2006 shelf 5
著者名 タイトル 出版社 100 町田康 実録・外道の条件 メディアファクトリー 99 ダン・ローズ ティモレオン センチメンタル・ジャーニー アンドリューズ・クリエイティヴ 98 南條竹則 酒仙 新潮文庫 97 古川日出男 ボディ・アンド・ソウル 双葉社 96 飛浩隆 グラン・ヴァカンス 廃園の天使I 早川書房 95 佐藤哲也 熱帯 文藝春秋 94 筒井康隆 夢の木坂分岐点 新潮社 93 劇団ひとり 陰日向に咲く 幻冬舎 92 ジョアン・ハリス ブラックベリー・ワイン 角川書店 91 佐藤哲也 異国伝 河出書房新社 90 白石一文 もしも、私があなただったら 光文社 89 佐藤哲也 ぬかるんでから 文藝春秋 88 飛浩隆 象られた力 ハヤカワ文庫JA 87 佐藤哲也 沢蟹まけると意志の力 新潮社 86 三田村信行 おとうさんがいっぱい 理論社 85 粕谷知世 アマゾニア 中央公論新社 84 山尾悠子 ラピスラズリ 国書刊行会 83 大森望・豊崎由美 文学賞メッタ斬り!リターンズ パルコ出版 82 川上弘美 夜の公園 中央公論新社 81 小川洋子 ミーナの行進 中央公論新社
ミーナの行進(2006.8.14)
小川洋子 中央公論新社
これはよかった。
『博士の愛した数式』(感想はこちら)があまりにも完成されていて、こんなの書いてしまったらもう小川洋子は何も書けないんじゃないかと心配していたんだけど(大きなお世話)、そんな心配はまるで必要なかったことをこの本を読んで思い知った。
なんというか、現代のおとぎ話のよう(いや一昔前か)。
物語のような素敵な洋館で1年間、従妹とその家族と一緒に暮らすことになった朋子。
素敵な伯父様、物静かな伯母様、ドイツ人のお祖母様、ハンサムな従兄に美しい従妹。庭にはカバまでが住んでいる!
けれど、お金持ちの素敵な家族は、実は幸せじゃないんだよね。
朋子視点で描かれている物語だからはっきりとは書かれていないけれど、この家族に朋子は実はものすごくいろいろなものを与えているのだ。
でも、主題はそういうことじゃなくって、朋子がそこでいかに素敵な1年間を過ごしたかということで。
なんというか、うまく言えないけれど。
すごくすごく豊かな物語を、繊細に慎重に、あえてマッチ箱のような小さな箱に詰めてみました、とでもいうような物語。
この、物語のサイズがすごく重要なんじゃないかと思う。
どんな物語にもぴったりのサイズというものがあって、書き足りなければ中途半端になるし、書きすぎれば冗長になる。
甘ったるいけれど甘すぎず、ちょっと苦いけれど苦すぎず。
うーん、絶妙。
夜の公園(2006.8.28)
川上弘美 中央公論新社
夫への愛を感じることができないリリ。リリの夫を愛しつつ、他の男とも寝てしまう春名。春名との逢瀬とを重ねつつ、リリにも春名にも「申し訳ないな」と思うリリの夫、幸夫。リリの不倫相手となる暁。春名に惹かれる暁の弟、悟。
こんな人たち、現実にいそうな気がする。
こういう不倫劇が、実際に起こっていても全然おかしくない気がする。でもなあ…。
悪くないけど心が震えるほどよくもない、って感じかしら…。
なんていうか、いつも読むたびに感じる「川上弘美っぽさ」があんまりなかったような。なぜこれを「川上弘美」が書いたのか、その必然性がわからない、というような。
登場人物それぞれの心情はわかるし、最後そういうふうになるのか、というのも特に嫌悪感など感じるわけではない。
