メモリー
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「では、よろしいですね。 これであなたは新しい人生が歩める訳です。 いやいや、今までは色々と失礼をしてしまい申し訳ありませんでした。 でも、これで浩二さんと会えなくなるのも悲しいなぁ。 せっかく仲良くなれたと思ったらお別れですもんねぇ。 いやぁ、でも決心してくださって良かった。 私も色々とキツい事とか言って悪いなぁって思ってたんですよ? 仕事じゃなければ絶対使いたくない言葉でしたし・・・。 まぁ、これでお互い気持ちよく話が出来る関係になった訳ですしね、 これまでの失礼の数々、お許しいただきたい。 では、これからすぐにあちらに向かう訳ですが準備はよろしいですか?」 その問いかけに浩二がうなずくと男は 「では、少しチクッとすると思いますが失礼します。」 と言い、浩二の腕目掛け注射器を注した。 「はい・・・では、到着した頃に目が覚めるはずですので・・・・」 と、男が言い終えるか終えないかの内に浩二の意識は薄れていった。 浩二が目を覚ますとそこは天国と思ってもおかしくない白の世界だった。 前からの光で周囲がどうなっているのかは確認出来ない。 浩二が唯一知る事の出来る情報は自分自身が椅子に座らされている事と、 動けない様に腰、手首、足首、肩、に革紐か何かで固定されている感触だけだった。 浩二が前からの光に目を慣らそうと瞬きを繰り返していると突然、 「どうも、鈴木浩二さんですね? こちらの準備は完了しているのですが、浩二さんの方はどうですか?」 スピーカーを通した様な声がどこからともなく聞こえてきた。 浩二はその問いかけに気持ちを抑え、下唇を噛みながら肯いた。 「はい、では作業に入るとしましょう。 それでは、始めます。」 マイクを切る音だろうか、ポンッと小さく音がすると右腕がチクッとした。 それとほぼ同時におでこの上、頭をすっぽりと覆うヘルメットの様な機械が下りてきた。 キューーーンと機械から小さな音が聞こえてきた。 それと同時に浩二の意識が次第に薄れていった。 白に統一された廊下にドアが規則正しく並んでいた。 その内の1つがゆっくりと開き、2人の男が出てきた。 「いやぁ、しかしあぁはなりたくないな。」 「まったくだ。」 「あれじゃぁお世辞にも生きてるとは言えないしな。」 「あぁ、でも今時の金持ちの考える事なんて理解出来んな。」 「そうだな、まぁ、理解しろって方が無理なのかもな。 上へ上がれなくなる様な事を感じた事が無いんだろう。」 「まぁな、知ってりゃどこかで挫折なり何なりしてるさ。」 「しかしまぁ、他人の堕落した人生を覗くのが趣味とは・・・、 やっぱり一般人とは考え方から何から違うのかねぇ。」 そう話しながら男達は廊下を歩き、外の世界へと戻っていった。 その男達が出てきた部屋には小さなベットがあった。 そこにだらしなく口を開きどこを見てるでもなく目を開けている浩二がいた。 まるで何も知らない赤ん坊の様に・・・。 |