2006 shelf 6
著者名 タイトル 出版社 120 伊岡瞬 145gの孤独 角川書店 119 野村美月 ”文学少女”と飢え渇く幽霊 ファミ通文庫 118 西條奈加 芥子の花 金春屋ゴメス 新潮社 117 オーエン・コルファー アルテミス・ファウル 永遠の暗号 角川書店 116 ジョディ・ピコー わたしのなかのあなた 早川書房 115 和田誠 倫敦巴里 話の特集 114 カズオ・イシグロ 日の名残り 早川書房 113 J・K・ローリング ハリー・ポッターと謎のプリンス 静山社 112 古川日出男 二〇〇二年のスロウ・ボート 文春文庫 111 堀江敏幸 いつか王子駅で 新潮文庫 110 津原泰水 ブラバン バジリコ 109 姫野カオルコ コルセット 新潮社 108 皆川博子 死の泉 早川書房 107 佐藤亜紀 小説のストラテジー 青土社 106 野村美月 ”文学少女”と死にたがりの道化 ファミ通文庫 105 筒井康隆 宇宙衛生博覧會 新潮文庫 104 朝倉かすみ 肝、焼ける 講談社 103 打海文三 愚者と愚者(上・下) 角川書店 102 ジョアン・ハリス ショコラ 角川文庫 101 古川日出男 ロックンロール七部作 集英社
ロックンロール七部作(2006.10.16)
古川日出男 集英社
これはベルカの直系だなあ、という気がする。
主人公は、一人の人間じゃない。ロックンロールだ。
20世紀の折り返し地点で名付けられたロックンロールが、7つの大陸を駆けめぐる。アフリカ大陸を、北米大陸を、ユーラシア大陸を、オーストラリア大陸を、インド亜大陸を、南米大陸を、南極大陸を、つまり、地球を。それぞれの場所で姿を変え、音を変え、染みこんでゆく。
普通の「あるところにこういう人がいて、こういうできごとがあって、それに対してこの人はこういう風に対応して、こういう風に考えて、結局こんなことを決意したのでした。」という物語に慣れているとかなり読むのが辛いかもしれない。
古川免疫が必要。 たまにアナフィラキシーショックを受ける人がいるかもしれないけれど、責任は取れません(笑)。
1部1部が独立して読みやすいので、ベルカよりも個人的には読みやすかった。圧倒的な力、という面ではベルカの方が感じたけれど。
今生きている21世紀を、わたしは永遠に語り得ないんだなあ、と変なことを考えた(笑)。
ショコラ(2006.10.18)
ジョアン・ハリス/那波かおり・訳 角川文庫
前に読んだ『ブラックベリー・ワイン』(感想はこちら)と時間は遡るものの同じ村が舞台の物語。
噂はいろいろ聞いていたのだけれど、思ってたのと全然違う話でびっくり。
もっともっと、幸せな、ほっこりするような、『酒仙』のチョコレート版(なんじゃそりゃ)みたいな、そんなストーリーを想像していたので。
確かに全編チョコレートの香りに包まれていて、くらくらっとするんだけれど(笑)、
不穏だ。
ず〜〜〜〜〜〜〜っと不穏な話だった。
わたしだけがそう思っているのかしら?
小さな村の教会の、暗い過去を背負った虚栄心の塊のような神父と、その教会の真ん前にチョコレートのお店を開いて(しかも食事を節制しなくてはならない期間に入る初っ端に!)村の人たちをどんどん惹きつけてしまう不思議な母娘の、水面下の丁々発止の戦いを描いた物語(違う?/笑) 。
このストーリーからあのDVDの幸せなそうなカップル写真は全然思い浮かばない…(笑)。
個人的には、誰よりもルノー神父が哀れだった。カワイソ過ぎ…。同情で泣きそうだ(笑)。
あと、主人公ヴィアンヌのお母さんが持っていた新聞記事のスクラップのシーンでゾッとした。
これを読んで幸せな気持になれるのか…普通は…。orz
あ、アルマンドお婆さんはとってもチャーミングで素敵だったなあ。あと、しなやかに強くなるジョセフィーヌも。彼女はその後に続く『ブラックベリー・ワイン』にも出てくるのだけれど、そうか、彼女はそういう過去があったのねー。
うーん、映画は全然違うんだろうな、ということはわかった。とりあえず、近いうちにDVDを借りてこなくっちゃ!