でもなんだかなー。
読んだ、という気のしなかった一冊。
すぐに内容を忘れてしまいそう…。
文学賞メッタ斬り!リターンズ(2006.9.5)
大森望・豊崎由美 パルコ出版
『文学賞メッタ斬り!』(感想はこちら)の続編にあたる本。前作はとにかく勉強になる上に抱腹絶倒で本好き必読の書とも言える作品だったので、読むのが非常に楽しみだった。
で。
今回も大変たのしく読ませていただきました。
インパクト、という点ではやっぱりファーストには劣るけれど、今回は島田氏という強力なゲストが! もうむしろ、今後はメッタ斬りトリオとしてやっていただきたいような(笑)。
だって豊崎・大森両氏にまったく劣らないメッタ斬りっぷりなんだもの〜。
後半の芥川・直木賞メッタ斬りはネットでリアルで読んでいたので読み流し。もっとオリジナル対談をたくさん読みたかったなー。でもああいうネット上の文章を本にまとめるのもそれはそれで意味のあることなんだろうな。
Z文学賞選考会も面白かったー。 これ、本屋大賞くらい大々的な賞になればいいのに! とりあえず、「コップとコッペパンとペン」はぜひ読みたい。
ラピスラズリ(2006.9.7)
山尾悠子 国書刊行会
長く、冷たく、孤独な冬を眠って過ごす人々の物語。どこまでも澄んでいて、どこまでも硬質で、どこまでも冷たくて、そして最後に光り溢れる春の予感が。それは死と再生の物語のようだ。
おもしろかった!とは言えない、正直なところ(笑)。 なぜならこれらの作品群は例に漏れず非常に難解…。
じゃあ、つまらなかったのか、というと、そんなことはまったくない!
やっぱり山尾悠子は美しい。
なんというか、端正。文章は判りづらいのに。
幻想小説なんだから当たり前、と言われるかもしれないけれど、とっても幻想的だった(笑)。硬質で、透明で、うーん、他にはない味わいの作品。
個人的に一番おもしろくて一番難解だった「竈の秋」は、『夢の棲む街』 と近い作品のような気がする。
文章に劣らず、本自体も非常に美しい。布張りで、パラフィンに包まれていて、おまけに函入り。贅沢な文章には贅沢な装丁が本当によく似合う。
あああああやっぱり『山尾悠子作品集成』を読みたいっ。
(収録作:「銅版」、「閑日」、「竈の秋」、「 トビアス」、「青金石」)
アマゾニア(2006.9.10)
粕谷知世 中央公論新社
2段組400ページ強となかなかの長編なのだけれど、とにかく力業でぐいぐい読ませる作品だった。なんというか、イマジネーションがスゴイ。16世紀のアマゾンが舞台なんてありえない(笑)。いわゆるアマゾネスの部隊長が主人公なんだけれど、この主人公とか、部族を守る精霊の少女とか、キャラ造形がけっこうラノベっぽい。骨太な設定にラノベキャラ、ってなんだか有川浩を連想してしまうんだけれど(苦笑)、こっちの方がもっともっと骨太だ。あ、『シャングリ・ラ』もそういえばそうだなあ。
アマゾンの奥地で女だけで暮らす泉の部族。女たちは年に一度、”陰の宴”を開いて他部族の男と交わり、精度の高い方法で女児を生み分ける。万一男児が生まれてもすぐに相手の男の部族に引き取ってもらえるから安心。森には悪霊やなんかが救っているけれど、泉の部族には部族を守る”森の娘”という精霊がいるから大丈夫。森の娘は部族の若い娘の体に宿り、数年に一度、その体を取り替える。
けれどある時スペインから招かれざる男たちがやってくる。彼らのひとりはかつて森の娘が人間の娘だった頃に結婚を誓った男の生まれ変わりだったものだから、森の娘はすっかり男に夢中になり、部族の掟を破って男たちを泉の部族に招き入れてしまう。
