凍った世界
|
どんな時でも、どんな事でも乗り越えられると思ってた。 自分の愛は他の誰のそれとも違うと信じてた。 でも違った。 一哉と出会ったのは13の年。 私達はすぐに恋に落ちた。 それまでにも、そしてそれからも色んな男と付き合った。 一哉が付き合った何人もの女も知ってた。 それでも良かった。 私達はお互いが幸せならそれ以上は望まなかった。 少なくとも私は一哉の幸せだけを願ってると信じてた。 たとえ他の女が彼の腕の中にいようとも、その瞬間に彼が幸せなら構わない。 そう思っていたはずだった。 一哉は私が躓く時、いつでも傍に居てくれた。 横で支えてくれていた。 ただの恋が愛に変わった瞬間。 それは16の時。 全てを諦めようとしたあの日。 あの人が私を救ってくれた。 何もかにもうんざりしていたあの頃。 「それでも好きだ」と言ってくれた人。 あの人が望むなら別れる事も簡単だと思ってた。 でも。 その瞬間が訪れた時。 私は・・・どうしていいのか分からなかった。 分からないまま彼の望みどおりに。 そして失意の日々。 幾つ冬を越しただろう。 独りで過ごすクリスマスもあれば、誰かと過ごすイブもあって。 何事もなかったかのように過ぎていく日々。 傷が風化したかに見えた頃。 私達は再び出会った。 そして私はもう一度彼に堕ちた。 また繰り返す日々。 何も変わらない時間。 優しくて、そして何かが狂った日々。 何も変わらない日々は、何も変わらない道を辿って終わりに辿り付いた。 ただ一つ変わったのは。 終わりを告げたのが私だと言う事実だけ。 もう一度同じ結末を迎えたら自分が壊れる事を知っていたから。 だから。 その前に。 彼は何も言わなかった。 黙ったまま、何も言わずに。 じっと私を見つめて。 ただ一言「何で?」とだけ言って。 彼には嘘はつけなかったし、つきたくなかった。 だから。 「これ以上好きになったら、自分を見失いそうで怖い」 そう答えた私に彼は煙草に火を付けて。 黙って煙を二回吐き出して。 そして一言。 「一緒に死のう?」 冗談だと思ってた。 まさかそんな事本当にするなんて。 信じられるわけなかった。 信じてなかったのは彼の気持ち。 命を賭けるほどの愛などそこにはあるはずないと。 愛しているのは私だけだと。 だから一緒に駅まで行った。 歩く道々、手をつないで歩いた。 今まで一度も人前ではそんな事した事なかったのに。 これが最後と思っていたから。 彼の本当の気持ちを知らされる前の最後の夢。 まだ電車の走りこんできていない駅のホーム。 お喋りしながら肩を寄せ合い、それはとても幸せな最後の瞬間。 アナウンス。 電車が走りこんでくる。 私は真実を予期して目を瞑る。 目の前に電車が停車しても彼は私の傍に立っていて、そして少しだけ決まり悪げに 笑いながら私に言うのだ。 “やっぱり無理だったよ” そして全ての終わり。 と、その瞬間。 彼が私の手を少し握った。 目を開いてみると。 そこに彼の姿はなかった。 あの日から、私は彼の姿を探しつづけている。 ずっと、ずっと。 どこにも居ない彼。 あの日、駅のホームで別れたきりの彼。 見失ったまま。 どこにも見つからないの。 会いたいのに。 |