愚者と愚者(上・下)(2006.10.20)
打海文三 角川書店
一気読み。
それにしてもなんなんだろうこの装丁。前作(感想はこちら)もどうかと思ったけどこれもどうかと思う。もっと普通の装丁にすればいいのに…これじゃあ今はやり(?)のラノベの単行本版かと思っちゃうし、タイトルで「ん? 裸者と裸者と関係が…?」と思ってもあまりの装丁の違いに違う本だと思うんじゃ。わたしだったら絶対手を出さない装丁(笑)。
前回はわけもわからず孤児になって戦争に巻き込まれて自分の手を汚さなくては生きていけない少年少女がそれでもしたたかに生きていく…という疾走感と悲壮感と爽快感がうまい具合にミックスされた内容だったけれど、今回は裸者裸者直後から話が始まっているとはいえ、カイトも椿子もオトナになりました。
テーマはジェンダーかな。
ゲイにビアンにトランスジェンダー。女の子になってビアンになりたい男の子や、男の子になってゲイになりたい女の子。それにしてもなんかやっぱり男子の方が、いろいろと観念に縛られてて生きていくのがつらそうだ。女子はその点軽やかですよ。出たとこ勝負!
内戦の収まらない国内状況がどんどん複雑になって、あっちこっちで勢力が分裂したり新たに生まれたり対立したり同盟を結んだり、話を追うのが大変だった(苦笑)。同じ勢力なのに正式名称と通称を別にするな〜!
登場人物もじゃんじゃか増えるし。
でもすいすい読めちゃう。勢いがあるのよね。
ラスト近くはかなり哀切なところもあるのだけれど、基本的には前作よりもエンタメ!という感じで気楽に愉しめました。
そして、やっぱり物語は終わらないのだった(笑)。
肝、焼ける(2006.10.21)
朝倉かすみ 講談社
うわあ…
なんていうか、こりゃイタイ。
痛いというか、イタイというか、これってものすご〜〜〜〜くありがちなんだけれど、共感したい自分と共感したくない自分がせめぎ合い。せめぎ合ってる時点で共感してるのか。でも共感したら負けだ(爆)。
どちらかというと冴えない、もてない30過ぎの女の子(女の子だなあ)ばっかりを主人公にした短篇集。あ、「春期カタル」だけは違うかなあ。「一入」もちょっと違うか。
とにかく、女の、女による、女のための小説、という感じ。20代でもダメかも。30代以降限定(笑)。読むと結構身悶えすると思います、女は。「ぐひ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」という感じで(笑)。
江國香織やよしもとばななではなく、角田光代や姫野カオルコ。平安寿子も? や、あんまりどの方もちゃんと読んでないから断定はできないんだけれど…。だから的はずれだったらスミマセン。
道民だけれど、肝焼ける、というのは知らなかったなあ。ジリが霧雨より細かい雨、というのもわたしの知ってるジリとは解釈が違うわ(笑)。わたしはジリって粒の大きな霧、と考えていたんだけど。や、どうでもいいか(爆)。道民(しかも道北や道東)にしかわからない話だわ。
どれもこれも北海道の話、というのもわたしには身近だった。こういう地方モノ、って、自分の知ってるところが舞台だとなんで嬉しいんだろう(笑)?
(収録作:「肝、焼ける」、「一番下の妹」、「春季カタル」、「コマドリさんのこと」、「一入」)
宇宙衛生博覧會(2006.10.24)
筒井康隆 新潮文庫
途中であまりの痛さに挫折しそうになりつつ読了。
や、結論から言えば、おもしろかった!! 痛くてかなーり薄目になりつつ読んだ部分もあったけれど(笑)、それでも読むのをやめられない。やっぱり筒井康隆はおもしろいんだなあ…。
ドタバタで、皮肉たっぷりで。 このはじけ飛ぶようなギャグセンス(笑)。
そして言語感覚がものすごく鋭い方なんだろうなあと。 やっぱり若いうちに読むべきですよ…。きっと、中高生くらいで読んだらすごいカルチャーショックを受けるんじゃないかと思う。まあ、わたしみたいにトラウマになってその後手に取れなくなっちゃう子どももいるわけだけど。orz
個人的には「蟹甲癬」、「こぶ天才」、「ポルノ惑星のサルモネラ人間」が好き。でもってやっぱり「顔面崩壊」とか「問題外科」みたいな痛い話は苦手。
これを読んでいて思ったんだけれど、わたしって医学用語みたいなのを使った表現が苦手なのかも。「ナイフが太股に突き刺さった」なら大丈夫なのに「大腿筋が切断された」だとダメな気がする(苦笑)。なんでだろう? とにかくダメなものはダメだっ。
でももう少し筒井はいろいろ読みたい。
頑張る(笑)。
(収録作:「蟹甲癬」、「こぶ天才」、「急流」、「顔面崩壊」、「問題外科」、「関節話法」、「最悪の接触」、
「ポルノ惑星のサルモネラ人間」。 )
”文学少女”と死にたがりの道化(2006.10.24)
野村美月 ファミ通文庫
2時間で読了。
中学時代に新人賞に応募した小説が大ヒットしてしまい、同じ時期に大切な人を失ってひきこもりになってしまった心葉(このは)。よろよろと部屋を出て高校を受験し、これからは目立たずに生きていこうと思っていた矢先、出会ってしまったのは1学年上の遠子先輩。彼女は紙に書かれた物語を食べる”妖怪”だった…。