そうして微妙だったバランスが崩れ始める…。
…と、あらすじを書いていても面白そうな話だってことは伝わるんじゃないかと思うんだけれど。
けれどあえて苦言をいうなら、勢いに任せて、魅力的な設定に乗っかったまま一気に書いたようで、読んでいて判りづらい部分や荒っぽい部分が散見。主人公・赤弓が水底の森に行ってしまうあたりとか。しっかりものの副官・夕羽の性格にもブレがありすぎる気がする…。赤弓も隊長のわりにかなりせっかちで早とちりで情けない性格なのだけれど、まあこれはラノベ性格だからと考えることにしよう(笑)。
後半にかけてかなり壮大な話になっているけれど、うーん、もう少しきっちりとまとめてほしかったような。もう少し整理して、書き込むべきところは書き込んで、流すべきところは流したらもっともっと精度の高い素晴らしい傑作になったんじゃないかと思うんだけど。もったいない…。
おとうさんがいっぱい(2006.9.11)
三田村信行 理論社
こ、これ…
ある意味『神様ゲーム』以上に子供に読ませたらトラウマだと思う。理論社ですが。児童書ですが。
ホラーだよ…。グロくもイタくもないけれど。
最初の刊行は1975年。
全然古さは感じられない。
5つのまったく救いのない物語。
なんというか、子供の頃の本質的な不安をそのまんま描いている、というような。
そのかつて確かに自分が感じた不安を、無表情にそのまま突きつけられる気がするからこんなにゾッとするんだろう。まして今現在そんな不安を「根拠のない昔の不安」と決めつけられない子ども時代にこんな本を読んじゃったら…。
いやー、『神様ゲーム』はぴよぴこが読みたいなら止めない、と思ったのだけれど、これを手に取ったらちょっと動揺するわー。ものすごいトラウマになりそうで。でもやっぱりこういうのも読むべきな気もするけど。
表紙がトボけたかわいい感じなのがまたイケズ(苦笑)。
(収録作:「ゆめであいましょう」、「どこへもゆけない道」、「ぼくは5階で」、
「おとうさんがいっぱい」、「かべは知っていた 」)
沢蟹まけると意志の力(2006.9.16)
佐藤哲也 新潮社
読むのにものすご〜〜〜く時間がかかってしまったけれど堅牢強固な意志の力によって読了。
”カニジンジャー沢蟹まけるは改造人間である。彼を改造したマングローブは世界征服を狙う秘密結社である。沢蟹まけるは人間の自由のためにマングローブと戦うのだ。”
まあ、そういう話っちゃそういう話なんだけど、とにかく脱線しまくりで話が進まないったらありゃしない。『イラハイ』も進まないけれどイラハイよりさらに話が進まない。
じゃあ何をそんなに脱線してるのかというと、それは「堅牢強固な意志の力」について語りまくっているのだ。
あるときは宇宙人が、あるときはハードボイルドな主人公が、あるときは大地震の被害者が、あるときは19世紀初頭の英国海軍戦列艦艦長が、堅牢強固な意志を示す。示しまくる。
「これで仕舞いってことがあるかい」と老婆が叫ぶ。
ああ、佐藤哲也にはやられっぱなし。
ものすごくクセがあるので、合わない人にはとことん合わないんじゃないかと思う。けれど、うっかり気に入ってしまうと抜けられない…。
ただし、あまりにも文章が濃いので、続けて何作もはとても読めないわ(笑)。
象られた力(2006.9.20)
飛浩隆 ハヤカワ文庫JA
や、これはいい! めっちゃ好み!!
