アキト、ねえアキトは何処?・・・・・アキト
 
私は夢を見ていた。それはとっても幸せな夢。
いつも私は愛する人と共にいた。
でも、それは夢。それはとっても儚い夢。
だって、目覚めたときにあの人はいなかったもの。
いつも一緒にいてくれたあの人はそこにいなかった。
 
・・・・・・アキト・・・・・・
 
私の大切な人。私の愛する人。私の求める人。
貴方は何処にいるの・・・・・・
 
 

機動戦艦ナデシコ劇場版異聞

REVENGER OF DARKNESS


第3話 終焉〜遙かなる時の狭間で
 
 

<タカスギ・サブロウタ>
 
 木連にいた頃、オレは、いやオレ達は何度かナデシコと戦った。
 しかし、一度も勝つことは出来なかった。
 何故勝てないのか?そう何度も自問した日々が続いたこともあった。
 あの日、ナデシコが火星極冠遺跡を占拠したあの日、初めてオレ達はナデシコに勝てない理由を知った。
 あの通信に流れてきた不思議な会話(後に夫婦喧嘩と判明)を聞いたとき、
「何だか毒気を抜かれる会話だが、どうやらナデシコの強さはそこにあるのかもしれんな」
 と言われた秋月艦長の言葉に何故か頷いたものだった。
 あれから3年、再びナデシコが建造されると聞いたとき、オレはナデシコへの転属希望を出していた。
 オレがナデシコに乗ろうと思った理由はただ一つ。
 オレの想い出の中にある最強戦艦ナデシコをもう一度見たかった。それだけだった。
 しかし、もはやそれもどうでもいいことだ。
 今オレに課せられた任務は艦長を守ること。ただそれだけ。
 
 

<S−1 火星極冠遺跡最下層連絡通路>

 男は走っていた。
 何かから逃げるように、男は走っていた。
 男は走りながら、先程までに起こった出来事を思い出していた。
 火星に突如表れた白い戦艦と魔女。
 奴らが現れなければ、全てはうまくいっていたはずだった。
「”ナデシコ!!”」
 男は忌々しげにその名を呟いた。
 ”ナデシコ”それは男にとって忌むべき名前。
 手中に収めていた木連をクーデターによって失い、追われる事となった原因をつくり、いままた我々の計画を邪魔する存在。
それが”ナデシコ”。
 ”ナデシコ”初代艦長ミスマル・ユリカを拉致し、火星極冠遺跡の占拠及びボソンジャンプのブラックボックスの回収、そして
ボソンジャンプのイメージングナビゲーターとしてミスマル・ユリカと遺跡との融合が成功したとき、忌々しい名前は払拭された
はずだった。それなのに!
「だが、これも一つの結末にしかすぎない、私が生きていれば次がある!」
 もはや男の目には妄想しか映っていなかった。それは全宇宙が自分のルールの中で統一されなければならないと言う妄想。
いや、男にとってその妄想はすでに現実になりつつあった。狂気という名の現実に。
 しかし・・・・・
「そこまでだ、”火星の後継者”指導者にして、元木連中将、草壁春樹!!
 男はその声に振り返った。
 そこにいたのは全身を黒いボディスーツを纏い、顔の半分もありそうな黒いバイザーをした男だった。
 
 

<マキビ・ハリ>
 
 艦長は僕にとってとても大切な人。だから、悲しむ姿は見たくない。
 けれど、アマテラスの事件以来艦長はどこかおかしかった。
 あの時の僕は僕自身の感情を抑えることが出来ずにいたから気付かなかったけど、今考えてみればおかしいところはいくら
でもあった。
 特に・・・・・・”アキト”という名前が出てきたとき・・・・・・艦長は微笑んでいた。
 それの意味するところは僕にはよくわからない。けれど、艦長にとって何か特別な意味があることだけはわかる。
 ”アキト”・・・・・・一体何者?そして艦長との関係は?・・・・・・でも確かなこと、それはその名が僕にとって忌むべき名前で
あること。ただそれだけ・・・・・・
 
 

<S−2 火星極冠遺跡最下層>
 
 3年前、そこには時代を操るものがあった。
 そこには全ての元凶があった。
 そして今、そこには新たなる元凶・・・・・・時代の眠り姫がいた。
 しかし、いつしか眠り姫は王子によって起こされる運命にある。そして、その王子はすぐ側まで来ていた。
 