二人きりの文学部を訪れて恋愛相談をしてきたのは心葉の同級生の女の子。成り行きで心葉はラブレターの代筆をすることになるが、彼女の恋の相手は謎に包まれていた…。
なんつーか、かわいらしい話だなあ。
わたしも『人間失格』には打ちのめされた人間。でもこれを読んだらとりあえず、太宰治全集を10回とまでは無理だけど(弱気)2回くらいは全部通して読みたいな、と思った。考えてみたら、太宰好き〜♪とか言ってるけど全然読んでないんだもん…。文学少女、素敵です。ギャリコもぜひぜひ読んでみたいわ。
多分これってわたしが中学生くらいのときに切実に求めていた類の作品だなあ、と思う。あの頃の息苦しいくらいに狭かった自分の世界を思い出すと、今となっては微苦笑が浮かんでしまうくらいには年をとったんだなあ。
バタバタと自殺したり、事故死したり、人を殺そうとしたり、そういう命の無造作な扱いを気にすることもなく、そういう「考えられる中で一番悲劇的な状況」じゃなければわたしのこの苦しみなんて表現できるわけがないのよ、とひとかけらの自嘲もなく信じることができていた頃。
そんな自分を思いだして赤面したり身悶えしたりしてしまうのですんなりと読むことができなかったかも(笑)。
でもそういう身悶えを極力意識的に排除して読むなら、この作品は結構素敵なものをたくさん抱えていると思う。
うん、たくさんの中高生がこの本を読んでくれたらいいのに、と思うくらいに。
ただ、やっぱりわたしはもう「ひどぉーーーい」とか「きゃうん!」とかいう活字を目にするのはちょっと…ひ、ひく(苦笑)。ゴメンよ。ラノベをバカにしてるわけではけしてないのよー! 単に、もうオバサンなんですよ…(泣)。
小説のストラテジー(2006.10.26)
佐藤亜紀 青土社
読了。
頭使いました。orz
これは感想を書くのが難しい…。
でもでも、とっても面白くて刺激的でスリリング。
わたしが言いたくてもとてもここまで明確に言葉にできなかったことが全部これに書いてあるような。
読書における「無数の敗北の上に、鑑賞者の最低限の技量は成り立つ」、とか。
「五線譜に書かれただけの譜面が潜在的にしか音楽ではないのと同様、読み手の読解が始まる瞬間までは、どんな作品も、潜在的にしか作品ではない。いわば、読解は演奏です。」、とか。
読書って化学反応を起こすことなんだなあ。
受け手が読書することによって引き起こす反応は千差万別だ。なぜならそれは受け手がもっている性質(?)が千差万別だから。
同じ本を読んでも人によって感想がバラバラなのはナゼかと言えば、読み手は読みとった文章を自分の中で咀嚼し、引き受ける段階で自分のそれまでの読書歴や人生経験などと照らし合わせ、書かれている言葉の意味を読み手なりの別の意味とすりあわせていくから。その作業の中で当然読み手の読書歴も更新されてゆくし、考え方、受け止め方も更新されてゆく。読書を受動的に行うか能動的に行うかは読み手次第だ。そういう意味で読書は音楽や絵画に通じるものが確かにある。
読んでホントによかった。でも、佐藤氏のようにわたしはまだ上手に言葉を操れない。この感情をうまく言葉に表せない。
うーん、ちょっともう少し考えたいわ。
けれど、ぜひぜひ、これをすべての物語の読み手に。
死の泉(2006.10.28)
皆川博子 早川書房
めちゃめちゃに凝った作品。
もんのすご〜〜〜〜〜く贅沢なエンターテインメント。個人的には訳者あとがきはくどすぎる気もするけれど(苦笑)。
あ、未読の方は絶対にあとがきを先に読まないようご注意。
かなり世界に酔いしれて午前3時までかかって一気読み(笑)。読了した今となってはなんだか頭がクラクラして、ちょっと自家中毒起こしてる感じかも(苦笑)。一気読みしないで精読すべき本だったのかもしれない。でも後半はスピード感たっぷりだったし、一気読みしないというのもツライ…。とにかく、読み応えはたっぷり。時間と体力があるときに読むべき本だと思う。
ナチスドイツ、レーベンスボルン、双子を使った人体実験、怪しげな不老不死の研究、古いドイツの神話などなど、惹かれるキーワードが満載。
耽美な幻想小説、と言えなくもないけれど、個人的にはもう少し通俗的(悪い意味じゃないですが)な感じを受けた。山尾悠子なんかに比べると。でもとっても好きな作風だわー♪
ぜひ、他の作品も読んでみたい作家だ。
以下個人的な覚え書き。思いっきりネタバレにつき反転させます。
・レナとアリツェは死んでいなかった。マルガレーテが見た縫合されたミイラは物語冒頭に書かれている発見されたミイラだった。追いつめられた精神状態にそれがレナたち双子に見えたってことかしら。冒頭でヴェッセルマンも「貴重な発掘物」って言ってるし。
・結局ゲルトはヴェッセルマンの子供なのか違うのか? なぜわざわざヴェッセルマンはゲルトを殺す必要があるのか?
