2007 shelf 3
著者名 タイトル 出版社 60 酒見賢一 陋巷に在り(全13巻) 新潮文庫 59 ジョナサン・キャロル 死者の書 創元推理文庫 58 テッド・チャン あなたの人生の物語 ハヤカワ文庫SF 57 森絵都 風に舞いあがるビニールシート 文藝春秋 56 恩田陸 朝日のようにさわやかに 新潮社 55 宇月原晴明 安徳天皇漂海記 中央公論新社 54 恩田陸 黄昏の百合の骨 講談社 53 カレル・チャペック ロボット(R.U.R) 岩波文庫 52 ダン・シモンズ オリュンポス(上・下) 早川書房 51 岡崎武志 読書の腕前 光文社新書 50 エリック・マコーマック パラダイス・モーテル 東京創元社 49 島本理生 大きな熊が来る前に、おやすみ。 新潮社 48 五條瑛 純棘 双葉社 47 カート・ヴォネガット・Jr. 猫のゆりかご ハヤカワ文庫SF 46 大森望・豊崎由美 文学賞メッタ斬り!2007 パルコ出版 45 大海赫 ビビを見た! 理論社 44 ジョナサン・キャロル 月の骨 創元推理文庫 43 森見登美彦 新釈・走れメロス 他四篇 祥伝社 42 山田正紀・恩田陸 読書会 徳間書店 41 上橋菜穂子 天と地の守り人(全3巻) 偕成社
天と地の守り人(全3巻)(2007.4.23)
上橋菜穂子 偕成社
守り人シリーズ完結編。「ロタ王国編」、「カンバル王国編」、「新ヨゴ皇国編」の3部から成る、シリーズ最長作なんだけれど、だれた感じは全然しなかったわ。ああ、これでバルサやチャグムたちとはお別れか、と思うと感慨深い…。
前作『虚空の旅人』で、一筋の希望を目指し海に身を躍らせたチャグム。以来行方不明となり、新ヨゴでは死んだとされて盛大な葬儀まで営まれた彼を見つけだすように依頼されるバルサ。
一方現実の世界「サグ」と重なるように存在する異界「ナユグ」は春を迎え、精霊たちがつがう季節となる。ナユグの水量は増し、その影響はサグにも現れ始める。
さらに北方の国々に手を伸ばそうとしていた南方の大国タルシュはついに行動を起こし始める。内部には二人の王子の対立や被征服国である枝国の人々の憤懣という内乱の目を抱えてはいる者の、その力はやはり圧倒的なものがあった。
天変地異とタルシュからの攻撃、二つの圧力に挟まれた形となる新ヨゴ皇国。チャグムはかすかな希望を掴み、国の民を救うことができるのか。
なんといってもチャグムの成長っぷりに感涙。
『精霊の守り人』のときはちっちゃいかわいい皇子さまだったのに、立派に成長したのねえ…とバルサと一緒に目を細めてしまう(笑)。
児童向けファンタジーだし、予定調和といえば予定調和だし、でもきっちりと造り上げられた世界できっちりと描ききられたキャラクターたちが生み出すドラマはそれだけで読み応えはたっぷりだ。むしろこのシリーズは子どものうちでは愉しみ尽くせまいっ、と思う。
本当にいい作品っていうのは、子どもが愉しめて、かつ大人も同時に愉しめる。子どもの頃に読んでわくわくどきどきし、大人になって新たな視点で新たな驚きを感じつつもう一度味わえる。
そういう意味で、このシリーズは傑作。
読書会(2007.4.24)
山田正紀・恩田陸 徳間書店
山田正紀&恩田陸&豪華ゲストの対談集。
思わず深夜1時過ぎまで夢中で読んでしまった。
とにかく刺激的でおもしろい!
やっぱり恩田陸は「書く人」というより「読む人」な気がする(失礼な話ですが…)。恩田陸の読み方はものすごくおもしろいし、勉強になるし、センスがいい。ぜひ読書日記をブログでつけていただきたい。ヘビーに巡回しますから!!
出てくる本出てくる本、みんな読んでみたくなる。つまりそれだけわたしは読んでない。orz ああ、対談って怖いよなあ、と思う。刺激的な相手の話題についつりこまれてうっかり話してしまったら自分の無知とか浅はかさがボロボロと出てきそうだ。しかもそれを本にするなんて恐ろしすぎる。こんなことできるのはホントに人間に厚みのある人だけだ。でもって、この対談集に出てくる方たちはそれだけの厚みのある人ばっかりなのだ。ああ、読むに耐えうる対談集。それってスゴイことだなあと改めて思う。
でもって、これを読んだらやっぱりわたしはSF者を目指すべきなのかなーと思った。そして、現時点ではまるっきりSF者ではないんだなあと。だってアシモフ読んでないし!!!
