僕の旅〜音を探しに〜
1:たびだち
明るい午後の日差しが差し込むレッスン室で。僕は困っている。
僕のバイオリンが歌わなくなった。楽譜に散らばる音符の粒をただ
紡ぎ出すだけでなく、いつも歌ってくれていた。僕の心が感じるままに、
いつも歌ってくれていたのに。今日は何にも歌ってくれない。
ただただ音をつなげるだけで、僕は心配で聞いてみた。「どこか具合
でも悪いのかい?」ううん、と奴は答えた。「歌を忘れてきちゃった
んだ」。どこに、という僕の問いに、すまなさそうに。「君と会わな
かったこの三日間で、僕は旅をして来たんだ。その途中で」。三日も
友達を放っておいた僕は、何も言えない。ごめん、会いに行かなくて。
そんな言葉を飲み込んで。「じゃあさ、探しに行こっか」。頷く
奴をケースに入れて、大事に抱えて。そして、旅に出た。
<つ・づ・く>