・マルガレーテの横の小さな足は誰のもの??
・本物のギュンターはのど笛を噛み切られて死んだ? では第三部の城の場面の真相はどうなっちゃうの?
・なぜマルガレーテはギュンターをフランツと誤認したのか? 二人とも純粋なアーリア人だから? アーリア人はみんなフランツに見えるのかしら。それともこの記述にはなにか意図があるのか。
・レコードジャケットに写っていたミヒャエルは誰なのか。でもボーイソプラノとカウンターテナーの二重唱とある。エーリヒ(上のミヒャエル)がボーイソプラノでミヒャエルがカウンターテナー? 「わたしが造ったミヒャエル」は下だよね。エーリヒ(ミヒャエル)は赤ちゃんの時にさらわれたんだから。
・これが「ヴェッセルマンの子供たち」の物語だとすればゲルトの人物造形はあまりにも弱すぎる。そもそも彼が登場した意味がよくわからない…。魅力も乏しすぎ。
コルセット(2006.10.30)
姫野カオルコ 新潮社
豪華な本だなあ。
セレブのセレブによる平民のための本(笑)。
それぞれの短篇のラストの文章が次の短篇の冒頭の文章になっている。それが無理矢理じゃなく自然に見えるのがウマい。さすがー。
なんていうか、女のための官能小説みたいな(笑)。
やらなくちゃいけないことは全部お金で解決して、人生の中の「生活」を取りのぞいたその上澄みだけで生きているような人たちの日々を淡々と、しかも濃密に(この矛盾をわかってほしい)描いている。
でも、結局「他人事」な本だ(爆)。
彼女たちは明確に川のあちら側に住んでいる。
あちら側の世界はこんな感じですよー。という、ある意味ガイドブックみたいな本(笑)。
そこには、読んでいて叫びたくなるような、悶えたくなるような、イタくて思わず前屈みになってしまうような、こちらの感情にビシビシ訴えかけてくるものは、ない。それこそがわたしが姫野カオルコに求めているものなんだけどなあ。
や、たまにはこういうちょっと普段と違うリッチな気分、も悪くはないんだけど。
なかで1篇だけ、フツーな女の子の話があって、それだけはビシビシときました(笑)。やっぱり平民なんだな、わたし(爆)。
藤沢さん、とか、最初に言ったロンド形式とか、実験的な試みをしてます、という意気込みは伝わってきた。そういう新しいチャレンジは大好きなので、そこは評価したいな(偉そう)。
ブラバン(2006.11.1)
津原泰水 バジリコ
うーん。
やっぱりわたしは『綺譚集』とか『赤い竪琴』とか、そういうくらくらするようなヤスミンが好きです(苦笑)。
あまりにも青春。大崎善生みたいだ…。
でもすごくやっぱりウマい作家さんだと思う。
何がうまいってまず文章が抜群にうまい。 すごく高度なことをさらっとやっているような印象。
ただわたしには全然感情移入できない物語だったので、どうだったかと聞かれれば「普通…」としか(笑)。
40代の中年男が、高校時代の先輩の披露宴でかつての吹奏楽部を再結成させよう!ということになって20年以上前の、80年代の高校時代を振り返る。という話なのだけれど。
たくさん出てくる登場人物を巧みにキャラクター設定していてそれなりに読ませるのだけれど、でもその中心となる主人公・他片がとりとめない…というか。
彼に物語を語らせるナレーターとしての役割しか感じられなかった。ブラバンに力を入れてみたり、軽音に力を入れてみたり、先輩に淡い恋心を抱いてみたり(抱いて「みる」という言い方が一番ピッタリなのよね…)。オトナになってなんであの人にそんなに惹かれてるのか全然わからなかったり(そもそもホントに惹かれてるのか…)。
人数が多すぎるから、全員が平等に順番にスポットライトのあたるのをまっている、という感じ。その誰にも特別な思いをもつことができない。かなり重要なキャラであるはずの源元も、タイプの違う二人となんとなくつきあうごくごく普通のありきたりの女の子にしか見えない。謎の死を遂げたなら『阿寒に果つ』みたいな立体的なストーリーにすることもできたと思うんだけれど、結局彼女の役割はほかのメンバーと同等だ。