最初の「デュオ」でガツンとやられ、最後は「象られた力」でカタストロフィーを味わう。とってもゴージャスな味わい。雰囲気は翻訳SFっぽい感じ。でもこの言語感覚はやっぱり日本人作家ならではかしら…。それぞれまったく雰囲気の違う、けれどそれぞれが完成度のものすごく高い、粒ぞろいの作品集。
奇妙な双子のピアニストの数奇な人生を描いた「デュオ」、なぜ追われているかの原因となる記憶が抜け落ちたまま逃げ続けるうち所属する世界の片隅に迷い込み、不思議な老人と出会う「呪界のほとり」、惑星開発の歪みにより夏至の夜に何度でも生まれる少女…幻想的で美しい「夜と泥の」、そして、ある日突然滅んだ惑星の「図形」が持つ力を描く「象られた力」。
「デュオ」を除いてはバリバリのSFなんだけれど、でもこの贅沢な作品集はSFファンだけに読ませるのはもったいない(笑)。けしてとっつきの悪い作品ではないので(それどころか思い切り引きこまれること請け合い)、いろんな人にぜひぜひ読んでもらいたい。
きっとシビれます。
(収録作:「デュオ」、「呪界のほとり」、「夜と泥の」、「象られた力」)
ぬかるんでから(2006.9.22)
佐藤哲也 文藝春秋
しびれた!!!!!
佐藤哲也初の短篇集なんだけれど、もう、最初の「ぬかるんでから」でしびれた。それからず〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと13篇しびれまくり。
ああ、神様、佐藤哲也を読ませてくれてありがとう。
どれをとっても、不条理というか、シュールというか、なんとも言えない独特の佐藤ワールド。その世界を描く文章がまたクール。短篇集なので『イラハイ』や『沢蟹まけると意志の力』みたいな文章のくどさはない。そういう意味では佐藤哲也が苦手な人にも手に取りやすいのでは…。
ああ、言葉にならない。
どうやって感想を書けばいいの〜??
とりあえず、ダメな人は思いっきりダメかもしれない。
よかった、佐藤作品に選ばれる人間で。
(収録作:「ぬかるんでから」、「春の訪れ」、「とかげまいり」、「記念樹」、「無聊の猿」、「やもりのかば」、「巨人」、
「墓地中の道」、「きりぎりす」、「おしとんぼ」、「祖父帰る」、「つぼ」、「夏の軍隊」)
もしも、私があなただったら(2006.9.23)
白石一文 光文社
なぜか読んでしまう白石一文。今まで読んだ作品で合うと思ったことは一度もないのに!!(笑)
会社を辞め、郷里の九州に戻って実家の跡地で流行らないバーを営む男のもとに、かつての同僚の妻が尋ねてくる。彼女の驚くべき申し出をはねつけた男だったが、やがて彼女に惹かれていく。しかし思いがけない彼女の一面を知った男は…。
今回は、今までの中では一番個人的に読みやすかった。今までは主人公がどうしても受け容れられなかったのだけれど、今回何が違ったかと言えば、主人公が今までの中で一番ヘタレ(笑)。鼻持ちならなさみたいなものがかなり薄くなったと思う。これはもしかしたら、次回作くらいではちょっと好きになっちゃうかも!?なんて淡い期待をしちゃったりして(苦笑)。
けれど今までよりは受け容れやすいとはいえ、この作品は結局、白石版『失楽園』といったイメージが。いい年のバツイチのオジサンと人妻のオバサンが温泉でえっちする話ですよ(ちょっと違う)?!
主人公二人が個人的に理解できないと言うか、感情移入全然できないキャラクターなので淡々と読んで淡々と終わってしまった。でも今までは読んでるうちに怒りが沸々と湧き上がって全然冷静に読めなかったので、これは多分、(わたしにとって)進歩(笑)。
異国伝(2006.9.25)
佐藤哲也 河出書房新社
どこまでもどこまでも続くナンセンスな掌篇集。
「あ」から始まり「ん」で終わる、45篇の「あまりにも小さいので地図に載ったことがなかったし、旅行者向けの案内書にも載ったことがない」国々のお話。
普通思いつかないだろ!というような独特の風習や考え方、暮らし方をイソップ物語のように寓話を含んでいるんじゃないかと思わせる口調で、ただただ淡々と書き連ねている。
「ん」で終わるのはわかっていても、読んでいるうちに一生読み終わらないんじゃないか…という気分になってくるのは、どこまでもどこまでも一本調子で次々と物語が湧いてくるからだ。
小さな国々は簡単に滅び、蹂躙され、ある国はしぶとく生き続け、別の国はその国の物語が始まらないうちに話が終わってしまう。とても無機質な物語群の中で「冷気の感触」だけが異質の暖かいお話だったなあ。
いろいろと元ネタのありそうな話も。そのすべてがわからなかったのはわたしの無知のせい…。orz
それにしても、「帝国の逆襲」は笑った(笑)。これってアリなの〜!?
