fantasy


著者名 タイトル 出版社
ロアルド・ダール チョコレート工場の秘密 評論社
フィリパ・ピアス トムは真夜中の庭で 岩波少年文庫
いしいしんじ プラネタリウムのふたご 講談社
スーザン・クーパー 影の王 偕成社
スーザン・クーパー 闇の戦い4 樹上の銀 評論社
上橋菜穂子 虚空の旅人 偕成社
ロバート・シルヴァーバーグ編 伝説は永遠にA ハヤカワ文庫FT
スーザン・クーパー 闇の戦い3 灰色の王 評論社
梨木香歩 マジョモリ 理論社
スーザン・クーパー 闇の戦い2 みどりの妖婆 評論社
スーザン・クーパー 闇の戦い1 光の六つのしるし 評論社
ル=グウィン ゲド戦記X アースシーの風 岩波書店
スーザン・クーパー コーンウォールの聖杯 学習研究社
マーガレット・マーヒー めざめれば魔女 岩波書店
マーガレット・マーヒー 足音がやってくる 岩波書店
伊藤遊 えんの松原 福音館書店
ジョージ・R・R・
マーティン
七王国の玉座(上・下) 早川書房
ピーター・S・ビーグル 心地よく秘密めいたところ 創元推理文庫
長野まゆみ 野ばら 河出書房新社
C・S・ルイス ナルニア国ものがたり(全7巻) 岩波書店
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ナルニア国ものがたり(全7巻)(2003.1.22)
C. S. ルイス/瀬田貞二  岩波書店


 誰もが知っているファンタジーの名作。いろいろ出ているらしいけれどわたしは
図書館で岩波のオーソドックスな箱入りのを読んだ。巻の順番は出版順。それ以
外にナルニアの年代順になったものもあるらしい。

 内容は、1巻から順に『ライオンと魔女』、『カスピアン王子のつのぶえ』、『朝び
らき丸 東の海へ』、『銀のいす』、『馬と少年』、『魔術師のおい』、『さいごの戦い』。
6巻まではおもしろくて一気に読めた。さすが名作。こどもの頃に読んでなかった
のが本当に悔やまれるー。

 のだけれど、最終巻『さいごの戦い』を読んで驚愕。こうなっちゃうなんてアリ!?
(以下ネタバレします)

 まあ全体的にそこはかとなくキリスト教的な考え方は漂っていたのだけれど、7
巻はキリスト臭バリバリ。ナルニアから開かれたドアを、選ばれた者だけが通り抜
けてくる場面なんてまるまる最後の審判。そこまではいいとして、ラスト。結局死ん
だ方がしあわせってことなの!?
 確かにキリスト教って現世ではなく天国にあるような宗教だから、それでいいん
だろうけれど、個人的にはかなり抵抗があった。さらに4人兄弟のうちナルニアで
の経験を実際にあったと認めず、現実の世界で着飾ることや何やに夢中になって
しまったスーザンだけが天涯孤独で残されたというのも後味が悪すぎるよー。
 まあ救いと言えばタシ神を信じていたエーメスが救われた(?)ことかなあ。

 6巻までですっかり夢中になっていただけに、なんだか7巻は冷水を浴びせられ
た感じ。いや、たしかに名作の名に値すると思うけれど。



野ばら(1999.7.18)
長野まゆみ  河出書房新社


 幻想的なストーリーだなあ…と思って読んでいると、「!?」というところで唐突
に終わってしまい、キツネに鼻をつままれた感じな一冊。

 主人公月彦は、野ばらの垣に囲まれ、中庭に夜合樹(ねむ)の立つ学校の観劇
で黒蜜糖と銀色という名の2人の少年と出会う。2人は以前から彼を知っているよ
うだ。やがて夢と現をさまよううちに、月彦は銀色が野ばらの垣を越えようとした
ために紅玉(るびい)色の影をなくしたことを知る。野ばらの垣は月彦の家の庭に
も巡らされており、その庭の夜合樹のそばには壊れたミシンが置いてある。月彦
はあちこちでかたたた、かたたたとミシンの動く音を聞く。
 理科教師は夜の青空教室でバラ科の鉄でできた柱の説明をし、ねじの図解の
載った「回転式植物の図解」を持ち歩く。月彦は学校の帰り道で、あるいは自分
の庭で、黒天鵞絨(びろうど)と銀繻子の灰色、の2匹の猫を見る。