沖縄出身の普天間やカード破産に追い込まれた三浦の悲惨さも、辻の運命や三浦に対する感情も、頭で「ふーん」と理解で消えても胸にぐっとこない。
ただただ全員分のプロフィールを読んでいるようで楽しく読書することができなかったわ…。
でもって、他片の語りで頻繁に登場する「後述する。」は個人的にはイチイチいらっときました(笑)。
世間ではかなり評判がいいみたいだけれど…合わなくて残念。
いつか王子駅で(2006.11.4)
堀江敏幸 新潮文庫
映画的というよりは絵画的な作品。『河岸忘日抄』でも感じたことだけれど。
映画より、絵画の方が鑑賞するのは難しいと思う。鑑賞者の側にものすごく能動的な力が要求されるので。
けれどいい絵画はきっとよくわからない人間にも訴える力がある。この作品もそんな感じ。短いけれど味わいがある。文章の1文1文を味わいながら読める本。
筋はあってないような話なんだけれど、情景が、匂いが、ふわっと目の前に広がるような本。
現代の話なのにノスタルジックなのだ。モノクロというか、セピアというか。夕焼けの赤さが似合うような(笑)。昭和の感性。でも、「あの頃は良かった」という話ではけしてない。
”トム木挽き”なんて、もう忘れられないわ。
たとえこの作品の他の部分をキレイさっぱり忘れたとしても(笑)。
二〇〇二年のスロウ・ボート(2006.11.5)
古川日出男 文春文庫
東京を3回脱出しようと試み、3回とも敗北した「僕」。3度の脱出を「僕」に決意させた3人の女の子。独特のグルーヴ感に乗った3度のボーイ・ミーツ・ガール。
古川日出男にしか書けないやり方で村上春樹に対するリスペクトを表した、それでいてそこには完璧な「古川作品」ができあがっている、というおそらくは非常に希有な作品。雰囲気は『ボディ・アンド・ソウル』に近いかな。読んでいてすごく気持がいい。
しかしわたし、読んだはずのこの作品のカヴァー元・村上春樹「中国行きのスロウ・ボート」の印象が全然残っていないんですが…(汗)。
先日参加した本好きばかりの集まったオフで、世の中にはハルキが必要な人とそうでない人がいる、という話題が出たのだけれど、ホントにわたしって後者なんだなあ…。けれどわたしには古川日出男は必要だ。きっと。
ハリー・ポッターと謎のプリンス(2006.11.6)
J・K・ローリング/松岡佑子・訳 静山社
ハリー・ポッターシリーズ第6作。
何度も書いているような気がするけれど(苦笑)、実はわたしはハリポタは好きじゃない。
何が好きじゃないかって、結局貴種流離譚なところ(狭義では意味が違うみたいですが)。偉大なお父さんとお母さんの息子で、赤ちゃんの時に闇の帝王の攻撃をはねかえしていて、ホグワーツに入学してからもあっさりとファイアボルトを手に入れて、そうやって苦労しているように見えて実は何の苦労もなしに欲しいものをどんどん手に入れてしまうところ。しかも謙虚さの欠片もないところ。
『バーティミアス』のナサニエルは児童文学の主人公の癖に性格が悪いのがウリ(?)だけれど、ハリーはナサニエルより性格悪いと思う。
今回も読んでいてハリーの性格にはイライラさせられっぱなし。なんであんなに頭が固くて自分が正しくて人の意見を聞かないのかなあ。ちょっと自分が正しいと「ほーらボクの言ったとおりでしょ」っていう態度はやめなさいよもう。
でもでも、今回初めて、面白くなってきたかも…と思った。
やっと、やっと物語が始まったな、と思う。ってもうあと1巻ですが(笑)。今までは長い長〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜いハリーの準備期間だったのね。