 その時までそこは静寂に包まれていた。
 白い戦艦が現れるまではそこには沢山の人間がいたが、戦艦と”電子の妖精”によってシステムを掌握されてからそこにいた
科学者達は我先にとその場から逃げ出した。そして、そこには眠り姫以外誰もいなくなった。
 突然扉が破られ、それと同時に黒い影が飛び込んできた。
「無様だな・・・・・・テンカワ・アキト!!」
 そして、開かれた扉の向こうから勝ち誇ったような男の声がした。
「私を誰だか知ってたか?木連の最高指導者だぞ、木連の全てを知る男だぞ!その私が一夜漬けの木連式柔に負けると思うのか!」
 その男、草壁春樹は飛び込んできた影−テンカワ・アキトを掴み上げ、喉輪を右手で掴み直すと一気に薙ぎ払った。
 木連式柔”朧車”−頭上の位置より喉を押さえたまま顔面より地面に叩きつける。その際にさらに技をかけたものの体重を相手に
かけることによってさらなる破壊力を生む。受け身不可能な木連式柔において純然たる破壊を目的とした最悪のワザ・・・・・
 しかし、アキトは地面に激突する前の僅かな瞬間、草壁の腕を取りそのまま力任せにへし折った。
「「グッ!!」」
 それでも、技を全て殺しきれずアキトは後頭部を強打した。
「そうか・・・・・」
 草壁は完全に折れてしまった右手をかばいながら呻く。
「”朧車”はあいつの、月臣の得意技だったな・・・・・それならば、返し技を知っていても不思議ではないな・・・・・・だが!」
 草壁は一気にアキトとの距離を詰める。しかし、後頭部強打の後遺症で意識のはっきりしないアキトは草壁に対して構えきれなかった。
「まだ左腕がある!!」
 草壁は左手でアキトの顔面を掴むと勢いを殺すことなく重心を落とし首をへし折りにかかる。だがアキトは無意識のうちに防御策をとる。
アキトは自ら後方に飛び、草壁の勢いを殺す。しかし、草壁はそれでも攻撃速度を落とすことなくその勢いを利用し再び地面に叩きつけよう
とした。
「をおおおおー!!」
 アキトは己の闘争心を奮い起こすかのように叫んだ。そして、それは意外な結果を生んだ。
 アキトのしていたゴーグルが外れ、草壁の手からアキトの顔が外れた。
「おおおおおーーー!!!」
 再びアキトが叫ぶ。そして、落下しながら空中で身体をひねり、草壁の後頭部に蹴りを打ち込む。
 そのまま地面に激突するアキト、壁に吹き飛ばされる草壁・・・・しばらく二人共動く気配はなかった。しかし・・・・
カチャッ!!
 アキトはゆっくりと起きあがるとブラスターを構え、動く気配のない草壁に照準を合わせた。
「これで終わりだ」

 
 
<月臣元一郎>
 
 オレはこの世界の全てを裏切り、そして失った男・・・・・・
 決して許されようとは思っていない。いや、許されない方がいいに決まっている。
 今のオレは十字架を背負ったまま無様に生きることしか許されていないのだから・・・・・・
 しかし、アキト、お前は違う。まだ許されることが出来る。
 自分自身を呪う必要性はない。
 全てはオレの責任だ・・・・・・
 
 

<S−3 戦艦ユーチャリス>
 
 少女は待っていた。そして少女は見つめていた。
 彼女自身の夢を、想いを、そして未来を・・・・・・
 それは目の前にいる戦艦が担っているような気がした。
 ユーチャリスを基にして造られた白き戦艦・・・・・・ナデシコC。
 ”火星の後継者”を一掃するために造られた最強の戦艦・・・・・・”ホシノ・ルリ”の操る戦艦・・・・・・そして、少女の知らないテンカワ・アキト
を知る者達がいる戦艦。
 少女はただ待っていた。この物語の終幕を、そして新たなる旅立ちを・・・・・・
 
 
 
<ラピス・ラズリ>
 
 火星・・・・・・アキトの生まれた場所、そしてアキトの最後の戦いの場所。
 全てはこの地から始まり、この地で終わる。アキトの戦いの旅も・・・・
「アキト・・・・・・旅はもうおしまいだよ・・・・・・」
 でも、私の旅は終わらない。
 私がこの世界に生まれたわけを知るまでは・・・・
 私をアキトが必要としなくなるまで・・・・
 だからアキト、私は貴方を待っている。
 アキト・・・・・・私は貴方を待っている・・・・・・
 
 
<S−4 火星極冠遺跡内通路>
 
 少女は走っていた。そして少女は思い出していた。
 彼女自身の夢を、想いを、そして過去を・・・・・・
 それは目の前にやってきていた。
 テンカワ・アキト・・・・・・彼女の過去を担っていた男・・・・・・そして彼女の全て・・・・・・
 彼に会わなければ彼女は未来に向かって走ることはなかっただろう。
 少女はただ走っていた。この出会いの終幕に、そして新たなる出会いに・・・・・・
 
 
 
<ホシノ・ルリ>
 
 火星・・・・・・ナデシコの始まりの場所、そして終わりの場所。
 全てはこの地から始まり、この地で終わる。あの人の戦いも・・・・
「あの人は大切な人だから」
 でも、私の想いは変わらない。
 私があの人に出会ったことは偶然じゃないから・・・・・・
 あの人が私を必要としてくれていたと思っていたいから・・・・・・
 だから・・・・・・私は貴方に会いたい。
 アキトさん・・・・・・私は貴方に会いたい・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 
・・・・・・・・そして、1発の銃声が鳴り響いた。それは遙かなる時の狭間にある運命を変える銃声だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<S−5 いつかどこかで・・・・・・> 
 
