのは言い訳だと思うわ!
『葉桜〜』以来すっかり色モノ的な作品ばかりな感じのこの作者、もう普通のまっとうなミステリは書けないのかしら。『葉桜〜』チックなものを求める世間がそれを許さないのかしら。
だいたい、最初からこの引きこもりな主人公にまったく共感が持てないのだから、あとはまっとうなミステリで読ませてほしかったんだけどなあ。
あ、でも、作品読了後にきちんと表紙裏表紙の見返し部分のだらだらっと続く文章を読むと結構愉しめるわ♪ これが今回一番面白かった部分かも(笑)。
朽ちる散る落ちる(2005.11.23)
森博嗣 講談社NOVELS
Vシリーズ9冊目。
時間的には7冊目『六人の超音波科学者』の事件解決から1週間後。手間取っていた土井超音波研究所の地下に警察の捜査の手が入ることになる。保呂草は各務亜樹良から、地下であるものが見つかったら回収してもらいたい、との依頼を受け、手回しをして紅子、練無、紫子とともにその場に立ち会うことに成功する。しかしそこで、身元不明の奇妙な死体が発見された…。果たして死体はいったい誰なのか。そしてどのような手段で死んだのか…。五里霧中の捜査の中、紅子は外国の、奇妙な有人衛星内の密室殺人の話を耳にする。死体と宇宙空間での殺人との間にどんな関係があるのか。紅子の身に危険が迫る…!?
今回は、S&Mシリーズの番外編として出された『地球儀のスライス』に収録された「気さくなお人形、19歳」がかなり密接にリンク。やっぱり見落とせないのね…(苦笑)。これを先に読んでいないとちょっと話が見えないかも。
相変わらずやることが壮大です、森先生。こんな研究所、実際にあったらぜひテーマパークのアトラクションにしていただきたいわ! このトリックを見抜けなんて、それはできない相談ですとも。
でもって今回の見所は、へっ君のイニシャルが明かされるところ。そうか、やっぱりあなたはそうなのね。前作でもしや…とは思ったのだけれど。
そして紅子さん。だから自分の名前のスペルを「VENICOです。」って言うのは恥ずかしいからやめなさいって!
赤緑黒白(2005.11.24)
森博嗣 講談社NOVELS
Vシリーズ10冊目。
いよいよVシリーズもこれで完結。いろんな意味で感慨深いわ…。
とあるマンションの駐車場でひとりの男性が殺害された。彼はなぜか全身を真っ赤なスプレーでペイントされていた。彼の名は赤井…。数日後、被害者の恋人と名乗る美登里が保呂草の元を訪れ、赤井を殺害したのは現場のマンションに住む小説家が犯人なのでその証拠を見つけてほしいと依頼する。しかし捜査は進まず、やがて美登里が自室で殺害される。彼女は緑のスプレーでペイントされていた…。
意外な連続殺人の真相は? 瀬在丸紅子が犯人に挑む。
連続殺人の真相はまあいいとして(笑)、これでVシリーズは完結、なわけだけれど、ラストできっちりとサービス(?)が。うわー、『すべてがFになる』の記憶があんまりないよ!! 保呂草が紅子と別れるシーンはなかなか素敵なのだけれど、エピローグはまんま四季シリーズの予告編のような感じ。うーん、引っ張るなあ(笑)。
天使のナイフ(2005.11.25)
薬丸岳 講談社
第51回江戸川乱歩賞受賞作。
チェーンのコーヒー店を営む桧山は4歳になる娘と2人暮らし。ある日彼の店に2人の刑事が現れる。実は桧山には、生後まだ5ヶ月だった娘の目前で妻を惨殺された過去があった。そして刑事の話では、その事件の加害者3人のうちの一人が殺されたという。事件当日の彼には明確なアリバイはなかった。誰が何のために彼を殺したのか?
妻が殺害された当時、加害者3人は13歳の少年だった。そのため彼らは少年法の名の下に逮捕を免れ、桧山には彼らの現在の様子はほとんど知らされることがなかった。彼は少年たちの更正の実態を知りたいと考え始める。しかし桧山が動き始めてまもなく、もう一人の少年も桧山のすぐそばでホームから突き落とされた。当然のごとく、彼らを恨んでいた桧山に疑いの目が向けられる…。
新人とは思えない力作。乱歩賞受賞作の中でも飛び抜けているのでは。
ところどころ日本語の表現などで「え?」と思うところがあったり、あまりにも物語の展開に都合のいい人間関係に、そんなに少年犯罪(しかも殺人)が身の回りで起こったりするものか?と疑問に思ったりする面はあるものの、とにかく著者の熱意に圧倒された。
少年法が厳しすぎるか甘すぎるか、そういう点ではなく「何をもって”更正”なのか?」という点が説得力のある言葉で語られている。”贖罪”とはどういうことなのか、そして今の少年法で少年たちが罪を本当の意味で”つぐなう”ことができるのか。非常に深いテーマをもてあますことなく扱い、しかもその上できっちりとエンターテイメント作品に仕上げるその力量は並じゃないわ…。
次の作品がものすごく楽しみ。
女王の百年密室(2005.11.28)
森博嗣 新潮文庫
2113年(西暦か?)。サエバ・ミチルは同行のウォーカロン(ロボット)、ロイディとともに世界から孤立した不思議な王国に不時着する。そこは女王が国を統治する、ある意味での理想郷だった。ミチルはその国で、かつてミチルと因縁があり、行方不明となっていったマノ・キョーヤと再会する。蘇る過去の記憶に動揺するミチル。そして起こる不可解な殺人事件…。
人を罰する機構も裁く機構も存在しない世界に、君臨する神の正体とは何なのか?
