未来の犯人を求めて〜浪速警察署への旅

1999年3月14日、好天の日曜日。僕は実験助手Sを伴って、「目的のない旅」へと出る決意をかためた。 つまり任意で選んだ地図上の一点へと向かい、行動を起こしたその後で「物語」を再構築する・・・・・・理屈を言えばそんなところだ。でも、今見えている現実とは違う、別の「現実」を感じてみたい・・・最初の動機はそこからだった。 ぐずぐずしている前に、何かをしたい。(それにせっかくデジカメもある)。僕は書を捨て、物語を見つけるために、街へ出た。

PM2:40。天王寺公園。家族連れにまぎれて、僕は噴水のほとりで地図を広げた。目を閉じて、指を差す。「・・・ホントにここに行くの?」目を開けると、僕の指の先には“浪速警察署”の文字が。当然、行くに決まっている。僕はこの旅の記念として、ノートの切れ端を噴水に浮かべた・・・(右図参照)
地図を見て、現在位置を確かめる。まー、今はだいたいこの辺じゃないの?地図からはみ出した部分を指差す僕を、実験助手が冷たい目で見つめた。「こっちに天王寺公園って書いてるけど・・・」ホントだ。物語は見つけることができても、ひょっとして僕たちは道に迷ってしまうのではあるまいか。一抹の不安がよぎる。

さて・・・行き先は決まった。そこで僕は当面の目的を考える。見えない手が僕たちを警察署へ導くとすれば、これにはきっと何かの犯罪が関係しているに違いあるまい。そういえば、中井英夫の名作「虚無への供物」の中でも、まだ行われていない犯罪事件の未来の犯人を推理するという場面があった。ふと、周りを見渡す。ここはかの新世界に近いともあって、ガードマンの数が尋常ではない。ここには、まだ僕らの知らない犯罪が隠されたままになっているかもしれないじゃないか・・・。

天候は次第に悪くなる一方だ。そんな矢先、あやしい人物を発見。(左図参照)
さっそく聞き込みを開始する。が、彼は何事かを秘めたまま、黙して語らず。僕たちはしばらく、彼のそばに座り込んだ。ひょっとしてスタート直後に道を失ったのだろうか。

ピンポーン・・・・・・

突然の園内放送に耳をすませる。「・・・・・・様。至急、動物園入り口・新世界ゲートまでおこしください。繰り返します・・・」
「・・・・・・」
そして、行き先は決まった。
僕たちは動物園の新世界ゲートを目指して歩きはじめた。通りでは何事もなかったかのように、路上カラオケが繰り広げられている。女装のおっさん、はっぴ姿のオバサン、編み笠の集団・・・すでに文化圏がわからない。あまりの異世界ぶりに僕たちがしばしば足をとどめていると、再び矢継ぎ早な園内放送が。早く行けということか・・・。

動物園も近くなってくると、空気に動物特有のにおいが混ざりはじめ、どこからともなく猿に似た雄叫びが聞こえてくる。
猿かぁ・・・・・・そういえば、エドガー・アラン・ポーの有名な探偵小説に、オランウータンが実は犯人だったというすごい話があったはずだ。僕は実験助手にその話の筋を説明しながら、放送に導かれるまま、動物園入り口へと向かっていった。そして、ついにゲートへ到着。ここにいったいどんなヒントがあると言うのだろう。

その場所で、僕たちが見たものは・・・・・・・・・



入り口の正面に掲げられた、3匹のサルのオブジェ。オランウータンとサルは別物だけど、でも、これは・・・とても偶然とは思えない(偶然だって)。
こうなっては、どうなってもオランウータンを探し出さなくてはならない。動物園の追加料金350円を実験助手に払ってもらい(汗)、いざ園内へ。

さて、園内に入ってみると、僕は動物園に来ることがヒジョーに久しぶりであることに気がついた。そして動物園は楽しい。ついつい脱線しがちになる。(もののついでに、愛称を募集していた白熊の赤ちゃんには、「マロース」という名前を候補にいれさせていただいた。ロシア語で「極寒」という意味・・・らしい)。しかし、カリフォルニア・アシカやシロフクロウを見ている場合ではない。
が・・・その時、僕はふと、刺すような視線を感じた。

いた。

しかし、彼はすでに捕まっていた。(当たり前だな)
僕たちはオランウータンの前でしばらく立ち止まっていた。ポーのオランウータンもデュパンがその謎を解いたときには、すでに捕まって動物園へと送り込まれていた。もちろん、彼が真犯人だとは知られないままに。

「気をつけてね・・・」
見送る動物園の少女。

なぞ解きの前に犯人は捕まっている?犯罪はあった?どこからともなく、謎の金属音が園内に響き渡る。もう動物園に用はない。不吉な鐘の音のような金属音に見送られて、僕たちは警察署へと向かう。

ところが、すでに道がわかっていない。背を向けていたおっさんに、道をきく。親切に道を教えてくれたものの、おっさんは別れ際に「気をつけてな・・・・・・」と、視線を伏せてつぶやくように言い残すと、自転車に乗って去っていった。
なにか不吉だ。天候はどんどん悪くなる一方。時刻は逢魔が時。道は細く、人通りも減った。踏み切りを渡ると、そこには小さな鳥居が掲げてある。つぶれた猫の鳴き声・・・まだらの猫が目の前を横切る。

そして・・・・・・

唐突に、それが現れた。
浪速警察署・・・もっと大きな警察署を想像していたが、どうやら普通の派出所だったようだ。
誰もいない。窓は曇って、少し前まで人がいたというような気配もない。まるで廃虚のような場所だ。過去の遺物か。すでに滅んでいる。リヤカーを引いたおじさんが窓の中を覗きこみ・・・帰っていった。

夕闇が落ちてくる。僕たちはしばらくその前で立ち尽くしていた。
犯罪もなく、探偵もなく、警察もなかった。あるのは、ただ僕という目撃者だけ。生命を吹き込むのはいつだって「見る者」であり・・・・・・そして、彼らこそがこの世のお化けなのだ。
もちろん、この僕もそうしたお化けの一員というわけだ。

そして、僕たちは静かにその場を立ち去った・・・・・・

おまけ。
実験後記(+写真)




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