読んでない本についての対談もすごくおもしろかったんだけれど、やっぱり既読の本の対談はさらに輪をかけて愉しめるし、勉強になる。わたしの場合はすごく少なくて、ゲド戦記、ヤプー
(これはちゃんと読んでなくて、斜め読み。高校時代にクラスメイトに強力オススメされたんだけど生理的に受けつけなくて)、神狩り
。ゲドについての対談は特におもしろかった。そうかあ、なるほど、と感心することしきり。
非常に刺激的な読書体験ができて、すごく嬉しい!
新釈・走れメロス 他四篇(2007.4.26)
森見登美彦 祥伝社
おもしろかった!
モリミン、今のところハズレなし。あと夜乙女と太陽の塔
(今さら!)が未読なのだけど。
表題作始め山月記・藪の中・桜の森の満開の下・百物語と、錚々たる名作ばかりを下敷きにしているのだけれど、これがどれもこれもちゃんと森見テイストで、原作の味わいは活かしつつ、個性のあるオマージュになっている。と言いつつ、しまった、わたし山月記と百物語は読んでいないんだわorz。フィッシュストーリーでも出てきたなあ、「虎になる話」(笑)。こういう穴がホントにわたし多くっていつも恥じ入ることに(しょんぼり)。
芽路と芹名(ネーミングが…ぶぶっ)の他人からは理解しがたい友情物語もよかったし、山月記の斉藤秀太郎も壮絶なものがあったし、桜の森の主人公の、自分の与り知らないところで自分の人生が進められていく不安感もよかった。この3つが個人的にはかなりお気に入り。
夜乙女とのリンクはどうなってるのか、これから回ってくるのが楽しみになっちゃったわー。
しかし京大って、いったいどういう大学なんだろう(笑)。
ぜひ行けるものなら息子に入学して潜入ルポをしていただきたい(笑)。斉藤秀太郎みたいになったら困るけど。娘に行かせるには勇気が要るなあ(笑)。
それにしてもやっぱりモリミンってかなり力のある作家さんだなあと思う。みんな京都が舞台だけれど、どんどん作風を変えてきている。きつねのはなしは個人的にはちょっとハズした感があるのだけれど(スミマセン好きな人)、でもその意欲は買う。四畳半でおおっ!と思って、次々読んできて、飽きるかなあと思っているとまたおっ!と思わせる。わたしはこういう作家さんが、ものすごく好きなんだなあ。
(収録作:「走れメロス」、「山月記」、「藪の中」、「桜の森の満開の下」、「百物語」)
月の骨(2007.5.1)
ジョナサン・キャロル/浅羽莢子・訳 創元推理文庫
初ジョナサン・キャロル。『死者の書』もずっと気になりつつ未読。
冒頭でいきなりショッキングな夫婦の会話から物語が始まる。どんな話どんな話??と思っているとそこから夫婦のなれそめが始まって甘〜〜〜いラブストーリーが続く。全然SFでもファンタジーでもないんですが?と思っていると不思議な連続夢の話が。平行して語られるファンタスティックな夢の話と主人公のベタな日常。それがそれが…。
この展開が巧い。
これって狙ってやってるんだろうか??
一人称が「あたし」のちょっと頭弱くないか…という主人公のおかげできっと話は2割り増しくらい面白さをアップしている気がする。
そして最後の最後で!
ぎゃー!
ダーク・ファンタジーだという書評をあちこちで散見したのだけれど、ダーク・ファンタジーってわたしの中のイメージではこういう話ではないんだよなあ…。でも確かに”ファンタジー”と言うとちょっと違うのかも。いやファンタジーですが。 そしてダークですが。
なかなか内容には触れられないのがツライところ。
でもでもおもしろかった!
中盤でなんかつまんないかも…と思ったのはこっそり謝ります(笑)。
死者の書もぜひ読んでみたい。
ビビを見た!(2007.5.1)
大海赫 理論社
ブッキングで復刊しているらしいけれどわたしが読んだのは理論社のもの。1973年初版本。
生まれつき目の見えない少年・ホタル。
彼はある日突然神様のいたずら(?)で、7時間だけ目が見えるようになる。ところがホタルの目が見えるようになると同時に街の人たちは目が見えなくなる。そこへ突然やってくる「敵」。目の見えない人たちは手探りで駅へと集まってくる。男たちは武器を取るために。女子どもは町を脱出するために…。
作者本人による挿画がめっちゃ印象的。『モチモチの木』の滝平二郎の版画絵のように。
7時間だけ与えられた光りに溢れる世界は、ホタルにとってファンタジックな美しい世界では、ない。
目にはいるのは見たくもない光景ばかり。
けれど初めて見る色彩の美しさは。
そして、ホタルだけが見ることができた、ビビの美しさは。
物語に寓意みたいなものは見あたらない。
童話にありがちな、勇気を奮って危機を乗り越える、というような話でもない。
残酷といえば残酷な話。
でも、ホタルにとってそれは強烈な7時間。
教訓でもなく、成長でもなく、でも何かを胸に焼き付けられる、7時間。
文学賞メッタ斬り!2007年版 受賞作はありません編(2007.5.13)
大森望・豊崎由美 パルコ出版
購入と同時にサクッと読了。今回は直木賞選考を辞退なさったツモ爺こと津本陽氏の特集まで組まれている! なんだかついしんみりしてしまったわ(苦笑)。
良くも悪くも、だんだん内輪受けっぽくなってきている気がする。少なくともメッタ斬り!をこれまで読んだことがない人と今まで読んできてる人では全然印象が違う気が。もちろんこれだけでも面白いけれど、ずっと読んできてると全然おもしろさが違う。内容も、作品それぞれ、とか文学賞をどう考えるか、ということから少しずつシフトしているような。
毎年恒例にしてメッタ斬り!路線を確立していくか、そろそろお祭りをお終いにするべきか、この辺りが岐路じゃないかなあ。
まだ未読の中原昌也に関してはやっぱり早急に読まねばー!と思った。あ、その前にメッタ2で取り上げられていた『コップとコッペパンとペン
』もまだ読んでいないんだったー!
