5月10日

『緋色の囁き』 綾辻行人:著

 緋色・・・流れる血の色、流される血の色、吹き出る血の色
飛び散る血の色・・・血・・血・・・血・・・
 映画のキャリーを思い出させるような状況設定だが、
それだけではすまないのが、綾辻さんの小説。
 推理小説の形ではあるが、廊下を歩く足音と、皮膚が斬り裂かれる
音が聞こえてきそうな不気味な感じもする。
 謎が解けたからといって、それにどれだけの意味があるのだろうか。
 流された血は二度と体内にはもどらない。
 死者が蘇らないと同じように。
 虚しさが体を包むが、流された血の量だけ生が浮かび上がる。
 そして、少女の残酷な心理がその生をもて遊ぶ。
 それは女性特有の周期に左右され、ここにも血が流れいる。
 そこここに血が流れている。
 読みながら血生臭さい匂がしてきたのは私だけではあるまい。 
    

今日の教訓 『人間の体には一体どれだけの血が流れているのだろうか』


5月11日

『暗闇の囁き』 綾辻行人:著

 子供の頃聞いた童話。
 何気なく創作した童話の中のある儀式をすることにより、勇者が蘇る。
 それを無邪気に信じ、実行すると、恐怖が始まる。
 無邪気故に、無造作に残酷になる。
 忘れさられた、おぞましい童話を現実にしようと
人体を切り刻む・・・。
 ううむ。
 緻密で大胆な推理小説から読み始めただけに「囁きシリーズ」は
ホラーを読むように読み進めた。
 自分の心にも何かしら囁きがあるのかもしれない。
 とても小さく、すぐに消えるようなかぼそい囁き・・・
 耳を澄ましてその囁きに聞き入った時、闇の世界が
大口をあけて待っている。
 そして、その闇を覗いた時、闇も密かに微笑んでいる。
 もう少し、この作家の小説を読みたくなりました。
    

今日の教訓 『囁きという言葉の響が心をくすぐる』


5月12日

『黒い家』 貴志裕介:著

 保険制度を逆手に取って大金をせしめるという、ひ素入りカレー
で注目を集めた方法が題材になっている。
 生命保険を手に入れるために、実の子、夫、自分以外の家族全員
の命をなきものにしようとする。
 保険金を払わないとなると、その保険会社の社員に殺意をいだく。
 人間としての心を失った時、人間は人間の命に無関心になる。

 殺人の手段がハモをさばく時の日本刀のような包丁というのも
恐怖を倍増させている。
 ギラギラ光る刃がゆっくりと、そして確実にせまってくる恐怖。
 銃で撃たれるのも嫌だが、恐怖の度合を比べると刃物の方が
格段に怖い。

 この小説がホラー小説大賞大賞受賞作というから凄い。
 本当に新人なのだろうか。
     

今日の教訓 『どうせなら一発で仕留めてくれ!』


5月12日

『とり残されて』 宮部みゆき:著

 死者が語りだし、現実と過去の境目が曖昧になり
そこから生ずる不気味さが饒舌な文体でとつとつと語り進められていく。
 以前読んだ、筒井康隆の小説を思いだしながら読んだ。
 筒井氏の作品は、読み進めていくうちに違和感を感じ
「あ、やっぱり死んでいるんだ」と驚かされ、小気味良いどんでん返しを
味わった。
 死者は普段生きている者と変わらぬ感情を持ち、生者と
ともに生きている。
 そこには悲しみを背負い、それから逃れようとする足掻きにも
似た行動を生者の力を借りて果たそうとする死者が群れている。
 また、どうにかして現在を変えようとするあまり、
過去の一点からやり直すため、時間の進み方が曖昧になり
現実と過去が同居する歪みが生ずる。
 過去も死者も再び蘇る事はないという前提が崩れると
こんなにも心を打たれる物語が出来るのか。
 まさに宮部ワールド。
  

