チャンネル(後)
手探りで非常灯を探すもなかなか見つからなかった。
男は非常灯を探すのに夢中になっていたので気付かなかったが、
耳を澄ませるとさっきまでのざわつきがうその様に静かになっていた。
どこかから少しでも光が入る所なら目が慣れるという事があるものの、
漆黒のこのトンネルの中でソレは意味をなさなかった。
物音ひとつしない新幹線の中を男は1人で歩いた。
歩く音は自分の足音だけ、息遣いも自分だけ。
いつしか周囲から人、または生物のいるような気配はすっかり消えていた。

7つほど車両を移動した所だろうか、男の肌に涼しい風が触れた。
風の来る方向へと足を進めていくとそこには閉じられていたはずのドアが開いていた。
他の乗客達は先に出てしまったのだろうか。
車両の中からは完全に気配が消えてしまっているから、
自分が非常灯探しに夢中になっている間に放送か何かあったのだろう。
男は自分の中でそう答えを出し、ホームなどあるはずのない地面へと飛び降りた。

外へ出ると湿気た空気が男を包んだ。
じめっとした梅雨の時に換気を一切しなかった部屋の様に嫌な匂いが鼻についた。
男が降りた場所は入った場所からそう遠くはなく、
もしトンネル内に光があるなら入り口が見えてもいい距離だった。
しかし男の目にソレらしきものは見えなかった。
男は逆を向き、少しずつ足を進めた。
足元はジャリが敷き詰められてるのだろうか、ゴツゴツしてて歩きにくい。
新幹線の横を通り抜けた所だろうか、男の目に黄色い光が飛び込んできた。
光までの距離は歩いて5分くらいだろうか。
「お〜〜〜い」
と呼びかけてみるもその声は暗闇に飲み込まれるだけだった。
男は1歩1歩その光に向かい歩くが、歩く度に光が強くでもなっているのか、
男の目は慣れるどころか近づく毎に見えなくなってる気さえした。

光までの距離が10mぐらいになった所だろうか、
光の強さは一定になったらしく徐々に視界が広がっていった。
しかし、そこで待っていたのは乗客でも車掌でも救助隊でもなかった。
いや、ある意味乗客とでも呼ぶべきなのだろうか、
その光の所では鬼気迫る顔をし、争いあう人達がいた。
そして、それを見て笑いを浮かべる見た事もない生物達。
その生物達は手に光りを放つ玉を持っていて、それが光っていた事がわかった。
角が生えていて、尻尾もあるその生物達は日本の鬼と西洋の悪魔を足した感じだろうか。
ある者は争いあう人を見て笑い、ある者は死肉を食べている。
男はその光景に圧倒されその方向を向いたまま後ずさりをした。
まるで金をかけたB級映画のようなその光景を受け入れられなかった。
鬼魔とでもいうのだろうか、その生物の内の1匹が男に気付き近づいてきた。
男は反対を向き精一杯走ったのだがその生物から逃げる事は出来なかった。
まるで鳥が獲物を巣へ持ち帰るかの様に指の長い足で掴まれ光の中へと連れてこられた。
その鬼魔は男を光の中へ入れ、そして言った。
「最後まで生きていた1人だけ元の世界へ返してやろう。」
そう言うと鬼魔は元居た場所へと戻った。
光の中へ入り、襲い掛かってくる人から逃げ、男が見たものは信じられない光景だった。
中から外を見るととてもトンネルとは言えない場所だとわかった。
地獄なのか何なのか、光の外は濃い緑の霧が渦巻いていた。

いったいどこへ来てしまったのか。
トンネルはどこへ入る入り口だったのか。
それが男が最後に考えた事だった。



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