猫のゆりかご(2007.5.16)
カート・ヴォネガット・ジュニア/伊藤典夫・訳 ハヤカワ文庫SF
「世界が週末を迎える日」という本を執筆中のジョーナは、ヒロシマに原爆が落ちた日に人々が何をしていたか、を取材して回る日々を過ごしている。その取材の過程でハニカー博士の三人の遺児と出会う彼は、いかにしてボコノン教徒となったのか…。
個人的にはそのアイロニーに打ちのめされた。
人があやとりに見いだす猫のゆりかごなんて、ホントは存在しないんだよね、というメッセージを読みとって。
世界を滅ぼしてしまうような発明を気軽に実現させる、倫理観は欠片も持ち合わせない科学者。
そのいわば”負の遺産”を単に”貴重な物”というふうにしか受けとめずに後生大事に胸に抱えている3人の子ども達。
人を幸せにすることができない無力な政治。
その不幸な状態から目をそらさせる役にしか立たない宗教。
幸せになれる科学なんてないし、幸せになれる政治もないし、幸せになれる宗教もない。そんなものがあると思っているなら、それをよくみてごらん、それは猫のゆりかごなんだから。
そして小説自体のタイトルが「猫のゆりかご」である事実。「まあそんなこと言っても、この小説自体が猫のゆりかごなんだよね。」とでも言われたよう。
なんという皮肉、なんというニヒリズム。
個人的にこのタイトルは秀逸だと思う。
打ちのめされたわたしだけれど、それはこの本にそれだけの力があったからだ、と思う。
その力はすごい。
だからわたしはこの作品は傑作だ、と思う。
純棘 R/EVOLUTION 6rd Mission(2007.5.18)
五條瑛 双葉社
革命シリーズ、全10巻予定の第6作。ちなみにここから読み始めてもストーリーはまったく掴めないか(苦笑)。
今回はほとんどサーシャは傍観しているだけで、どんどん日本の状況が2大勢力がぶつかる方向へと動いてくる。日本の純血を守りたい極右勢力と、在日多国籍の人々の反発の図式へ。
さらに、今まで意味ありげにちらついていた2冊の本、「神が去ったプノンペン」と「我が青春の防人」が孕んでいた秘密が明らかに。
そして「安全な麻薬」っぽかったファービーにも何やら問題が…。
かなり間隔を空けつつシリーズを読み続けているので、なんだかわたしの方がダレてきたかも…。作品のテンションに追いつけていないのかしら。それとも作品自体のテンションが下がってきたのかしら。
サーシャがあまりにも傑出した人物過ぎて、誰も彼もが彼の掌で踊っている状況が続いているので個人的にはちょっぴり不満。ただ、今回なんとなく、今後サーシャに対抗できそうな人物が現れたので少しこの先に期待も。わたし的には、本当はこの先亮司やすみれが力を合わせてサーシャの掌から脱出し、かれの計画をブチ壊す!みたいな展開を希望しているんだけど、それは無謀な夢かしら?(笑)
大きな熊が来る前に、おやすみ。(2007.5.21)
島本理生 新潮社
幸せいっぱい、とはちょっと違う、恋愛短篇集。主人公たちは、相手と向かい合うことを、ためらったり、怯えたり、不安を感じていたり。
何事もなく一緒に暮らしているようでいて、「転覆するかも知れない船に乗って岸から離れようとしている」ような不安を感じている珠美。子どもの頃ずっと父に怯えていたのに、一緒に暮らす徹平は父を思いだしてしまう男。(大きな熊が来る前に、おやすみ)
何の苦労もなく欲しいものを手にしている新に反発しながらも惹かれ、彼の無神経さに神経をささくれさせる「私」。(クロコダイルの午睡)
偶然再会した中学時代の部活の後輩・荻原に告白され、恋人のような関係を始めるものの、過去の出来事が原因で心の中で引いた一線を越えることができない志摩。(猫と君のとなり)
わたしは『ナラタージュ』がダメだった人間なんだけれど、今回の短篇集はそれよりは理解できる、と思った。相手を恐れたり、傷つけられたりしながらも、惹かれていってしまう不安。特にクロコダイル〜はスゴイと思った。
でも、なんだかあちらこちらで、あまりの「リアリティのなさ」にサーッと頭が冷やされてしまって。