S&MシリーズやVシリーズとはまったく違う、不思議な感覚のSFミステリー。こういった世界観の方が森氏の文章というのは生きる気がした。あまりにも現実とはかけ離れた世界なのでそうそうツッコミどころもみつけられないし(笑)。現実感のない、なんとなく幻想的な世界をふわふわと通り過ぎた、そんな印象。
ラスト近くで、それまでのデボウ・スホ女王の神秘的な気高さが失われてしまったのが個人的にはちょっと残念だったかな…。
クリスマスに少女は還る(2005.12.5)
キャロル・オコンネル/務台夏子・訳 創元推理文庫
クリスマスを間近に控えたある日、二人の少女が湖のそばのボート小屋から姿を消した。地元警察やFBIが彼女たちの行方を捜すが消息は見つからない。片方の少女が乗っていた自転車を警察署に持ち込んだ制服警官のルージュ・ケンダルは、かつて双子の妹を今回同様誘拐され、その遺体がクリスマスの朝発見されたという過去があった。捜査に協力する民間の小児性愛専門家で、顔に醜い傷跡のあるアリ・クレイはルージュの過去を知っているようだった。
捜査が難航する一方で、誘拐された少女たちは、閉じこめられた不思議な森からの脱出を試みていた…。
読了後、茫然自失。
こんなに本を読み終えて呆然としたのは、サラ・ウォーターズの『半身』以来かしら。
わたしは翻訳物で登場人物が多いものってとにかく頭が混乱してなかなか読み進められないのだけれど、今回はそんな混乱を乗り越えるだけのこの物語の牽引力に、ぐいぐいとラストまでひっぱられてしまった。何と言っても、誘拐された二人の少女、グウェンとサディーの造形が素晴らしい。とくにサディー! 10歳にしてホラー映画フリーク、自分の目をフォークで突き刺してみたり心臓に矢が刺さって死んだふりをしたりして周囲の人間を驚かせるのが趣味というこの少女の、なんというバイタリティー、そしてなんという愛らしさ。彼女をやさしく見守り慈しむ彼女の母親のなんという包容力。
ミステリとしてももちろんおもしろいのだけれど、読了後、ああ、これって一種のファンタジー?と思った。クリスマスに少女は還る。クリスマスの奇蹟の物語。
原題は「囮の子」というらしい。それはそれで納得のタイトルなのだけれど、この作品に関してはこの邦題がぴったりくる。いいタイトルだなー。
迷宮百年の睡魔(2005.12.19)
森博嗣 幻冬社NOVELS
『女王の百年密室』の続編にあたる。
サエバ・ミチルとパートナーのロボット・ロイディは、海辺の孤島がそのまま一つの町となっているイル・サン・ジャックを訪れる。100年ほど前に個人の所有となってからマスコミをほとんど完全にシャットアウトしているその町は、独特の世界を生きていた。町の宮殿モン・ロゼでミチルは以前ルナティック・シティで逢った女王デボウ・スホによく似た美しい女王・メグツシュカと逢い、また彼女の息子であるシャルル王と面会する。シャルル王はミチルの死んだ恋人・アキラを知っているようだった。そしてその夜、宮殿の砂で描いた曼陀羅の中で、僧侶長が首を切断されて死んでいるのが発見される…。
相変わらずの森博嗣ワールド。軽いSFミステリの中に、「なぜ人は生きるのか」「なぜ人を殺してはいけないのか」といったキーワードがちらほら。この辺りの問いはもうすっかり森博嗣作品の定番ですな。その考え方を理解はしても必ずしも完全に納得はできないわたしですが。
物語自体は読みやすくって結構おもしろかった♪
前作でミチルの秘密が語られるけれど、今回さらにまたひとつミチルの謎が! えー! しかもどうも次作に話をひっぱっているような感じ…。やっぱりこれってシリーズ化するのかしら?
