類推(アナロジー)にもとづく共感覚のゲーム

以下は、チェコの映画監督であり、様々なコラージュやオブジェ、彫刻などの製作者でもあるヤン=シュワンクマイエルが、9つの性的偏好を五感で表現したもの。
僕がこれを見つけた本では、同じ箇所に20世紀前半のチェコの批評家、カレル=タイゲの「五感のための詩、すなわちポエティズム第二宣言」を引用しているが、僕はこのアナロジーに深い共感をこめて、ジョルジュ・バタイユの一節を引いておこうと思う。

「沈黙は心情のあの病的な愛好心の中で与えられる。ある花の香りがさまざまな無意志的記憶に充たされていれば、その花の優しさが瞬時にして私たちに頒ってくれる秘密の、その胸苦しさのうちに、私たちはひとりで花の匂いを嗅ごうとして歩みをとどめるだろう。この秘密とは、内的な、沈黙の、測定不能の、赤裸の現存にほかならない
(ジョルジュ=バタイユ)


五感に翻訳された9つの性的偏好。
あなたには、どの記憶がありますか?

1<ホモセクシャル>

*色 : 明るい黄土色
*触覚的類推 : 玉ねぎを半分に切って、ひとつずつ両手に持ち、くるくる回しながら裸の胸を撫でる。それと同時に、とても粗い紙やすりのうえに裸足で立ち、そっと足の指を動かす。
*匂い : 焼け付いたアスファルト
*味 : 溶けたばかりのバター
*音 : 髪を強引に梳く音
2<レズビアン>

*色 : 白
*触覚的類推 : 自分の裸の身体を温かいビニールでくるみ、草原の斜面でころころ転がる。
*匂い : 乾いたカモミール
*味 : 塩
*音 : 圧力鍋から出て行く蒸気
3<サドマゾヒズム>

*色 : 暗いオレンジ色
*触覚的類推 : 両手の指の腹を、かすかに血が滲む程度にすこしだけ切って、身体中を撫でる。
*匂い : 濡れた犬
*味 : 煮立ったジャスミン・ティー
*音 : 踏みつけられた鳥の餌
4<小児性愛>

*色 : スカイブルー
*触覚的類推 : 両方の脇の下に、毛を刈った雛鳥(まだ温かい)を挟み、かなり熟したリンゴの上にひざまずく。
*匂い : エナメルを塗ったばかりのドア
*味 : 小麦粉
*音 : 撒き散らされるビーズの大きな音
5、<窃視症>

*色 : くらい灰色
*触覚的類推 : 冷えていく膠のなかに両手を入れ、しばらくしてからゆっくりと外に出す。
*匂い : 古くかび臭い紙
*味 : アルコール
*音 : 完全な静寂
6<フェティシズム>

*色 : バラ色
*触覚的類推 : 裸で羽毛ふとんに座り、綿棒にやわらかい毛皮を貼り付けて、最初に背中を(尻からできるだけうえに)撫でつけ、それから頭のてっぺんから胸と腹を通って、足の指の先まで撫でつける。
*匂い : むしり取られたばかりの羽毛
*味 : 冬に(摂氏マイナス5度に)街灯の金属に舌を押し付けたときに感じる味
*音 : 服を引き裂く音
7<動物性愛>

*色 : レモンの黄色
*触覚的類推 : 真鴨の羽根の軸で口の中をそっとくすぐる。
*匂い : 酔っ払った男の帽子
*味 : 自分の血
*音 : ロレッタ教会の鐘の音
8<老人性愛>

*色 : 青みがかった暗い緑
*触覚的類推 : 古い梨の木の枝に裸で足を開いて座り(枝はすくなくとも平均で25センチないといけない)、規則正しいリズムで爪を手のひらに押し当てる(約五分間)。
*匂い : すりつぶしたカルダモン
*味 : オートミール粥
*音 : 棒を横滑りさせて杭でできた柵をたたく音
9<死体性愛>

*色 : 紫
*触覚的類推 : 背中を裸にして、ばらまかれたえんどう豆のうえに横たわり、脛骨にブロック状の氷を押し当て、人工毛皮でできた円筒状の手袋(マフ)で前もって温めておいた自分の手のひらを額におく。
*匂い : 汗で濡れた枕
*味 : サッカリン
*音 : ドアを足蹴りする音

(「シュヴァンクマイエルの世界」国書刊行会より)



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