たとえば風邪だと思って診察に行った病院で発覚する妊娠とか(ありえるか? ないよねえ。疑いがあります、と言われてちゃんとした検査を勧められると思うわ)
丁寧に作った昼食の席で出した、近所のパン屋で買った焼きたてパンから立ち上る湯気、とか(ご飯作ってる間に冷めるよ…)。
水族館で出す2枚の千円札とか(水族館で入場料が1000円以下のところって…あんまりないと思う…)。
強風の中で吸う煙草の煙が闇夜に漂う、とか(一瞬で煙は飛んでいきますよ)。
全然確認しないで書いてるのかなあ、と思うと、なんだかなあ…と思ってしまう。
心の動きはそれなりに理解できるリアリティがあるだけに、なんだか余計にそんな枝葉の部分で興醒めしてしまうのが、ちょっともったいないなあ、と感じた。
パラダイス・モーテル(2007.5.23)
エリック・マコーマック/増田まもる・訳 東京創元社
好きだ!!!!!!!!!(笑)
こういうの、ホントにわたしは痺れるのよね。
そうか、わたしってポストモダンが好きなのか。
次はバーセルミを読むべきなのか。
30年前に、失踪から30年ぶりに家に戻ってきた祖父は、孫のエズラに奇妙な話を伝えて息を引き取った。
祖父が家を出て船乗りをしていた頃の、乗組員が語った物語。
昔一人の医師がいて、彼は自分の妻を殺害し、遺体の一部を4人の子ども達の体内に埋め込んだ…。
祖父の話を聞き流していた30年後、医師の4人の子ども達のその後の消息がエズラの元に集まり始める。あまりにもできすぎた偶然。しかしもし故意だとするのなら、いったいどういうことなのか?
医師の事件も奇妙なら、4人の子ども達の人生がまた揃いも揃ってものすごく奇妙な、それでいて魅力的な物語になっている。誰も彼も強烈だ。読んでいてなんだかゾワゾワと鳥肌が立つ。
そして間に挟まれるA・マクロウという人物の手記の断片。兄弟姉妹が事件でバラバラになった後、1回だけ集まったことに意味はあるのか?
とにかくそのおどろおどろしい雰囲気に、恐る恐る、それでも先を気にせずにはいられずに読み進み、そして最後にわかる真実よ!
ああ、こういう作品を書いたら作家は気持いいだろうなああ、と思った。
それからこの話には、『隠し部屋を査察して』のエピソードがぽろぽろと出てくる。医師の事件もそうだし、木を植え替える話とかいろんなものを吐き出す女の話などもチラリと。
別に未読でも影響はないんだけれど、読んでおくとその辺りでもちょっと「ニヤリ」という気持になれる。出版は『パラダイス・モーテル』の方が先なんだけど、解説を見るとカナダで発表されたのは『隠し部屋〜』が先らしい。順番に読めたのはちょっとラッキーだったなあ。
読書の腕前(2007.5.24)
岡崎武志 光文社新書
おもしろかった!
読書も好きだけれど書籍蒐集も大好き、本に対する愛に溢れた「本の本」。孫引きになるけれど、吉田健一『文学の楽しみ』(河出書房新社)から引用されていた一節、
”文学から得られる楽しみはただそれだけで充分であって、それを他のことに使う気も起こらないという議論が成立する。これは間違いないことであって、人間に与えられたいろいろな楽しみのなかで文学のように精神の隅々まで行き亘って肉体はただその精神を地上に棲息させる為の道具としか思わせないものは滅多にない。”
という部分に深く深く頷いた。
”なにか「ためになる」ことがないと、本に手を出さない姿勢もいびつだ。それもこれも、「本を読む」ことのほんとうの楽しさを知らないから、いつまでたっても即効性を謳う本ばかりに手を出してしまうのである。本は栄養ドリンクではない。”
という著者の言葉も。
そうなのよね。
楽しむため、ただ純粋にそのためにわたしは読書するんだ。そしていろいろ本を読めばだんだん、自分の嗜好がはっきりしてくる。前は満足できた本に満足できなくなったり、前は全然わからなかった本が心から愉しめるようになったり、そして自分の嗜好を踏まえた上で読んだことのないタイプの本に手を出してみたり。
まだまだ暗中模索なわたしの読書の旅ではあるけれど、今までの道程を振り返ればそこに少しは自分の足あとが残っているのがわかる。
それはわたしだけの足あとだ!