 いろいろなものがさりげなく繋がって、その混沌が混沌のままポン、と放置され
ている。不思議な読後感だ。



心地よく秘密めいたところ(2003.2.18)
ピーター・S・ビーグル/山崎淳・訳  創元推理文庫


 この小説の舞台である墓地は、まるで母の胎内のようだ。主人公で幽霊を見る
ことができるジョナサン・レベックは、そこで幽霊と話やチェスの相手をし、友達の
鴉に日々の糧を頼りつつ何の不満もなく暮らしている。彼は墓地で暮らし始めて
以来一度も墓地の外に出たことがない。
 「死というのは、学ばなければ分からないものなんですよ。まさに生きるってこ
とがそうなのと同じですな。ただ、違っているのは、死というのは、そんなに慌て
て学ぶ必要はありません。時間はたっぷりあるんですから」。死んだばかりで戸
惑っている死者に、生者であるレベックは死を諭す。彼はそうやって死者を落ち
着かせ、彼らが消えてゆくまで相手をすることに自分の意味を見いだしている。
彼らに必要とされていることを感じる。
 しかし、幽霊が彼を本当に必要としたとき、彼は大きな決断を迫られる。

 大人向けの苦くて高くて量のちょっぴりな高級チョコレートを食べたみたいな読
み心地。この小説を19歳の少年が書いたなんて信じられない思いだ。



氷と炎の歌1 七王国の玉座(上・下)(2003.3.13)
ジョージ・R・R・マーティン/岡部宏之訳  早川書房


 噂に違わずおもしろい!!!
 とにかく読み応えがあって、複雑で重厚な物語世界にどっぷりと漬かれる。最初
上巻の半ばくらいまでは慣れないせいもあってなかなか進まないんだけれど(何
せ似たような名前も含め登場人物がわんさかわんさか出てきて、血縁関係だの婚
姻関係だのがややこしい)、それからはもうページを繰る手が止められない!氷と
炎の歌1、とあるけれどとりあえず一作ずつ完結しているのかと思いきや、いいとこ
ろで「続く」となってしまい、次作がでるまで待ち遠しすぎるーっ!!

 登場人物がいっぱい、とは書いたけれど、主要な人物はスターク家の8人とラニ
スター家、ターガリエン家かな(それだけでも結構多いって)。最初はちょっと混乱
するけれど、それぞれキャラが立っている。それに長い長い夏の季節が終末を迎
え、長い冬が訪れようとしている七王国の漠然とした不安感、北の「壁」の向こう
の不気味さ、「森の子供たち」から始まった七王国の歴史とロバート王に倒された
前王家であるドラゴンの一族、などなど、物語の背景がしっかりと全編に根をはっ
ているのがのめり込める要因だろう。それにしても、本当に細かいんだけれど、ひ
とつサンサとアリアを書き間違えてるところがあったよー。誤訳なのか誤植なのか
わからないけれど、ちょっとがっかり…。そういうのがあると、ふっと現実に引き戻
されてしまうんだよねえ。まあ、ホントに些細なことで、それだけではこの本の魅力
にはもちろんまったく疵はつかないんだけれど。

 心配なのは、次巻がでるまでこの複雑な内容と登場人物を覚えていられるか…
ってことだなあ(嘆息)。

(2005.1追記  第2部『王狼たちの戦旗』の感想はこちら。)




えんの松原(2003.3.20)
伊藤遊  福音館書店


 伊藤遊は97年に『鬼の橋』という作品で第三回児童文学ファンタジー大賞を受
賞した作家らしい。これは2001年発行の彼女の二冊目の単行本。児童文学の枠
に収まりきらない読み応えのある作品だと思う。

