2006 shelf 4


著者名 タイトル 出版社
80 中山可穂 ケッヘル(上・下) 文藝春秋
79 山尾悠子 仮面物語 或は鏡の王国の記 徳間書店
78 山尾悠子 オットーと魔術師 集英社コバルト文庫
77 山尾悠子 夢の棲む街 ハヤカワ文庫JA
76 北村薫 紙魚家崩壊 講談社
75 ローリー・リン ドラモンド あなたに不利な証拠として ハヤカワポケットミステリ
74 平山瑞穂 忘れないと誓ったぼくがいた 新潮社
73 ジェフリー・ディーヴァー クリスマス・プレゼント 文春文庫
72 角田光代・他 Sweet Blue Age 角川書店
71 伊坂幸太郎 陽気なギャングの日常と襲撃 祥伝社NON NOVEL
70 伊井直行 青猫家族輾転録 新潮社
69 五條瑛 愛罪 双葉社
68 奥田英朗 町長選挙 文藝春秋
67 ジーン・ウルフ デス博士の島その他の物語 国書刊行会
66 絲山秋子 沖で待つ 文藝春秋
65 三羽省吾 厭世フレーバー 文藝春秋
64 伊坂幸太郎 終末のフール 集英社
63 矢作俊彦 悲劇週間 文藝春秋
62 クリストファー・プリースト 逆転世界 創元SF文庫
61 フィリップ・クローデル リンさんの小さな子 みすず書房



























    リンさんの小さな子(2006.5.11)
フィリップ・クローデル/高橋啓・訳   みすず書房


 故郷が戦場となり、家族を失って、息子夫婦の忘れ形見である生後数週間の赤ん坊を抱いて見知らぬ土地に赴くことになったリンさん。言葉も通じない国で、彼は妻を失いリンさんと同じように孤独を抱えたバルクさんに出逢い、二人は言葉を超えた友情を結ぶ。けれど運命はリンさんを思わぬ処へ運んでいく…。

 誰もが涙する感動作。

 いや、悪くはないんじゃないかと思う。

 でもわたしは全然ダメだった。
 なぜダメだったかというと、わたしは子どもを育てているから。

 最初にすごーーーーく違和感があって、それがどんどん大きくなって、ああ、やっぱりなあ、みたいな。
 その違和感のおかげでシンプルで素敵な文章も、哀しく美しいひとりの老人の人生も、言葉を超えたところで結ばれた友情も、「作られたお話」っぽく思えてしまった。仕掛けをあざとく感じてしまった。

 リンさんは結局子どもを愛していると思い込むことで辛い現実を生き延びようとしているのだ。ずっとずっと肌身離さず抱いてやり、歌を歌ってやることが愛情にはならないのに。
 生後間もない赤ちゃんを抱きしめながらいつまでも船の甲板に立って離れていく自分の祖国を見つめて郷愁に浸っている、そのそもそもの物語の始まりから、わたしはリンさんに共感することができなかった。そこにあるのはリンさんの哀しみだけで、赤ちゃんに対する思いやりは全くない。
 リンさんの思いを受けとめて全然泣かない静かな赤ちゃんに、わたしは「度量の広い子なのだ」と安心したり絶対にできない。

 でも多分、実はリンさんの方が赤ん坊に依存しているだけなのだということは、当然作品には織り込み済みのことであって、だからわたしかそんなことに違和感を感じるのは正しい読み方じゃないんだろうと思う。
 こんな見方をするのは小さい子どもを持った母親だけなんだろうなあ。
 いやいや、そう決めつけるのはよくないかもいれないけれど、でも少なくともわたしはそう思ってしまった。

 多分感動できる話だと思う。
 いいいいいい話なんだろな。

 反感を持った、とかそういうわけではなく、単にこれはわたしとこの作品との相性みたいなものかな。

 普通の人(?)には普通にオススメできる素敵な作品だとは思います。


   
    逆転世界(2006.5.18)
クリストファー・プリースト/安田均・訳   創元SF文庫


 つねに移動を続ける巨大都市の中で生まれ育ったヘルワードは、ついに成人となる650マイルの歳を迎えた。父と同じ未来測量ギルドの一員となることを希望した彼は、見習いギルド員として初めて都市の外に出る。空に浮かんでいたのは書物で識っていたのとは違う、歪な太陽だった。そして見習い経験を積んだ彼は、都市の進行方向とは反対の南に旅に出ることに。そこで彼が知ったのは、ギルド員以外には隠されていた世界の真実の姿だった…!

