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著者名 タイトル 出版社 瀬名秀明 あしたのロボット 文藝春秋 カート・ヴォガネット・Jr プレイヤー・ピアノ ハヤカワ文庫SF 新井素子 チグリスとユーフラテス 集英社 ロバート・J・ソウヤー イリーガル・エイリアン ハヤカワ文庫
チグリスとユーフラテス
新井素子 集英社
以下の文章は新井素子ファンの方は読まないようにお願いいたします(笑)。
周囲で絶賛の声をかなり聞き、結構期待していたお久しぶりの新井素子は、やっ
ぱり新井素子だった…。
ストーリーは多分、すごく面白い。テーマもかなり、重い。「生きることに意味があ
るのか?」てなもんで。
でももうとにかく、文体がダメ。中学生の頃はこの文体がすごーく好きだったのだ
けれど。「まだ三十代半ばの自分がそういうことを言われると…あ、駄目、何かダイ
アナ、体中から力が抜けてゆきそう。」(p123より抜粋)って、こーいう文章が地の
文として出てきてしまうんだから、もう体中から力が抜けてゆくのはこっちだ!!み
たいな(^-^;)。
マリアも、ダイアナも、朋美も、挙げ句は地の文までがこういう調子で、特にダイア
ナはとてもじゃないが優秀な惑星管理局員とは思えない。しかも最初のマリアの章
からアカリの章に至るまでの文章の形が統一されていない、というか、美しくない。
それから句読点も多すぎてイヤ。
せっかくのストーリーが文体のせいで全く味わえずに終わってしまった感じ。とに
かく気になって入り込めないのだ。
こういうことを言うのは反則だと思うけれど、このプロットで、別の作家の人が書い
てくれた作品を読みたかったなあ…と思ってしまった。
プレイヤー・ピアノ(2003.1.7)
カート・ヴォネガット・Jr/浅倉久志・訳 ハヤカワ文庫SF
最初は読みづらかった。字が小さい…(笑)。そして、やっぱり海外翻訳物って独特
の文章スタイルがあって、入り込むのにいつも多少時間が掛かってしまう。
けれどそれに慣れてきてからは、どんどん物語に引き込まれた。ヴォネガットはこれ
が初心者のわたし。解説に初めてヴォネガットを読むには最適の書、みたいなことが
書かれていたけれど、確かにわたしの場合は幸福な出会いをすることができたと言え
るだろう。
近未来の象徴をパンチカードで表す、ということが示しているように、現実の現在
と引き比べてみると確かに古さがあるにもかかわらず、それでもなおこの物語は現代、
そして近未来の物語としてリアリティを失っていない。
ほとんどの仕事の内容が機械に取って代わられることによって、生活的には豊か
になる(自動食器洗い機に乾燥機、全自動洗濯乾燥機などがすべての家庭に行き
渡り、すべての人々が医療健康保険に加盟できるあたりはまさにアメリカの理想って
気がする)にもかかわらず、人間の尊厳は地に落ちた世界。テストによるIQの数値
で人生のレールは機械があっという間に敷ききってくれる世界。自分の価値がパン
チカード1枚に全て納められてしまう世界。
主人公ポール・プロテュース博士は輝かしい未来が約束されているにもかかわらず、
その幸せをまったく実感することが出来ない。
自分から捨てようとした社会を捨てる前に捨てさせられ、自分で選び取ろうとした
革命に身を投じる前にすでに先導者に決められているポールは、まさしくイニシャル
P・Pの表すように、決められたパンチカードどおりに演奏を続けるプレイヤー・ピアノ
のよう。
ヴォネガットは人物の書き分けが上手い。主人公のポールを始め、自分の設計した
機械に自分の仕事を奪われることになったバッド(この訳が関西弁なのがまたいい)、
ポールの元(?)親友フィナティー、牧師のラッシャー、悪妻(?)アニータなどなど、登
場人物どれもが個性的で、際だっている印象。欲を言えば、天才とも言えるフィナティー
がなぜそこまでラッシャーに傾倒していったのか、その辺りがちょっとわからないかな…。
あしたのロボット(2003.2.3)
瀬名秀明 文藝春秋
読んでいてホントに胸が切なくなる一冊。
近未来を舞台にした、ロボットを巡る連作中編なのだけれど、今までのロボット物
(?)とはひと味もふた味も違う。「ハル【たましいと身体】」、「夏のロボット【来るべき
邂逅】」、「見護るものたち【絶望と希望】」、「亜希への扉【こころの光陰】」、「アトムの
子【夢みる装置】」の5本の中編と、それぞれの間に挟まれた形の中編「WASTELAND」
が収録されているんだけれど、それぞれがなんとも独特な持ち味。
瀬名秀明は『パラサイト・イヴ』で有名になった作家だけれど、こちらは全く別の作者
の作品のようだ。『パラサイト〜』だけ読んで瀬名秀明を読んだつもりになっている人
にはぜひぜひ読んで頂きたい(ちなみにわたしは『ブレイン・ヴァレー』は未読…)。
テーマは、なんだろう。ロボットに心はあるか?みたいなことなんだけれど、ロボッ
トにだって心はある!という作品とは一線を画している。鉄腕アトムがいかにロボット
研究に影響を与えたか、ということも書いてあるんだけれど、これも功罪がともに大き
くて考えさせられてしまう。
瀬名秀明の描く未来は、ロボットが家庭まで入り込んでいるけれども、今のこの時
代とまったくの地続きの世界だ。タイムマシンは発明されないし、人類は未だ地球か
ら飛び出してもいない。相変わらず東南アジアには撤去されないままの地雷が残っ
ている。
そんななかで、ロボット開発に携わる研究者達は、ロボットのあるべき未来を描き
あぐね、悩み、日々もがき続ける。
読み終わって、切ないけれど、ほんのりと心が温まるような一冊。