星の数だけ人がいて、星の数だけ出会いがある。そして・・・・・・別れ。
あの日、私は涙を流すことが出来ませんでした。「心」が壊れていたのかもしれません。
私にとって家族と呼べる大切な人。”ハハ”であるユリカさん。そして、”チチ”である
・・・・・・アキト・・・・・・
”家族”を失った喪失感、そして、失って初めて知ったあの人への想い。
あの人が私の前からいなくなったとき、私は私であるための一部を失った。
永遠に・・・・
機動戦艦ナデシコ劇場版異聞
REVENGER OF DARKNESS
序章 決意〜闇を纏いし者
<エリナ・キンジョウ・ウォン>
彼を初めてみたときの第1印象は「なんて頼りない男の子なんだろう」だった。
でも、彼に接しているうちに私の心の中で彼が占める部分が増えていくのがわかった。
それからは、いつも彼の姿を追っていた。
日々成長する彼をみていると楽しかった。
そして・・・・・・怖くもあった。
彼の瞳はいつも未来をみていた。そんな彼の瞳がいつか曇ることが怖かった。だからあの時、
漆黒の瞳から光を失い鈍い復讐の炎が見えたとき、私は全てを失ったことを知った。
S−1 ネルガル月面ドックNo.13
そう、大切なものの重要さはいつも失ってからわかる。そのことは人間の歴史が常に証明してきた。
だが、誰も反省しようとはしない。いつも繰り返しだ。
アイちゃん、ガイ、白鳥さん、・・・・・・ユリカ・・・・・・
いつも、目の前で大切なものを失い、何もできない非力な自分。そんな自分に何が出来るのだろう、と悩む。
自分の手をみてみる。何人もの人を殺めた手だ。
「ユリカ、ルリちゃん御免。もう、君たちに御飯つくってあげられなくなっちゃった」
目には見えない血が自分にはこびり付いている。何度洗っても落ちはしない。
「もう、昔には戻れない・・・・・・昔のテンカワ・アキトには・・・・・・」
ここにいるのはこのドックと同じく存在するはずのない存在。復讐という目的のためだけに生きている存在。
自分は、テンカワ・アキトの亡霊でしかない。
「ガイ、どうしたらいい」
もうこの世には存在しない仲間に話しかける。そうすることによって、自分の存在が明確になった気がする。
「・・・・・・?」
視界の端に人影が見えた。そちらの方を振り向いてみる。
「・・・・・・ラピス・・・・・・」
ラピス・ラズリ。
雪のように白い肌、なめらかな絹糸のような髪、そして金色の瞳。彼女は人と科学が産み出した妖精。
「・・・・・・アキト」
ひどく弱々しい声。その声に比例するように彼女の存在もやけに希薄に思えた。
「大丈夫だ」
笑みを浮かべてみるが、ラピスの表情は変わらない。
「・・・・・・アキト・・・・・・だめだよ・・・・・・」
『・・・・・・アキト・・・・・・だめだよ・・・・・・』
ラピスの声は儚げな声だった。しかし、その声に含まれる決意の強さは感じ取れる。しかし、
ユリカ!?
なぜかラピスの声がユリカの声に聞こえた。そして、
「・・・・・・アキト・・・・・・」
『・・・・アキトさん・・・・』
ラピスの顔にルリの顔がだぶって見えた。
・・・・・・ルリ。
あれから、3年。ルリはどうしているだろうか?
