小説 いんこな日々

5章 私の名前

ある日、飼い主が
「お前にも 名前つけてあげなきゃね」
と ふとつぶやいた。

この飼い主、オカメにはグレ子(灰色のノーマルオカメ女
だから、らしい)だし セキセイ男にはちゅう坊(黄色ハル
クインで黄色信号は注意だから???らしい)で セキセ
イ女にはグリ子(緑色のノーマルだから、は説明するまでも
ない)という具合で 名付けのセンスは私から言わせれば
まったくゼロである。
こんなんでは ブルーオパーリンの私には 青子かブル子
と名付けるのがオチである。うわぁ〜 やだやだ。

というわけで 飼い主が名前のこと持ち出して来たら
自分で名乗ることにしておった。
幸い いんこには おしゃべりという芸当の持ち主が
いるものだし 私がしゃべったところで 不自然でも
あるまい。
問題は 発音の仕方である。人間といんこでは 発音
の仕方が 想像以上の差があって びっくりした。
というわけで 私は 飼い主の留守中に 一羽おしゃ
べりの訓練を続けておったのである。
練習した言葉でないとおしゃべり出来ないところは
まるでいんこじゃんと 自分でツッコミを入れて
ドツボにはまったが こうやって 事態が予想どおり
に起きてみれば 自分の先見の明を自我自賛したくも
なるものだ。
飼い主の指のちょこんと乗っかり 得意満面で
「わたし りょーちゃん!わたし りょーちゃん!」
としゃべってみた。さぁ 飼い主の反応はどうだ?
案の定
「うわぁ セキセイのメスでも おしゃべりするんだ
ねぇ!りょうちゃん、って言うの?店員さんが教えて
いたのかな?それとも お客さんの誰かかな?
売れ残って すっかり店の主みたいな顔していたもの
ね。そのくせ あの時は もう少し遅かったら 他
の人が買ってたかもしれないんだってね。良かった
あんたをここに連れて来れて。」
飼い主はニコニコと笑顔で 私に頬ずりをした。
なんだか 嬉し恥ずかしって気分になる。
ああ、こんなちょっとしたことで またカナリーシ
ードの恨みを忘れてしまいそうになる。

その一方で 初めて知った真実に、一羽納得する。
私ってば売れ残りセキセイだったのかぁ〜。
というのも。私は目が覚めると いんこになっていて
すでに ここの家の鳥かごに納まっておったので
それ以前の「いんこな」記憶はないからだ。

ペットショップっていえば いんこ飼ってた頃には
餌やおもちゃを買いによく行っていた店がある。
とても好きな店でよく出かけていたのだけれど
十年連れ添ってきたセキセイインコ 最後の一羽が
逝ってからは 全然足を踏み入れなくなった。
だから 久しぶりに店に入って なつかしかった。
店内の様子は 以前とあまり変わりなかった。
ふと青いセキセイインコが目にとまった。
たった一羽でかごの中にたたずんでいた姿が 自分に
重なった。もしかして…?
それは 私が 山瀬涼子という人間だった時の最後
の記憶であった。

(つづく)
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