別董大

〔説明〕

董大とは音楽家の董廷蘭という人らしい。その伝記は明らかでないが、李きにも「董大の胡茄を弾ずる声を聴く」という 詩がある。大は排行が一であることを示す。
李きの詩とあわせて考えれば董廷蘭は、音楽を演奏しながら各地を流浪していた 人のようである。作者もどこかで(詩の内容から辺境地帯のように推測されるが)この人に会い、別れにあたっていつかは君の 才能を認め、召し抱えてくれる人があるだろうと、慰める心をこめながらこの詩を贈った。

千里の黄雲 白日あわし
北風雁を吹いて雪紛紛たり
愁(うれ)うる莫かれ 前路 知己無きを
天下誰人か君を識らざらん

千里のかなたまでも黄昏の雲は立ちこめ、輝く太陽の光も淡く薄れた。北風は空行く雁を吹きまくり、雪は降りしきる。 ーーーーーこれからの旅に自分を認めてくれる人は有るまいなどと嘆きたもうな。天下に君のことを知らぬ者など 一人もあるものか。

《備考》 後半の二行はしばしば「励ましの言葉」として引用される。別れ行く友達、同僚、 知人などにこの二行を書き添えれば、あなたはもう立派な中国通。