 読むのに5日くらいかかった…。 翻訳物はどうしてもサクサク読めない。
 しかし!

 いやー、さすがプリースト。 今回は『奇術師』『魔法』と違ってバリバリのSFだったんだけれど、最後はバババーっと鳥肌が浮かんだ。
 まさに逆転世界。
 逆転ですよ、逆転!(なんのこっちゃ)

 何を書いてもネタバレになりそうなのが辛いところなんだけれど、これを読むと自分の立ち位置に不安を感じてくる。客観的な世界なんて存在しないんだよねえ…。
 わたしの主観は、世界が歪んでいる分だけ歪んでいるんだと再認識。

 そして主人公の男の背中のなんと哀切の漂うことよ。
 ああ、女は強し、男は哀し。


悲劇週間(2006.5.24)
矢作俊彦   文藝春秋


 読んだっ。
 恋と詩と革命のロマンを!

 とりあえず、これだけの質・量の作品を「読んだ」という満足感で今はいっぱい(苦笑)。 一度目に図書館で借りたときは3分の1くらい読んだところで返却期限切れ。そして今回も貸出期間ぎりぎりまでかかってやっと読了。我ながら頑張った…(笑)。

 メキシコの政治状況と日本の幕末以降の歴史とがバシバシ出てくるので歴史音痴のわたしには難易度が高かった。また、どうしてこんなに読むのが大変だったか考えてみると堀口大學にイマイチ感情移入がし切れなかったからかな。なんというか、こんなに翻弄されているのにどこか他人事めいているというか、いかにも「詩人」なんだもん…。詩心のないわたしにはちょっと敷居の高い方だった。
 恋のお相手、フエセラも謎めきすぎだし…(笑)。

 けれどつまらなかった作品かと言われるとそうではなくて。それだけ頑張って読んだ苦労が報われる充実した作品ではあったと思う。

 それにしても、外交という仕事は大変だなあ。…って小学生か、わたしは(苦笑)。


    終末のフール(2006.5.25)
伊坂幸太郎   集英社


 相変わらず上手い。
 重いテーマを重すぎず軽すぎず、その匙加減が絶妙なのよね…。

 でもって、この作品のキモは、世界が「3年後」に終わる、というところだ。
 3ヶ月後、だとただのパニック小説。
 8年後に小惑星が衝突しますよ、と発表されて、それから早5年、さて残りはあと3年ですよー。というこの絶妙さ。

 パニックも8年は続けられませんて。
 こういう中だるみな状況に目をつけた作家さんって今までにいただろうか。(ま、そんな状況まずあり得なさそうだけど)

 ただちょっと、あまりにも完成されすぎているのが不満かな。
 少数派かもしれないけれど、わたしは最近の伊坂作品(※)では『魔王』(感想はこちら)が一番好きだ。あの、なんだかちょっと破綻しそうな不安定さが。そういう作品って伊坂作品では他にはない。やっぱり『魔王』が(伊坂作品の中では)異端なのかしら…。他の作品はだいたいうまーく、きれーいに、どこか前向きな気分になれるような、着地すべきところに着地する。

 ちょっと伊坂氏の描く「読み終わった後とてつもなく重苦しい、救われない気分になる作品」ってのが読んでみたいような(笑)。

 や、でも、これはこれで好きな作品の中に入るのだけれど(笑)。

(※ ただし伊坂幸太郎の既刊すべての中では『ラッシュライフ』がマイベスト!!)

