「それ以上先に行ってはいけない!」
背後からの声にルリは振り向かずにはいられなかった。何故ならその声には聞き覚えがあったからだった。
しかし、ルリの背後には誰もいなかった。慌ててルリは辺りをキョロキョロと見回した。
「それ以上進むと危険だって、言ってるだろ!」
その声にルリはようやく声の主を見つけることが出来た。
背後にあった大きな木の太い幹の上に人の影らしきものを見つけた。ルリはその人影を凝視すると、それが
ルリのいままでに知っていた人物ではないことが直ぐにわかった。木の幹の上にいた人物は全身が緑色をして
おり、さらに人間とは思えぬ大きな尖った耳とサングラスのようなゴーグルをしていた。
「・・・・・・貴方は誰?」
ルリは幹の上にいる人物に話しかけた。しかし、返ってきた答えはルリの問いかけとは全く別のことだった。
「説明してる時間はない!ここから脱出するぞ」
そう言うと緑色の人物は木の幹から幹へと普通に走るのと同じくらいのスピードで飛び移っていった。
ルリは全力で彼の後を追いかけた。そうしながらルリは不思議なことに気がついた。全く知らない筈の彼を
何故かどこかで見たような気がしたのだ。
『一体どこで見たんだろう・・・・・・』
ルリは考えながら走っていたので、彼が立ち止まっていたことに気付いていなかった。
「おいおい、どこまで行くんだ?」
彼のその声でルリはようやく自分が彼を追い越していることに気がついた。
「さて、ここらへんでいいかな」
彼はそう言うと大きな木の根本にどっかりと腰を下ろした。そして、腕を頭の後ろで組みそのまま木にもたれ
かかるとルリに話しかけてきた。
「君は一体何者だい?少なくともこの世界の者じゃないね」
「私は・・・・・・」
ルリは少し考えあぐねた。自分は機動戦艦ナデシコのオペレーターで人工的に産み出されたマシンチャイルド
なんて言っても信じてはもらえないだろうと思ったからだった。
そんなルリを気遣ったのか彼は優しく微笑むと、別のことをたずねた。
「君の名前は何て言うんだい?」
「・・・・・・人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗るべきです」
ルリは即座にそのような答え方をしたことを後悔した。この世界は自分がいた世界じゃないことはすでにわかって
いる。そんな中で味方を付けようと思えばもっと愛想良くすべきだと言うことわかっていたのだけど・・・・・・
しかし彼はそのことに気分を悪くした様子もなく、明るい声でこう答えた。
「そうだね、これは失礼なことをしたかな。僕の名前はティコ・ブラーニ」
「ティコ・ブラーニ?」
「そう。僕のことはティコって呼んでくれ」
ティコと名乗った彼をルリは信じてもいいような気がした。少なくとも悪い人ではないようだ、格好はかなり怪しいが。
「私はルリ。ホシノ・ルリと言います」
「ルリ・・・・・・いい名前だ。それに名前の感じからするとキョウコと同じ日本人のようだね」
「え?」
ルリは驚いた。まさかティコの口から”日本人”なんて言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
「ああ、そんなに驚くことはないよ。この世界に来たのは君が初めてな訳じゃないから」
それはどういうことなのか。ルリが問いただす前にティコが口を開いた。
「この世界に来た異世界の人は君を含めて3人目かな。最初に来たのはキャロルと言う少女、そして次にその孫である
キョウコ、そして君・・・・・・もしかしてキャロルの子孫?」
