チャンネル(前)
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男は新幹線に乗り、ゆっくりと窓の外の景色を眺めていた。 ビルや大きなマンションがすごい速さで流れていく様を見るのは楽しかった。 あのトンネルの中に入るまでは・・・。 東京を出発してからそれほど時間が経った訳ではない。 おそらく富士山近くだろうか。 そこにはポカッとまるで鋏で切ったかのような黒い穴が広がっていた。 トンネルに入ると新幹線の速度は見る見る落ちていき、 電池が切れたかのように不安定な動きを続け、そして止まった。 トンネルと言っても青函トンネルほど長くもないトンネルだ。 ただ、少しばかり人が歩くには長すぎると言った長さだろうか。 男は乗務員の指示を待った。 ふと周りを見ると少し歳をとったお婆ちゃんが目に入った。 「大丈夫ですかね?」 と、男は気さくにお婆ちゃんに話しかけたのだが、 耳が遠いのかお婆ちゃんは大事そうに風呂敷包みを抱えているだけだ。 するとそこにポンという音と共に車掌の声が聞こえてきた。 「え〜、ただ今原因不明の故障によりしばらく停止いたします。 復旧にはまだしばらく時間がかかると思います。 お急ぎのお客様などいらっしゃいましたら乗務員までお知らせください。」 そう言い終えるか言い終えないかの内にまたポンとなりアナウンスは終わった。 あれから10分くらい経っただろうか、 突然明るく照らしていた電灯がチカチカと点滅を始めた。 車掌の所へ様子を見に行こうか悩んでいると急に電車は暗闇に飲まれた。 男はお婆ちゃんを心配し、声をかけたが返事が無い。 何度か呼びかけてみたが応答が無いので席まで行ってみると、 そこにお婆ちゃんはいなかった。 先に逃げたのかと思い車掌の所へと暗闇の中を手探りで進んで行った。 途中、どこかでガラスの割れる様な音も聞こえたが男は無視をして進んだ。 時には何かにつまづきながらも男はようやく運転席の前へとたどり着いた。 何か復旧作業をしているはずの車掌の姿がそこには無かった。 この事には何人か気付いているのか、そこら中で人の話し声が聞こえる。 席に戻ろうにもこの暗闇では自分の席がどこなのか見当もつかなかった。 男はしばらく頭の整理をし、気持ちを落ち着け、非常灯を探す事にした。 |