(収録作:「終末のフール」、「太陽のシール」、「篭城のビール」、「冬眠のガール」、「鋼鉄のウール」、
      「天体のヨール」、「演劇のオール」、「深海のポール」)



    厭世フレーバー(2006.5.29)
三羽省吾   文藝春秋


 さわやか家族小説。

 突然父親が失踪し、あとに残された家族それぞれの生活を連作短篇風に描いているのだけれど、この父親が『サウス・バウンド』ばりのぶっ飛んだオヤジだということがだんだんわかってくるのが面白かった。

 14歳の次男、17歳の長女、27歳の長男、42歳の母親、そして73歳の祖父。ただひとつ屋根の下に住んでいるというだけでお互いがお互いを理解していない家族だけれど(しかも血の繋がりもかなり希薄)、それぞれがそれぞれのきっかけで前向きになり、やがてまとまっていく感じ。長女と長男の話がけっこう好きかなあ。

 読んでいて連想したのは村山由佳の『星々の舟』。や、全然違うといえば違うんだけど(笑)、家族がそれぞれの視点で語り、最後いつのまにか戦争の話になるあたり(笑)。でも『星々の舟』よりちゃんと一本筋が通っている気がする。

 あと、戦時中のところでしか接点はないんだけれど、昔国語の教科書に載っていた山川方夫の名作短篇「夏の葬列」も思い出した。1人の人間が空襲で死んでしまったことにより残された人間が感じる後ろめたさ。いや、厳密には違うんだけど連想ですから。夏の葬列、久しぶりに読み返してみたいなあ…。

 ただ、さわやかなのはいいけれどちょっと都合がよすぎるなあと思ったことも確か。こんなうまーく家族がまとまらないだろう、みたいな。どうして母親はいきなり長女の前で酔っぱらうのをやめようと思ったのか?もよくわからなかったし。爺ちゃんも呆けたうちに入らないくらいだし。

 でも愉しめました。
 次作に期待(笑)。


    沖で待つ(2006.5.29)
絲山秋子   文藝春秋


 第134回芥川賞受賞作。

 さくさくっと読了。『ニート』(感想はこちら)よりは全然いい!(笑)

 近頃の芥川賞受賞作にしてはいやに読みやすかった。同時収録の「勤労感謝の日」よりは表題作の「沖で待つ」の方が好き。これ、なんだかわたしが働いていた頃をすごーく思い出したわ…。本当に忙しい仕事で、同僚にどれだけ助けられたかわからない。仕事のためだったらそいつのために何だってしてやる、という気持、わたしにはとってもよくわかりますよ>絲山さん(笑)。

 しかしどうしてしゃっくりなのか。
 それが未だに釈然としない。しゃっくりをさせる意味はなんだったのー??
 歯医者で予約を入れたかどうか不安になりつつ待つ感じ、そういう中途半パな状態だからしゃっくりも出ちゃう、ということなのか…。いやいや、それは深読みのしすぎなのかしら?
 誰かぜひしゃっくりの意味を教えてください(笑)。

 うーん、でもどうだろう。
 あまりにサクサクっと読み切ってしまって、「絲山秋子、素晴らしい!!!最高!」という気分にはなれなかったというのが正直なところ。

 やっぱり評判のいい初期作品を読んでみるべきなんだろうな…。

(収録作:「沖で待つ」、「勤労感謝の日」)


    デス博士の島その他の物語(2006.6.5)
ジーン・ウルフ/浅倉久志、伊藤典夫、柳下毅一郎・訳   国書刊行会


 読了するまで5日間…というわけで、苦戦した。翻訳は基本的にサクサク読めないからなあ、わたし。でもでも、読み応えは充分!

 SFなんだけれど、幻想小説のような味わい。あー、やっぱりわたし、幻想小説って好きなんだなあ。『白い果実』も早いところ読みたいわ。

 けっこう難解で理解できたかどうか覚束ない作品もあったけれど、手元に置いておきたくなるような作品だった。でも国書刊行会なんだよねえ、くー(苦笑)。

 「アメリカの七夜」が個人的に好きかな。何が現実で何が幻覚なのか。どこまでが本当でどこまでが虚偽なのか。
 盲目の少年を主人公にしているためにまるで手探りのように物語が進む、ウルフ版「オズの魔法使い」とも言うべき「眼閃の奇蹟」も捨てがたい。

 読み返すたびに違う解釈ができそうでおもしろかった。
 難解の噂の高い『ケルベロス第五の首』も断然興味が湧いたわー!