おもしろそうな本もたくさん紹介されていて、こうやって目の前の世界はまたどんどんどんどん広がっていく。一生のうちであとどれだけの本を読むことができるかなあ。
わたしがもしも自分の読書量を気にするとしたら、それは未読のまま終わってしまうたくさんのとてもとてもおもしろい本たち、それを惜しいと思うその理由からだけだ。
高階杞一『早く家へ帰りたい』からの詩の引用には不覚にも涙が出そうになった。ああ、この詩だけがもつ言葉の破壊力よ。そういえば最近詩集なんて全然読んでないなあ。
しかし、そうですか、『紙つぶて』が本棚に並んでいない人が「いやあ、本っていうとさあ」なんて抜かしても、無視するにかぎりますか。orz
オリュンポス(上・下)(2007.6.2)
ダン・シモンズ/酒井昭伸・訳 早川書房
前作『イリアム』終了時点から物語が始まるので、粗筋は何を書いても『イリアム』のネタバレになりそう…。
とりあえず、遙か遠い木星から火星へ旅してきたモラヴェックのマーンムート達と、神々と人間が戦いを繰り広げる「イリアム」の世界、そしてポストヒューマンがいなくなった後の地球に残された”古典的人類”であるアーダやハーマン、ディーマンたちの人生がやっと交差する。前作同様めくるめく神話世界がシモンズ風にアレンジされ、ナノテク化され、エンタメ化された世界はとにかく壮大にして華麗。読んでいる間は本当に充実した至福の時だった〜。
ただ、どう考えてもこれで終わりじゃないよね!?という終わり方なのが不満。
運命のふたりとも言える彼らの対決はどうなったのか。などなど、いろんな謎がそのまんま残されていて、「読者の想像にお任せします」というオープンエンディングとも思えない。「続く」だよね? ちゃんと「続く」んだよね? 続いてくれないとあまりに欲求不満!!
それにしてもディーマンの成長がすごかったなあ。彼のこんな姿は『イリアム』の前半には想像できなかった。オリュンポスではハーマンを凌駕する勢い。オデュッセウスの旅の顛末も予想を超える展開で唖然。ひとつひとつのエピソードはホントに魅力的。イオのオルフの決めた道はちょっと安易な感じがしなくもなかったけれど、でも彼を含むモラヴェック達も頑張ったなー(笑)。
とりあえずお腹はイッパイ、腹ごなしをしつつ、出るに違いない続編を待つ!(笑)
ロボット(R.U.R)(2007.6.3)
カレル・チャペック/千野栄一・訳 岩波文庫
肉や骨を人工的に造り上げて人間のように仕立てた「ロボット」の大量生産に成功したドミンは、すべての人間を労働から解放しようという目標を掲げている。しかしロボット製造工場を有する島にある日、ロボットに過酷な労働を課し奴隷扱いすることに反対する女性、ヘレナが現れる。少子化が進む世界でうら若き女性の登場に工場の男達は色めき立つ…。
やがて年月は過ぎ、達成目前と思われたドミンの目標の前にロボット達が反旗を翻す。「われわれは人間より優秀なのだ」!
チャペックを読むのは初めて。
もともと戯曲を読むのが苦手なのは、地の文で説明されるような人物描写や状況説明がない分自分の頭でいろいろなことをものすごく補っていかなくてはならないから。演出家によって同じ脚本がさまざまな形で立ち現れるくらいなんだもの、戯曲というのは想像の余地が大きすぎて演出家になりきれないと非常に読むのが辛い。
この作品もその意味では苦労したけれど、とにかくものすごくストーリーに引きこまれたのであっという間に読了してしまった。役者の写真がたくさん挟まっていたのも個人的には助かったわ(笑)。
まずは「ロボット」が、今わたしたちがその言葉を聞いてイメージするような機械を組み立てたようなものじゃなくって、有機的な、まるでクローン人間のようなものだったことにちょっと驚き。しかもこの戯曲が「ロボット」という言葉の出典元だったのかー。物識らずでスミマセン…。
人間そっくりだけれど「心」を持たないロボットたちが、やがて自ら考えるようになり、自分たちの状況に疑問を感じ、彼らの労働の上にあぐらをかく人間達を滅ぼそうとする。
そんな状況を生み出すことに手を貸したヘレナ、そしてアルクイスト。
ドミンは人間を労働から解放しようとし、そしてヘレナはロボットを奴隷のような状況から解放しようとした。引き起こされるべくして引き起こされた結末に残されているのは一筋の希望なのか、それとも絶望なのか。
これって本当に、現在に至るまで、何度も何度も取り上げられているテーマだなあ、と思う。そんなテーマの出発点がこの作品だったんだと思うと感動的。そしてこの作品がこんなにも古びた印象を与えないでいられるのは、結局今にいたるまで、明確な答えが出ないままでいるからだ。
自ら造り上げた物体に「心」を与えることができたとき、それは「命」を創り出した、ということになるんだろうか。
「命」を創り出すことに成功したとき、人間は「神」になるのだろうか。
けれどこんなにあっさりと反乱を起こされるんじゃあ「神」とは言えないか。
自ら創り出した「命」に滅ぼされていく人間たち。
結末は「終焉」ともとれるし「世代交代」ともとれる。
「愛がすべてを救う希望の光」と素直に思えるような単純な結末じゃあ、ない。
黄昏の百合の骨(2007.6.3)
恩田陸 講談社
『三月は深き紅の淵を』から生まれた理瀬シリーズの3作目、かな。
前作『麦の海に沈む果実』で丘の上の学園を出ていった理瀬はイギリスに留学していたが、祖母の遺言によって祖母の遺した屋敷のある日本に舞い戻ってきた。その遺言とは「水野理瀬が半年以上ここに住まない限り、家は処分してはならない」というもの。果たして祖母の真意はどこにあるのか。
戻ってきた屋敷には彼女とは血の繋がらない二人の叔母・梨南子と梨耶子がすでに暮らしていた。微妙なバランスの上に成り立つ女3人の生活だが、やがて理瀬はその屋敷にまつわる不穏な噂を耳にする…。
素直におもしろかった。
ストーリーも破綻してないし、尻つぼみになることもなく、それどころか緊迫感が持続して最後までぐいぐい読ませる。正統派のミステリじゃないかー!
