機動戦艦ナデシコ 番外編
「CAROL 〜A day in a girls life of NADESICO」
 Track #1 ラ・パス・ル・パス”への調べ(CAROL〜CAROL's Thema 1)


「・・・・・・ガボール・スクリーン?」

 ホシノ・ルリはウィンドウに映るその文字に釘付けになっていた。そして、何故か心が騒いだ。
 ナデシコのオペレーターである彼女は休憩時などの空いた時間を使って、艦のメインコンピューターであるオモイカネを通じ
過去の文献を調べることを日課としていた。
 もちろんそれは只単なる知識欲でありナデシコの運営に直接関係することではなかったが、それでもルリは政治経済に
始まり、文学、芸術、歴史・・・・・・ありとあらゆるジャンルに及んでいた。
 そして今日は文化、特に流行歌について調べていたときだった。

「オモイカネ、今日は昔の人たちが口ずさんでいただろうと思われる曲を調べてみましょう」
『わかりました』

 ルリは次から次とウィンドウに表れる文字を見ながら、微かに微笑んでいた。
 彼女にとって知識の吸収はマシンチャイルドとして育てられてからごく当たり前のことだった。最もそのころは戦艦の運航に
必要な専門知識、特にオペレーターに必要とされる知識のみだったのだが、ナデシコに乗ってからは主に雑学としてしか役に
立たないようなことまで知識として吸収するようになった。
 ルリにとって当初それは面白半分に始めたことだったが、今では日常として欠かせないことになっていた。
 そして、その日常はルリに少女らしさを取り戻すきっかけとなっているようだった。
 なお余談であるが、最近ルリは頻繁に料理の文献を見るようになっていた。もちろん自分では作れないことも自覚していたが、
なぜか熱心に、特に中華料理の文献を見る事が多くなっていた。

「・・・・・・やっぱり、その時代において様々な曲が歌われてるんですね」

 ルリは感慨深げに呟くが、その言葉には全く実感がこもってなかった。恐らくルリの予想した範囲のデーターだったからだろう。

「オモイカネ、この中で何かいい曲はない?」

 ウィンドウの中に興味を引くものはなかったが、とりあえず1曲ぐらいは聴いておこうと思ったその時だった。視界の端に一つの
グループ名が入った。それがガボール・スクリーンだった。

「オモイカネ、このガボール・スクリーンについて教えて」
『ガボールスクリーン、20世紀後半に活躍した3人組ユニット。
6枚目のアルバム「ロボット」まで全てのアルバムがミリオンセラーになるなど音楽界のトップをはっていたが、
「ソング・オブ・カプラ」で音楽界から全てを否定され、それ以後消息不明となった。
その後の彼等の行方は不明。結局全てが謎に包まれたグループです』
「・・・・・・ふーん」

 ルリはこのガボール・スクリーンというユニットに非常に興味を抱いた。

「オモイカネ、その曲を聞かせて。ガボール・スクリーンの『ソング・オブ・カプラ』を」
『わかりました』

 「ソング・オブ・カプラ」はとても不思議な曲だった。まるでルリに何かを語りかけてくるような曲だった。
・・・・・・何だか悲しい音色。
 ルリには音楽の詳しいことなどわからなかったが、その曲の中に溢れる悲壮感を感じ取っていた。そして、ゆっくりと瞳を閉じる。

「えっ!?」

 それは一瞬の映像だった。
 ルリが瞳を閉じたとたんフラッシュバックのように3人の男の姿が脳裏に映し出された。
 一人は白い帽子をかぶり、鋭い眼をしていた。もう一人は全身が緑色をして大きな耳を持ちサングラスのようなものをしていた。
そして、最後の一人は虹色のマントを着て女性のように細いラインをしていた。
 
「今のは何?」

 ルリは驚きのために心臓の動悸が早くなるのを感じていた。
 脳裏に映し出された3人の姿、それは見たこともない場所にいる見たこともない人物ばかりだった。しかし、ルリは今見てきた
ばかりのように鮮明に思い浮かべることが出来た。

『どうしました、ルリ』

 オモイカネが心配するようにウィンドウをルリの前に開いた。

「・・・・・・何でもない」

 ルリはオモイカネに心配をかけないように平静を保とうとするが、あの映像が脳裏から離れず落ち着くことが出来なかった。

「・・・・・・大丈夫、ルリちゃん?」
「テンカワさん・・・・・・」
 
 突然ルリの耳元にルリにとって聞き慣れた者の声がした。
 ゆっくりと彼女は声のした方向に向いてみる。そこにはルリにはよく知った人物、テンカワ・アキトが立っていた。

 「・・・・・・大丈・・・・キャッ」

 ルリはオモイカネの時以上に平静を保とうとするが、ただでさえ白い肌がより一層白くなっているのを見るとアキトはルリが全ての
言葉を言いきる前に彼女を抱き上げた。

「ユリカ、ルリちゃんかなり辛そうだから医務室へ連れて行くぞ!」
「いーな、ルリちゃん。ね、今度ユリカが辛そうにしてたらユリカをだっこしてね」
「それとこれとは別だろ・・・・・・」
「えー!ずるいよアキト・・・・・・」

 アキトはこれ以上話が続くのを危惧して、ルリを抱え上げたままブリッジから退出した。
 もちろんこのときルリは本当は降ろしてもらおうと考えていたのだが、アキトとユリカのやりとりを聞いていると、何故かこのままで
良いという気持ちになったので何も言わずにおとなしく抱かれていることにした。