ブラックベリー・ワイン(2006.9.29)
ジョアン・ハリス/那波かおり 角川書店
よかった!
前半なかなかのれなくて、だらだら3日も読んでいたのだけれど、もう後半は一気読み。
15年前に傑作「ジャックアップル・ジョー」を発表して一気に文学界のスターダムに上り詰めた男が、その後は泣かずとばずで別名義で書いているジャンクSF(?)で糊口を凌いでいるのだけれど、少年時代の思い出を彷彿とさせるフランスの田舎の荒れた邸と土地を衝動買い。そこでの余所者としての生活と、少年時代の思い出がサンドイッチ形式で語られる。
『少年時代(上・下)』のようなノスタルジーでゆるゆるゆるゆるとなだらかな坂道を上っていた、と思ったら後半いきなりそれがジェットコースター張りの急降下。うおおお、そうくるか!みたいな。
最初読み出したときの印象と、こうなるんだろうな的な落としどころ予想は見事に外されたわ〜。
うーん、いい意味でやられた。
それにしても、これって『ショコラ』の続編(?)だったのか…。勘違いして、こちらを先に読んじゃった…(泣)。まあ、どちらを先に読んでも問題はないみたいだけれど。
『ショコラ』もなるべく早いとこ読まなくちゃ〜〜。
陰日向に咲く(2006.10.1)
劇団ひとり 幻冬舎
出たときはタレント本かよーと思って気にもとめていなかったんだけど、世間であまりにも評判がいいので、そんなにいいのなら…と予約したのはいつだったか。
やっと回ってまいりました。
うーん。期待しすぎたわたしが悪いのか。
普通…。
いや、うまいと思う。
短篇が全部さりげにリンクされていて、それって多分最近の流行なんだけど、そのテクニックはかなりだと思う。思わずにやりとしちゃうし。
底辺の人々(って言い方もどうかとは思いますが)を暖かい視線で描きました、という感じも受けると思う。さりげに叙述トリックまでも!
そういう意味では、劇団ひとり、恐るべし。
でもなんというか、そのほろり加減が、上っ面な印象…。
きれいにきれいにまとまっている。デビュー作とは思えないほどに。
あとちょっと日本語がところどころわたしはひっかかったかな。その辺はたくさん書いたら気にならなくなるかも、というレベル。
ってなんか書いててずいぶんエラそうだなー(苦笑)。
あ、山本幸久『はなうた日和』もわたしは普通だったのだけれど、それは好みの問題だと思うので、もしかしたら、そういうのが好きな人はこれも好きかもしれない。
わたしの好みの問題で、わたしにとっては「普通」だったけれど、ちゃんと「小説」として話し合うことができるレベルだったのは確かかな。
あ、なんかホントにエラそう。ごめんなさい(誰にともなく)。
(収録作:「道草」、「 拝啓、僕のアイドル様」、「Over*run」、「鳴き砂を歩く犬」)
夢の木坂分岐点(2006.10.3)
筒井康隆 新潮社
この本を読了したとき、前日から38度台の発熱が続いていた。もう頭はクラクラするは節々は痛いは、この年でこの熱の高さはキッツー。
でもって、そんな中で読んだのが(をい)この作品。クラクラな頭で読むにはハマりすぎて怖かった(笑)。
