小説 いんこな日々

3章 いんこな闘い

ちょろちょろ昼寝と食事を繰り返しているうちに 日は
とっぷりと暮れ まっくらな部屋の中で また眠り
飼い主の帰りを待つ。
以前飼っていたいんこ達も 今隣にいるいんこ達も
毎日が この繰り返しだったんだなぁと いんこになって
初めて しみじみ感じ入るものがあるものだ。

ところで 餌を食べて判明した事実 カナリーシードは
ほんまに美味い。いや もう いんこがハマル理由を
身を持って実感した。
食べ出したら とまらないんである、理性ではね あかん
食べ過ぎは良くない、そう思うのよ。でも パリッと割った
中から出てくるあの細長い実を くちばしの中で砕いた
瞬間 広がるこってりとした味わいは 理性を崩壊させる
に充分なんである。
他の餌なんか どーでも良くなってしまって パシパシ
くちばしで飛び散らかしの 堀まくりので 餌箱の中の
カナリ−シードを選り分けて食べた、たまらない〜。
途中でね まずい カナリーシードの割れた殻ばっか
では 目立ち過ぎ 最悪 カナリーシード禁止にされて
しまう、それはわかっていた、充分 認識はあったの
だけど(くどいけど いんこ飼育経験者ですけん)、
あかん 食べ出したら止まらない。こんな すごいと
は思わなかった。

さすがに夕方には 胸やけしそうになったけど 暗闇の
中 まどろんでいるうちに 体調も戻ってきたので
一安心である。
飼い主が帰ってきて 放鳥時間が来たら 隣のいんこ達
にギャフンといわせてやるからなっ!主導権は 何と
してでも握りたい。

待ちかねた飼い主が帰ってきた。
随分 疲れた顔をしている。胸がズキンと痛んだ。
名前も知らない人だけど 一生懸命働いて 疲れたからだ
を引きずって帰宅して 
「ただいま〜♪」
といんこ達に微笑んでくれた時 この人は いい人なんだ
と私は直感した。からだの疲れが心配で 彼女の顔を
じっと見つめておったら
「あらっ!少しは慣れてくれたみたいね、良かった」
とまた にっこり微笑んだ。こんなに優しくしてもらって
涙が出そうなほど 胸がきゅんと締め付けられた。
まずい またドキドキがひどくなる。あせって顔を上下
に振ったら またきゅ〜っと点目になってしまった。
どう考えても 今までの経験からゆって これは恋する
いんこ行動である。そ、そうなのか いんこって
こんなに惚れやすい生き物だったのか!これまた びっ
くり新発見である。しかも 惚れたのがまるわかり、の
頭フリフリと点目である。横のいんこ達が じっとり
こちらを睨んでいる視線が痛かった。あいつ達は ライ
バルが増えたことを はっきり認識したってわけだ。
今や私と隣いんこ達の間の緊張は 頂点に達しつつあった。
闘いの時は すぐそこまで近づいていた!

飼い主が帰ってきて小一時間ほどたった頃 隣のいんこ達
がソワソワし始めたのを見て 放鳥時間が近づいたこと
を 私も悟った。
「さぁ 出ておいで〜〜♪」
飼い主が次々かごの入り口を開けて 隣いんこ達は部屋の
中を旋廻し始めた。
突然 私は不安で一杯になった。私って飛べるんだろうか?
隣いんこ達の旋廻する羽音が 私を追い詰めた。
飼い主は最後に私の入り口に手をかけた。かごの外に出
たいという想いと反対に 思わず一歩後ずさってしまった。
「大丈夫 こわくないから」
彼女は声をかけながら そっとかごの中に手を挿し入れて
来た。
一瞬 躊躇したけれど 恐る恐る指に脚をのっけてみた。
と思った瞬間 私はもうかごの外にいた、彼女の手に乗
って。

彼女は私をのせた指を彼女の肩の方に 動かした。
私は 彼女の肩にピョンと乗り移った。
その時である。
「きょえぇぇぇ〜〜〜っ!」
何とも迫力のない叫び声とともに オカメが私めがけて
つっこんできた。
さすがに羽を広げたそのサイズは セキセイな私に
とっては 大きかったし 何しろ 不意打ちであった。
「びょぉっ!」
小さな叫び声をあげつつ 私は飼い主の肩からゴロゴロ
転がり落ちてしまった。
「うきょきょきょっ!」
飼い主の肩をもぎとったオカメが勝利宣言の雄叫びを
あげやがった。
やりやがったな こんちくしょう!
彼女の肩めがけて 思いきって飛びついてみたが
やっぱり私は 飛べないらしい。
もともと人間だったんんだから しょうがないような
気もするが いんこ的には これからの闘いで不利な
場面も出てきそうで ちょっと憂鬱になる。
とはいえ 落ち込んでいる暇はない。反撃せねばならぬ
のだ。
体制を整え直し 飼い主の肩に向かって ヨジヨジと
登り始めた。

その時 彼女の肩の上のオカメが
「びゃああああっ!」
と叫ぶと 先ほどの自分と同じように転げ落ちてきた。
山頂を見上げると あの気の強いセキセイ女がオカメ
を突き落として 誇らしげに立ちはだかっている。
瞬間 よじ登って行ったところで 待ち構えている
あいつにどつき落とされるに決まっておる、負け戦
をする必要はない、やるなら…こっちだっ!
よじ登った所から 転げ落ちたオカメめがけて
ダイビングした。
「ぎょええええええ〜〜〜っ!」
転がるようにオカメは頭の冠羽をおったてて 逃げて
行きおった。わははははははっ!
やっぱり オカメは図体がでかいだけだったようだ。
オカメには勝った。
飼い主の肩から見下ろすセキセイ女を下から睨みつけ
「お前との勝負は また今度だっ」
今日は 眼を飛ばすにとどめておくことにした。
ところで あれ?オカメといっしょのかごに入って
いたはずのセキセイ男はどこよ?と見回すと カーテン
レールの上からこっそり 一連の闘いを覗いていた
ようである。
予想以上のへなちょこなようなので あいつも
また次回 ゆっくり闘えばいいことにする。

とにかく初めての放鳥 初めての他いんことの闘い
そして自分が飛べないいんこだったこと、いろんな
ことがどっと 疲れになって襲ってきた。

飼い主がかごに戻してくれて 餌食べて水飲んで
…後は翌日の朝まで覚えていない、爆睡したらしい。
ただ寝しなに 飼い主の
「あっ!カナリーシードばっかり食べてるっ!!」
という怒り声がしたような気はしたんだけどね。

(つづく)
最初に戻る めにゅーに戻る
いんこな日々トップ 次の章