合わないと思いつつ読んできたシリーズの、途中で印象が変わったのはこれが初めてかな。もしかしたら、最終巻は傑作になるかも!?と思ったりして。
前回あたりで実はハリーの父親が噂通りの人じゃなくて性格サイアクだった、とかわかったのも印象が変わった要因のひとつのような。
以下、ネタバレ部分を反転。
スネイプは味方だってば!!>ハリー ! どうしてダンブルドアが信じられないかなあ。マルフォイの方がずっとかわいいぞ。
それにしても普通児童文学に出てくるイジワルなヤツってもっと大きな敵が出てくると力を合わせたりするものなのに(ジャイアンのように)、今のところマルフォイはホントに敵なのね…。この作品って同じ学校の子供同士が本気で憎しみあうのが怖い。
でも、最後は二人が仲直りすると思いたい。マルフォイの初めての涙を信じたいわ。
ダンブルドアは死んでないのかな。スネイプが味方だと考えるとむしろ死ぬ方が不自然なので、きっとあれも敵を欺くための死んだ振りなのでしょう。でもハリーの成長のためにはここで死んでもオッケーな気もするんだけど(笑)。
ああ、ハリー達3人組にも誰にも死んでほしくないなあ。キングじゃないけど(笑)。でも最終巻最終章はもう書き上がっているという話なのでやっぱり誰か死ぬのかしら…。
結局わたし、児童文学には夢と希望を求めているのかな。『神様ゲーム』だって読んで、結構好きだったのに(笑)。
日の名残り(2006.11.7)
カズオ・イシグロ/土屋政雄・訳 早川書房
すっごおおおおおくよかった。今までこれを読まなかったことが悔やまれる。さすがブッカー賞受賞作。
読み始めはついついジーヴスを思い出してしまい、そのうちドタバタコメディになるんじゃ…なんてハラハラしていたんだけれど(そんなんわたしだけだ)、読むうちにどんどん世界に引きこまれて最後は思いっきりしんみりしてしまった。
以下、内容に触れるので反転。
人生の誇りのすべてを賭けたスティーブンスの執事人生。「執事がいるのはイギリスだけ、他の国は召使いしかいない」というその矜持を失うことなく、彼はプライドを持って執事という衣服を身に纏う。
しかし彼が心を込め、尊敬しつつ仕えた主人は人生の選択を誤った。執事としての彼にはなすすべもなかった。彼に思いを寄せていた女中頭はけして執事の仮面を外そうとしない彼の前に失意を抱いて去った。アメリカ人の人の良い新しい主人の下で彼の生活はけして不幸にはならなかったが、古き良き時代はその指の間からこぼれ落ちてしまった…。
たぶん、これが三人称だったらずいぶんイメージの違う作品になったんじゃないかと思う。
スティーブンスのその執事然とした語りがものすごくハマる。物語はかれのひとり語りのその合間から溢れてくる。
それでも新しい主人のために、ジョークの練習をしようと決意するスティーブンス。そのユーモラスさが愛おしく、切ない。
倫敦巴里(2006.11.9)
和田誠 話の特集
古今東西の本といわず映画といわず、いろいろなパロディ作品ばかりがならぶ抱腹絶倒の怪作。絶版だなんてなんてもったいない〜!
暮らしの手帖をもじった「殺しの手帳」だとか、ウサギとカメを有名な監督&俳優で映画化した脚本だとか、笑える物が数ある中で雪国の贋作バージョンがとにかくめちゃめちゃ読み応えアリ。井上ひさしが書いた雪国の出だし、とか、宇能鴻一郎が書いた雪国の出だし、とか、もうもうもう、よくこんなこと考えるなあ、と。お腹を抱えて笑わせて頂きました。
他にもたくさんおもしろいところがあるんだけれど、時代的にちょっとわからないこともたくさんあって残念。
あと、映画ファンだとかなり笑えるのでは…という凝ったものがたっくさん。 わたしは映画には疎いので半分もわからなかったのがちょっと淋しい。
絶版とは言っても図書館では入手可能だし、一読の価値アリ!!