毎朝、悪夢にうなされながらもその夢から覚める以上に会社に行きたくないと思いつつ出社するサラリーマンの小畑重則。彼は自宅を出て電車に乗り、夢の木坂で都心への電車へ乗り換える。次の日の悪夢から目覚めた重昭は…と読んでいて「あれ?」と思う。なんか主人公の名前違ってない? 誤植? 少しずつ変わっていく名前とともに彼を取り巻く環境も、彼の人生そのものも、少しずつずれていく。都心から夢の木坂分岐点で右へ乗り換える人生、左へ乗り換える人生、乗り換えなしで真っ直ぐ進む人生、そしてホームもない路面電車へ乗り換える人生…。
『アラビアン・ナイトメア』みたいな小説がちゃんと日本にあったんだなあ、と感動。読んでいるうちにどんどん軌道がずれていき、気がつくと自分の立ち位置もわからなくなってゆく。目眩のするようなこの感覚。不条理小説のような、幻想小説のような、この独特の読後感。ああ、やっぱり若いときに、避けないでちゃんと読んでおくんだった<筒井作品。小学生の時にうっかり読んでしまって以来トラウマがあったのよね…。
この作品は絶対に翻訳できない気がする。こんな作品を日本語で読める幸せ。
熱帯(2006.10.6)
佐藤哲也 文藝春秋
緊張の夏。日本の夏。を描いているんだけど、やたら弛緩した作品だ(笑)。
ある日突然一方的に大型プロジェクトに関わる契約を破棄された栗栖洋一の悲嘆を哀れに思った神々は、彼の恨みを込めた願いを聞き入れて東京を熱気と湿気の中に陥れた。東京はこうして熱帯となった。
すべての不明事象を処理するという使命を負った不明省の職員・多々見不運は、そんな熱帯の東京の中で異動通知により「中央統制局保管五課」の配属となる。不毛の湾岸地帯に位置する立ち入り制限区域・「不明島」の倉庫内にある保管五課では、厳重な警護の元で”事象の地平”を管理していた。
事象の地平を巡り、正体不明の伝統の技で日本の夏を快適にしようと目論む大日本快適党が、快適党の動きを監視するCIA東京支局が、元KGB工作員が、そして水棲人が暗躍する。
果たして事象の地平は守られるのか。日本の夏はどうなるのか?
どうやら「イリアス」をパロディ化しているらしいのだけれど、お、イリアスだな、とクスリとできる人って世の中にどれくらいいるんだろうか。少なくともわたしは未読。スミマセン。恥。
ストーリー的にまったく重要性のないことを執拗に細かく細かく描いていて、その部分がまたすこぶる面白いから始末に負えない。気がついたら何の話だったかわからなくなっちゃうじゃないかー!(笑)
個人的には昔システムの開発にちょこっと関係した仕事をしていたことがあるので、システム開発のドタバタ部分はかなり自分の経験に引き寄せて笑ってしまった。どう考えても設計ミスを「仕様です」とか(爆)。どこも同じなのか、システム開発って(笑)。
ストーリー的に重要じゃない多々羅群島の物語。
ストーリー的に重要じゃないプラトン・ファイト。
ストーリー的に重要じゃない不明省のシステム開発。
面白いパーツが目白押し。
あと水棲人、かわいすぎ。
ただ、主要なストーリー部分は今までの佐藤作品の中では一番読みやすかった。まるで普通の小説みたいに。それがなんとなくもの足りない、「”佐藤哲也”が足りない」とか思っちゃったわたしはちょっと何かをどこかで間違ってしまったんだろうか…。
グラン・ヴァカンス 廃園の天使I(2006.10.7)
飛浩隆 ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
