いんこ被害物の会

会物番号2 りんごお嬢様

春から夏にかけて 大切に育まれた私(←わたくし、と呼んでね)
は 台風の季節も お父様 お母様の手に守られ つらく厳しい
世間とは かけ離れた 別世界で 「お嬢様」として 育てられまし
た・・・。「世間知らず」−まったく おっしゃる通りなのでしょう。
でも お父様とお母様は やさしく「それで いいのだよ」とやさしく
私に微笑んでくれました。
「あなたは この20世紀最後の年末に 素敵な箱に優しく包まれ
て 世の皆様の笑顔の使者になる お歳暮用ギフトりんごとして
デビューする大切な身なのですよ。いらぬ心配などして お肌の
ツヤが落ちては 困るでしょう?あなたは 大らかに 年末の
デビューに胸ふくらませて待ってれば いいのですよ。」
お父様とお母様は そういうと 優しく 私の赤い頬をキュッキュッ
と磨いてくれました・・・・。

りんごとして 最も憧れのギフト用として 大切に大切に育てられた
私の 待ちに待った日が やってきました。
やさしく 木からもぎとって 素敵なギフト箱に入れてくれたお父様
お母様・・・・。さようなら 今日で お父様 お母様とも お別れなの
ですね・・・。
「自信を持って 食べていただきなさいね。大丈夫。あなたは 色
艶 味 どれをとっても 最高級のりんごに育てましたからね。」
お母様の言葉 心に大事に刻み 私は 嫁いでゆきますね・・・・。

いっしょの箱に 姉妹が待っていました。
「あら おねえ様 ごいっしょできるなんて うれしいわ。」
可愛い妹が ポッと頬を染めて はにかみました。
「私達 どんな方に 喜んで 食べていただけるのかしらね?」
「うふふ ほんと 楽しみ」
箱の中は暗かったけれど 美人姉妹とうたわれた私達に 不安も
迷いもありませんでした。
道中は あっという間でした。かわいい妹 素敵なお姉様たちと
会話を楽しんでいたら あっという間でしたもの。

そして・・・。とうとう 待ちに待った時が 訪れたようです。
暗い箱のふたが開けられて まぶしい光に包まれると同時に
「うわぁ〜 なんて おいしそうなりんご なんだろう!」
感嘆と賞賛に包まれる私達・・・。
「じゃ 早速 いただきましょうね」
お母さんらしき人は そういうと 私の隣のお姉様をそっと 持ち上げ
ました。
「じゃ お先に。」
お姉様は 優雅に 私達に言い残しました。

耳をすまししていると シャリシャリ お姉様が 気持ち良く 皮をむか
れる音が 心地よく 響いてきました。
「お姉様 とても 状態よろしいようね」
興奮ぎみに 隣の妹が ささやきました。
シャクシャクシャク!噛む音のなんて 冴え渡っていること!
「美味しいね〜・・・・」
ご家族の感嘆とため息が きこえてきます。お姉様 素敵っ!
「もっと 食べたいなぁ」
どうやら 子供が せがんでいるようです。うふふっ。
今度は 隣にいた 妹が選ばれました。
「お姉様 お先に行きますね」
嬉しさで ツヤツヤのお肌を もっと紅潮させて 妹もデビューしてい
きました。ああ 私の番は いつかしら?私も とっても 美味しくって
よ!

「いや〜 美味しいりんごだったねぇ。そうだ 1つ、あの子にも
あげたらどうかな?きっと 喜ぶよ。」
お父さんらしき人が すっかり 満足げに言いました。
「あら。お父さんたら ご機嫌で 太っ腹ね。」
お母さんが クスクス 笑いながら それでも こちらに手をのばして
きました。
ああっ!私!ついに 待っていた瞬間がやってきたのねっ!
お父さんのゆう「あの子」は どんなふうに 私を絶賛してくれるの
かしら?私 お姉様や妹より ほんのちょっと甘みが強くってよ、
自慢になっちゃうから 今まで言わなかったけど。ああ わかって
もらえるかしら?

嬉しさがいっぱいで 興奮しちゃって やだわ、私ったら。
落ち着かなくっちゃ。そう しばらく 目を閉じていましょう・・・。
ほら 目を閉じると 耳が冴え渡り お母さんが 私の皮をむく
ショリショリという音が とても よく 聞こえてくるわ。
ああ 状態は抜群ねっ(わかってることだけど!)
お母さんは 私を綺麗にむいてくれて そして そっと 置きました。
「ほら あなたも 食べなさい、美味しいりんごなのよ。」
私を食べて絶賛してくれる憧れの君との 対面の瞬間ですのね。
私は とびっきりの笑顔で あいさつしようと固く つぶっていた
目を開けま・・・。げっ・・・・?げげっ!?

こ、こいつ・・・もしや 鳥っ!??
うそっ!育つ間に 姉妹たちが 何個も お父様 お母様の必死
の防御にもかかわらず つつき食われ 犠牲になった あの鳥っ?
あら 私ったら なんてはしたない、いや違うっ んなこと かまって
らんないわっ!!そよっ 緊急事態なんだから お 落ち着かなく
ちゃ、落ち着け あたし!
必死になって まわりを見渡すと ここの家のお父さん お母さん
子供達が ニコニコ こちらを見つめている。
つ、つまり・・・・。ゴクリと喉が鳴る。
この鳥に食われることが 私の使命なのね、そう この家族が望
んでいるのね・・・・。
決心しなくちゃ。キッと真正面を向く。今まさにあーんと嘴を突き刺そ
うとしている こいつが 私のデビューの相手なら、私は しっかり
おいしいと こいつに 言わせなくちゃ。
そういえば 外敵だったのと ちょっと 姿形が 微妙に違うわ。
「うちのいんこ 気に入るかな?」
お父さんの声がする。そうか、いんこって鳥なのねっ。気に入る
かなってどゆことよっ(怒) 美味しいに決まってるじゃん!
あんた達 美味しいって 食ってただろがっ!


シャクッ!いんこが一齧りして いい音が響き渡った。
りんごお嬢様は 見事 体制をたてなおしたわけだ。
んが。それこそが 悲劇の始まりだったのだ・・・
この抜群の齧り応えが いんこのとある危険スイッチを押してしまっ
たのだ。そう 破壊スイッチ・・・・
「うきょ♪」
いんこの中で 号令がかかってしまった・・・嗚呼・・・・・
齧ったりんごの実をぶんと ぶっとばすと いんこは 齧り応えのみ
追求し始めたのだ。齧っては 実をとばし また齧っては・・・の
繰り返しである。


信じられない光景であった。
食べられてこそのりんごである。それを!こいつは ちぎり投げる
のに夢中になっているのだ・・・・。
放り投げられた実が 酸化し赤く変色していく様を りんごお嬢様は
呆然と眺めていた。実が赤く酸化するまで 放置されるなんざ 予想
だにしなかった事態であった。
だって 私は 抜群に美味しい味なのよっ!食べ出したら とまらなく
なるほどの美味しさなのにっ!
りんごお嬢様のプライドは ズタボロであった。
「せめて 食えよ・・・」
いいだけ 齧り飛ばして 満足げに 去っていくいんこの背中に 怒り
を込めて吐き捨てるようにゆった時 りんごお嬢様はすっかり赤く
酸化して ぼろんちょになっておったんである・・・・涙・・・・。

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