「・・・・・・ホント、バカばっか」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「テンカワさん、ガボール・スクリーンって知ってますか?」

 ルリは医務室のベッドに横になると、アキトにガボール・スクリーンの事を聞いてみた。
 普段であれば周りの目も気になってこの様なことは聞けないのだが、今日はいつもと違い素直に聞くことが出来た。なぜなら、ナデシコ
の医務室には何故か誰もいなかったからである。もちろん、それは主治医であるイネス・フレサンジェも含めてである。
 この様な状況下において誰もいない。しかも説明大好きおばさんであるイネスまでいないことにルリとアキトは少々の疑念を抱かずに
いられなかったが、まあこういう事もあるだろうとその時は思っていた。そう彼等はすっかり失念していた、この様な部屋にも監視モニター
が存在していることに。
 
「ガボール・スクリーン?・・・・・・いや、知らないな・・・・・・」
「そうですか・・・・・・」

 アキトはしばらく考えてみたが、やはり心当たりのある名前ではなかった。そしてルリはその答えを当然と思ったが、失意の色は隠せ
なかった。
 ルリのあまりの落ち込みように何かを感じたのか、アキトはルリの髪を優しくなでると、問いかけてみた。

「なにかあったの、ルリちゃん」
「・・・・・・・・・・・・実は・・・・・・」

 一瞬素直に答えることにためらいを感じたが、恐らくアキトなら真面目に聞いてもらえると思い、全て話すことにした。
 ”ガボール・スクリーン”その名を聞くのは初めてなのに何故か懐かしさを感じたこと、そして”ガボールスクリーン”最後の曲である
『ソング・オブ・カプラ』を聞いたとき何故か悲しみを感じたこと、そして曲を聴いたとき脳裏に3人の男が映し出されたことを。
 ルリが全てを話し終わってアキトの方を見てみると、彼は腕を組んで何かを考え込んでいるように見えた。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・あの、テンカワさん?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・あのー?」

 アキトは完全に思考にはまっていた。そのために聴覚はシャットダウンされ、彼の耳には届いていなかった。
 ルリは何となく面白くなかった。アキトにこの問題を投げかけたのは自分だから文句は言えないのだが、まるで自分の存在を無視された
ようで何となく面白くなかった。
 そして、もう後5分この状態が続いたらとりあえず中華鍋でたたいてみようとルリが思った頃、アキトが一言ポツリと呟いた。

「・・・・・・ラ・パス・ル・パス」
「・・・・・・え?」

 アキトの呟きはともすれば聞き逃しそうになるほど小さな呟きだった。
 しかし、ルリはその言葉を聞き逃さなかった。

「ラ・パス・ル・パス?」

 これも初めて聞く名前だった。しかし、ルリにはとても懐かしい気がしていた。
 そしてそのことをアキトに尋ねようとすると、

「あ、ごめん。これから仕込みがあったんだ。・・・・・・まいったな、メイホウさんにしかられるな。ゴメン、ルリちゃん!」

 そう言って、ルリの元から去ってしまった。しかし一人残されたルリは何も言わずアキトを見送る。

「・・・・・・ラ・パス・ル・パス」

 そして、ルリは先程のアキトと同じように思考に入り込んでいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 その夜、ルリは不思議な夢を見た。
 小鳥のさえずりも聞こえない、人々の楽しげな声も聞こえない、そして、アキトの調理する音も聞こえない、全ての美しい音が無く
なった世界の夢を。そして・・・・・・・・・・闇の中から誰かが呼ぶ声がした。

「・・・・・・貴方は誰?」

 ルリは必死に声の主に問い掛けた。しかし、返事はない。

「・・・・・・私はそこに行かなければならないの?」

 再び声の主に問い掛けるが、何も答えは返ってこない。だが、ルリの心の中には明確な答えが生まれていた。

「私を呼びし人よ!今からそちらに行きます!!」

 ルリは声の限り叫んだ。
 次の瞬間、ルリは真っ白な光に包まれていた。そして、そのあまりの眩しさにルリは目を覚ました。

「!?」

 しかし彼女が目にした光景は、見慣れた医務室の天井ではなかった。

「・・・・・・森?」

 ルリがいたのは全く見覚えのない森、しかも光の射し込まない少し冷たさの感じる森だった。

「ここは一体・・・・・・」
「それ以上先に行ってはいけない!」

 ルリの背後から声がした。そして、その声には何故か聞き覚えがあった。
 
 
 
 
 

 To be continued Track#2


< SAB Track〜あとがきのようなもの>

 TMNETWORK再結成!
 あまりの嬉しさについついこの様なSSを書いてしまいました。これを読んでくださった読者の方々、一応、初めての方
でも読んでいただけるようにはしているつもりですが、何のことか分からず頭をひねっておられる方、勘弁してください。
この作品は魔角の趣味だけで書いています。

 どちらにしても賽は振られたんだ。頑張るしかないですね。

 このお話は一応全5話を予定しています。
 サブタイトルは以下の通り。

 Track #2 闇からの逃走(Chase in Labyrinth〜闇のラビリンス)
 Track #3 不協和音(Gia corm fillippo dia〜Devil's Carnival)
 Track #4 光の元へ(In the Forest〜君の声が聞こえる)
 Track #5 たったひとつの勝利!(Just One Victory〜たったひとつの勝利)
 

 さて、これで連載も一つ増やしちゃったし頑張るしかないよな。

                               1999.6.25 魔角甲機