 時は怨霊の跋扈する平安時代。主人公の少年・音羽丸は、住んでいた場所を追
われ、ただ一人頼れる老女のもとに身を寄せるが、彼女が男子禁制の内裏務め
であったために女童(めのわらわ)に扮さなければならない羽目になる。そこで偶
然知り合ったまだ幼い東宮は、正体の分からない怨霊に呪われていた…。彼を怨
霊から救い出すため、そしてその怨霊の正体を暴くために音羽丸は禁断の「えん
の松原」に足を踏み入れるはめになる。そこで彼が知った怨霊の正体はあまりに
意外だった。

 東宮・憲平と音羽丸との友情、憎まれ口を利きながらも音羽をさりげなく助けて
くれる伴内侍、なんとも不気味な阿闍梨に気の強い女童の夏君…と、魅力的な人
物たちに加えて、怨霊の正体である少女の悲しみが痛い。そして、「怨霊のいな
くなる日がくればいい」という憲平に応えて言う音羽の台詞に現代が抱える問題
が浮かび上がってくる。「うまくやるやつがいて、そのあおりを食う者がいる。その
しくみが変わらない限り、この世から怨霊がいなくなるとは思えない。それなのに、
怨霊がいなくなったとしたら…(中略)忘れてしまうんだ、悲しい思いをしたまま死
んでしまった人間のことなんか。それはもしかすると、今よりもずっと恐ろしい世の
中なのかもしれないぞ。」

 確かに、今って恐ろしい時代かもしれないなあ…。



足音がやってくる(2003.3.24)
マーガレット・マーヒー/青木由紀子・訳   岩波書店


 とにかく先の読めない展開。
 序盤はちょっと勢いがないというか、展開が遅くてダレてくる感がなくもないんだ
けれど、謎の人物であるコール大叔父登場の辺りからどうなっちゃうんだかハラハ
ラしてぐんぐん引き込まれてしまった。

 主人公の少年・バーニーは、死んだ母の叔父であるバーナビー大叔父の亡くなっ
た日に、突然幽霊に取りつかれる。どうやら取りついたのはバーナビー大叔父の
弟で、子どもの頃に行方不明になったコール大叔父であるらしいのだけれど、ナゼ
コール大叔父がバーニーに取りつくのか、その目的がわからず、どうすればいいの
かもわからずにバーニーは途方に暮れる。彼はすぐ上の小説家志望の姉・タビサ
に相談し、彼女はコール大叔父・バーナビー大叔父の兄であるガイ大叔父に相談
に出向く。そこでガイ大叔父が話してくれたのはコールの不幸な幼年時代だった。

 魔法使いの話なんだけれど、いわゆる「魔法使いもの」とは全く違う。舞台はあ
くまでも現実に則した物語世界であり、そこに現れる魔法使いはみな幸福とは言
えない。

 家族の愛情ってホントに大事だなあ、と思う。

 コール大叔父がだんだん近づいてくるあたりや、彼とバーニーの家族との対決
(?)などは本当にサスペンスフル。エンターテイメント小説としてもあなどれない
一冊だ。



めざめれば魔女(2003.4.3)
マーガレット・マーヒー/清水真砂子・訳   岩波書店


 主人公のローラは母親のケート、小さな弟のジャッコとの3人暮らし。ローラには
何か悪いことが起こるときに必ず「前ぶれ」を感じるという能力があった。ある日彼
女にその「前ぶれ」がやってくる。小さな弟のジャッコが呪われてしまったのだ。彼
女は大人に弟の病気が呪いのせいであることを信じてもらうことができず、学校の
上級生で「魔女」であるソリーのところへ助けを求める。やはり魔女である彼の祖
母はローラが弟を救うには方法はひとつしかないと言う…。

 物語は弟を救うためにローラが「魔女」に変身するまでを軸に、彼女の母親と、
彼女自身の恋愛を絡めて描かれる。それにしてもずいぶんと性的な描かれ方…。
これって対象年齢はいくつくらいなんだろう??奥付には「中学生以上」と書かれ
ているけれど、中学生にはちょっと生々しすぎるというか、あまりにも恋愛と肉体関
係とが直裁的だし、逆に高校生以上になると少しこの本の「形」が幼すぎるような。