ちなみに著者は和田誠ですが、ずっと椎名誠だと勘違いしていたのは内緒ってことで(苦笑)。
わたしのなかのあなた(2006.11.10)
ジョディ・ピコー/川副智子・訳 早川書房
衝撃の結末。
いやーこんな衝撃を受けたのは久しぶりだわ…。
いろんなことぐるぐるぐるぐる考え中。
でも、この本好きじゃないかもしれない。
すっごく面白くて、興味深いけれど。小説としてはものすごく素晴らしいできばえだと思うけれど。そしてそして、読む価値は十分にあると思うけれど。
好きじゃないけれど、読むべきだと思う本。非常にいろいろなことを考えることを、読者に強いてくる本。読者が触発されずにはいられない本。
しかし…。
こういう結末アリですか…。
13歳のアナは、白血病である姉・ケイトに臍帯血を提供するために受精卵の中から完璧な適合遺伝子を選んで出産されたデザイナー・ベビー。しかし臍帯血の移植だけではケイトの病気は癒されず、アナは姉のために輸血や骨髄移植を繰り返す。そしてとうとうケイトは腎不全を起こし、アナは片方の腎臓の移植を両親に迫られるが…。
結末が衝撃的なのもさることながら、わたしはこの本を読んでいてずっと違和感を感じ続けていた。それはそもそものアナの生い立ちだ。
子供の命を救うために、もう一人子供を産むなんてことが許されるんだろうか。
ある具体的な目的のために子供を産んでいいのだろうか。
生まれてしまったアナは、最初から自分が姉のために作られたことを知っている。両親を愛している。姉のことも愛している。できることなら姉を救いたい、それができるのが自分だけだということも理解してしまっている。
けれど、彼女の人生はいったい誰のモノなんだろうか。
そして姉妹の兄であるジェシー。
両親の関心のすべてが姉妹に向いてしまい、放火を繰り返しては消防士である父がそれを消火しに飛んでくるのを見守る彼の心の闇。
こんなにも子供は親の愛情を、関心を無心に求めるものなのだ。
わたしだったらどうするか。ずっとそればかり考えながら読んだ。
もしもぴよやぴこが白血病に侵されて、彼らに適合するドナーが見つからなかったら。
わたしはもう一人、子供を産もうと思うだろうか。ぴよやぴこを救うために。
わたしにはそれは絶対にできない。
だって生まれてくる子供にはその子供の人生があるのだ。
その子の身体も、そして心も、その子だけのものなのだ。
読みながら思ったのは最近話題の代理出産のこと。
これもわたしは反対だと思っている。
自分の子供が欲しいという理由で他の人の命を危険にさらしていいのかと。
もしも妊娠・出産の課程で代理母を引き受けた人が命を落とすことになったら、誰が、どうやって責任を取るんだろう。
そんな責任誰にも取れないのに。
生まれてきた子に障害があったら、喜んでその子を引き取ることができるんだろうか。
その子が生まれてまもなく何かの理由で亡くなってしまったら、彼らはまた代理出産を頼むのだろうか。
アナの両親には、特に母親にはまったく共感できなかった。
けれどアナのけなげさには胸を打たれた。
ケイトの苦しみも狂おしいほどに理解できた。
ジェシーの孤独も。
子ども達を苦しめたその責は両親にある。
そしてやっぱりこの結末はないよなああああ。
この結末にした作者の意図がものすご〜〜〜〜〜〜〜〜く知りたい気分。
アルテミス・ファウル 永遠の暗号(2006.11.12)
オーエン・コルファー/大久保寛・訳 角川書店
「悪のハリー・ポッター」(笑)アルテミスファウルシリーズの第3作。最初から感じていたんだけれど、全然アルテミスが悪人ぽくないと思うのはわたしだけ? むしろハリーより性格いいような…(笑)。
バーティミアスにも言えることだけど、やたら偽悪的ではあるけれど、もっと悪人は世の中にゴマンといるよ…とつい思ってしまう黒いわたくし(笑)。
しかも3作目の今回、アルテミスはかなり良心が目覚めてきて、だんだんと心優しい少年が育ってきているみたいで、どんどん展開が暗くなるハリポタとは立場が逆転してきているような(笑)。いやハリポタは別に悪人じゃありませんが。性格が悪いだけで(しつこい)。
今回はいきなり序盤でアルテミスが大失敗をやらかして、それによって物語が動き出すんだけれど、天才のくせにこの失敗のお粗末さはいったい…。
物語が動き出してからはそれなりにサクサクッと読めましたが。
それにしても、三部作と言われて始まったこのシリーズ、好評につき第4作が執筆されたそうだ。アメリカじゃそんなに話題になってるのかなー??
いや、ここまでつきあった以上、次も読みますけどね(笑)。
芥子の花 金春屋ゴメス(2006.11.14)
西條奈加 新潮社
相変わらずの江戸人情もの。
ファンタジーでは絶対にないと思う。ちょこちょこ出てはくるんだけれど、そういう設定が。
時代考証逃れ…じゃないよね…?(大汗)
単純で人情家で熱血漢の「ザ・主人公」辰次郎。
「異国市」で知り合った江戸生まれのビルマの少年・サクの暮らす異人村が上質の阿片の原料・芥子を栽培していた疑いをもたれ、その疑惑を晴らすために仲間と共に江戸の町を走り回る。危険な場所にも潜入捜査。彼はサクの村を救うことができるのか…?
