すかっ?もん


クエン酸シルディナフィル

*この物語は、フィクションであり登場人物・場所などは全て架空のものである。

 「HAL先輩、良いモン手に入ったんですけど…」
 後輩のこのTELが、その後、約4時間の地獄のプロローグになるとは、能天気なわたしは、まだ知らない。
 「良いモンって?」
 「今んとこ、日本じゃイリーガルで、もう直ぐリーガルになるモンなんですけど…」
 後輩は、アメリカに留学しており、メラトニンやプロザックなんて言うモンを、たまにお土産としてくれる。
 「もったいぶらずに教えてくれよ!」
 「クエン酸シルディナフィルですよ」
 「???(*_*)」
 「商品名をバイアグラ。バ・イ・ア・グ・ラ」
 “バイアグラ”。
 江頭2:50が救急車で運ばれた薬。
 世の男性憧れの秘薬。
 裏では、一時、一錠¥20000とか¥25000とかで流通していたクスリ。
 『夜の“おとこ”のパートナー』
色んな、フレーズがわたしの頭の中を巡る。
 「ちょっと、先輩、聞いてる?」
 「聞いてます。しかし、ナンでお前がそんなモン買って来るんだ?」
 「親父が買って来いって言うから…」
 そっか、あの親父なら…。ナンたって、始めて“モロ写真”見せてもらったのもこの親父だったからな〜。なんて、思いが頭を過る。
 「で、どうすんですか?一錠くすねたのがあるんですけど、一人じゃ、一寸ネ」
 「了解。クスリは“セットとセッティング”がキモだから、2人でやろう。色々、準備とかあるから今度の日曜日あたりどう?」
 「いいすっ!でも、家でやるのは親とか居るから一寸…」
 「そう言われても、俺んちも親と同居してるからなぁ」
 くーぅ!こう言うとき親と同居は辛れーぜ(T_T)!
 「あっ、姉貴のマンションってどう?」
 後輩のお姉さんとわたしは幼稚園の時からの同級生。彼女、バツイチで市内のマンション在住。
 「しっかし、それってマズイんじゃネーの?わたし、自分を押さえられるか心配(^_^;)」
 「なに考えてんスカ!勿論、そんな場所に、姉貴が一緒に居るわけ無いでしょ!」
 ガッカリ。

 で、当日。
 『ファンタジア』のLD、レンタルビデオ屋で『アルプスの少女ハイジ(『白パン』ってのが入ってて泣ける奴)』、『バタリアン』(わたしホラーって駄目でコレが限界)、そして“お約束”ビデオを借りて、コンビでお菓子とジュース買って、“姉貴のマンション”に向かう。

 ピンポ〜ン♪
 「お・ま・た・せ。で、コレ」
 小道具の入った袋を後輩に渡す。袋をゴソゴソやっていた後輩が、
 「先輩!『ファンタジア』ってなんか勘違いしてません?」
 「な、何だと〜。クスリと言えばドラッグ。ドラッグと言えば『ファンタジア』だろーが!」
 「それを、勘違いって言うんだけど…。それに、“お約束”ビデオは解るけど、『ハイジ』と『バタリアン』って一体…。」
 怪訝そうな後輩の顔が、レンタル屋店員の顔と重なる。
 「チルアウト用だよ!チルアウト!判る?どうしようもなくなった時に、それ見て冷やすんだよ!」
 「………(゚.゚)」
 わたしのあまりの準備の良さに沈黙する後輩であった。

 部屋に通され、キョロキョロしていると、
 「残念ながら、姉貴、今日は実家に帰ってるヨ」
 「ざ、残念なんかじゃネーや!さ、さてとブツは?」
 「机の上に乗ッてんじゃないですか!」
 机の上にはひし形の青緑の錠剤が一つ…。
 「これ、100mgの錠剤だから半分でもOK。ただし、降圧剤、ニトログリセリンとの併用は駄目。あと、頭痛や発疹が出たら服用は中止しなきゃなんないらしい」
 「では、ナンか切るモン持ってきて」

 カッターで切った半錠をコーラで流し込み、“お約束”ビデオを見ること30分。
 来た来た来た。
 しかし、待てよ?コレは、クスリではなくビデオのせいかも…。
 後輩の方に目をやると、
 「先輩?!」って顔をしてこっちを見ている。
 「良し、ビデオを巻き戻してインタビューのところをもう一度見よう」
 “お約束”ビデオのインタビュー。村西監督が始めた、早送りにしかならない画面。
 「きてます」
 「きてます」
 存在をコレでもかってくらい主張しています!
 「スゲー」と後輩。
 「ナンじゃコリャ」とわたし。
 其処には、快感などひとかけらも無く、有るのは戸惑いと突っ張り感のみ!
 「い、イカン!いかんゾー!このままでは!すぐ『ファンタジア』にするんだ!」

 ブーンというLDプレーヤー独特の読み取り音の後、『ファンタジア』が始まる。
 「だ、駄目です!全く制御不能!」
 見事なテントは張ったまま、後輩が叫ぶ。
 「いかん、このままでは東京ディズニーランドで愛くるしいミッキーのヌイグルミを見た瞬間発射してしまうサイテーの人間になってしまうぞぉ〜ッ!!」
 わたし、パイパニック(まだ使うかこのネタを…)!
 わたしの困惑をよそに後輩が席を立ちトイレへ…。
 「き、キタネーぞ!自分一人楽になろうとしやがって!」

