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或る日の暮れ方の頃である。一人の下人が、羅生門の下で雨止みを待っていた。 広い門の下には、この男の外に誰もいない。唯、所々に丹塗りの剥げた、大きな円柱に、きりぎりすが一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男の他にも、雨やみをする一女傘や揉烏帽子が、 もう二三人はありそうなものである。それが、この男の他には誰もいない。 |
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暫く死んだように倒れていた老婆が、死骸の中から、その裸の体を起こしたのは。それから間もなくのことである。老婆は、つぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、 梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、短い白髪を逆さまにして、門の下を覗きこんだ。外には、唯、黒洞々たる夜があるばかりである。 下人の行方は誰も知らない。 |