今回はふんわりと恋の気配も。
うーん、とっても面白い時代ものなんだけれど、「わたしには必要のない物語」だったかな…。 ばりばりのエンタメで、しかもわたしはエンタメ結構好きなんだけど。なんでかなあ。
サクっと読めて口当たりが軽くて人情味があって。別に悪いところをこれといって挙げられないんだけれど。
こういうのが「合わない」ってことなのよね…。
いや、ゴメスを読んだときにそう思ってたんだけれど。
当然のように3作目が出そうな気配で物語は終了。また読んじゃうのかなーわたし(苦笑)。
読まない勇気も必要だって、わかってるんだけどね…。
”文学少女”と飢え渇く幽霊(2006.11.14)
野村美月 ファミ通文庫
”文学少女”シリーズ第2作。
紙に書いてある字をむしゃむしゃ食べてしまう妖怪の遠子先輩。
過去に負った心の傷が癒しきれない「僕」−心葉くん。
たった二人の文学部の設置した投書ポストに入れられていた謎の数字の羅列メモ。ふたりが投書の主を突きとめようとポストを見張る中、現れたのは、少女の幽霊…!?
あー、しみじみ思ったのが、これは読むのが遅すぎた。ということ。
文学を食べちゃいたいほど大好きな少女が活躍する、名作を下敷きにしたミステリなんだけれど。
これって21世紀のシンデレラ迷宮(by氷室冴子)なのよね。中学生こそが読むべき本。…ってもともと中高生向けなんだけど。
わたしは中学生の時シンデレラ迷宮を読んでボロボロ泣いた人だ。だから多分、中学生の時にこのシリーズを読んだらもうヤられまくりだったと思う。柔らかい心にガシガシ染みたと思う。
オトナになっちゃうって淋しいなあ。
読み始めて「あー今度はあの作品が下敷きなのね」と思ってしまう。読んでいていろいろ感じるけれど、その感じ方が一歩引いているのを自覚してしまう。
非常に優れたライトノベルだと思う。
子どもたちが中学生になったらぜひぜひ読んでもらいたい。
こういう作品を読んで、感化されて、あの作品やらこの作品やらに手を出してもらいたい。
わたしがシンデレラ迷宮でジェーン・エアを読んだように。
あの暗号はけっこうピンとくるよね…とか(いやでも面倒で解読まではしませんでしたが。でもって解読は多分しないで読んだ方が面白い気がする)。
またこの作品モチーフかよ…とか(いや優れた大人向けの作品もあるので)。
そのわかりやすいツンデレはうざい。とか。
いろいろ思うところはあるんだけれど、でもそれってものすごく些細な瑕疵だ。きっとこの作品にはものすごく心を揺さぶる力があると思う。
オトナが読んでどうこういう作品じゃないのだ。
あああああ。
ホントに中学生の時に読みたかったなあ。
くすん。
145gの孤独(2006.11.16)
伊岡瞬 角川書店
イマイチ合わなかった…。
序盤の1章、2章あたりは結構好きだった。かつてプロ野球選手として成功していながら1球のデッドボールによって球界から去って、貯金を食いつぶしながら便利屋稼業に身をやつす男。友人と彼の妹と3人だけの小さな事務所で「付き添い屋」を始めてから、不思議な依頼が舞い込み始めて…というあたり。それぞれの依頼人が秘めている事情を、主人公が土足で上がり込むのでなく暖かくほぐしてやる感じなのが。
けれど、3章からはダメ(これ以降がいいらしいが)。
まず、3章の依頼人の意図が結局わからなかった。分厚い手紙の中身がぜひとも読みたかったなあ。あんなおどろおどろしい話(味噌汁の話)までしておいてそれはないだろーと。単に例の委員会メンバー、というだけだったのー?
それからここから春香のキャラ一転。唐突すぎないか?
でもってちゃぶだいひっくり返しの大技。
これはないだろ!
ウブメかよ!みたいな(笑)。
あとサクラも書き割りっぽすぎた。あまりにもわかりやすい不良少女ぶり。まあいきなり最後に出てきたキャラだけに…書き込みが…。
妹の話も2章で終了なの? たいした妹思いじゃないじゃん…とか。
春香のツンデレが微妙すぎ…とか(かわいく感じられないのよね…。あまりにも憎まれ口がキツすぎて)。
戸部はなんでお金を振り込んできただけの娘にあんなに父親ぶってるのか…とか。
主人公のキャラもなあ。1章2章はいい感じだったのに、食べ物をまずそうに…ってのは個人的に生理的にイヤだったなあ。味覚云々…の説明もかなり後出しな感じ。しかもそこまで追いつめられていたのね!という感じもしない。追いつめられていたのね!という説明はウブメだけでいいんじゃないのかなあ(いやわたしはあれこそがダメなんだけれど)。
あと最後の唐突なあの独白2pはなんなのか。
わたしはあそこで思わず「もしや倉沢も…!?」と変に勘ぐってしまったわ。そんなわけないよね…。