パリ放浪記2


目次

朝、ホテルの朝食はセルフサービスなのだが、パンやヨーグルトもそれなりだったので安心しました。
普段は朝食は食べないので、こんなにちゃんとした朝食をとったのは久しぶりです。オートミールにホットチョコレートを飲んで9時頃にはホテルを出る。

ポンヌフ橋 真夏なのに、外は長袖を着ていても寒いほど。ホテルの人に8月なのに暑くないですね、と言ったら、数日前まで雨が降っていてここ2,3日はかなり涼しくなっているそうだ。長袖も一枚しか持ってきていないので、どこかで調達することに。

メトロに乗ってポンヌフ駅で降りる。今日のメインはサン・シャペルとノートルダムです。

ポンヌフ橋は、カラックスの『ポンヌフの恋人』で見たような感じとは全然違って、周りはすっきりと近代的なおもむき。橋の下のセーヌ沿いは、ちゃんとアスファルトの舗装がしてあって、ランニングコースになっていたりする。映画ではアレックスが身体の垢をザバザバ落としている、わりと小汚さそうなイメージだったのですが。 ただ、橋の欄干ごとにジュリエット・ビノシュが寝そべっていたような石の窪みがあって、そこでしばらく寝転んでぼんやりする(旅の間、基本的にこんなのばっかりでした。気持ちよさそうなところがあると、すぐに寝そべってしまうのは癖かもしれません)。浮浪者のオヤジが殴りにくるようなこともなく、のんびりと過ごす。肌寒いけれども、とても良い天気。

サンシャペルとノートルダムはシテ島というセーヌ川の中州にあって、ポンヌフ橋はシテ島の西端にかかっている橋です。サンシャペルに行ってみるが、いきなり観光客のものすごい行列ができている。並ぶのも面倒なので、その横のコンシェルジュリに入ってみることに。

衛兵の間 コンシェルジュリは元々は王宮だったものが、革命を境に囚人たちが処刑台までの日々を過ごす収容所になった場所。マリー・アントワネットの最後の独房もここにあって、机とベッドだけの粗末な暗い場所に後ろ向きに腰掛けているマリーアントワネットの人形が置いてある。入り口を入ってすぐの衛兵の間というところが、ゴシック様式のかなり広々としたホールになっている。その右手にある警備の間の方は、大広間に通じる待合室になっていて、観光客もほとんど入ってこないし、石の椅子に座って中庭をぼんやりと眺めながらゆっくりとできる静けさでした。中央の柱の上にだけ、頭と頭をくっつけあって寄り添う男女の像が彫ってあって、おもしろいなと思って見ていると、アベラールとエロイーズの像でした。 寄り添うアベラールとエロイーズ

そしてサンシャペルへ。
ここは1階と2階部分に別れていて、1階は民衆のための礼拝堂で、金ピカの内部は少し悪趣味なぐらい。1階の南面にあった聖像の周りを囲む色とりどりのガラス玉なんてちょっと怪しげで、後から入れたものじゃないかなぁと話していました。
南西の細い螺旋階段をのぼっていくと、その先は素晴らしいステンドグラスの世界。
ゴシック建築の極致というか、あまりの高さにステンドグラスを眺めているだけで、首が痛くなってきてしまう。15の窓に1134景の聖書の場面が描かれていて、これを全部じっくりと見るのはとても無理なのだが、眼鏡をかけても上の方のステンドグラスには何が描かれているのか、ぼんやりとしか判別することはできなくて、昔の人はこれで聖書の物語を教えられたのだから、教える方も見る方も大変だ、と変な感心をしてしまう。

若き聖ヨハネとステンドグラス 聖堂内には、ステンドグラスを拾い読みするための解説が日本語版も置いてあって、それを照らし合わせながらステンドグラスを見ていくのも楽しい。
中世の絵独特の、今から見るととてもコミカルな表現がおもしろくて、アダムの脇腹から生まれてくるイブや、偶像崇拝をしている異教の王たちを棍棒で殴り倒しているステンドグラス、ユダヤの美女ユディトがホロフェルネスの首を切り落とし、剣を持ったままのユディトの様々な場面、予言者エゼキエルの幻想、そして、春休みに読んでいたユイスマンスの『EN RADE』で描かれていた、壁紙から生まれる美女エステルの素晴らしい幻想・・・・・・ステンドグラスを細かく見ていくときりがないのだけれど、ものすごくおもしろい。
圧巻は西面のバラ窓で、黙示録の場面はどれも色鮮やかで、ちりばめられたフランス王家の紋章の青と金のコントラストが美しく、7人の赤い羽の天使たちが世界の終わりのラッパを吹き鳴らす。

聖像も素晴らしくて、特に若き聖ヨハネ像などは、非常にリアルな造形で、下から見上げていると不思議なエロティシズムすら漂ってくる。
ここはルイ9世の時代に建てられた教会で、聖堂内部を見ているだけでも当時の世俗権力との関わりが随所に現れていて、ステンドグラスの絢爛豪華さとは別に、連れのユキオさんは「キリスト教が一番ダメだった時」とのたまふ。