ルリは少し考えてみた。自分の遺伝子はピースランド国王のものだからキャロルって人がピースランドと何か関係
あればそう考えてもいいのだろうが、少なくとも前にピースランド関係の資料を調べた限りではそんな名前はなかった
ように思う。
そして、ルリは小さく頭を振った。
「そうか・・・・・・」
ティコは溜め息を一つついた。
ルリはこの溜め息の意味は分からなかったが、少なくとも彼にとって”キャロル”や”キョウコ”という人物が大切な人
であったことだけはわかった。
「すみません・・・・・・」
「・・・・え?・・・・・・いや、そんな意味じゃなかったんだ。ただもしかしたらと思っただけで・・・・・・」
ティコは慌てた。どうやら自分の態度が相手に誤解を与えてしまったようだから。
すると今度はルリはティコのその慌てように驚くのと同時に、やはり信じてもいい人物であることを確信した。
「・・・・・・昔」
突然。そう、突然にティコが何かを話し始めた。
「昔この世界はジャイガンティカという奴によって危機に瀕していた。この世界ラ・パス・ル・パスは美しいく楽しいと思うこと
を具現化した世界なんだ。でも奴はこの世界から全ての美しいものを奪い取った。そして、ラ・パス・ル・パスは闇に覆われた。
そんなとき表れたのがキャロルだったんだ。
ジャイガンティカはこの世界だけじゃ飽きたらず、キャロルの世界まで手を伸ばし美しいものを奪い去ろうとしていたんだ」
ルリはティコの話に熱心に耳を傾けた。ルリの知的好奇心を満たすような話ではないが、何故か聞かなければいけない
ような気がした。
「そしてこの世界は救われた。キャロルと僕たち、僕とフラッシュ、マクスウェルの4人の活躍によってね。でも・・・・・」
ティコは先程までとうってかわって沈んだ声に変わった。
「奴は復活した。いや、完全な復活とは言えないが奴は復活したんだ・・・・・・黒い騎士をともなって・・・・・・」
「黒い騎士?」
ルリは奇妙な胸騒ぎを感じていた。特に彼の言う”黒い騎士”という言葉に。
「黒髪に全身真っ黒な衣装を纏い顔には顔の半分ほどの大きさもあるゴーグルをしていて、嫌な音のする武器を持っていた。
確か・・・・・・銃とか言う武器だ」
ティコは悔しそうな顔をしていた。恐らく何度か対峙したのだろう。しかしルリは別のことが気になっていた。
『私はその人のことを知っているような気がする。ううん、知っているんじゃない、これから先に出会うことを運命づけられている
ような気がする』
ルリは考えていた、”黒い騎士”のことを。そしてその考えはさらなる深みにはまらせていった。
あの音が響くまでは・・・・・・
「早くここから逃げろ!」
ルリの思考を中断させたのは1発の銃声だった。
そしてそのあとに続く男性の声。その声が自分たちに向けられていることは直ぐに分かった。しかも、”逃げろ”と。
ルリはその声に少々いぶかしんだが、ティコが直ぐに立ち上がり走り出した。ルリはそのあとを追いかける。
「ど・どうしたんですか!?いきなり・・・・・・」
「どうやら奴が来たらしい」
「奴?」
「・・・・・・”黒い騎士”だよ」
ティコの背を追いかけていたルリの問い掛けに答えたのはティコではなかった。
「貴方は・・・・・・・誰?」
いつの間にかその人物は走っているルリの横に並んで走っていた。その人物は白い衣装に白い帽子、全身を白で纏っていた。
その顔は凛々しくまた野性的でもあった。そして、ルリはやはりこの男の顔に見覚えがあった。
「フラッシュ!!」
今度はルリの前を走るティコが叫んでいた。しかもティコは器用に後ろを向いたまま走って・・・・・・・いなかった。
えっ!?
