〔説明〕

黄鶴楼は湖北省武昌の西端、揚子江岸にある。昔、この地に辛という酒屋があった。その店へ毎日一人の老人が来ては酒を 飲んで行く。
金は払わないのだが辛は厭な顔もせずに飲ませていた。半年ほど経って老人は酒代の代わりにと言い、橘の皮をとって 壁に黄色の鶴を描いて去った。
その後、この店で酒を飲む客が歌を歌うと、壁の鶴が節に合わせて舞う。これが評判になって 客が押しかけ、辛は大儲けをした。十年の後老人が又現われ笛を吹くと、白雲が湧き起こり壁の鶴がその前に舞い降りた。
老人はその背にまたがり白雲に乗って天上へと去った。辛はそのあとに楼を建て黄鶴楼と名づけたという。
又一説には、仙人が黄色の鶴に乗って飛行する途中、この楼に降りて休んだところから名づけられたとも言われる。
有名な伝説の楼でもあり、揚子江を見下ろす景勝の地でもあるから、文人墨客が多く訪れた。伝説によれば、李白もこの楼に上って 詩を作ろうとしたが、崔こう(この詩の作者)の詩以上のものはできないと言って筆を投じたという。

昔人已に白雲に乗じて去り
此の地空しく余す 黄鶴楼
黄鶴一たび去って復た返らず
白雲千載 空しく悠々たり
晴川暦暦足り漢陽の樹
芳草せいせいたり鸚鵡洲
日暮 郷関 何れの処か是なる
煙波 江上 人をして愁えしむ

かってここを訪れた仙人は、もはや白雲に乗って去りこの地には今はただ、黄鶴楼が残っているばかりである。
そのかみの 黄鶴は、飛び去ったままもう帰って来ない。ただ白雲ばかりが千年の昔も今も、変わらぬ姿をとどめつつ流れていく。
晴れ渡った川の 向こうには、漢陽の町の木々が手にとるように見える。鸚鵡洲の上には美しい花をつけた草が、一面に生い茂っている。
ーーーーーだが、日は暮れかかってきた(夕暮れともなれば郷愁が沸く)。我が故郷はどのあたりであろうか。夕靄に覆われ 果ても知らず川波の、続く揚子江のほとりの風物は私の胸にふるさとを恋う思いをかき立たせる。