「37.8度…いかんな、こりゃ」
体温計を見ながら、裕司はベットに倒れこんだ。
〜 雨と向日葵 〜
窓の外は、大粒の雨が降り注いでいる。
いつもは元気な木々たちも、今日ばかりはうなだれている。
空はどんよりと暗く、分厚い雲たちが空を覆っている。
窓を一枚隔てた部屋の中は、雨の降り注ぐ音が聞こえるほど静まり返っていた。
そんな部屋の主である裕司は、布団に包まっていた。
「ごほっごほっ…うぅ……寒い」
今は6月。
時期的に寒いわけが無い。
それに、天気予報のお姉さんは笑顔で20度を超えると言っていた。
天気予報のお姉さんが嘘をつくわけない。
というより、つかないでくれ。
「ったく…なんで風邪なんて引いたんだべ…」
自分の不運に嘆きつつ、さっさと治すべく寝ようとしていた。
幸い、大した授業が無いので、休んでも大した問題にはならなかった。
けれど、せっかく休んでまで治そうとしているのに、なかなか寝付けなかった。
この時期特有の湿度の高さで。
目を瞑って、羊を数えたりもした。
けれど、羊が先に寝てしまったので止めた。
睡魔が来たら、大歓迎して村上げての大宴会を3日3晩やるくらいの気持ちで、布団に横になっていた。
大宴会の様子を想像して、目が冴えてしまった。
………馬鹿だ。
それから数十分して、やっとうとうとし始めた。
裕司は安堵して、心地よい眠気に身をゆだね、夢の中へと落ちていった。
夢に落ちる瞬間、雨音以外の音を聞いた気がした。
* * *
「んっ……」
裕司は自然と目が覚めた。
とはいっても、気がついただけでまだ目は開いていないが。
それにしても、夢を全く見なかった。
夢を見ないということは、相当深い眠りだったということ。
最近は浅い眠りばっかりで、こんなに良く眠れたのは久しぶりだった。
せっかく久しぶりに気持ちいい眠りが出来たので、しばらくはこのまままどろもうと思った。
けれど、手に何か柔らかい温もりを感じた。
不思議に思って、少し目を開けて右を向いた。
すると、右手に誰かの手に包まれていた。
よく見ると、ベットにもたれ掛かりながら、佐奈が可愛い寝息を立てていた。
いつ来たのか、どうやって入ったのか、頭の中で疑問符がダンスパーティをしていた。
「……合鍵、渡したんだっけか」
そういえば、昨日合鍵を渡しておいたんだった。
いつでも、うちに来られるように。
まさか、昨日の今日で使うとは思わなかったが。
佐奈を起こさないように上半身を起こそうとすると、おでこから何かが落ちた。
床に落ちたそれは、タオルだった。
裕司が自分で濡れタオルを使った記憶は無い。
ふと見ると、佐奈の隣に水の張った容器が置いてあった。
どうやら看病してくれていたらしい。
裕司は、寝ている佐奈に向けて、優しく微笑んだ。
「看病してくれて、ありがとな」
そう、囁いた。
そして左手で佐奈の前髪を上げると、おでこにキスをした。
多大なる感謝と、心からの愛情を込めて。
「んっ……」
今のキスに気付いたのか、佐奈が目を開けた。
「おはよ、佐奈」
「おはよ……って、いつ起きたの?!起こしてくれれば良かったのにぃ」
「いや、今起きたところだよ」
「本当に本当?」
「本当だって」
「それなれいいけど……それより、体、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ。佐奈が看病してくれたおかげでな」
「なら、良かった」
安心したのか、佐奈はほっと胸をなでおろした。
すると、裕司が少し目を逸らしながら、佐奈を呼んだ。
「あのよ…その…なんだ」
「……?なに?」
「…ありがとな、佐奈」
「…うんっ!」
少しビックリした後で、すぐに満面の笑みになった。
まるで、少し早く訪れた向日葵の様に。
裕司は照れくさくて、視線を窓の外に移した。
「あ……」
もう、雨は止んでいた。
一本の虹が、青空に映えていた。
「ねぇ、裕司」
「んー?」
「今度はおでこじゃなくて、くちにしてね♪」
「起きてたのかよっ」