ティコは足を動かしてはいなかった。それどころか、彼の足は地面から少しばかり浮いたところにあった。
一体どういうことなのか?ルリはよく観察してみると、ティコの背中には小さな羽があり、その羽をパタパタと動かしていた。
『・・・・・・やっぱり人間じゃないですね』
ルリは心の中でそう呟いたが、口には出さないように心がけた。
「ティコ、元気そうで何よりだ」
「フラッシュこそ良く無事だったな」
「このフラッシュ様がそう簡単にやられたりはしないよ!」
さて、ティコとフラッシュの感動のご対面が続く中、ルリは一言口を挟むことにした。
「あのー。感動のご対面の中申し訳ないんですが、敵さんについて教えて欲しいのですが・・・・・・」
すると、フラッシュと呼ばれた青年はしばらくルリの方を見ていたが、ティコの方に顔を戻す。
「・・・・・・彼女誰?」
どうやらフラッシュはルリの方に意識を全然向けてなかったらしい。今ようやく気付いたという顔をしていた。
すると、ティコは苦笑いしながら答えた。
「彼女はルリ。キャロルと同じく異世界から来た子だよ」
「ふーん。キャロルと・・・・・・・」
このときルリは彼等にとってキャロルという人物がいかに大切な人物か分かったような気がした。なぜなら自分にも同じ様な
思いがあったから・・・・・
ルリがある男性のことを思いだそうとしたその時だった。
「危ない!」
フラッシュの叫びと共に彼の体が覆い被さってきた。そしてその直後ルリのいた地点の地面が吹き飛んだ。
「良く避けたもんだ」
その声はティコでもフラッシュでもなかった。しかし、ルリにとってその声は聞き覚えのある声だった。
「やはり貴様か、”黒い騎士”よ!」
フラッシュが叫ぶ。そして、その声に応じるように木々の奥から一人の人物が現れた。
その人物は黒いボディスーツの上に黒いマントを羽織り、顔半分を隠すように黒いゴーグルをしていた。まさに”黒い騎士”
と呼ぶにふさわしいいでたちだった。
「まさか・・・・・・そんな・・・・・・・うそ・・・・・・・」
ルリにはとても信じることが出来なかった。目の前に立つ人物はルリにとって大切な人物だった。マシンチャイルドである
自分にとても優しくしてくれた人。そして何より自分が愛してやまない人物だった。
「・・・・・・アキトさん」
ルリの呟きは闇の森の風に運ばれていった。
To be continued Track#3
< omake >
[キャラクター辞典]
キャロル ・・・・・・本名は”キャロル=ミュー=ダグラス”。イングランドに住み音楽家の父を持つ。
大好きなバンド”ガボール・スクリーン”の音楽の変化に気付き、それを探ろうとして
ラ・パス・ル・パスに迷い込んでしまった。
「CAROL」の主人公。アニメ版では声は久川綾。
キョウコ ・・・・・・本名”品川京呼”。日本のハイスクールに通う高校生でキャロルの孫。
学校の音楽祭のことで悩む彼女の前に謎の男性が現れる。
そしてその出会いが彼女の運命を大きく変えることになった。
「CAROL−K」の主人公。ラジオドラマ版では声は椎名へきる。
本当はあの3人とは直接会ってないんだけど一応あったと仮定する。
ジャイガンティカ・・・「CAROL」に出てくる悪の親玉。世の中の美しいものをエネルギーとする存在。
そのためラ・パス・ル・パスから美しいものを奪い去り、マクスウェルを拉致した。
そして、ラ・パス・ル・パスだけでは飽きたらず、地球に触手を伸ばした。
”ガボール・スクリーン”の音の変化、ビッグ・ベンの鐘の音消失はそのため。
ティコ ・・・・・・キャロルと共にラ・パス・ル・パスを救った一人。
全身が緑色をしており、大きな耳と背中に生えた羽が特徴。
そして、サングラスをしていることも。
モデルはTMNETWORKの木根尚登。(実際木根さんが空を飛んでる映像は結構笑える)
アニメ版では声は飛田展夫。
フラッシュ ・・・・・・同じくキャロルと共に世界を救った一人。
全身を白い衣装で纏ったラ・パス・ル・パスの騎士。(アニメ版ではちょっと違うけど)
ティコ、マクスウェルと一緒に音楽をやっていたときには彼がヴォーカル担当だった。
モデルはTMNETWORKの宇都宮隆。アニメ版の声はご本人がやられていた。
マクスウェル ・・・・・いきなりジャイガンティカに拉致された可哀想な人。一応ラ・パス・ル・パスの統治者。
女性のような線の細さを持ち常に虹色のマントを羽織っている。
モデルは言うまでもなくTMNETWORKの小室哲哉。
アニメ版は声は塩沢兼人。
<SECOUND TRACK 〜独り言>
ようやく第2章終わりました。長かった・・・・・・
それにしてもやっぱすごいですね、TMNETWORK再結成初っ端からとばしまくってますね。
「GET WILD DECADE RUN」初登場4位、「10YEARS AFTER」初登場1位。これに鈴木あみの「BE
TOGETHER」も
合わせると10曲中3曲がTMの曲って辺りがすごい!
もう夢のようですね。
さて、アキト君も登場しましたしこれからどうすればいいでしょうか?(まだ考えてなかったりする。)
それでは次回 Track #3 不協和音(Gia corm fillippo dia〜Devil's
Carnival) でお会いしましょう。
1999.8.6 魔角甲機