love story


著者名 タイトル 出版社
山田詠美 PAY DAY!!! 新潮社
中山可穂 花伽藍 新潮社
新堂冬樹 忘れ雪 角川書店
小池真理子 水の翼 幻冬舎
山本文緒 ブラック・ティー 角川文庫
山本文緒 恋愛中毒 角川書店
back

home



























恋愛中毒
山本文緒  角川書店


 わかりきったことだけれど、恋愛ってはまると怖い。美雨は特殊な例なのか、そ
れとも誰もがそうなり得るのか。わたしは彼女に共感する部分も、ひいてしまう部
分も、同じくらいあったように思う。前に読んだ同じ著者の『パイナップルの彼方』
とは全然違う。この本は小池真理子の『恋』をすごく連想させた。

 美雨はびっくりするくらいに計算高くてしたたかかと思うと、ブレーキが利かなく
なるほど感情的に相手にのめり込む。彼女は何でも人のせいにする。彼女は自分
の何が悪いのか、客観的に自分で考えてみようとはけしてしない。でも、わたしだ
ってそういう部分は少なからず持っている。

 美雨は萩原とも、前夫であった藤谷とも、そして創路(いつじ)とも恋愛において
同じ失敗を繰り返す。これじゃマズイと思っていても、のめり込んじゃうとブレーキ
をかけられない気持ち、痛いくらいわかる…。
 自分の気持ちがふくらみすぎて、自分でその気持ちに潰される。相手の幸せを
第一に考える事なんて出来ない。相手を振り回して、自分も自分に振り回される。

 彼女が正しいとはもちろん言えない。でも、恋愛ってそういう部分、あるよね?
程度の差はあっても…。

 普通では考えられないような設定・展開なのに、この、身に迫ってくるような胸
の痛みは、これがわたしにとって全くの絵空事とは思えないことを伝えている。そ
の点では、あまりにも現実離れしていると感じた『恋』とは違うなあ。この違いって
何の違いなんだろう?



ブラック・ティー
山本文緒  角川文庫


 今回の感想。「今まで山本文緒を、甘く見ていたんじゃないか?」

 短編だから今まで読んだいくつかの長編のように細かい心の変化はわからない
けれど、読んでいて思わず、こちらの痛いところを突かれてヒヤリとする。よくあるの
が、自分は実は自分で思っているよりもかなり酷い人間で、傷つけられていると思っ
ていたら周囲を傷つけまくっていたのだった、というシチュエーション。言われるまで
まったく自分に非があるなんて気がつかない、ってこと、わたしにだってかなりある。
で、そういうのってすごく主観的になって本人にはわかりづらいものなのに、山本文
緒はずっと主人公の主観にそっていて、あるときに突然ガガッと180度観点を変える
んだよね。そのひっくり返し方が、めちゃめちゃ鮮やか。うーむ、と唸ってしまう。




水の翼(1999.4.14)
小池真理子  幻冬舎


 小池真理子の描くのは相変わらず70年代。学生運動とか出てきてちゃって、今
回は『無伴奏』に引き続き仙台が舞台。今回思ったのが、この人は女性の恋愛心
理を描くのが本当にうまい人だなあ、ということ。

 天才的な小口木版作家(というのだろうか?)、柚木と親子ほど歳が違う彼の後
妻・紗江は、柚木に弟子入りした美しい青年に自分が惹かれるのを感じる。ある日
柚木に天才小説家・壬生幸作の未完の詩集が見つかったため、柚木の小口木版
と組んだ詩画集を出版したい、という依頼が来る。柚木は引き受けるが、数点を仕
上げたところで病死。彼の仕事を弟子である寺島東吾が引き継ぐことになる…。

 東吾と愛し合った後、彼に去られた紗江の動転・絶望・諦めが痛いほど伝わる。
漬け物石で自らの足を傷つけ、東吾を引き留めながらもなお、彼女の心は彼を失
う未来を予見して泣き続ける。この辺りが本当に読んでいて痛い。

 ただ、東吾が出ていった本当の理由、というのが、何だかなあ…。わたしには彼
の信念が理解できない。当時そういう学生がたくさんいたのか、それとも彼は時代
とは無関係に自分の信ずる道を行ったのか、と問えば、やっぱり彼は時代の影響
を受けていたのだろうな、と思う。

 小池真理子の小説は、殺人や自殺が安易に行われすぎているという気は、強く
する。




忘れ雪(2003.3.14)
新堂冬樹  角川書店


 一応帯にも「“純恋”小説の誕生」って書いてあるからlove story に分類しておく
けれど…これ、恋愛小説?? いや、確かに恋愛は恋愛なんだけど。

 両親を事故でなくし、伯父夫婦の家にひきとられた小学生の深雪は、公園で傷
ついた子犬を拾い、その子犬をきっかけに5歳年上の獣医師の卵・一希と出会う。
彼に恋した深雪は、7年後の再会を約束して一希と離れることになる。しかし、彼
はその約束をすっかり忘れ、再び二人は偶然に再会する。