(収録作:「デス博士の島その他の物語」、「アイランド博士の死」、「死の島の博士」、
      「アメリカの七夜」、「眼閃の奇蹟」)



   
    町長選挙(2006.6.6)
奥田英朗   文藝春秋


 ご存知、伊良部センセの最新作。何にも考えずに愉しませていただきました♪

 今回は患者がみんな、明らかに誰とわかる実在の人物をモデルにしているのでちょっと趣向が変わった感じ。しかしよく考えますな…。
 個人的には「オーナー」が楽しかった。アノ人大嫌いなんですが、これを読んだらちょっと好きになった(爆)。「カリスマ」はちょっと見習わなくちゃと思ったり(笑)。でも彼女、治癒してないと思うんですけど…?

 そして、何と言っても伊良部センセの本領発揮作は表題作の「町長選挙」。
 小さな島を二分しての4年に一度の”大戦争”である町長選挙。そこへ2年間の約束で赴任してきた都の公務員が、戦争に巻き込まれて右往左往の挙げ句に神経もボロボロに…。読んでいてむちゃくちゃだなあと思っていたのに、気づくとわたしまでこの島が好きになってきちゃうんだからあら不思議。こういうの書かせるとホントに奥田英朗はウマイなあと思う。『サウス・バウンド』(感想はこちら)にどことなく似ていると感じたわ。

 や、それにしても笑いつつサクサク読了。
 『デス博士…』の後に読んだのは大正解だったかも(笑)。

(収録作:「オーナー」、「アンポンマン」、「カリスマ」、「町長選挙」)


愛罪(2006.6.7)
五條瑛   双葉社


 革命シリーズ第5作。
 感想を書こうと思って「あれ?」と思ったら、シリーズ第4作『恋刃』を去年の5月に読んでいるのに感想を書いてなかった…。orz ま、まあいいか(をい)。

 気を取り直して、今回は超大手製薬会社長谷川製薬の跡継ぎをめぐる兄弟の争いの物語。この製薬会社を興した人物と、第3作『心洞』の主人公エナのおじいちゃんとはどうやら大物同士の黒い繋がりがあるらしい。その二人の関係の手がかりとなるのが、殺された警察官(名前なんだっけ…?)が残した2冊の本らしい。謎の美女ドゥルダは整形らしい。
 少しずつ、少しずつ、サーシャの企む「革命」の姿が見えはじめているみたい。

 相変わらず読みやすい。本を開くとあっという間に物語に入り込める。手に取るまですっかり過去の革命シリーズのストーリーを忘れていたのに(ダメじゃん)、読み出すと「そうだったそうだった」という感じですぐに懐かしの世界へ。

 けれど、どんどん壮大になる物語とは裏腹に、ちょっとこちらのテンションが落ちてきたかなあ。やっぱりこういうのは一気読みが面白い気がする。1年に1冊、じゃあどうしてもテンションが保ちきれないわ…。


    青猫家族輾転録(2006.6.9)
伊井直行   新潮社


 51歳になろうとする「僕」の”失われた10年間”。同僚の裏切りと死病、イジメに遭った娘の不良化と妊娠、若くして死んだ叔父の思い出。

 うーん、『本当の名前を捜しつづける彫刻の話』に痺れ、『濁った激流にかかる橋』に衝撃を受けたわたしにはちょっとパワーダウンな感じが…。なんだかきっちりピントが絞られていないような。積極的に嫌いな話ではないんだけれど、積極的に好きでもない。

 結構山あり谷ありに見受けられるわりには淡々とつづられている「僕」の人生の中にかなり濃ゆ〜い叔父のエピソードが挟まっていて、読み進めることにまったく苦痛はなかったのだけれど、どうしてか主人公である「僕」がいつまでたっても遠い存在、のような感じだった。娘の妊娠を受けて何の疑問も葛藤もなく夫婦ですんなりひとつの結論を出す、というエピソードが一番ちょっと理解できなかったわ…。「えっ、なんで?」みたいな。

