8/3 ロンドン公演−第26話−
震えながら衛兵交替式延期の看板を見つめるボク。
開いた口がふさがらないとは、まさにこのことである。
曇天の下、風がぴゅ〜ぴゅ〜吹き荒れる中、
一人半袖でたたずむ…。
回りを見回しても誰一人半袖なんぞ着てるヤロウはいない。
っんごい、デブッチョの外人さんだって、トレーナー着てる。
なのに、ベリーやせっぽちのボクが半袖だなんて…。
買えない訳ぢゃないんだよ。
お金が足りなくて、
半袖になっちゃった訳ぢゃないんだよ。
誰が聞いているわけでもないのに、言い訳をするボク。
マッチ売りの少女の気持が良くわかっちゃうのだ。
凍える手で、売れないマッチを擦る…。
シュボッ。
暖かい炎の中に、暖炉を囲んで楽しそうにしている家族が見える。
テーブルには、出来たてで湯気がヤンワリしているスープ。
子供たちの笑い声…。
思わず目を細めてしまう。
フッっと、炎が消え現実に戻される。
ピューっと、風があざ笑うように身を包む。
…寒い。
ポイッ。
擦り終えたマッチを捨て、もう一本擦る。
ヒトトキの夢物語。
しかし、所詮はマッチを擦っている間にしか見られない夢。
擦っては消え、また擦っては消え。
気がつくと、次ぎから次ぎへと夢中になって擦っていた。
足元には消えてしまった夢のヌケガラが散らばっている。
そして最後の一本を擦ろうとしたその時、
てめぇ〜、なにマッチ捨ててんだよ。
脳天ぶち抜いたろか?
振り向くと白い馬に跨った衛兵がこわ〜い顔して、
こっちを睨んでる。
手には銃を。その銃口はもちろんボクに…。
ひえぇ〜!
あ、あのね。
交代式まで30分もあるからヒマだなァってね。
べ、べつにね、散らかそうと思ってやったわけじゃなくてね。
さ、寒くて我慢できなかったからね…。
寸でのところで、一命を取りとめたボクは、
交代式まで、じぃ〜っとおとなしくしていた。
やがて、式が始まると、
真っ赤な服に黒いふさふさの帽子を被った衛兵が、
ビックリ☆ドッキリメカのように、っんごいタクサン出てきた。
あのふさふさがキレ〜に並んでいる姿は、
まさに、
マッチで〜す(by鶴太郎)。
あれだけ、擦ったらどんな夢が見れるのかなぁ…。
と、衛兵に違った意味で見とれるボクであった。