首なし死体の謎はあまりにも非現実的というかSFで、本当はこれはミステリとは言えないかも。だって絶対そんな真相読者にはわからないわっ。まあ、もともとミステリとして読む本じゃない(そうなのか?)からノープロブレムですが…。
メグツシュカの独裁っぷりが後半になるにつれてものすごい。人権もなにもないんじゃ…。基本的に森作品に出てくる天才女性には普通の感覚は通用しないけれど。
今回、時期的に瀬名秀明『デカルトの密室』と読了時期が近かったんだけれど、その内容のオーバーラップぶりがちょっと感動的だったわ。考え方は二人の作者で全然違うんだけれど、テーマがかぶっているというか。ロボットは人間に危害を与えることができるか?というような点や、ひとりの人間の意識はひとつだけなのか?みたいなところが。
こういうまったく無関係の作品が偶然同時期に手元にきて、それらを同時期に読むことができるとなんだか無性にラッキーな気がして、ちょっと嬉しかった。
ネクロポリス(上・下)(2005.12.27)
恩田陸 朝日新聞社
かつてイギリスの植民地であり、日本からの移民も多く、イギリスと日本の文化が混在するV.ファー。そこにある「アナザーヒル」では毎年11月、1ヶ月間「ヒガン」と言われる行事が行われる。「ヒガン」の期間中、アナザーヒルには「お客さん」が訪れる。彼らはV.ファー出身の死者たちだ。
今年初めてヒガンに参加することになった日本人、ジュン。彼は遠い親戚であるハナ、マリコ、リンデ、シノダ教授らとともにアナザーヒル行きのボートに乗り込むが、今年のヒガンはいつもとなんだか違うと彼らは言う。その年V.ファーでは切り裂きジャックを彷彿とさせる連続殺人事件が起こり、その被害者たちもお客さんとしてやってくるかもしれないと言うのだ…。果たして殺人事件は解決できるのか…?
※※ えーと、ネタバレしないと話ができないので、以下ネタバレとします。また、かなり辛口感想になりますので未読の方&この作品がお気に入りの方はご注意くださいませ…。※※
広げに広げた大風呂敷。とにかく豊かなイメージのてんこ盛り。連続殺人に民俗学、双子の確執に時間軸の重なり。けれど、これだけの大きな風呂敷、まったく畳めていないと思うのはわたしだけ…??
まず、ブラックダイアリーの存在が全然生かされていない。何のためのダイアリー?
連続殺人の真相。結局ジミーは無理矢理テリーに唆されたのか? 二人の会話を読むかぎり全然そうは見えないんだけれど。だとすると二人が殺し合う必然性は?? さらにテリーが連続殺人を犯そうと思ったその動機は? 詩集までわざわざ用意して?
彼ら(もしくはテリー)はどうやって鳥居に過去の死体を持ってきて、ぶらさげたのか? 彼らに限って完全な融合前に自在に時間を往き来できたその理由は?
アスナとサマンサは違う時間軸にいたのになぜ自分の居場所に地下を指さしたのか?
教授の家の死体の山はいったい何だったのか?
ジュンが教授の家に帰る途中に聞いた「タスケテ」の声の主は?
サマンサ一人が暗いところに落ちたその状況は結局どういうもの?
黒夫人の封印をどうして影たちは執拗に破ろうとしたのか?
黒夫人が身を隠さなければいけなかった理由は何か?
お客さん同士が同じビルの別のフロアにいるような状態だ、とトーマス(黒夫人の夫)が語っていたにもかかわらず、被害者たちが一緒に晩餐できたのはなぜ?
アナザーヒル訪問前と明らかに変わってしまったことを自覚するジュンは東京の苑子とどう決着をつけるつもりなのか?
なぜ今年に至ってアナザーヒルが融合することになってしまったのか?(ミルクティーになってしまう必然性は? 時間が経つと自然にそうなる、というのは意味不明。)
融合するに際してなぜ突然海が出てくるのか?
なぜサマンサは「お客さん」であるかのようにジュンの前に現れ、アスナはホログラムのような形でしか現れることができないのか?
ジュンが目覚めるといきなりアスナたちのいる世界にたどり着けちゃうのはなぜか?(しかも危険を冒さなくてもあと少し待てば融合できたんじゃん!)
納得できない点を思いついたままにざっと挙げてもこれだけある。これじゃあ思いついたイメージをそのまま羅列しただけ…と思ってしまう読者はまだまだいそうな気がするわ。怖がらせるためだけに怖い場面を出し、不思議な感じを出すためだけに不思議な場面を出す、といった場当たり的な印象がどうしても否めない。初めての上下巻の大作がこれって、ちょっと酷すぎやしないかなあ…。
恩田陸は概してどんどん面白くなってくるのにラストで脱力、というパターンが多いけれど、これはそれにしてもあんまり。がっかり度かなり高し。
ものすご〜〜くおもしろい話になりそうなエピソードは山のようにあるのに。もったいないなあ…。