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著者名 タイトル 出版社
池永陽 アンクルトムズ・ケビンの幽霊 角川書店
村山由佳 すべての雲は銀の… 講談社
東野圭吾 手紙 毎日新聞社
森絵都 永遠の出口 集英社
伊井直行 お母さんの恋人 講談社
現代児童文学研究会・編 だれかを好きになった日に読む本 偕成社
G・ガルシア・マルケス 百年の孤独 新潮社
トマス・ピンチョン 競売ナンバー49の叫び 筑摩書房
村上春樹 海辺のカフカ(上・下) 新潮社
新井素子 ハッピー・バースディ 角川書店
丸山健二 千日の瑠璃 文藝春秋
コーマック・マッカーシー すべての美しい馬 早川書房
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千日の瑠璃(上・下)
丸山健二  文藝春秋


 まほろ町と世一少年と、彼に拾われたオオルリの1000日間。最初はその文章
のカッコヨサにうっとりし、次いで次々とリレーのバトンを渡してゆくように変わりゆ
く語り手に感心し、1日1日がぴたり1ページ、それがぴたり1000日できっちりと
1つの物語が語り切られることに驚嘆した。これってものすごい力量が必要なこと
なんじゃないの??

 登場人物は誰もが欠点のある、良くも悪くも人間らしい人間ばかり。そして語ら
れるのは、ありがちな現実。語り口調からかなりファンタスティックな内容をイメー
ジしていたけれど、大間違いだった。
 それでも生きてゆくまほろ町のすべての人たちが、幸せになれたらいいのに。
世一の最期は…あれでよかったのか、わからないけれど。




すべての美しい馬
コーマック・マッカーシー/黒原敏行・訳  早川書房


 最初の数ページはすごく、よみづらかった。いきなり「彼は」「彼女は」という記述
で誰のことを指すのかわからない分が頻繁に出てきたり、句読点のない長文が続
いたり、会話文がかぎ括弧でくくられていなかったり。けれどその文章が、独特の
雰囲気を醸し出している。これって日本語訳独特のものなのかしらん。
 16歳のジョン・グレイディは牧場で生きていくことしか考えられない、馬をこよなく
愛する少年だが、祖父の死で故郷の牧場を売り払われてしまう。彼は親友で一つ
年上のロリンズと家を出、メキシコに不法入国して自分を雇ってくれる理想の牧場
を探す。
 話はどんどん思わぬ方向へ展開していき、中盤以降はぐいぐいと読めた。ジョンは
16歳とは思えない達観した、というか突き放した物の見方をする少年だけれど、ア
レハンドラとの恋では16歳らしい情熱を見せたりして、魅力的だ。ラストは余韻の
残る映画のよう。映画化されたんだっけ?
 たしか続編があるはず…。機会があったら探してみたい。




ハッピー・バースディ(2002.12.22)
新井素子  角川書店


 良くも悪くもやっぱり新井素子。なんだけれど、今回は新井素子の良さを再認識
させられた。そうなんだよねえ、新井素子のこの、前向きさがとても好きだった。
かつての著書、『いつか猫になる日まで』を彷彿とさせる前向きさ。まあこの本は
ちょこっとひねくれた前向きさになっているけれど、それはそれでよし。

 文体はやっぱりすでにわたしの体質が受けつけなくなっているんだけれど、でも
今回は、読んでいるうちにそれ自体には慣れることができた。内容が文体と乖離
していなかった、からかなあ。

 主人公、沢木あきらは黄金の時を迎えている。大好きな大好きな編集者の夫
の勧めで書いた処女小説が新人賞を受賞し、次々と取材が舞い込み、私生活と
仕事がともに絶好調なのだ。しかし、彼女の郵便受けに舞い込んだ一通の手紙
が彼女の生活を一転させる。そこに書かれていたのはたった一言、「いい気にな
るなよ」。あきらが一番言われたくなかった一言だった…。

 って、最初の展開は、「これからホラーになるのかな…」という感じだったのだが、
話はどんどん脱線(?)し、気がつくとこれが、前向きな人間成長記になっていく
(ちょっと違うか/笑)。裕司も、裕司の母親も、すごくいそうだよなあ。

