S−1 ナデシコC”メインブリッジ”
「どうして・・・・どうして教えてくれなかったんですか?
生きてるって・・・・」
「教える必要がなかったから」
「そうですか」
あの時、テンカワさんとの対面の時、私はこの返答を予想していました。
不思議ですね・・・・テンカワさんのことがわかってしまうなんて。
でも、何故かは分かってるんです。だって、テンカワさんは何一つ変わっていなかったん
ですから。
3年前と同じで人を傷つけまいとし自分が傷ついてしまう、損な性格は何一つ。
「君の知っているテンカワ・アキトは死んだ・・・・」
何故そんなことを言うんですか?あなたは目の前にいるのに。
「彼の生きた証、受け取って欲しい」
「それ、カッコつけてます」
違う、そんなことが言いたかったんじゃない!私が言いたかったのは・・・・
・・・・ワタシジャダメデスカ?・・・・
違う、そうじゃない!
・・・・ユリカサンジャナク、ワタシダケヲミツメテ!・・・・
違う!
・・・・カコハワスレテ!アナタニハワタシシカイナイ!!・・・・
違う!チガウ!ちがう!
「艦長、まもなくジャンプフィールドの形成に入ります。って・・・・
艦長、どうしたんすか?」
これはサブロウタさんの声ですね。
閉じていた瞳をそっと開けてみる。
闇の世界に光が射し込む。そしてそこには、心配そうに私を見つめるハーリーくん、
サブロウタさん、そしてオモイカネのウィンドウがあった。
「・・・・何でもありません・・・・各員最終チェックよろしく」
「・・・・そっすか」
「・・・・艦長・・・・」
ハーリーくん、サブロウタさん御免なさい。今の私は・・・・素直になれないんです。
「ルリちゃん」
突然私の前にウィンドウが開かれました。イネスさんからです。
「これでこの戦いに終止符が打たれるわね・・・・」
「ええ」
私たち旧ナデシコクルーを乗せたナデシコCは今から火星極冠遺跡を占拠している、
『火星の後継者』を”逮捕”しに向かっているところです。
「でも、この戦いが終わっても・・・・」
あの人は帰ってこない気がする。
そう、確信に近い思い・・・・そしてもし現実になったとき、私はどうすれば・・・・
「・・・・信じられないの?」
イネスさんの突然の言葉。
「あなたはアキト君のことを信じられないの、ホシノ・ルリ?」
「・・・・そんなことは」
・・・・ないと思う。たぶん。
「そうね」
「あなたが信じられないのはアキト君じゃなくて、・・・・ホシノ・ルリ、あなた自身だもの」
私はイネスさんの言葉に反応してしまい、ウィンドウの向こうにいるイネスさんを睨みつけて
いた。
「フフ・・・・いい顔してるわね。」
でも、イネスさんは私に対していつもの説明おばさんの顔は何処へやら、本当に優しい瞳で
微笑みかけてくれていた。
「アキト君たら、ルリちゃんの想いに気付かないなんて、本当に仕方がない”お兄ちゃん”ね」
何となく、本当に何となくだけどイネスさんの気持ちが分かったような気がした。
「ルリルリ、奪っちゃえ!」
突然ウィンドウがもう一つあらわれる。そこに映っていたのは・・・・
「ミナトさん!」
確かイネスさんとの会話はプライベートにしていた筈、何で?
「無理言ってハーリーくんにイネスさんとの会話流してもらっていたの、ゴメンねルリルリ」
私は視線をハーリーくんの方に向けました。ハーリーくんが縮こまっているのが分かります。
まったく、仕方がない”弟”ですね。
「ねえルリルリ・・・・女の子はね、例え相手が傷つき、自分も傷つくと判っていても、自分の気持ち
に正直に生きなきゃいけないときもあるの。それが今だと思うけどな」
「ホシノ・ルリ。これはあなたの人生、強制じゃないからあなたが決めなさい。・・・・でも」
イネスさんの頬が赤らんでます。この人でも照れるって事があるんですね。
「私は女性として、ううん、一人の女としてあなたが羨ましいわ」
イネスさんが、ミナトさんが、そしてナデシコのみんなが私に微笑んでくれる。・・・・ハーリー
くんはちょっと拗ねていますが。
私は大きく息を吸い込むと、
「私たちナデシコはこれより火星極冠遺跡の奪還と共に、この事件の首謀者”草壁春樹”を逮捕に
向かいます」
するとみんなは一斉に勝ち鬨の声をあげる。ホント、ナデシコのクルーってみんな、みんな、
”バカばっか”なんだから
<ハルカ・ミナト>
ホント、アキト君や艦長には頭が下がるわ。
ルリルリをこんなに感情豊かな女の子にしちゃうなんて。
もし、あの時私が引き取っていたらこんな風にはなれなかったと思う。もっとも、
艦長がそこまで考えていたとは思わないけど。
あなた達二人がシャトル事故で死んでしまったと思ってたとき、ルリルリ何て言ったと思う。
「お二人は必ず生きておられます。必ず・・・・」
涙一つ流さずに言うんだよ。
最初は悲しみを我慢しているんだと思ってた。でもその言葉が嘘じゃないことは、彼女が
連合宇宙軍に入隊したときに判った。
だって、情報を入手しようと思ったら普通に待ってるより、軍などに入った方が早いもの。
それにしても、罪作りよねアキト君。
久しぶりに会ったルリルリは破裂間近な風船の様に脆かったのよ、そんな時あなたが現れた。
もしかしたらルリルリのあなたへの想いは、親族、特に父親への想いだったかも知れない。
でも、あんな現れ方をすればあの子の想いが急速に加速しても不思議じゃないもの。
だから、アキト君。ルリルリを傷つけずに済む方法は無いかも知れないけど、それでも、
ルリルリのことをお願いね。
S−2 ネルガル月面ドッグNo13
「ルリちゃんがナデシコCと合流したそうよ」
「勝ったな」
俺はルリをこの戦いに巻き込みたくなかった。できれば、平和な世界で良い人と出会い、結婚して、
平凡な家庭を築いて欲しかった。
いや、彼女をこの戦いに巻き込んだのは”俺”だ。そして、彼女を犠牲にしてまでユリカを取り
戻そうとしている。
「やっぱり行くの?」
「ああ・・・・」
「復讐。昔のあなたには一番似つかわしくない言葉だったわね」
「昔は昔、今は今だ・・・・」
そう、俺は過去を捨てたんだ。
視線を感じて横を振り向いてみる。そこにはラピスがただこちらを見ているだけだった。
ラピスと俺はナノマシーンによって精神的に繋がっているので、言葉は不要なのだが、
今のラピスはただこちらを見ているだけだった。
『何が言いたい?』
そう思おうとしてやめた。彼女も俺の戦いに巻き込まれた犠牲者だ。ならば、最後まで
俺が責任をとらなければならない。
「行くぞ、ラピス」
少々言葉遣いが乱暴になってしまったが、仕方がないだろう。
これから行くのは戦場だ。亡者どもの集まる所だ。
俺は心の中でラピスに聞こえないように自問する。
・・・・俺はいつ死ねる?
いやあ、ついに出来上がりました。「REVENGER OF DARKNESS」第2話。皆さんお待たせしました。
(待っていなかったらどうする?)う・・・・それは・・・・あるかもしれない。
何せ異聞物と書いておきながら、全然異聞物になっていないあたりが悲しい・・・・
むしろ「ナデ荘」のほうが異聞物らしいかも知れない。
ま、細かいことを気にせず突っ走っちゃいましょう。
1999.4.5 魔角甲機。