小説 いんこな日々

7章 記憶と恨みと復讐と

いんこなってから思うことは 時間の流れがとても早い
ということだ。
セキセイの寿命は 十年とも二十年とも言われているけれど
平均年齢が七十とか八十なんていう人間から比較すれば
はるかに 数倍駆け足で一生を過ごすのだ。

飼い主は朝出かけて夜帰ってきて 半日ぶりのつもり
なんだろうが いんこ的には2,3日ぶりの感覚なの
である。

ということから考えるに 以前 いんこ飼っていた時
旅行で知人にいんこを預け 二週間後戻ってきた私
が完璧に いんこ達に忘れ去られておったのは いたし
かたないことだったのね。
「おまえらって ほんっとアホなのねぇ」
私と対面して 恐怖の面持ちでかごの側面にへばりついた
いんこ達に がっくし肩を落としたけど ごめんね、忘れて
当然の期間だったのね。
とまぁ こんなふうに思うのは 私が人間といんこを
両方経験したから感じることなので 他のいんこに
とっては ごくごく普通の感覚なんだろう。

話は変わるが 私は ついに例のセキセイ女「グリ子」と
激突した。
いんこってのは しっぽが弱点なんである。ちょっと
引っ張られると 全身おぞけだつ感覚が走るのだ。
鳥が鳥肌たてるってわけさね。しつこくて くどいけど
いんこ飼育経験者ですからね、経験で得た知識は
いんこになった今 フルに活用していると思う。
話が逸れてしまった。
とにかく 放鳥タイム グリ子が餌に夢中になって後方
注意がおざなりになった時 私はすかさず 抜け目なく
音もなく 彼女の後ろに回りこみ そして一気に 彼女
のしっぽを引っ張った!
「ぎょええええええええ〜〜〜〜〜っっっ!!!」
背後にいたので 彼女の形相を鑑賞してやれないのは
非常に心残りであったが 叫んだ瞬間 食べかけの
餌がホロリと落ちてゆくのは見えたので 私は
思いっきりほくそえんだ。
私がいんこになって初めて 飼い主の肩に乗った
日 オカメ女に突き飛ばされて 転げ落ちて
でも 不屈の精神で這い上がっていこうとした
私を 飼い主の肩の上から見下ろしやがったあの時
こと、それから その後 私が飛べないと知るや
私の頭の上をかすめるように旋廻しては 私を
煽りやがったこと 今 ここでそれらの恨み晴らし
てやるんじゃ〜〜っ!

随分以前のことまで覚えているなんて 不気味だって?
それに 飼い主を忘れても仕方ないって話と矛盾
しているって??
いやいや 恨みってのは忘れないもんでね。
ちなみに 飼い主に置いてぼりにされた、と解釈
したいんこは 旅行から帰ってきた飼い主の
こと忘れていないでしょ んで 多いにいじける
でしょ?それと同じ。
人間も いんこも恨みは 忘れないんだね(笑)。
そうよっ、私をふった元彼氏も 私をクビにした
バイト先の店長も いんこになった今も忘れてなん
かいないのよっ!
 
一部始終を目撃した飼い主は 一瞬
「なんて恐ろしい…」
と絶句したが ハッと気付いて私を グリ子から
引き剥がすと ガミガミ説教を始めやがった。
飼い主の肩で グリ子はブルブル震えていて
「よしよし 大丈夫だったかい?」
などと 優しく声をかけてもらっていたが あのさぁ
くっさい演技するんじゃないよ、ケガがないように
こっちだって考えてやっとるわいっ!騙される飼い主も
アホくさ〜〜〜、私は説教なんざ馬耳東風とばかり
頭を脚でカキカキして フケをとばしておった。

(つづく)
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