 あきらも、裕司も、最悪の形でお互いの人生に接点を持ったんだけれど、最後に
は結局、お互いのおかげで飛躍的に成長できたんだよね。

 よんで良かった一冊、になるのかな。



海辺のカフカ(上・下)(2003.1.12)
村上春樹   新潮社


 とりあえず、上巻半ばでいきなり貧血を起こして倒れそうになった。あんまり世の
中に村上春樹を読んで貧血になる人間っていないんだろうなあ(涙)。だって残酷
シーンは苦手なんだもん、しくしく。

 今回の村上春樹は二つのストーリーが一章ずつ交互に語られて、やがてひとつ
の物語になっていく…という、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を
彷彿とさせる構造。相変わらず読みやすくてわりとすらすらと読めた…のはいいけ
れど、読み終わっても「????」という感じで、消化不良気味。

 マジック・レアリズム的な、不思議なことが当たり前のように起こるその世界観は
いいとして、なんだか意味のない(としか思えない)セックス、あるいは性的な描写
が多すぎる。例えば前半でナカタさんが自分の影を半分失うきっかけになった事件、
あの疎開先の教師がうち明ける真相は、わかるようで全然わからない。だいたい
山に登る日に実は生理が始まっていた、で済む話じゃないのかー??
 後半でホシノちゃんがポン引きに合うシーンもあるけれど、あれも必要性が全然
わからない。

 なぜ父親は息子に呪いをかけたのか、なぜナカタさんだけが子ども達の中でひ
とり影を半分失うことになったのか、そもそもさくらは姉じゃないんじゃないのか、
等々、疑問点満載。ジョニー・ウォーカーとカーネル・サンダースの目的も結局よ
くわからないし…。誰か説明してくださいー(涙)。



競売ナンバー49の叫び
トマス・ピンチョン/志村正雄・訳   筑摩書房


 以下、ネタバレ表現があります。

 表題の「競売ナンバー…」と、短編「殺すも生かすもウィーンでは」を収録。
 まず「競売ナンバー…」だけど、難しかったー。レメディオス・バロの絵が象徴的
に使われていてバロにはちょっと興味が湧いたけれど、何せよく分からない内容
な上に注釈がめちゃめちゃ多い! 同じ著者の『V.』ほどではないにしろ、苦戦し
た。珍しくも二度読んで、二度目でようやく五割くらい話がわかったかな…。

 ヒロインのエディパは結婚前につき合っていた大富豪・ピアスが死んでいきなり
「遺言執行人」に指名される。戸惑いながらも共同遺言執行人・メツガーと会い、
ピアスの街とも言えるサン・ナルシソ市へ行くが、彼女はそこで謎の言葉「トライス
テロ」と出会う。その言葉を調べていくうち、それが本当の組織なのか生前にピア
スが仕組んだ壮大なひっかけなのかわからなくなってくる。この辺はまるでマイケ
ル・ダグラス主演の『ゲーム』のよう(映画は最低のエンディングだけど)。

 エンディングは「えっ、ここで終わり!?」とビックリ。凄すぎる。そのうちまた読み
返したら、もう少しは読み解けるかしらん…。

 もう一遍「殺すも生かすも…」は、後味が悪くて個人的には好きじゃない。一緒に
読んだ人たちには爽快、という意見もあったけれど。



百年の孤独
G・ガルシア・マルケス/鼓 直・訳  新潮社


 面白かった!! 個人的にすごく好みな小説。大河小説だ。
 架空の町・マコンドを創設(というのかなあ)したホセ・アルカディオ・ブレンディー
アから始まるブレンディーア家の孤独な百年の歴史。それは町の始めから町に関
わってきたジプシー、メルキアデスによって羊皮紙にサンスクリット語を用いた暗号
で記される。ブレンディーアの末裔、アウレリャーノ・バビロニアがその解読に成功
したのは、まさにマコンドとともにブレンディーア家の歴史に幕が下ろされるその瞬
間だった。
 「最初の者は樹につながれ、最後の者は蟻のむさぼるところとなる」…すごい予
言だよな…。ラストの方は結構、鳥肌が立った。なんというか、「すごい!」って感じ
で。手元に置いておきたい!と思わせた久しぶりの一冊。
 読んだのは図書館で借りた旧訳なのだけれど、手元にはその後出された新訳
が。こっちはまだ読んでないんだけどね…(^-^;)。