『本日未明、宇宙軍によって拘留中の草壁春樹被告が突然の心臓発作のため亡くなりました。草壁被告は元木連の最高指導者であり、
木連の若手将校達によるクーデター後消息を絶っていましたが、昨年起こった”火星の後継者”事件において再び姿を現しました。しかし、
その事件の最中に宇宙軍によって逮捕され・・・・・・』
 
 風が吹いた。
 その風は赤い土の表面を通り、その土の匂いを運ぼうとする。
 懐かしい匂い。とても懐かしい匂い・・・・・・
 遙か昔、人が初めてこの地にやってきたとき、こう呟いたそうだ。
「この地の色はまこと戦いの野だ、だがこの土の匂いは我がふる里と同じ匂い。ならば、決してこの地に争いは持ち込んではならん」
 あれから100年以上がたった・・・・・・
 風が吹いた。
 風は何も運ばなかった。しかし、その風は決して止むことはなかった。
 そして、誰もこの風の行方を知ることはない・・・・・・
 
 一人の青年が歩いていた。
 その歩みはまるで一歩一歩自分がいることを確かめるような歩みだった。
 その青年はしばらく歩きある場所までたどり着くと、まるでそこが自分の場所かどうか確認するように地面を強く踏みならした。
 続いて、おもむろに大きく息を吸い、そして吐く。
 そして、しばらくの間青年は動こうとしなかった。
「・・・・・・父様ー!」
 青年の後ろから元気な少女の声がした。
 少女は青年に追いつくと勢い良くその背中に抱きついた。
 青年は少女の方を振り向くと、その背中に手を回し抱きしめる。
「ねえ父様、思い出の場所は見つかった?」
 少女は首を傾げながら青年に尋ねた。青年は少し残念そうな顔をする。
「恐らくここがそうだと思う。僕と彼女の思い出の場所・・・・・・・」
「ここが父様と母様の思い出の場所・・・・・・」
 少女は青年から視線を外すと、目前に広がる光景に目を奪われた。
「すごい・・・・・・」
 そこは草原だった。
 赤き土地に広がる広大な野原・・・・・・風が巻き、草が揺れ、花々が咲き乱れる草原。
 しかし、青年は残念そうに呟いた。
「この目で見ることが出来たら、この肌で感じることが出来たら・・・・・・」
 だが、と青年は思う。自分が見ることが出来なくても子供達には見せることが出来て良かったと、そう思うことが出来た。
「大丈夫ですか?」
 いつの間にか青年の横にどこかあどけなさを残す女性と妖精のような可憐さを持つ少女が立っていた。
「ああ、大丈夫だ・・・・・・」
 青年は女性の方に顔を向けながら答えた。
「この場所は変わらないんですね・・・・・・」
「ああ、オレ達は変わっちまうのに、ここは何一つ変わらない・・・・・・」
 青年と女性は草原から視線を外すことはなかった。
「父様、母様、姉様、早く行こうよ!」
 そう言うと薄紅色した髪の長い少女は瑠璃色の髪をした姉の手を取り引っ張っていく。
 後に取り残される形になった藍色の髪の母と黒い髪の父親は苦笑いをしながら、お互いの顔を見合わせた。そして、妻である女性は夫である青年に何か呟き、
そして手を取って歩き出した。
 
 風が吹いた。
 風は何かを運んでいた。それは言葉、永遠を誓う言葉、そして全ての愛の言葉。
 
 
 
 
 
 
 

・・・・・・私の愛も変わらないよ、アキト・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
<終演の言葉、そして始まりの言葉>

 どうも、魔角甲機です。
 このたびは「REVENGER OF DARKNESS」に最後までお付き合い下さり有り難うございました。
 この話が終わることが出来たのもひとえに読者の皆様方のおかげだと思っております。
 本当に有り難うございました。

 考えてみれば、このお話は劇場版を見た魔角が劇場版の裏の話を書いてみようと思ったがために出来たのですが
 しかし、非常に困難を極めました。なにせ目標も無しに書き始めたものですから話が書く度に変わってしまう。
 ですから、この第3話なんて当初の予定とは全然違うお話になってしまいました。
 でも、後悔はありません。なんせ初めて完結したお話ですから、後悔なんてしたくないから。

 さて、これでこのお話も終わりです。これから先は皆さんが考えて下さい。
 すくなくとも、私の希望は彼等に幸せが訪れること、ただそれだけです。
 それでは、このお話を応援して下さった皆さん有り難うございました。皆さんのもとに幸せが訪れますように祈りながら・・・・・・

 1999.9.28. 魔角甲機
 


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