 そもそも感情移入を積極的に求めるタイプの作品ではないんだろうけれど、拒絶されているわけでもないのに(例えば桐野夏生のミロシリーズなんかは積極的に拒絶を感じる)ツルッとこちらの介入をかわされるような。そもそも「僕」に、移入されるべき感情が希薄なような。

 うーん、ちょっと評価しづらいわ。


    陽気なギャングの日常と襲撃(2006.6.17)
伊坂幸太郎   祥伝社NON NOVEL


 成瀬は同僚と外出した帰り道で、以前役所に来たことのある老人がビルの屋上で人質になっている場面に遭遇する。
 響野は友人の藤井が同僚と飲んで泥酔した翌日、自室に覚えのない女の書き置きがあったという話を聞く。
  雪子は派遣先の会社の同僚女性から、芝居のチケットが送られてきたがその差出人が不明だ、と相談を受ける。
 久遠は夜の公園で通行人が暴漢に襲われているのを目撃し、とっさに逃走した男から財布をスりとる。

 4人がそれぞれの日常で遭遇した出来事は、やがてまったく無関係に思えた社長令嬢誘拐事件に繋がっていく…。果たして事件の結末は?

 タイトルから判るとおり、『陽気なギャングが地球を回す』の続編。考えてみれば、伊坂作品ってそのすべてがさりげにリンクしているくせに、続編が出るのって初めてなんだなあ。
 相も変わらぬとぼけた4人の活躍っぷりとおしゃれっぽい会話を楽しんでいるうちに、バラバラに思われぬピースが見事にひとつに繋がっていく手腕はやっぱりさすが。でも…。

 なんだか余力で書き上げたような気がするのはわたしだけ…?
 確かに楽しい、確かに読みやすい、確かにスマート。それはそうなんだけど。

 もっとスゴイ作品が書けるでしょう?ってつい思ってしまう。
 品質は確かにいいけれど、量産品っぽいイメージで、才能が非常にもったいないような気がしてしまった。

 大好きな作家さんだけに、なんとなく寂しい。


Sweet Blue Age(2006.6.24)
角田光代・他   角川書店


 なかなか素敵なアンソロジーだった。

 角田光代の短篇「あの八月の、」はぐわ〜〜〜〜っという感じできた。学生の頃ってほんとに密度が濃い。恥ずかしい。世界の中心で悩む自分に陶酔していたことに後になるまで気づかない。でも眩しくて懐かしい。

 坂木司と有川浩はやっぱりわたしには合わない作家さんなのかも…と思った。 『切れない糸』も『空の中』もダメだったからなあ。

 そして、森見んはやっぱり素晴らしい!!

 日向蓬という人は初めてだったけれど、なんというか、誰にでもあるようなノスタルジィをうまーく掬っていて好きだった。

 桜庭一樹もそういえば初めて。
 なんだけど、旭川が舞台なのに季節感がどうにも道民にはなじめずにそれがひっかかってちゃんと愉しめなかったかも。
 ”旭川は春の終わりにしては肌寒く、どこかさびしい五月を迎えたところだった”って旭川の5月といったらやっと春めいてくるところだと思うんだけどどうだろう。
4月でやっと春が近づいてきたなーという感じ。3月は冬だし。いや特に重要な描写というわけじゃないし、いいんだけど、すごく季節にこだわった描写が多いので。なんで旭川…?


(収録作:「あの八月の、」角田光代、 「クジラの彼」有川浩、 「涙の匂い」日向蓬、 
      「ニート・ニート・ニート」三羽省吾、 「ホテルジューシー」坂木司、
      「辻斬りのように」桜庭一樹、 「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦)


クリスマス・プレゼント(2006.7.6)
ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子 他・訳   文春文庫


 バラエティ豊かで質の高い短篇がぎっしり詰め込まれた短篇集。
 さすがディーヴァー、短い中にもやっぱりどんでん返しがきっちり仕込まれていたりして、後味の悪いモノからハートウォーミングなものまで読み応えのある作品が多かった。リンカーン・ライムものも入ってるのが読者サービス満点な感じ(といってもわたしは『魔術師』しか読んでませんがね…)。