1階の売店で、ステンドグラスの細かい解説本はないかと探してみるが良いものがなく、教会全般のガイドを購入する。あと「組み立て式サンシャペル」という変なものもあったので、お土産用に買う。

ちょっと疲れてきたので、ノートルダムに行く前に、カフェに入って休憩することに。

シテ島の東にあるサン・ルイ島へ行き、そこのCREPERIEにてランチ。クレープ屋さんというと日本じゃおやつぐらいですが、向こうでは軽い食事にもなる。
僕はそんなにお腹がすいていなかったので、とりあえずランチメニューの中から軽そうなものを取ることにして、トマトサラダのGALETTEを注文する。GALETTEというのはそば粉入りのちょっと塩味のあるクレープで、かなりそば味はしっかりとするので、日本人には馴染みのある味です。ブルターニュ地方の伝統的な食事だそうで、特にソバ粉が入っているCREPE SARRASINは色も黒くて、ゴツイ感じのする食べ物です。日本のクレープのイメージとは全然違います。そういえば、僕たちが入った店の名前も「サラジーヌ」だったと思います。

で、サラダだから軽かろうとタカをくくっていたものの、これが半端な量じゃない。
出てきたのは、大きめのお皿に山盛りになったトマトサラダと、それを下から四つ折りで包んだクレープ。盛り付けも綺麗で良いのだが、とても僕には一度で食べられる量じゃありません。ユキオさんはGALETTEにプラス食前酒と冷たい豆のスープとショコラクレープまで注文していたので、さらに四苦八苦されておりました(それでもユキオさんは全部食べたのでエライ)。

以後、パリでの食事スタイルは、朝食をホテルで取って、2時から3時頃にやや遅めの昼食、そして夜はお腹がいっぱいすぎて食べられないという 1日2食のパターンで落ち着く。
お菓子を買ってきて、ホテルで食べるぐらいが限界でした。ただ食事は何を食べてもおいしかったのが救いです。口に合わないというのはあったけれども、それは僕の好き嫌いの激しさのためでして、基本的にはちゃんとしたところならレストランでは何を注文しても、そうハズレることはなかったです。

パリではいつも昼食をとると、どんなに早くても1時間はかかります。とてものんびりとした食事のスタイルです。
こういうのは日本ではなかなかないので、嬉しいですね。日本だと、食べ終わったとたんに店員が皿を下げにきたりして、すごくうるさい感じで僕は嫌いなんですが、パリでは食事代というのが場所代こみとして考えられるというのもあって、例えばカフェなんかでもテラスにいったん座ってしまえば、そこはもう僕の場所であってワイン一杯でねばっていようがギャルソンはかまいにこないし、実に居心地がいいのです。まぁ、ワイン一杯でいつまでもいるっていうのは、さすがに気がひけてくるんですが、そんなときは適当に注文すればよいし、パリのカフェは本当に自由でくつろげるスペースでした。

で、そんなふうにのんびりテラスでお酒でも飲んでいると、下手すると2,3時間なんてあっという間にたってしまうので、ついつい自分が時間の限られた観光客だということを忘れがちになってしまいます。

ノートルダムの聖像 すっかり夕方近くになって、思い出したかのようにノートルダムへ。
教会前の広場には、観光客の長蛇の列ができているが、そんなに待つことなく中へ入ることができる。おびただしい数の観光客がひしめいているのだが、教会であるので静かにしてほしいという張り紙が各国語で書いてあって、その日本語の「祈りの場」っていう漢字が微妙に間違えていておかしい。
向かって右側の聖アンナの門から入る。入り口の近くには、蛇が顔にまきついて目隠しをされ、王冠を足元に転がしているおもしろい聖像がある。中に入ると、南のバラ窓の前は工事をしていて半分ほどカヴァーが掛かっているという不運な状況だったが、十分に美しいステンドグラス群を鑑賞する。聖母マリアの門から外にでると、出てすぐのところにサン・ドニの聖像がある。自分の首を両手に抱えているこの像はパリの聖人なので、今後もいたるところで目にしました。あと、門の上部にある聖母、最後の審判、聖アンナのそれぞれのポルタイユもおもしろく、後ろの方にまわると、ゴシック建築のリヴ・ヴォールトもよく見える。
ノートルダムの祭壇側の方には小さな公園があって、観光客がたくさんいて賑やかなところだが、こういう観光地特有の「カラ明るさ」というのも嫌いじゃありません。

例によって夜の8時頃になっても、太陽は明るく輝き、時間の感覚が麻痺してくる。

サン・ルイ島の方に、今は迎賓館にになっているのだが、かつてボードレールやゴーティエたちがハッシシュパーティーを開いていたローザン館があるというので、ぶらぶらと歩いて見に行ってみるが、いっこうにそのような建物は現れない。この日は地図を持っていなかったので、どこかで見逃したのかもしれないとあきらめて、サン・ルイ島を一周歩いて帰ってくる。

セーヌ川の見える川沿いのカフェでワインを飲んで、暗くなるのを待ってからホテルに帰る。



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