1000年の間放置されていた仮想リゾート「数値海岸(コスタ・デル・ヌメロ)」では、AIたちがゲストの来ない夏の1日を飽きることなく繰り返していた。ある日、正体のわからない「蜘蛛」の攻撃を受けるまでは…。
「蜘蛛」の攻撃により町は一瞬で多大なダメージを受ける。残されたわずかなAIたちはなんとか蜘蛛に反撃すべく東海岸のホテルに集結し、一策を講じるが…。
『象られた力』よりもかなりエンタメ度高し。300ページを超えるボリュームなんだけれど、一気読みだった。
かなり痛い、という話も聞いていたんだけれど、わたし的には許容範囲。というか、確かに残酷なんだけれど仮想空間だと思うとそんなに痛くならないわたしってもしかして残酷な人間なのかしら(笑)。
連想したのは映画「マトリックス」。
仮想空間で、設定された制限の中で、それでも確かに生きているAIたちは健気で哀しい。リゾートの外から来た謎の少年ランゴーニの正体、12歳の少年AIジュールや彼の4歳年上の従姉ジュディの秘められた本当の役割、町の人々に頼られるジョゼがランゴーニに見せられたクジラのような飛行物の正体、そして彼が封印した記憶、放置される1000年以前に数値海岸が造られた本当の目的…次々に謎が提示され、解けた謎が次の謎を呼び、読者を引っ張る牽引力の強さはスゴイ。
ただ、物語の最重要人物3人のうち、わたしにはジョゼの魅力がイマイチ伝わらなかった…。むしろアンヌの方がよほど魅力的(後半のアンヌの哀しみには泣けた)。確かに役割としては重要なんだろうけれど、物語としては彼はどうしても脇役にしか見えない。なぜジュディがそれほどジョゼに惹かれるのか、そこが共感できないのが最後までひっかかった。逆に、主人公ジュールの方は「役割」の重要性がイマイチわからなかったなあ。
ということで、個人的には『象られた力』の方がずっと好き。こちらは、読んでいる間は愉しめたけれど…という感じかなあ。
3部作の第1部、ということで、これだけですべてを判断することはできないんだけれど、まさかマトリックス3部作みたいなことにはならないよね…(笑)。
ボディ・アンド・ソウル(2006.10.9)
古川日出男 双葉社
なんじゃこりゃー(笑)。
古川日出男をまだ読んだことのない人は、けしてこの作品から入るべきじゃないことだけは言っておきたい。
限りなく著者本人に近い作家・古川日出男が主人公の妄想ダダ漏れ饒舌文学。ところどころに胸に刺さりそうな悲哀がプラス。エッセイ…?と思いたくなっちゃうところなんだけれど、これはやっぱり純然たるフィクションなんだろうなあ。たとえどのくらいかの割合で事実が入っているにしても。多分。古川日出男のことだから。
や、本当に引き出しが多い作家さんだなあ。シビれちゃうよ…。
わたしも感じてみたい。低音世界を。
リローデッドリローデッド。
読んでいるうちに脳が壊れてきた気がする(笑)。
酒仙(2006.10.10)
南條竹則 新潮文庫
代々の放蕩の末に身上を潰し、大好きな酒を浴槽に満たして溺死しようとする暮葉左近は、すんでのところで仙人によって救われる。彼の額には酒星のしるしがあったのだ。しるしのあった者はいずれその使命を果たすときがくる。左近の酒呑み修行は続くが、やがて邪悪な魔酒を世に広めようとする三島業造を知る。果たして彼は三島との対決に勝つことができるのか…?
おもしろい。
おもしろいよこれ!