 個人的には最初の「ジョナサンがいない」(これで世界に引きこまれたので)、そして「三角関係」、「釣り日和」が印象的。もちろんライムの活躍する「クリスマス・プレゼント」も堪能。でもライムシリーズはやっぱり長編の方がおもしろいかも(といってもわたしは以下略)。

 1篇1篇はちょこちょこっと読めちゃうので、普段あんまり本を読まない人でも、もちろん日常ガシガシ本を読んでいる人でも、どちらも十分満足を得られるんじゃないかしらん。そういう”万人向け”な意味でも「クリスマス・プレゼント」というタイトルにふさわしい気がする。


(収録作:「ジョナサンがいない」、「ウィークエンダー」、「サービス料として」、「ビューティフル」、「身代わり」、
      「見解」、「三角関係」、「この世はすべてひとつの舞台」、「釣り日和」、「ノクターン」、「被包含犯罪」、
      「宛名のないカード」、「クリスマス・プレゼント」、「超越した愛」、「パインクリークの未亡人」、
      「ひざまずく兵士」)


    忘れないと誓ったぼくがいた(2006.7.6)
平山瑞穂   新潮社


 「ぼく」の手元には数分間のみのビデオテープがある。そこに映っている彼女のことを、覚えている人間は今では誰もいない。けれど確かに彼女は存在し、「ぼく」は確かに彼女に恋をしていたんだ…。

 デビュー作『ラス・マンチャス通信』(感想はこちら)とはぜ〜んぜん違うど真ん中の恋愛モノ。しかしなんでファンタジーノベル大賞受賞作家が恋愛モノを…? 読んでいて市川拓司を連想するようなちょっと不思議設定の入ったラブストーリーだった。まあ、そういう意味ではファンタジーなんだろうか…。

 読んでいる間はそれなりに愉しめたんだけれど。

 けれど、なんで「消える」設定なんだろう。
 恋人が不治の病、というのとほとんど、いや全然変わらない。
 そこはヒネッたんだよね、ということなんだろうか。
 ヒネれてませんけど…。

 あんなに大好きだった彼女の記憶が消えていってしまう。それを必死にかき集め、つなぎ止め、記録しようとする少年。
 彼がそれをするのは彼女が完全に消え去っているわけじゃない状態なんだけれど、どんなに好きだった人でも時間が経てば記憶が風化され、時には美化され、演出されてしまうのは別にその人が消えてしまわなくても、誰にでも起こりうること。
 だからこそ感情移入も難しくないわけなんだけれど。

 でもこの設定にする意味がわからない…。もっともっと違う作品にできたんじゃないのかなあ。

 いっそタカシくんもフェードアウトする側になっちゃうとか(笑)。
 みんなで記憶の鎖を作って彼女をつなぎ止めるとか。
 フェードアウトする仕組みをしらべる科学者になってその現象の謎をつきとめるとか。

 もったいないというか何というか。

 でも読んでいて辛いなあと思った。
 お腹を痛めた自分の子どもを忘れてしまうとしたら。
 それって好きになった彼氏を忘れるより百億倍くらいキツいと思う。 ってまた母親目線だなあ、自分。orz

 あと個人的には時計屋のお爺さんに是非とも活躍して欲しかった(笑)。
 イワじいにも。

 次作ではラス・マンチャス路線に戻って欲しいなあ…。


    あなたに不利な証拠として(2006.7.17)
ローリー・リン ドラモンド/駒月雅子・訳   ハヤカワポケットミステリ


 10日かかって読了。読み進めるのに苦労した…。

 でもって、この本はミステリではありません。これをバリバリのミステリだと思って手に取る人、ものすごーーーく多いんじゃないんだろうか…(わたしもそのひとり)。

 警察機構で働いている女性5人にスポットライトを当てた短篇集なんだけれど、描かれているのは事件じゃなくて、女性たちの生き方なのだ。

 丹念に丹念に書き込まれている彼女たちの生き様に、思わずひきこまれる。一緒に緊張し、一緒に弛緩し、同じ記憶に悩まされ、一緒に怯え、一緒に解放される。だからものすごく読むのに体力と気力がいる。