 ここに描かれている恋愛は(とくにローラの恋愛は)、なんだかちょっと普通の中
高生の恋愛とはズレているような気がする。というか、ローラは本当にソリーのこ
とが好きなんだろうか?? なぜローラがソリーを愛するようになったのか、その
辺りがよく理解できない…。彼女がただ一人彼を「魔女」だと見抜いた人間であり、
それ故に彼女が「自分だけが本当に彼を理解している」と思いこみ、その思いこ
みに由来する独占欲を抱くのはよくわかるんだけれど、それと愛情は別の話じゃ
ないのかなあ。特に、ソリーは感情を閉ざしている少年だし。

 それから、彼女が魔女になる過程も、もう少し何か物足りない気がする。

 まあ、内容的には楽しめたんだけれど。



コーンウォールの聖杯(2003.4.15)
スーザン・クーパー/武内孝夫・訳   学習研究社


 「闇の戦い」シリーズの第一作。一度絶版になったが要望に応えて去年(2002
年)に復刊されたものらしい。以降のシリーズは評論社から刊行中。

 夏の休暇に両親とともにコーンウォールにやってきたサイモン、ジェイン、バーニ
イの3人兄弟。3人は休暇中の家を手配してくれたメリイおじさんが大好きだ。ある
日3人は滞在中の「グレイ・ハウス」に隠された屋根裏部屋があることを知り、そこ
で古い古い地図を発見する。その地図は闇の勢力が探し求める「聖杯」の隠し場
所を記したものだった。
 彼らはメリイおじさんの庇護のもと、地図の謎解きに挑戦する…。

 と、いわば正統派ファンタジー。アーサー王伝説が下敷きになっているため、まっ
たくアーサー王伝説伝説に明るくないわたしは、もう少し勉強しておくんだった…と
後悔しきり。これ、伝説を知っているともっとずっとおもしろいと思うわ…。

 今回の3人の働きが、今後どういう展開をもたらすのか興味津々。とりあえずは
シリーズを通して読んでみたいと思う。



ゲド戦記X アースシーの風(2003.5.11)
U.K.ル=グウィン/清水真砂子・訳   岩波書店


 『最後の書』から11年。これがホントの完結編?な本書だが、いやー正直4巻を
読了した時は、なんとなーく納得のいかないようなもやもやした感じだったものが、
これでやっとスッキリした感じ。

 ゴントで妻・テナー、娘・テハヌーと平穏に暮らすゲドの元へ、妻娘の留守中にま
じない師のハンノキが訪れる。彼は夜ごとに夢の中で、死別した妻を始めとする死
者たちに呼ばれ、自由にしてくれと懇願されるという。その頃アースシーの若き王
レバンネンは、竜たちが人間の村で暴れるという報せに頭を痛めていた。さらに、
テナーの故郷・カルガドからはレバンネンの元に王女が送られてくる…。

 かつて人と竜とは同じものだった。竜は言葉と自由を取り、人間は手の技とその
他すべてのものを取った。
 ゲドの世界観は独特だ。独特だけれど、すごくリアリティがあり、骨太なものだ。
ゲドの世界では魔法は万能ではないし、すべてを解決はしてくれない。しかも主
人公のゲドはすっかり魔法を失ってしまった。

 最後の書では結構情けなかったゲドは、ここではすっかり老成した感じ(笑)。す
べてのことが、人が、あるべきところに収まった感がある本書はきっと本当の最後
の書、なのだろう。外伝が近々でるそうで、それもとても楽しみだー。



闇の戦い1 光の六つのしるし(2003.5.20)
スーザン・クーパー/浅羽莢子・訳   評論社


 前作『コーンウォールの聖杯』と比べ、こちらはもう少し重厚な感じ。その分テンポ
が少し遅くて読みづらい部分もあったけれど、十分楽しめた。『コーンウォール…』
で活躍した3兄弟が引き続き出てくるのかと思ったけれどそうではなく、メリマンが
今回も若き主人公のサポート役として活躍。