今日の教訓 『過去も現在も未来も「今という一点」にある!』


5月15日

『小説家〜直木賞作家になれるかもしれない秘訣〜』 高橋克彦:著

 巷にある、作家養成本とはちょっと趣が違う。
 著者が江戸川乱歩賞をとるまでのドキュメントでも言えば
いいのだろうか。
 書かれている内容、得に「読書をしなさい」というのは
かなり共感できる。
 私も作品より作者に傾倒するほうで、一つの作品が気にいると
その作家の他の作品を2、3冊は必ず読む癖がついているから。
 ただ、こういう本を読んでいると、身の程を知らないとでも言うか、
真剣に小説を書いてみたくなる。
 晴耕雨読の生活に印税収入はうってつけですからね(笑)。
 そして、賞をとった方々の作品を読む度に「凄いな〜〜。
やっぱり書けないよな〜〜〜」と素直に負けを認めてしまう。
 小説より、現実の方が数倍面白し、アニメやゲームで幻想的な
世界に入り込んで行けるしで、小説のテリトリーがますます狭まって
いる気がするが、こういう自伝的小説を読む度に「まだまだいけるぞ」
と明るい未来を予測している。
 もっともっと、素敵な作家たちに出現して欲しい。
 その作家たちがこういう自伝的な本を書いてくれると、私のような
読者は、また1つ「小説家への夢」を見る事が出来るから。
  

今日の教訓 『夢、実現させるか、見続けるか。そこが問題だ!』


5月18日

『竜の柩 聖邪の顔編』 高橋克彦:著

 古代の神々は宇宙人であった。
 何とはなしに眉唾物と思ってしまうかもしれないが
この一行を読んで鼻に皺寄せて笑った、そこのあなた。
 読んで下さい。
 古代からの文献や資料を駆使して、一気に仮説を
論証していく。
 その過程に付き合わせられたら、「うん、そうかもしれない」
とうなずくのは私だけではないなずだ。
 固定観念というものは、時として物の本質を見失なわせる。
 そもそも「固定」という言葉からして固い。
 時代は柔軟な発想を求めていると言われて久しいが、
頭が柔軟でなければ、多くの資料から類推し、組み立て新しい仮説を
論じていくことは出来ない。
 頭の固い、固定観念丸出しで生きているのなら是非読むべし。
 こういった「神の正体は」というような宗教が出現してからの
大疑問にまっこう勝負する小説。
 残り3冊、まとめて読むべし。
  

今日の教訓 『固定観念を打破せよ!』


5月19日

『竜の柩 ノアの方舟編』 高橋克彦:著

 子供の頃、旧訳聖書を読んでいて、ノアの方舟に
すごい興味を持っていた。
 地球全体が大洪水になり、ノアが選んだ種だけが
新しい地球に生き残れるという壮大な物語。
 わくわくしながら読んだのを覚えている。
 で、その方舟が実際にある!!とかいうニュースを読んだり
聞いたりして、現実と幻想が妙な一体感を持ち始め、聖書への
興味を一層強くしていった。
 (といっても、ユダヤ教徒でもクリスチャンでもないが。(笑))
 そして、このノアの方舟が竜の船だと推論し、(UFO)それを
めぐって、色々なグループが激突する。
 読んでいて、子供心を刺激され、あの頃の「未知への憧れ」を
思い出させてくれた。
 ただし、この小説は気紛れなファンタジーの世界ではなく、世界中の神話
を検証し、それを積み重ねる事によって、方舟を発見していく。
 これこそが、著者の得意とする技で、わたしもすっかり引き込まれて
います。
 残り2冊、すぐに読むべし。
  

今日の教訓 『飛べ、飛べ、天まで飛べ!』


5月20日

『竜の柩 神の星編』 高橋克彦:著

 竜に乗ってたどり着いた先は、なんと四千年の昔の地球。
 著者が信じる仮説をもとに、なんと桁外れな状況を考えるのだろう。
 やはり尋常な作家ではない。
 しかも、全編を通じてテンションが下がっていないし、
論理に破綻もない。
 全て、つじつまがあうように作るのが作家の使命なのだろうが、
ここまで来ると、まるで見てきたかのような感じさえする。
 神々の争いに対して、その未来を知る主人公たちが
縦横無尽に活躍する。
 魅力的なキャラクターが生き生きと描かれ、仮説に
真実味が生まれてくる。
 とにかく凄い小説です。
 残り一冊、徹夜しても読むべし。
  

今日の教訓 『未来を知る事が果たして、いい事なのか!』


5月21日

『竜の柩 約束の地編』 高橋克彦:著

 全てが解決するのが、ラストの醍醐味。
 そして、そこでばっさりと裏切られるのが快感。
 テンションを失う事なく、最後まで理路整然とした内容。
 今、明かされる日本神話のスサノオの正体!!
 これ以上書くのはやめましょう。
 はまってしまう作家が一人増えただけでもよしとしましょう。
  