 …と、書いていくと恋愛小説なんだけど、途中からなんだか雲行きが怪しくなって
ああ、やっぱり新堂冬樹ってこうなっちゃうのね…という感じ。いや、新堂冬樹はこ
れで2作目に過ぎないんだけど。
 なんていうか、まずは文章のスタイルが決定的にわたしと相性が合わない。短い
体言止めの乱発とか。あと、会話文の「っ!」で終わるスタイルの多さとか。気にし
なくていいようなことがとてもとても気になってダメ。

 それに「純恋」小説にヤクザは必要なんだろーか?とか。後半はいきなりミステリ
になっちゃってるし。ラストのヒロインの選択も疑問が残る。そんなに簡単に進路変
更できちゃうの?それでいいの?みたいな。

 あと、深雪の義父もイマイチ掴めないなあ。

 ちょっと、新堂冬樹は以後敬遠してしまいそう…。



花伽藍(2003.4.18)
中山可穂   新潮社


 粒ぞろいの短編集。

 夏祭りの夜の出会いから別れまでの濃密な恋の顛末を描いた「鶴」、彼女と別
れたばかりで傷心の夜に偶然再会した男との一夜を描いた「七夕」、別れた夫が
転がり込んできたことから思わぬ方向へ人生が転がり出す「花伽藍」、別れた彼
女が出ていくときに飼い猫までも連れ去られてしまった「偽アマント」、そして年老
いて老老介護状態に陥ったレズビアンのカップルを描いた「燦雨」の5編からなる。

 中山可穂ってやっぱりいいなーと思う。
 同性愛ってわりと色眼鏡で見られがちだし、異色のカップル扱いされることも多
いと思うけれど、それを普通の恋愛として描きつつ、主人公達の血のにじむような
想いをそのまま伝えるような筆力があって。

 今まで『猫背の王子』、『天使の骨』のふたつの長編を読んですごく気に入って
いたのだけれど、短編は長編とは全然違った書き方が必要であろうにも関わらず、
やっぱりこの短編集にも以前長編でわたしが感じた「中山可穂の魅力」みたいな
ものが損なわれずにそこにあることに感動。



PAY DAY!!!(2003.7.3)
山田詠美   新潮社


 久しぶりの山田詠美はまさに珠玉。

 2段組にもなっていない、厚さも大したことのない小説でありながら、この中身の
濃さといったらどうだろう。一応恋愛小説に分類してみたけれど、これは恋愛小説
という枠からはみ出しまくりの一冊だ。さらさらっと読めてしまうのに、胸に響くよう
なフレーズがとにかくゴロゴロしている。

 16歳の双子の兄妹・ハーモニーとロビンは離婚した両親のもとアメリカ南部とニュ
ーヨークとに分かれて暮らし始めて1年になる。ロビンは父親と兄のいる南部でこ
の夏休みを過ごすことに決めた。始めて訪れた南部には父と兄の他に祖母と、ア
ルコール中毒の伯父が暮らしていた。そして彼女はそこで初めての恋に落ちる。
 一方ハーモニーは年上の女性と苦しい恋をしていた。夏が終わり、そして2001
年のあの9月11日が訪れる…。

 とにかく主役の2人は魅力的。ああ、16歳ってこうだったなあ…と思ったり、一緒
に素直に悩めたり。双子ならではの対照的だったり共通していたりする感覚も、
それぞれ交互に描かれる視点で混乱することなくわかりやすく描かれている。2人
の対照的な恋もいい。

 彼らを取り囲む大人達もまたいい。ジャングル・フィーバーで恋に堕ちながら離婚
という結論を出さざるを得なかった両親。アルコール中毒で禁断症状が出るたびに
周囲を騒がせていながらも誰からも愛される伯父。2人の恋の相手のヴェロニカと
ショーン。ショーンの母親もまた魅力的なのよねー。

 読みながらいろいろと考えさせられたり、自分を省みたり。
 「ぼくときみの母親が結婚に失敗したのはね、二人共、生涯一緒にいるだろうって
ことに、何の疑問も抱かなかったからだよ。ずっと一緒だと思っていたから、話すべ
きことや共に過ごす時間を後回しにして来た。でも、本当に一緒にいられる時間は、
眠っている時を除けばごくわずかだった。それに気付いた時には、そのわずかなひ
とときは、すべていさかいのために費やされるしかなかった。……ぼくが離婚で学ん
だことはたったひとつだよ。人との関係に永遠なんてあり得ないということ。もしも、
永遠を作り出したいと思うなら、その答えは、今にしかないということ。…」
 この辺り、かなりギクっとしたりして(笑)。



back