天山にて

 箱根の方に、天山という温泉があります。
ここは、宿泊施設はなく、広いいくつもの露天風呂が、
目玉の日帰り用温泉施設です。
ここが気持ちいいんだ。

 ある日、この温泉に私と同期のささちゃんとで、行きました。
時間は、午後6時頃。 しかし、冬も近いこの季節、6時でも
あたりは、まっくらになっていました。
暗い中、通路のところどころに、オレンジ色の
電球がいくつかともされ、贅沢なほどの温泉の湯煙が
そのオレンジの光を包むように、天に舞いあがっていきます。

 私とささちゃんは、足元に注意しながら、
洗い場へ行き、1日の疲れを洗い落します。
しかし、寒くなった私は、一足先に、
お風呂につかりに行くことにしました。
私は、昔から、ピリピリするくらいの熱いお湯が好き。
それで、もちろん一番上の源泉に近いお風呂に、入りに行くことにしました。
しかし、一番奥にある熱いお風呂のまわりは、とても暗く、
目の悪い私には、そこまでの20mが冒険です。
しかも、温泉の成分でしょうか、足元がとても
滑りやすくなっています。
ここまできて、しかも裸で滑って転んでしまっては、
LADYのあたくしの、プライドと
その激痛を考えると、あってはならないこと!
それで、大地を一歩一歩踏み締めながら、
慎重に進んでいきました。

 そして、やっとの思いで岩で囲まれた目的のお風呂の縁まで たどりつきました。
しかし、ここで気を抜いて、スッテンコロリンとなっては、
いままでの苦労がすべて水の泡。
温泉に肩までつかってこそ真のゴール。
そこで私は、慎重にも、両手で浴槽の岩をつかみ、
両手に体重をかけながら、片足を上げ、お風呂の中に足を沈めていきました。
そのとたん、左手の岩が、ブクブクと鈍い音をたてながら沈んだのです。ブクブクブク
ブクブクブクブクブクブク
(・・)ン...?それって???私の体重って??????

とも思いましたが、状況をよぉく観察してみると、
私が岩だと思い、手をかけた左手の岩は、
鬼の子のように、パーマをかけたおばさんの頭。
そうです。気持ち良くあたたまり、浴槽の岩によりかかっていた
おばさんの頭が、逆光と、私の視力の悪さから、
岩に見えてしまったのです。


 もちろん、私は、沈んだおばさんの無事を確認し、
深く陳謝した後、いちもくさんに逃げたしたことは、
いうまでもありません。

 END