今日の教訓 『いいぞ、高橋(Gではない、念の為)!』


5月24日

『写楽殺人事件』 高橋克彦:著

 著者のデビュー作になる「江戸川乱歩賞受賞作」。
 事件のトリック自体に真新しさはなく、どちらかというと
簡単な部類に入るのだが、事件に至るまでの人物の内面の
書き方が秀逸だ。
 事件に至るまでの経過は、ふんだんに資料を使いこなし
新しい写楽像を打ち立てたようとしているのではないかと
思わせるほどリアリティがある。
 これがデビュー作なのか・・・
 トリックに凝る作家が多い中で、殺人をおかすまでの動機を
メインとし、人間像を書こうとした意欲作とも思える。
 そういえば、人間の心ほどミステリーな物はなく、
それを書こうとすること自体が推理小説になるのかもしれない。
 殺人事件とならずとも、人との出会いや別れ、愛憎入り乱れる
人間関係を読み解くには、かなりの名探偵にならなければいけない。
 それを小説にするとミステリーでホラーでディープな小説に
なるのだろう。
  

今日の教訓 『デビュー作って、結構気合いが入ってますね!』


5月25日

『霊験お初捕物控』 宮部みゆき:著

 日本人の好きな忠臣蔵の新たな解釈が、数奇な事件とからまり
浮き彫りにされていく。
 超能力という一種、ミステリーにはタブーのようなものを上手に
使い、決してご都合主義におちいらないのがうまい。
 文章も上手で、情景が目に浮かぶようだ。
 そして、主人公「お初」の超能力が万能じゃないのが、また
気をもませるいい味を出している。
 事件と直接関係がありそうで、その繋がりは謎解きまで
おあずけ。
 目の前のご馳走が冷めないぎりぎりまで我慢させられているので
一気に読めてしまう痛快さ。
 ふ〜〜む、もう少し読む事になりそうだな。
  

今日の教訓 『超能力ってあっても不便なんだろうな!』


5月31日

『我らが隣人の犯罪』 宮部みゆき:著

 著者のデビュー作である、表題にもなった「我らが隣人の犯罪」は
軽妙なタッチの文体で、こういうのをお洒落な文というのだろうな。
 それに、ミステリー仕立てではあるが、トリックに凝っているわけでも
なく、それほど頭を悩ませる内容ではないのだが、都会にありそうな
動機、ありそうな結末、こういうのをリアリティというのだろうな。
 「この子誰の子」や「サボテンの花」では、最後にホロっとさせて
くれる短編で、著者の人情物での原点になっているような作品だ。
 「祝・殺人」では、現実の社会で何気なく扱っている祝電が1つの
盲点になっており、著者の観察が鋭い事を示している一品。
 「気分は自殺志願」では、犯罪とまではいかないが、人を騙す時に、
奇病と嘘の組み合わせが面白く、それに荷担しているのが、ミステリー作家という
何ともありそうな小説だが、人情の機微が上手に書かれている。
 全編を通して、著者の原点のような短編がつまっている一冊でした。
  

今日の教訓 『一冊書き上げると、連鎖反応で何冊も書けるんだろうな。!』


6月1日

『蟲』 坂東眞砂子:著

 虫が3つ繋がってもやっぱり虫なのである。
 しかも、イモ虫のような虫の話しなのである。
 虫が嫌い、虫がいると発狂しそうだという方々は読まない方が
賢明です。
 虫に対して免疫のある私ですら(住居が山の中なもので)、読みながら
イモ虫が背中を這っているのではないかと錯覚したぐらいですから。
 著者の「死国」は、なんともいただけない小説だったのに対し、
この小説はホラーとして結構いけてます。
 文体のトーンが終始一貫しているし、テンションも最後まで保って
いました。
 「死国」のイメージが強かっただけに、最初はあまり期待していなかった。
 だが、読み進めているうちに、虫を感じてくるんですよ。
 モゾモゾと、身をくねらせ、毒々しい姿で、ウネウネと、背中を
這ってくるんです。
 
 著者の作品はまだ、2作しか読んでませんが、当たりはずれが多そうな
作家ですね。
  

今日の教訓 『もしかしたら、坂東さんは二人以上の合作?』


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