【ブランコ】〜小説〜
【第一章:リメンバー・ブランコ〜中山の朝〜】

まだ夜が明けきらない午前4時32分。 雀達が鳴き始めれば空が蒼くなる真夏の朝だった。

中山喜一(32歳)は一睡もできないまま “ヴィンテ-ジ”と言い張って4年間一度も取り替えてないシーツの上で 映画“愛と欲望のガダルカナル”を流しながら 愛吸している“ヤンキーストライク・スーパーファイト”の紫煙を 燻らせて部屋の隅に置いてある“オージーさんの時計”の針に 視線を集中させていた。

「万田との待ち合わせの時間まで、まだ12時間以上かぁ... 何年ぶりになるんだろう...別れてから...逢ってねぇなぁ...」

万田こと、万田沙羅(31歳)は中山の幼なじみであり、 数年前までは挿しつ刺されつのラバー関係になっていた女性である。 ふとした事から、仁義無き闘いとなり、なし崩し的に 別れたまま会う事のなかった万田から連絡があったのは 2週間前の事である。

「逢いたいの...逢って話がしたいの... 2週間後の午後8時に公園の...あのブランコで待ってる...」

電話が切れた後は ひたすら電子音がこだましているだけだったが 被害妄想気味の中山は、受話器を握り締めたまま 電話の前に立ち尽くし、「誰かが俺をハメようとしている...」 そう呟きながら電子音に向って 名曲“イェーデル・ドリッピーのワイフ”を 式神返しの意味を込めて口ずさんでいた。

疑心暗鬼の中2週間考え続けた中山が 「電話の主が間違いなく万田である!!」と確信したのは昨日の事である。 昨夜のゴールデンアックス名画劇場で放送された 映画“闘魂リング2”を観ていたら 何となく万田と逢いたくなってきたのである。

「俺の中に、まだ万田がしぶとくへばりついている...」と 痛感した中山は、万田と逢う決意を固めたのである。

しかし、決意を固めたは良いが 待ち合わせの午後8時までは、まだ半日以上ある。 「こんな時、妙に時間が流れるの遅く感じるよねぇ〜 ロンリ〜マックイ〜ン自ぃ〜転車ぁ♪」などと 即興の歌を口ずさんでみても 時間の流れる速度に変化はない。

歌に飽きた中山は、その昔、万田からもらった プラモデル“ロボだっちYファー”の製作に取り掛った。 それはまるで、これまで二人が共に歩いて来た日々に 灯を点す様な作業であった。中山の背中に哀愁が漂うのが目に見える様であった。

その頃、万田も中山同様 一睡もできずに朝を迎えていた。

〜続く〜
☆公園☆