だれかを好きになった日に読む本(2003.5.20)
現代児童文学研究会・編  偕成社


詩:たかしくん(谷川俊太郎)
リボンをつけて(森 忠明)
吉沢くん(河野貴美子)
初恋(三木 卓)
詩:練習問題(阪田寛夫)
夜(松谷みよ子)
観音だんご(長崎源之助)
恋狐(渡辺茂男)
そり(神沢利子)
詩:燈台(大久保テイ子)
草原(加藤多一)
電話がなっている(川島 誠)
The End of the World(那須正幹)

 以上を収録したアンソロジー。字の大きさや漢字仮名遣い・るびの振り方から見
て対象は小学校高学年くらい?? そ、それにしてはダークな…。
 前半はまだいいとして、「そり」や「電話がなっている」なんかは、これホントに児
童文学なんだろーか?という感じ。個人的には好きだけれど…。かなり暗くて深い
内容で、ホントにこれが小学生に理解できるとは思えない…。ぜひ大人になって
から読み返してもらいたい(笑)。



お母さんの恋人(2003.5.31)
伊井直行   講談社


 個人的に非常に好きな『濁った激流にかかる橋』の姉妹編(?)とでもいうよう
な作品。前作で出てきた、激流によって左岸と右岸のまっ二つに分断されたある
町を舞台にした長編。

 その町の真ん中には濁った激流と化した川が流れている。川を境に町は左岸
と右岸とに分かれ、比較的豊かな左岸と、そうではない右岸とは何十本もの車用、
歩行者用、自転車用、鉄道用などの橋の複合物で結ばれている。そんな橋の袂
で、「お父さん」とその親友は「お母さん」と初めて出会ったのだった…。

 どこかファンタジーな作風は前作のまま。物語はわりと大きな山場もなく淡々と
流れていくのだけれど、その流れに任されるような読書が心地いい。ただ、個人
的には前作の方がダイナミックでよかったな…。さいづち頭の一族、とか、前作は
町の人々が本当に独創的かつ印象的だったので、今回登場人物が絞られて、
かつわりと普通な人々なのが少し物足りない感じ。あまりにも前作の衝撃が強す
ぎたのかなあ。



永遠の出口(2003.6.20)
森絵都   集英社


 森絵都が初めて児童文学の枠を越えて綴ったということで、かなり話題になっ
ていた作品。森絵都はキライじゃないので、手に取ってみた。あちこちでかなり評
判がいいのと共に、受け入れられる世代が非常に限定されている、という噂もあ
って気になっていた。

 主人公の紀子の小学生時代から、高校を卒業するまでを描いた作品。初めて
抱いた淡い恋心や友達との触れあい、陰湿な担任教師と生徒達との対立を描い
た小学生時代、厳しい規則に縛られて学校からも家からも疎外感を味わい、自
分の居場所を他の場所に求めた中学生時代、そして初めて「彼氏」ができ、その
想いに振り回された高校時代…。昭和40年代生まれのわたしは作品が描く時
代とまさに同時代を生きてきたため、その生々しさは身悶えするほど。ああ、わた
しはずっとこういう物語を書きたいと思っていたのだ、とすら一瞬錯覚した(笑)。
 読後感も爽やかで、なんというか自分のアルバムをゆっくりめくって、本を閉じ
たところでその延長線上にいる自分を発見した、というような。

 ただ、それでも。
 これは確かに、あまりにも対象の世代を限定しすぎているような気がする。こ
の本をわたしの親が読んでもけしてわたしと同じように身悶えするような思いは
しないだろうし、これをわたしの子ども達が大きくなってから開いても、彼らはけ
してこの本の中身を理解することはできないんじゃないか、という気がする。そ
れだけこの本は時代を反映し尽くしている。

 たとえば同年代の人たちと集まって、昔のTV番組で盛り上がったり、流行っ
た遊びを数え上げたり、この本の楽しさはそういうところにある。それは本当に
楽しいのだけれど、その時代をちょっとはずれるとまったくその話の内容は意
味不明。たのきんトリオも、リトルツインスターズも、ホテルニュージャパン火災
も、その固有名詞で「おおっ!」と思える世代というのは限られているのだ。