 11歳の誕生日でもある冬至の日を翌日に控えたある日、スタントン家の7男坊・
ウィルは不気味な<旅人>が村をうろつくのを見かけ、近くの農場主から不思議
な鉄の輪を受け取る。そして誕生日当日の朝、彼は今までとはまったく違う世界
に足を踏み入れることとなった。彼は生まれながらの「古老」の最後の一人であり、
光の君、「しるしを捜す者」であったのだ。
 戸惑うばかりのウィルは同じ古老で師であるメリマンの助けを借りながら、やが
てくる闇との対決のためにしるしを捜し始める。それはいくつもの時代を行き来し
ながら行わなければならない困難な仕事だった…。

 隠されたしるしの在処、、謎の<旅人>の正体、遠くにいる兄・スティーブンから
クリスマスに送られてきた不思議な仮面…と、次々に出てくる謎にいつの間にか
かなり引き込まれる。<闇>の<騎手>もかなり怖い〜。『指輪物語』のナズグル
っぽいけれど。「古老」として目覚め始めた自分と11歳になったばかりの少年とし
ての自分の間で揺れ動くウィルもいい感じ。ちょっと観念的で難解な部分もなきに
しもあらずだけれど、ラストの辺りはかなりぐっとくる。

 少年であり「古老」でもあるウィルがどうなっていくのか、この先の物語が楽しみだ。



闇の戦い2 みどりの妖婆(2003.6.1)
スーザン・クーパー/浅羽莢子・訳   評論社


 『コーンウォールの聖杯』の3兄弟が再登場で、ちょっと嬉しい第2作。

 サイモン、ジェイン、バーニーが発見した聖杯が闇の勢力に盗まれた。3兄弟は
メリイおじさんの招きで再びコーンウォールを訪れるが、メリイおじさんは何故かも
うひとりの少年・ウィルを連れていた。おじさんと自分たち兄弟だけの秘密の冒険
を大切にしていた兄弟は、ジェインを除きウィルに反発を覚える。コーンウォール
ではこの時期、地元の女だけが一晩かけて作る「みどりの妖婆」の祭りが開かれ
ることになっていた…。

 訳者が『コーンウォール…』とは違うのでちょっと方言に違和感があったりする
けれど、それを除くとそろそろお馴染みになってきた闇の戦いの世界を堪能する
ことができた。ただ、「みどりの妖婆」ってヒドイ訳のような気がするんだけど…。
「妖婆」ってことはないでしょう、とずっとその言葉が気になって気になって(笑)。

 ウィルは古老としての貫禄も出てきたみたい。そろそろ次作あたりでストーリー
も盛り上がってくるかな!?



マジョモリ(2003.6.19)
梨木香歩/早川司寿乃・絵   理論社


 知らなかったけれど、理論社から「梨木香歩の絵本」シリーズが刊行されている
らしい。これはその1作で、他に『ペンキや』、『蟹塚縁起』が既刊。

 神社の隣に住むつばきの家の向かいには、子ども達から「マジョモリ」と呼ばれ
る森が広がり、大人達からけして入ってはいけないと言われている。ある日つば
きが目を覚ますと、机の上にはマジョモリからの招待状が届いていた。好奇心か
らマジョモリに足を踏み入れるつばき。森の奥で待っていたのは…。

 さらりとよみやすいファンタジーなんだけれど、絵が美しい。思わず1ページ1ペ
ージ、隅々まで絵を眺めてはページをめくり、ページをめくりでゆっくりとその世界
を堪能させてもらった。こういう本は本棚に置いておきたい!

 ただ、マジョモリからの招待主が最後ちょっと意外というか、あれ、という感じ。
この人、もっと悲劇的な人生(?)を送った人じゃなかったんだっけ…??