最後に彼女の顔を見たのはユリカと火星に旅立つ前のロビーだった。
『アキトさん、ユリカさん、お気をつけて』
『ルリちゃん、お土産いっぱい買ってくるからね』
『ルリちゃん、しばらく寂しいかもしれないけどすぐ戻ってくるからね』
『大丈夫です』ルリはいつものように抑揚のない声で答えようとした、しかし
『私、少女ですから』彼女の顔にはナデシコにいた間誰も見たことがないほどの慢心の笑みが浮かんでいた。
「いけないなあ、女の子泣かしちゃ。テンカワ君」
ラピスの背後からやけに軽い声が聞こえた。
そちらに顔を向けると、そこにはネルガル会長であるアカツキ・ナガレと彼の秘書であるエリナ・キンジョウ
・ウォンが立っていた。
「何のようだ」
出来るだけ動揺を悟られないように感情を殺す。
「つれないねぇ。せっかくいい話を持ってきてあげたのに」
アカツキがやれやれと云った表情で両手を肩まであげる。
「新しい情報か?そろそろ・・・・・・」
「お姫様の居場所が分かった。」
「!!」
もはや、言葉を続けることが出来なかった。感情が抑えきれない。
「テンカワ君、ここでは何だから・・・・・・エリナ君、ラピス君を頼むよ」
「はい」
エリナはラピスの側によると、優しく微笑みかける。いつもの彼女からは信じられない行為だ。
もっともその間エリナは自分と目を合わせようとしなかったが。
「彼女の前だ、抑えるんだ!」
アカツキが耳元で囁く。その言葉に我に返る。
エリナに手を引かれているラピスが心配そうにこちらを見ていた。
「・・・・・・済まない」
「謝るのは僕にじゃないだろ・・・・・・まあ、その件は後にしよう、君にとってはこちらが大事だろうから」
そう云うと、アカツキはさっさと歩き出した。後ろを振り向こうともしない。
「ふっ」
彼は昔と何一つ変わっていない。いつも自信に満ちあふれている。
ネルガル会長という役職にありながらパイロットとしてナデシコに乗り込むという酔狂な部分も自分は何が
あっても必ず生き残るという自信の表れだったのかもしれない。
彼のように生きるのは自分には無理だろう。生き残ることに自信がないのではなく、生き残っても地獄でしか
ないことが解っているから。
アカツキの後に付いていく。そして、ドックを出るまで後ろを振り返ることは無かった。
<アカツキ・ナガレ>
運命とは皮肉なものだ。いつも同じことの繰り返しだ。
親父とテンカワ博士、僕とテンカワ・アキト。親父はCCの研究者としてのテンカワ博士に、僕はボソンジャンパー
としてのテンカワ・アキトに嫉妬していた。
結局、結末は同じ。彼から大切な”家族”を奪ってしまった。
あの日、木星残党軍が不穏な動きがあることには気付いていた。しかし、まさか直接彼等、テンカワ・アキト、
ミスマル・ユリカの拉致に動くとは予想していなかった。
僕はネルガルの情報網をフルに使用し、彼等の行方を探した。そして、見つけた。
だが、そこに僕の知っていたテンカワ・アキトはいなかった。
僕の知っているテンカワ・アキトは直情的で、熱血で、「ゲキガンガー」が好きで、いつも未来を信じている、
そんな男だった。
しかし、そこにいたのはすべてを失い、復讐の業火に身をゆだねた鬼となった男だった。
まただ・・・・・・また、繰り返すのか・・・・・・・・
僕が彼に新たなる力”ブラックサレナ”とプロトナデシコ”ユーチャリス”を贈ったのは彼に同情したからではない。
むしろ、自らの罪を誤魔化すためでしかなかった。
おそらく、エリナ君には恨まれるだろうし、彼の家族であるルリ君にもいつかはばれるだろう。そして、その日が
来ることを待っている自分がいる。
そう、すべては失ってわかるものだから。
S−2 ネルガル月面工場貴賓室
月面工場におけるVIPの滞在用に設計されたこの部屋は様々な調度品によって埋め尽くされている。今の自分に
とってこれほど似つかわしくない場所もないだろう。もっとも、アカツキにとってはこれが当たり前なんだろうが。
「まあ、かけたまえ」