自らを「悪の側」と自認し、その世界で生きていく覚悟を決めている理瀬。悪の側に憧れつつもそこでは生きていけないことをやがて自覚する彼女の従兄・亘。
自分とは違う世界に生きているとわかっていながらも理瀬が心を揺らせる雅雪。
理瀬に淡い憧れをもつ病弱な少年すら登場する。
信用できるのは誰で、信用できないのは誰なのか。
物語に漂う不穏な空気をひしひしと読者に感じさせるのは恩田陸にはお手のもの。
このシリーズはやっぱりかなり好きかもー。
安徳天皇漂海記(2007.6.7)
宇月原晴明 中央公論新社
西暦1275年、文永の役の翌年に、博多の湾を一望する崖の上に結ばれた庵に住む老人を宋から来た男たちが訪れた。何度も足を運んだ末に彼らが老人から聞いた信じがたい物語。源平の合戦での恨みから荒ぶる魂となった幼帝・安徳天皇を、源氏の裔である源実朝が鎮めたというのだ。ニニギノミコトが降臨するさいにくるまれていたという神器・琥珀のごとき真床追衾(まどこおうふすま)にくるまれ、安徳天皇・言仁は漂海を続ける。男たちからの報告を受けたマルコ・ポーロは…。
あまりにも切ない、幼帝安徳天皇の漂海記。まずは第一部、実朝の苦悩にやられた。歌を愛した実朝は幼帝の無念を鎮めるために生きる。海の彼方には幼帝と同様に無念を呑んで出奔した高丘親王がいる。彼の魂の元ならばきっと幼帝も安らぐことができるはず…。自分のすべてを幼帝のために捧げようとする実朝とそれを見守る語り手である従者。怪しい天竺丸もいい味出してます。
そして第二部がまた!
実朝と共に漂海を始めた安徳天皇が広州の島でもう一人の幼き廃帝と出会う。お互いにとって初めての同年代の少年、同じ境遇の少年との交流。言仁に憧れ、かくなりたいと切望するもう一人の幼帝もまた、哀しい。意志とは無関係に帝として育てられ、祭り上げられ、そして廃されたふたりがお互いにとってどれだけ必要だったか。しかしやがれ別れは訪れる。
なんというか、読み終わって呆然。
ほんとに上質のファンタジー。
いろんな史実を絡めて、それをすべて蜜色の輝きを放つ物語へと変えてしまう著者の手腕に脱帽ですわ。
小林秀雄の「実朝」、太宰治「右大臣実朝
」、花田清輝「小説平家
」。この3作はぜひとも読みたくなった。もちろん渋澤の『高丘親王航海記
』も再読したい!!