 煙草の煙の向こう、箒と踊るミッキーを見ながら、一人、「コレでディズニーランドに行けない体になってしまった…」と物思いにふけっていると、トイレの戸が乱暴に開かれた。其処には、困惑で顔を歪めた後輩の姿が。
 「先輩。どうなってんですか!?」
 「ナニが?」
 「ナニがって、出しても出してもまだナニが、ナニがぁぁぁ〜っ!」
 「出しても出してもって、何回出したの?」
 「3回!もう一回頑張ろうって思ったんですけど、痛くて痛くて。でも、無理したら感じはあるんですけど弾が…」
 この時点で、バッドにドップリ、ハマッたことを理解したわたしは、
 「落ち着け、『ハイジ』を見るんだ。『白パン』を」
 半ば、自分に言い聞かせるように『ハイジ』をビデオにセットする。

 『白パン』、『ハイジ』の中でもいや、わたしの知る限り全アニメの中で最高傑作の物語。『フランダースの犬』の最終回とその双璧をなすと言われている(誰が言った?)物語。
 ロッテンマイヤーさんに隠れて、ハイジが白パンをペーターのお婆さんの為に箪笥に隠す。しかし、結局、ロッテンマイヤーさんに見つかり、しかも、当の白パンは腐っているという、喜劇の中の悲劇!そうそう、ペーターのお婆さんって目が不十で、でも、一生懸命糸を紡いでたっけ。「其処に居るのはペーターかい?」なんて…。
 因みに、わが家では洋食を食べに行って、パンを“ギッテ”来るとき、“ハイジする”といいます。
 そんなことは置いといて…。
 『白パン』を鑑賞。
 しかし、
 駄目だぁぁぁぁ〜っ。
 もう、ハイジのあの声がもろ直撃!わたしってロリコン?ってくらい来る来る!
 ストーリーは理解できるんだ。ちゃんと、ジーンと来たし、後輩の前で不覚にも涙まで流しそうになった。でも、涙を拭こうとティッシュに手を伸ばすのが憚られるぐらい(゚.゚)!
 あっ、これでわたしロリコンの仲間入り。人間こうやって落ちていくのネ…。

 「先輩!大丈夫ですか!」
 わたしの目は、多分、自己嫌悪のため焦点が定まっていなかったのだろう、心配した後輩が『バタリアン』を握り締めながらこっちを見ている。
 「あっ、あぁ」
 「どうします、一度トイレに行ってきたら?その後にこいつ見ましょう」
 「ああそうする」
 さっきから、やたらに喉が乾きコーラをがぶ飲みしていたせいで膀胱がパンパンになっていた。トイレまでの3mあまりの道のりがやたら歩きにくい。
 「お前どうしちゃったんだ?」自分の分身に問い掛ける。勿論、『やる気まんまん』じゃないから返事は返ってこない…。

 トイレにて。
 膀胱を開放しようとするが、まず、チャックが開かない!
 仕方なく、ベルトを外しボタンもとってパンツごとズボンを脱ぐ。
 困った(*_*)!
 下を向かないんだぁぁ!噴水のようになってしまう!このままではヤバイ!思いっきり力をこめて下を向けようとすると…
 ☆♂♀∞♪♪◎∋!言葉には出来ません!あえてすると、ブチッ!バキッ!ボッッギ!痛て〜ぇ!
 しょうがないので、便器にうつ伏せになって直接突っ込んでする。ユニット・バスで助かった。しかし、情けない、あまりに情けない格好だ!
 膀胱が軽くなり、一瞬、もう片っぽも軽くするかという、誘惑が頭を過る。しかし、後輩の話を聞いた後ではそれに乗るわけには行かない。
 履きにくくなっているズボンを無理やり履いてリビングに戻る。

 ボオーっと『バタリアン』を見ていた後輩が、トイレのドアの開閉の音で我に返り、死んだ魚のような目でわたしを見る。
 「どうでした?」
 「どおって?」
 「全然、元に戻らないでしょ。何度やっても…」
 「いや、俺はやってない」
 「えっ!また〜。だって、終わった後の独特の罪悪感と虚脱感の入り混じった顔してますよ」
 「ああ、してないけど、罪悪感と虚脱感があるのは確かだ。さて、『バタリアン』でも見よう」
 もうこの頃になると、2人ともどうでも良くなっていた。ナニがってことではなく何もかも。
 ぼーおっ、っと画面を見ているのだが、体の一部が自分の意思に反して、熱い塊のままになっている。死体袋の中の死体が激しく動いている。わたしの分身も死体袋(ズボン)の中で激しく動いている。きっと、自分の意に反して生返るってことはこんなにも苦痛なのだろう。
 今までは、嫌悪の対象でしかなかったホラーのモンスターが急に身近に思えてくる。
 あっ、これで、わたしはロリコンに加え死体愛好家の仲間入りもしてしまったのか…。元の生活に戻れるのだろうか?

 『バタリアン』終了。
 後輩:「…」
 わたし:「…」
 (5分経過)
 後輩:「……」
 わたし:「……」
 (10分経過)
 後輩:「………」
 わたし:「………」
 (20分経過)
 後輩:「あっ!」
 わたし:「えっ!」
 後輩:「終わったみたい」
 わたし:「ああ、そうだな。じゃあ、帰るわ」
 後輩:「そうですか、僕、17日にアメリカ帰りますから、また、しばらく合えませんネ」
 わたし:「今度は、妙なモン買ってくるなよ。それと、親父さんによろしく」

 後日談。
 一時は、『バタリアン』状態になった愚息も、今は正常(?)な機能を取り戻しました。(ホッ(^。^)!)
 ミッキーを見ても、ハイジを見ても―勿論、ホラーは怖くて見てませんが―、もう平気です。
 一体、あの4時間はナンだったんでしょうか?あの、興奮もせず、只々“一本芯の通った”ような感覚は…。

 結論。
 媚薬ではない!断じて!
 健康な人間は飲むな!  


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