アカツキが勧めた椅子は革張りのソファーに虎の皮がおいてある”いかにも”といったものだった。
「いや、このままでいい。それより」
「情報を、だろ。・・・・・・テンカワ君、急いては事を仕損じる、って言葉知ってるかい?」
「能書きはいい、それとも説教するために俺を呼んだのか」
彼の言葉に昔の自分なら激昂しただろうが、今は何の感慨も浮かばない。・・・・・・感情を殺す術を覚えたからだろう。
またアカツキは、やれやれ、といった仕草をするが、すぐに緊張した顔つきに変わった。
「ヒサゴプランが木星残党軍の隠れ蓑になっている。という情報は既に知ってるだろう。」
彼はこちらに視線を向けたまま逸らそうともしない。
「そして、あの”遺跡”と”艦長”がヒサゴプラン関連のコロニーに運ばれたことも」
あの時、火星遺跡を巡って木星軍と戦っていた俺達は戦争終結のために”遺跡”をナデシコごと遠宇宙へ飛ばした。
そして、お互いに目的を無くした木星と地球は休戦条約を締結。戦争は終わったはずだった。
「ああ」
アカツキの言葉にうなずく。
木星の”熱血クーデター”は地球との休戦条約を結ぶために起きたと云われ、裏でネルガルが糸を引いていたと
噂された。
しかし、今回の事件は”熱血クーデター”において一人の男を取り逃がしたことにあった。
「草壁春樹。彼の影がヒサゴプランに見え隠れしていることも」
草壁春樹−元木連中将にして大戦時の最高指揮官であり、今回の事件の首謀者。そして、
自分をこんな体にし、ユリカを何処かへと連れ去った連中の黒幕。
「これを見て欲しい」
アカツキは背後にあるディスプレイに画像を映し出す。
どうやら隠し撮りされていたものらしくかなり画像が粗いが、そこに映っていたのは紛れもなく
「ナデシコ!」
「これはネルガルの諜報部が撮したものだ。場所はコロニー”アマテラス”」
それを聞くと彼に背を向けこの部屋を出ようとした。
「おっと、テンカワ君話はまだ続きがあってね」
これ以上話を聞くつもりはなかった。彼女の名前が出るまでは。
「ホシノ・ルリ。彼女もまたアマテラスに向かっているようだ」
「・・・・・・アカツキ、お前情報をリークしたな」
俺はゆっくりとアカツキの方を振り向く。すると彼は困ったような表情をしていた。
「いやあ、せめてヒントぐらいはあげようと思って・・・・・・ミスマル・コウイチロウ、なかなか食えない人物だ」
ユリカの父であるミスマル・コウイチロウが食えない人物であることはナデシコに乗っていたときに十分理解していた
はずだ。彼なら何もしなくてもアマテラスに辿り着いただろう。
しかし、アカツキのした事には何か裏があるはずだ。算段もなく動く奴ではないことは自分がよく知っている。
「何を考えているのか知らんが、あまり余計なことをしないでくれ」
そう言うと再び扉に向かっていった。
「アキト・・・・・・行くの?」
扉の向こうにはラピスが立っていた。
俺はその質問には答えず、エリナに向かって尋ねた。
「”ユーチャリス”と”ブラックサレナ”の整備はどうなっている」
「いつでも出られるようにしているわ」
エリナは感情を押し殺した声で答える。
「済まない」
出来るだけ感情が入るように言ったつもりだったが、やはり抑揚のない声だった。
「私は・・・・・・会長の命に従っただけだから」
エリナの声は消え入りそうだった。
最近では昔のように自信に満ち溢れた彼女の姿を見ることは無くなった。そしてそれが当たり前となってしまった。
『もう昔には戻れない・・・・・・闇を纏ってしまったからには』
「そうそう」
部屋の中からアカツキの声が聞こえてきた。
「確かリョーコ君もアマテラスの警護に当たっていたと思うよ」
アカツキの言葉には返事もせずにラピスをつれて”ユーチャリス”に向かった。
もし、この後のアカツキの言葉を聞いていたら運命は違った方向に進んでいたかもしれなかった。
そう、もし聞いていたなら・・・・・・
「・・・・家族3人出会えることを祈っているよ・・・・」
メールの宛先は
魔角甲機までお願いします。