 確かにその中でも普遍的と言えそうな思春期の心の動揺とか、そういうもの
はあるんだけれど…。この本に限って言えば、そういう部分はものすごく少ない。

 考えてみると、この作者の『つきのふね』も、かなり受け入れられる世代が
限定されるよね…。逆に、受け入れられる世代からは猛烈に受け入れられる
んだけれども。それってどうなんだろうか。



手紙(2003.7.6)
東野圭吾   毎日新聞社


 竹島直貴は高校時代から不幸に見舞われ続けている。大学進学は諦めねば
ならなかった。卒業後の就職先もなかなか決まらなかった。やっと人生を賭けら
れるものを見つけた、と思った音楽の道も、デビュー直前に閉ざされた。初めて心
から愛した人との付き合いも相手の両親から大反対を受けた。
 それには理由がある。彼の兄が強盗殺人犯で服役中だからだ…。

 犯罪者の家族だという理由で、社会から差別され続ける直貴。そして彼の元に
定期的に兄から送り続けられる手紙。悪いのは兄なのか、社会なのか、それと
も犯罪者の家族に生まれついたそのこと自体なのか。かなり考え込まされる内容
だ。

 今まで仲良くしていた人間が実は殺人犯の弟だった、と聞いて、まったくうろた
えずにいられる人間はどのくらいいるだろう。最後に直貴がした選択が正しいか
どうかわたしには正直言ってわからない。が、彼を責めることはもちろんできない。
誰もが自分を、そして大切な人を守って生きて行かなくてはならないのだ。



すべての雲は銀の…(2003.8.15)
村山由佳   講談社


 失恋の痛手から立ち直ることができず、すべてのことから逃げ出して親友のす
すめで信州のペンションに住み込みでバイトをすることになった祐介。そこで出
会った人たちはみな、心に何かしらの傷を抱えながら生きていた。

 なんていうか、ありがち(笑)。
 とくに驚くような展開があるわけでもなく、ゆるゆると流れる時間のなかで、甘っ
たれの祐介も少しずつ成長していく、というような青春小説で、出てくる人たちも
なんというか類型的なんだけれど、それでもやっぱり読み終わって気分がいい。
「ああ、こういう気持、あったあった」みたいな、自分の青春を懐かしむ感じ(笑)。
読んでいて自分のことでもないのに赤面したりして。
 いいなあ、こういうの。個人的には結構好き。でも好みは分かれるかも。ちょっ
と説教臭いし(笑)。

 それにしても読んでいて、瞳子さんはどうしてもRIKACOのイメージになってし
まったのはナゼ!?(笑)



アンクルトムズ・ケビンの幽霊(2003.8.20)
池永陽   角川書店


 小さな鋳物工場に勤める西原は、自分より収入の多い妻に卑屈になりがちな
中年男性。工場の社長から違法滞在で働いている、チャヤンを始めとする3人の
タイの若者を入国管理局に密告するよう指示されている。そうすれば彼らの未払
いの給料を支払わずに済むからだ。小さな工場の経営はそれほど厳しい。西原
は両者の板挟みになって悩んでいる。

 チャヤンらのもとに転がり込んできたホームレスの少女・フウコ。路地で歌を歌っ
て日銭を稼ぐ彼女に、西原は少年時代に深く関わった在日の少女・スーヤンの面
影を重ねる。マンガン鉱山で住み込みで働く母とともに過ごした少年時代、彼女と
過ごした日々は苦い思いでしか思い出すことはできない。そこには在日に対する
差別が深く関わっていた…。

 今の日本に存在するたくさんの差別が、入れ子のようになって描かれている。
妻の収入が自分より多いことに卑屈になる西原は無意識に男女差別をしている
し、工場の社長は明確に外国人労働者を差別している。西原が少年時代を過ご
した鉱山では在日朝鮮人差別が横行していたし、同じ外国人労働者同志の間に
すら差別は存在する。

 読んでいて暗ーい気持になってくる。
 言わんとしていることはわかるし、読みやすくてそれなりにおもしろいんだけれ
ど、なんとなく、読んでいるうちに本の奥にも無意識の差別が横たわっているよう
な気がしてくる。

 でもまあ、そういうものに気付かせてくれる、という意味では一読の価値がある、
かな。



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