闇の戦い3 灰色の王(2003.7.5)
スーザン・クーパー/浅羽莢子・訳   評論社


 主人公ウィルがいよいよ独り立ちの第3作。

 病気で一時期重体に陥ったウィルは、病後療養のために母の従妹夫婦の住む
ウェールズに滞在することになる。しかしウィルは古老として忘れてはならない大
事な詩を忘れてしまっていた。
 ウェールズで療養しているうちにウィルは記憶を断片的に思い出すようになる。
そこでは「灰色の王」がウィルを待ちかまえていた。正体のわからない少年・ブラァ
ンの力を借りて、ウィルは灰色の王の妨害を受けながらも黄金の竪琴を入手すべ
く闇の勢力に立ち向かう…。

 なじみのないウェールズ語がバシバシでてきてちょっと戸惑いながら読み進めた
第3巻。ウィルはすっかり古老らしくなっちゃって…。この巻はそれまでと違い、か
なりアーサー王伝説の色が濃く、そちら方面に疎いわたしはちょっと苦戦ぎみ。で
もそれなりに楽しく読むことはできた。

 光の勢力として戦うウィルに、古い伝説に詳しいジョン・ローランズは言う。「<光>
のことを多少なりとも知っている連中は、その力には酷薄なところがあるってことも
知ってる。…(中略)…人情とか慈悲とか思いやりとか、たいていの善人が何よりも
尊ぶものが、<光>にとっちゃ二番目にしかこない。…(中略)…最終的には、君ら
の関心は絶対的な善にあるんだ。他の何よりもまず。狂信者みたいなもんさ。」
 それに対してウィルは答える。「<闇>は本当に攻めて来ようとしてるんだよ。…
(中略)…そうなったら、暖かい思いやりか冷たい絶対的な善かなんて疑問さえ、
全く、誰にとっても存在しなくなる。…(中略)…思いやりや慈悲や人道主義はあな
たたちのためのものだ。人間が平和的に共存するためには、それらに頼るしかない
んだから。けど、<闇>と対決するぼくら<光>の場合は厳しい。そういったものは
まるで役に立たない。ぼくらは戦争をしてるんだよ。」「この種の戦争においては、
立ち止まること、ひとりの人間に楽なようにしてやることが不可能なこともありうるん
だ。そのちっぽけなひとつの行動が、他の者全てにとっての最後を意味するかもし
れないんでね」

 これはかなり厳しい問いかけだよなあ。ウィルに共感するか、ローランズに共感
するか。わたしはローランズに近いけれど、ウィルの思いはよくわかる…気がする。

 今回闇の勢力は人間を盾にして攻撃を仕掛けてくる。盾にされた人間に罪はな
いけれど、彼らを倒さなければ人間全てが危険にさらされてしまう。かなり思いテー
マを孕んだ作品だ。



伝説は永遠にA(2003.7.10)
ロバート・シルヴァーバーグ編   ハヤカワ文庫FT


 「人気大作シリーズの番外編を一堂に会す」という超豪華アンソロジーのファン
タジー版、第2巻。収録作品は以下の通り。

「骨の負債」(<真実の剣>シリーズ)            テリー・グッドカインド
「放浪の騎士−七つの王国の物語−」(<炎と氷の歌>シリーズ)
                                   ジョージ・R・R・マーティン
「パーンの走り屋」(<パーンの竜騎士>シリーズ)   アン・マキャフリィ


 <炎と氷の歌>の『七王国の玉座』を読んでこのアンソロジーに興味を持ったの
だけれど、いやー<真実の剣>シリーズがなかなか拾い物! 本編に俄然興味
が湧いた。「骨の負債」と「放浪の騎士」はそれぞれ、本シリーズが始まる以前の
時代を背景にした作品。それにしてもやっぱりどれも世界観が素晴らしい。世界を
丸ごと作り上げるってホントにすごい労力なんだろうなあ。