なんで日本ファンタジーノベル大賞の大賞じゃなくって優秀賞なわけ!? と思ったら、この回の大賞は『イラハイ』だったのでした。まあ、それじゃ仕方ないか(笑)。
いやでも、普通は『イラハイ』よりこっちでしょう。こっちの方がよっぽど万人受けしそう。少なくとも左党は絶対にこの本を推すんじゃないか(笑)。さすが、一筋縄ではいかないファンタジーノベル大賞。やっぱり好きだ(笑)。
もう、読んでる間中、幸せで幸せで。
くー、うまいお酒が飲みたいなあ。でもって、うまい肴が食べたいよー。出てくるお酒も食べ物も、ほんっっとうにおいしそう。ああ、生まれて初めて、本を読んでお金持ちをうらやましいと思った(笑)。
すごくバックグラウンドが豊かな人だなあと思う。
古今東西のいろんな知識をしっかりと吸収して、自分のものにして、それをひけらかすのではなく必然の知識として開陳できる人。バカバカしいといえばバカバカしい話なのにそこはかとなく全編に溢れる知的な雰囲気。
あー、酔っぱらっちゃったなあ。
ティモレオン センチメンタル・ジャーニー(2006.10.11)
ダン・ローズ/金原瑞人・訳 アンドリューズ・クリエイティヴ
読む前にあまりにもいろいろな噂を耳にして、(曰く「犬好きは読まない方がいい」、「後味最悪」、「読んで吐いた」、「残酷…」)いったいどんなグロい話なんだ!?とずっと読むのを躊躇していたのだけれど、ここにきてなんとなくダン・ローズはもう外せないんじゃないか、でもって、どうせ読むならやっぱり『ティモレオン』から行くべきじゃないのか、と自分を鼓舞して臨んだのだけれど(なぜそこまでして”外せない”と思ったのか理由は自分でもわからない/笑)。
犬の中で最高の種、雑種犬であるティモレオン・ヴィエッタは、かつて名声を博し、今は不遇を託つ音楽家・コウクロフトの元で溺愛されて生活していた。ボスニア人の青年がコウクロフトを訪れるまでは。
ボスニア人のために家から遠く離れたローマに捨てられたティモレオンは、ひたすらに家路を辿る。様々な人たちと偶然の出逢いを繰り返しながら。
……。
え?
そんなに残酷だとも思わなかったわたしはオトナになったんでしょうか。はたまた耐性がだいぶついてきてるんでしょうか。
確かに幸せな物語ではないけれど。
その「残酷さ」は、なんというか、エンタメ精神の発露としての残酷さ、というのではなくって(そういうのは多分今もダメだと思う)、人生ってこういう残酷なとこ、あるよね。というような感じの残酷さ。
残酷な人生だけれど、その人生を生きている人たちは普通の、暖かい、愛情溢れる人たちだったりするのだ。
そう、人生は残酷だ。
疲れ果て、ボロボロになった旅路の果てに、幸せが待っているとは限らない。
でも人生を愛さずにはいられない。
わたしはこの残酷な物語の作者に酷薄さを全然感じない。
うん、読まず嫌いしないで、ちゃんと読んで、よかった。
や、ティモレオンのことを思うと…ちょっと泣けますけど! うわーん!
実録・外道の条件(2006.10.12)
町田康 メディアファクトリー
わはは。
エンタメだなー。
底辺エンターテイナー、マーチダ・コーが遭遇する外道な人々。ダ・ヴィンチ連載作品だからなのか、今まで読んできた町田作品とはちょっと毛色が違う感じ。これを読むと、今までの町田作品はホントに純文学だなあ、と思う。
次から次から登場する、こんな外道いないだろ!と思うような外道な人たち、結構いそうな気がする。特にボランティア雑誌の編集とのやりとりがすごかった。ああ、こういうボランティアの罠に嵌った人たち、いるよなあ。
そしてその胡散臭さ、インチキ臭さをちゃんと論理的に説明できる(文章は論理的と言うのは憚られるんだけど…)町田康ってやっぱり頭がいいんだなあ、と改めて。
かなり万人向け。誰が読んでも愉しめる。
町田康入門編としてはすごくいい感じじゃないかしら。あ、でもこれを読んで「町田康ってこういう作品を書く人なんだ」と思ったら、それは全然間違いな気がするけれど(笑)。