 すごく疲れる読書だった(笑)。
 けれど、読んだ後の充実感は特別。苦労がしっかりと報われる、とても密度の濃い作品だ。

(収録作:キャサリン…「完全」、「味、感触、視覚、音、匂い」、「キャサリンへの挽歌」
      リズ…「告白」、「場所」   モナ…「制圧」、「銃の掃除」   キャシー…「傷痕」
      サラ…「生きている死者」、「わたしがいた場所」 )



    紙魚家崩壊(2006.7.22)
北村薫   講談社


 北村さん、最近失速してませんか…?
 と思ったら、これってずいぶん前に書かれた短篇を集めた短篇集だったのね。

 「紙魚家崩壊」、「死と密室」あたりはちょっと悪ノリしすぎ、というか、読者を置いてけぼりにして著者が楽しんで書きました、という印象。ううん、なんというか…。

 「白い朝」、「サイコロ、コロコロ」、「おにぎり、ぎりぎり」、この辺りは北村作品らしいかわいらしさ。ああ、北村薫の本を読んでいるなあ、みたいな。

 「新釈おとぎばなし」は個人的に読み応えがあって好き。こういう言葉に対する感性の鋭さが冴える作品は読んでいてこちらもいい意味で緊張する。

 ただ、ホラーっぽいものがきっとわたしと合わないんだなあ。「溶けていく」と「俺の席」はわたし的にはまったく合わなかった…。

 こうやって書いていても、見事にバラバラな印象だなあ…(苦笑)。

(収録作:「溶けていく」、「紙魚家崩壊」、「死と密室」、「白い朝」、「サイコロ、コロコロ」、「おにぎり、ぎりぎり」
      「蝶」、「俺の席」、「新釈おとぎばなし」 )



    夢の棲む街(2006.7.28)
山尾悠子   ハヤカワ文庫JA


 いや〜〜〜〜〜〜。 言葉が出ない。

 初めての山尾悠子作品。心から愉しませていただきました。
 難解といえばかなり難解で、きっちりとした筋があるようでいてなく、伏線も貼っているようで貼っているわけでなく、溢れるイメージを一冊の本に閉じこめたかのような、幻想的で、魅力的で、読者に媚びない短篇集。

 個人的には表題作の「夢の棲む街」と「遠近法」がやっぱり別格な感じがしたわ。
 しかししかし、「ムーンゲイト」も「シメールの領地」も「ファンタジア領」も捨てがたい…! 「月蝕」だけがちょこっと他の作品と雰囲気が違うかな。

 突き放したような、神の視点に徹した描きっぷりがなんとも。コアなファンが多い、といのも頷ける。

 冷たくて美しい、宝石のような一冊。

(収録作:「夢の棲む街」、「月蝕」、「ムーンゲイト」、「遠近法」、「シメールの領地」、「ファンタジア領」)


    オットーと魔術師(2006.8.1)
山尾悠子   集英社コバルト文庫


 山尾悠子2作目はナゼかコバルト・シリーズ。
 ぜんぜんジュブナイルって感じじゃないんですけど…。

 とってもまとまった、質の高い短篇集。でも確かに、コバルトなだけあって『夢の棲む街』とはかなり雰囲気が違い、そして読みやすいかも。どたばたチックな表題作「オットーと魔術師」、皮肉の効いた「チョコレート人形」、ショッキングな結末の「堕天使」、なんとなくノスタルジックな連作短篇「初夏ものがたり」とどれをとっても素晴らしい。個人的には初夏ものがたりかなあ…。

 2冊読んで思ったんだけれど、山尾悠子の作品はスルスル読めない。目があちこちでひっかかっちゃって、なかなかサクサクっと読めない。文章が解りづらいとも言えるかもしれないんだけれど、なんというか、一文の中に入っている情報量が多い感じ。だからストーリーでグイグイひっぱるタイプではけしてない。1文1文を味わうことを強要される読書。このあたりが読者を選ぶんでしょうか。