「骨の負債」は二つの勢力が争う世界で敵に夫と幼い娘を人質に取られた主人公
が家族を救うために味方を裏切ろうとする話なんだけれど、その葛藤がすごく伝
わってくる。

「放浪の騎士」は突然騎士になってしまった主人公が濡れ衣を晴らすために団体
馬上試合に出なければならなくなる話。かくて英雄は生まれる。

「パーンの走り屋」はラブロマンスですな。

 どれもさすが人気作品の外伝的作品だけあって読み応え抜群。長いシリーズ物
を読む前に自分に合いそうかどうか見極めるという意味でも有意義だと思う。



虚空の旅人(2003.7.21)
上橋菜穂子   偕成社


 「守り人」シリーズ外伝。『精霊の守り人』で精霊の国「ナユル」の精霊の卵を身
ごもった新ヨゴ王国の皇子チャグムが主人公。

 隣国サンガル王国で新王が即位することになり、チャグムが新ヨゴ王国の代表
として出席することになる。サンガル王国は数多くの島々を所有する豊かな南国
であり、各島々の代表者である島守りがそれぞれ王家の姫を娶ることでその結
束は作られていた。
 チャグムはこの国で、図らずも大きな陰謀に巻き込まれることになる…。

 いやー、チャグム、成長してます。
 このシリーズはホントに完成度の高い和製ファンタジーだと思う。今回外伝とい
うことでバルサは登場しないんだけれど、チャグムは十分主役はれてるし。彼が
自分の立場に葛藤を感じながらも歯を食いしばって立っているその有り様が健気
で、健気で。

 それぞれの国の立場、それぞれの人の考え方、多様な人間模様が複雑かつわ
かりやすく描かれていて、世界の奥深さを感じさせる。今のところ守り人シリーズ
は『精霊の守り人』、『闇の守り人』、『夢の守り人』を読んでいるんだけれど、早く
『神の守り人』も読まなければ…。



闇の戦い4 樹上の銀(2003.8.13)
スーザン・クーパー/浅羽莢子・訳   評論社


 闇の戦いシリーズ最終作。今までの主人公達がそろい踏み。

 ふたたび訪れたウェールズで、ブラァンやドルー三兄妹と再会したウィル。闇との
最終決戦を控える中、まだ帰らない老婦人を気にしつつもウィルとブラァンは光の
剣・エイリアスを手に入れるために「失せし国」に足を踏み入れる。しかし剣を守る
その国の王は、闇の勢力によって深い絶望に支配されていた…。

 シリーズ中この作品がいちばんファンタジーっぽいかも。闇のやり方がなんという
か、一番恐ろしく感じられる。王を絶望に誘い、妻を失った男に選択を迫る、そのや
り方は、人間の弱さをついてくる。

 ウィルはすっかり古老になっちゃって…(笑)。

 最後の解説に詳しい話がいろいろと載っていたけれど、確かに欠点の多い作品
群なのかも。難解だしテンポもそんなによくないし。しかも光と闇の戦いは人間の
頭越しだし…。
 それでもとても魅力がある。登場人物に負うところも大きいのかな。今回のジョン・
ローランズなんて、ウィルをくいそうな程だった。



影の王(2003.8.26)
スーザン・クーパー   偕成社


 少年劇団のオーディションに合格し、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」のパック
役を射止めたナットは、本場ロンドンに再建されたグローブ座での上演のためアメ
リカから渡英する。しかし公演を間近に控えたナットは、突如タイムスリップして16
世紀、シェイクスピアその人の時代へ。そこでシェイクスピアと共に「真夏の夜の夢」
に出演することになる。彼は何故、なんのためにタイムスリップするはめになったの
か…?

 シェイクスピアと当時のグローブ座の人々が生き生きと魅力的に描かれていて、
すっかり引き込まれてしまった。そしてその時代のリアリティに圧倒された。滅多に
お風呂なんかに入れない、清潔とはほど遠い生活。無造作にさらされる処刑された
人たちの生首。そういうものとともにグローブ座があり、演劇があったのだ。

 否応なく16世紀に投げ込まれ、戸惑いつつも馴染んでいき、シェイクスピアに強
く魅了されるナット。最後に明らかにされるタイムスリップの真相は仰天もの!だけ
れどなんだか妙に納得なのよね…。

 闇の戦いシリーズとはまったく異なる味わいのある作品。一読の価値あり!