朝日のようにさわやかに(2007.6.5)
恩田陸 新潮社
『黄昏の百合の骨』を読んでから立て続けに読了。理瀬シリーズかと思ったら、たしかに理瀬シリーズも含まれてはいたけれど短篇集だった。
で、理瀬の去った後のヨハンの学園生活を描いた「水晶の夜、翡翠の朝」はヨハンの黒さが出てて(笑)いい感じだったんだけど…。
収録作全14作、どれもイマイチわたしの心には響かなかったかな…。なんというか、どれもすごくサラーっと書いちゃったような印象で。どの作品もテイストが違って、バラエティ豊か、しかも発想が斬新、次々と目の前に現れる世界にもっと胸を躍らせることができた気がするのに。
なぜか、片手間な印象が拭えない。
いや実際はどうだったか、そんなことじゃないんだけれど。
あまりにもサクサク読めてしまうからなのか。
いつも宮部みゆきを読んで感じるような印象を、今回は受けてしまったわ…。
(収録作:「水晶の夜、翡翠の朝」、「ご案内 あなたと夜と音楽と」、「冷凍みかん」、「赤い毬」、「深夜の食欲」、
「 いいわけ」、「一千一秒殺人事件」、「おはなしのつづき」、「邂逅について」、「淋しいお城」、
「楽園を追われて」、「卒業」、「朝日のようにさわやかに」)
風に舞いあがるビニールシート(2007.6.9)
森絵都 文藝春秋
直木賞受賞で話題になった森絵都の一般小説(児童小説じゃないって意味ね)の3作目。初めての短篇集。
天才的なケーキの腕に惹かれて自分の夢を捨てヒロミの秘書になることを決めたものの、彼女に振り回されっぱなしの弥生(器を探して)。
専業主婦として何もせずゆるゆる年を重ねていくことに疑問を感じ、犬の里親探しのボランティアを始めた恵利子(犬の散歩)。
昼はバイト、夜は大学の夜間部に通うものの卒業のための単位が危機的状況となり、社会人学生の守護神として伝説になっているレポート代筆の達人、ニシナミユキに最後の望みを託す裕介(守護神)。
仏像の修復師として訪れた寺で出会った不空羂索観音像に強烈に惹かれ、修復と言える範囲を超えるほど作業にのめり込んでいく潔(鐘の音)。
取引先の誇大広告が原因でその社員とともに顧客の家に謝罪に行くことになったものの、道中で衝撃的なジェネレーションギャップを感じる健一(ジェネレーションX)。
そして転職先の国連機関で知り合った上司のエドと結婚したものの、彼との結婚生活を貫くことができなかったことを今も悔やむ里佳(風に舞いあがるビニールシート)。
こうして並べていくと見事に舞台も、主人公も、バラバラだ。けれどどれもきっちりと料理してみせる森絵都の手腕はお見事。最後の短篇だけはちょっと個人的には上滑り感を禁じ得なかったんだけれど、あとはどれも好き。
特に好きなのは一番最初の「器を探して」。普通に同僚(上司?)に振り回され、恋人との仲がそれによって不安定になり、恋か仕事か悩むキャリアウーマンの話かと思ったら最後の最後でゾワッと鳥肌が立った。いやホラーじゃないんだけど(笑)。今まで見せられなかった札をさらっと表に返された感じ。ちょっと山本文緒的なものを感じたわ。
それから「ジェネレーションX」もよかったわ。なんだかホワンと暖かくなって。
直木賞受賞作だけど(だけど!?/笑)、かなり上質の作品集。
やっぱりこれからも森絵都は目が離せないな〜。
(収録作:「器を探して」、「犬の散歩」、「守護神」、「鐘の音」、「ジェネレーションX」、
「風に舞いあがるビニールシート」)
あなたの人生の物語(2007.6.18)
テッド・チャン/浅倉久志他・訳 ハヤカワ文庫SF
なんていうか、ものすごく質の高い短篇集。どの短篇も、長編を読むのと同じくらいの厚みというか、深みというか、そういう手応えがある。
「バビロンの塔」は天に向かって聳える塔を作る人々の物語。どこまでも伸びる塔はやがて空にたどり着く…。山尾悠子の「遠近法」を連想させた。
「理解」は人工的に知識を高めた男が目的を定めて行動し、やがて一人の人間に出会う。「アルジャーノンに花束を」みたいな話なんだけれど、たどり着くところはまるで違う。
「ゼロで割る」は数学者がこれまでの自分の研究をすべて無にするような発見をしてしまう。うーん、数学自体はわたしは全然わからないけれど、でもこういう、自分を完全に否定されてしまうという辛さは、わかる気がするわ。
「あなたの人生の物語」は、ある母親が娘に語りかける物語。彼女は地球にやってきたヘプタポットというエイリアンの言語を研究し、やがてその言語を通じて人類が獲得していない物の見方を確立していく。
「七十二文字」は子どもが生まれなくなった世界で人類を生き延びさせるための研究に没頭する男たちの物語。未来と過去が絶妙に混じり合っているような世界の描き方がすごく好きだった。
「人類科学の進化」は、新人類が世界の主流になっていくなか残された旧人類たちが自分たちのアイデンティティを確立させようとする物語、だとわたしは受け取ったんだけれど、ちょっと自信がなかったりして(苦笑)。
「地獄とは神の不在なり」は天変地異のように天使が唐突に現れては地上を破壊していくような世界で、失った妻と同じ天国に行くためだけに、神を信じようとする無神論者の物語。宗教の話はいつも取り扱いが難しいなーと思うんだけれど、これは『沈黙』のような深さを感じた。
「顔の美醜について」は顔の美醜を認識できなくなる機能をつけるべきか、つけざるべきかで世間が侃々諤々の騒ぎになる様子をインタビュー形式で描いた作品。これも興味深かったわ。結局どっちが正しいんだろう。どっちの意見もものすごーーーくよくわかる。わたしの時代にこんなものがあったら、わたしはつけてほしかっただろうか。わたしの子ども達につけたいと思うだろうか。
どの話も、読んだ後でいろいろと考えを巡らせて、ずっとその物語に浸っていられるような話ばかりなのが素晴らしいと思った。こういうのがわたしは好きなんだ、と改めて。
ぜひ今度は長編を!と思うけれど、短篇でこれだけの作品を描くということは、同じ濃度で長編となるとすごくエネルギーを使いそう。ものすごく読みたいけれど、難しいかなあ。
とにかく非常に読み応えのある、読む価値のある物語たち。
出逢えてよかった!