 でも個人的にはやっぱりかなり好き♪

(収録作:「オットーと魔術師」、「チョコレート人形」、「堕天使」、「初夏ものがたり」)


仮面物語 或は鏡の王国の記(2006.8.4)
山尾悠子   徳間書店


 その国を訪れた旅人・善助は彫刻師だった。すべての職業が世襲制であるその世界で、彫刻師とは葬儀の際に飾るために死人の姿そのままを写し取る仕事を意味していた。しかし善助の右手にしっかりと巻き付けられた包帯は、善助の別の姿を現していた。<影盗み>。見ればたちまち気が狂うと言われる、自分自身の”たましいの顔”を彫ると言われる男。それであればこそ、善助は鏡を見るとそれを見たとも気づかぬうちに失神する。

 その国の<帝王>加賀見は、一人娘の<館主>聖夜が<影盗み>に出会うことだけを恐れていた。一度死んだという噂のある館主。彼女の元には虎と自動人形が付き従う。

 議員の間久部は詩人を<二重館>に幽閉する。彼の娘はそれと知らずに影盗みである善助と知り合う。魔術師はすべてを予見している。

 そして盛大な葬儀の日、すべての人々はたましいの顔を盗まれることを恐れて鏡の仮面を身につける…。

 妖しくも美しい、鏡の国の物語。
 山尾悠子の現在までの唯一の長編作であるこの作品が絶版だなんて日本の損失だ!

 相変わらず難解で、文章は精読を強いられるけれど、それでも読者を引っ張り込んでやまないそのストーリーの魅力といったら。登場人物たちの魅力といったら。

 百聞は一見に如かず。
 とにかく手にとって、読んでみてほしい。

 ああ、言葉にできない自分がもどかしい。


        ケッヘル(上・下)(2006.8.8)
中山可穂   文藝春秋


 怒濤のような物語だった。

 中山嘉穂と言えば「濃ゆ〜〜〜〜〜〜〜〜い恋愛小説」というイメージなんだけれど、これは恋愛+エンタメで、ヨーロッパを股にかけた壮大なスケール。読んでいる間はすっかり引き込まれて、ダ・ヴィンチ・コードばりなジェットコースターミステリを愉しんだ。

 けど、ごめんなさい。
 あまりにもアラが目立つ。

 頑張りすぎたのかしら…?

 以下、内容に触れる部分は「」に入れて反転します。

ケントのあの潤沢な資金はどこからくるのか?(遠松家とは縁を切ったんだよね?)
 栗田氏のあの思わせぶりな遺書の意図は結局なんだったのか?(読者をミスリードするという目的以外考えられない)


 これが穴っぽいなあと思うんだけど、あと、あまりにも多くを詰め込みすぎて粗い感じ…。

アンナの入ってるところは結局どこなのか?
 なんで用務員のおじさんがフリーメイソンのエライ人なの?
 おじさんが青山に渡したものの中身は結局何?
 なんでいきなりヘロイン???
 鎌倉のアロイジアは雇われ探偵でもなんでもないのに、なんであんなに親切にいろいろ調査してくれるのか?(物語を進めるため、という役割しか見いだせない)


 なんというか、緻密じゃない。
 魅力的な物語であることは間違いないんだけど。

 読んでいる間はもうクラクラしまくりで、本を閉じてもちょっとの間ぼーっとしていたんだけれど、しばらくしてはっと気づくと「あれ?」みたいな(苦笑)。

 すごく胸が痛むようなシーン、美しいシーン、切ないシーン、もう宝石のような場面はものすごく多いと思う。ひとつひとつは完璧なパーツの数々。ただ、それをうまくきっちり繋げられてないような…。

 特に、伽椰とともに交互に語り手をつとめている鍵人が、ラストすっかり脇役になってしまっているのも尻つぼみな気が…。ここまで脇役になっちゃうなら、あの砂の器場面(笑)は半分でいいんじゃないのか。

 や、悪くないんですよ。
 というか、とってもいい作品だと思う。

 それだけに残念な気持が強いのかな…。