プラネタリウムのふたご(2003.10.13)
いしいしんじ   講談社


 いつももやがかかって星のみえないある村のプラネタリウムで、ある日ふたごの
赤ん坊が見つかった。ふたごはその時ちょうど解説されていた彗星の名前をとって
テンペルとタットルと名付けられ、「泣き男」とあだ名されるプラネタリウム解説員の
もとで育てられた。
 ふたごが14歳の時、村に手品師一座がやってきた。この時を境にふたりの運命
は大きく分かれることになる…。

 あちこちで評判がよい本作だが、評判がいいのも頷ける。本当に質の良い美しさ
をもった物語。さらっと読めて、すっと心に染みて、ちょっと泣ける。読んだ後、心が
なんだかしーんとするのだ。

 人にはだまされる才能のある人と、ない人がいる。そして多くだまされた人ほど幸
せなんだ、という言葉に、ああそうだなあと素直に思える。とにかく手にとって!



トムは真夜中の庭で(2003.10.24)
フィリパ・ピアス/高杉一郎・訳   岩波少年文庫


 弟のピーターがはしかにかかったために、夏休みを伯父夫婦の家で過ごさなけれ
ばならなくなったトム。伯父の家は古い邸宅をアパートに改装したもので、トムは大
人ばかりの陰鬱な雰囲気に嫌気がさしていた。そしてある晩、ホールの柱時計が
13を打ったのをきっかけに、トムは「あまり」の時間を不思議な裏庭で過ごすように
なる。そこにはかわいらしいハティという少女がいたが、彼女はトムのことを幽霊だ
と思っているようだった…。

 この作品に触れることなく大人になってしまったのが悔やまれる。けれどこの作品
のラストは大人になったいまだからこそより深く味わえるような気もする。

 それにしてもこの作品の中の子供時代がいかに輝いていることか。1日のなかの
たった1時間の「あまり」の時間。トムにとってその時間は無限だ。大人にはけして
見つけだすことのできない時間を、子ども達はいかに豊富に持っていることだろう。

 毎日毎日秘密の裏庭で繰り広げられる楽しい時間をトムはひとり自宅の部屋で療
養している弟に手紙で知らせてよこす。弟はベッドの中で兄をうらやみながらも彼か
らの頼りを毎日楽しみに待っている。しかしある計画に夢中になるトムはつい、最後
に手紙を書くことを忘れてしまう。
 この辺りは大筋とはあまり関係がないながら、とても印象に残った。こどもってこう
いう残酷さ(というには無意識すぎるのよね…)、持ってるよなあ。

 トムを残しひとり大人になっていくハティ。このあたりの微妙なすれ違いも絶妙。
やっぱり古典は古典になるだけの理由があるのだ、と感じさせる一冊。



チョコレート工場の秘密(2003.11.2)
ロアルド・ダール/田村隆一・訳   評論社


 チャーリーは両親と寝たきりの4人の祖父母と7人暮らしの貧しい少年。彼の家の
そばには不思議なチョコレート工場があって、いつも堅く門扉を閉ざしている。彼は
工場の前を通る度、かぐわしいチョコレートの匂いとともに空腹を感じていた。彼の家
は1枚のチョコレートを買うのさえ年に1度しか許されてないほど生活が苦しかった。
 ある日そのチョコレート工場の持ち主・ワンカから世界中にこんな発表がされる。
ワンカの板チョコの中に5枚だけ、金色の券を入れ、その券を当てた幸運な5人の子
ども達を、秘密のチョコレート工場に招待する。工場案内はワンカ自身が務め、工場
から帰る際にはこの先一生チョコレートが無料で贈られる!!

 チャーリーはふとしたきっかけでその金色の券を手に入れ、他の4人の子ども達と
その保護者とともに、とうとうチョコレート工場に足を踏み入れた…。

 むちゃくちゃ荒唐無稽。でも夢のようなチョコレート工場は、子供だったらたちまち
魅了されてしまうだろう。工場の中を流れる暖かいチョコレートの川、フルコースの料
理を食べた気にさせてくれるチューインガム、エトセトラ、エトセトラ。これを書いたの
が大人だなんて信じられない。

 わがままな4人の子ども達はどうなってしまうのか、そしてチャーリーはどうなるの
か。しばし子供にかえって心からのわくわく気分を味わえた。
 なんとなーくいやーな気分を抱えているあなた、ぜひぜひ、読んでみてください。



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