(収録作:「バビロンの塔」、「理解」、「ゼロで割る」、「あなたの人生の物語」、「七十二文字」、
「人類科学の進化」、「地獄とは神の不在なり」、「顔の美醜について――ドキュメンタリー」)
死者の書(2007.6.20)
ジョナサン・キャロル/浅羽莢子・訳 創元推理文庫
教師のトーマス・アビイはとある古書店で熱愛する童話作家マーシャル・フランスの稀覯本を発見して狂喜するが、その本はすでに売約済みだった。その童話を手に入れた女性・サクソニーはトーマスがフランスの伝記を書きたいと思っていることを知り、本を譲った上で伝記制作の助手を申し出る。二人はフランスの故郷の町を訪れるが、その町はどことなく何かが違っているのをトーマスは感じる。やがて次々と不可思議な事件が…。
「コトバの力」を描いた一冊。
怖い怖いと聞いていたのでかなり警戒しながら読み進めたんだけれど、いつまでたっても怖くならない(笑)。けれど、気づくといつの間にか、作品は不穏な気配でいっぱいになっているのだ。この、少しずつ少しずつ、不安が高まっていくような作品の書きぶりがすごい。ちょっと他に例が思いつかないんだけれど、強いて言えば恩田陸っぽい。
名高い衝撃のラストは残念ながら予測がついてしまったんだけれど、そこへたどり着くまでの課程で思いっきり愉しめたのは確か。小説に片足どっぷり浸かったような生活をしていると、この結末はすごく嬉しいというか、同志を見つけたような心強い気持になった。って、こんなラストを読んで嬉しがってるのはわたしだけなのか(笑)。
ただ、個人的な好みを言えば『月の骨』の方が好きかな。物語としては。
でも、キャロルはもしかするとものすごく大切な作家になりそうな予感。もう少しいろいろ作品を読んでみなくては。
陋巷に在り(全13巻)(2007.6.26)
酒見賢一 新潮文庫
今年の2月からボチボチ読んでいた大長編。
陋巷とは日本の長屋の並ぶような区域のこと。
孔子の三千人の弟子の中で、孔子自らが「好学」と称えたの願回ただ一人だった。しかし願回は終生出世の野心を持たず、貨殖の才もなく、武芸にも秀でず、弁舌の才もなく、ほとんど無為の人であった。
しかし、彼は後代、孔子が神格化されるにつれ「亜聖、復聖」とまで称され、仰がれるようになった。
それは一体何故だったのだろうか?
北方水滸伝のような、スリリングでエキサイティングな、ページをめくる手が止まらないようなエンタメ小説だと思っていたら全然違ってびっくり。物語をすすめる筆は、あっちへ寄り道、こっちへ寄り道。ぜんぜん話が進まないんですけど!(笑)
考えてみたら後宮小説だってわりとこういう話の進め方な作品だったんだから、予想できそうなものだった。
けれど面白くないわけでは全然ない。気になるスピード感のなさも後半どんどん解消されていくし、 語られる蘊蓄はいちいち興味深い。日本の仏教式のお葬式の他宗教っぷりとか、「仁」や「儒」といった漢字のそもそもの由来とか。
話が進まない最初の巻を頑張って越えられるかどうかが読破の決め手かも(笑)。
1巻目はなんだか苦行のように読み進み(苦笑)、2巻目で悪役やサイキックな場面が出てきて勢いがつき始め、3巻で非常に魅力的な悪女が出てきてからはぐいぐいおもしろくなる。とにかく願回の宿敵とも言える子蓉が素晴らしい。この上なく恐ろしく、この上なく哀しい女性で、彼女が悲劇的場面に陥ると本当に同情したくなる。まるで姫川亜弓の演じた吸血鬼カーミラのよう(笑)。彼女の他にも後半出てくる凛とした存在感の孔子の母・徴在や、神様なのになんだか茶目っ気のある祝融など、女性の存在感が強烈な作品だった。それに引き替え主役の願回はなんだかいつも情けなく、孔子は結局よくわからない人物で、さえなかった…。もしや彼らは女性たちの引き立て役だったんだろうか(笑)。
最終巻、物語は唐突に終わる。
わたしはその先の願回も見たかったな。たとえ「陋巷に在らず」であったとしても。