パリ放浪記4
目次
朝食を終えてから部屋で荷物を整理していると、ユキオさんのトランクの底からシャルル・ド・ゴールで買ったまま忘れていた煙草、GAULOISESが出てきたので吸ってみる。
ヨーロッパの煙草はパッケージもおもしろいし、それにゴロワーズ、ジタンあたりは一度吸ってみようと日頃思っておりました(僕は煙草が苦手なくせに、煙草を愛しています。要するに煙草は文化だということです)。
ジタンの方は、ゲンズブールやルパン3世(笑)が愛吸していたのは有名ですね。(ちなみに次元はポールモーリアでした)。一方ゴロワーズは、昔のジャン・ギャバンが根っこのギリギリまで吸って、口の中に入った葉っぱをペッと吐き捨てるという、「男の煙草」なイメージがありますね。いまではそんな厳密な区分けなどないのでしょうが、どちらかというと労働階級の、働くおじさんの煙草というところでしょうか。
で、もちろんユキオさんが買っていたのは、フィルター付きなどという生ぬるい代物ではなく、両切り煙草で、それゆえ非常にキツイ。GAULOISES BRUNES。
ただ、この空色に銀色の文字のデザインのものはゴロワーズがリニューアルされてからのものらしく、くだんのジャン・ギャバンなんかがシパーッと吸っていた渋い両切りゴロワーズっていうのは、GAULOISES CAPORALの方だそうです。カポラルの方は空色の背景にガリア人の使っていた兜のデザインは一緒だけど、文字は銀色じゃなくて紺色の縁取りに中抜きになっている。現行のBRUNESとでは味も姿も全然違うそうですが、なかなか手に入りにくいのでしょうか。フランスにいる間も、結局CAPORALの方は見つけられませんでした。
さて、このフランス両切り煙草。僕は両切り煙草なんて吸うのは初めてです。
中学生の頃、ゴールデンバットの両切りなどというエゲツナイ煙草を吸っていたユキオさんに、両切り煙草の吸い方をレクチャーしてもらう。まずはテーブルの上などでトントンと葉を寄せてから、吸い口をつくるために丁寧に指で端を折る人もいるそうですが、ユキオさんはそんなしゃらくさいことはせずに、歯でガリガリっとやってしまうそうです。なるほど。非常に品のよろしくないところが、気に入りました(笑)。
火をつけると、最初の一瞬とても甘い香りの煙が漂います。
キツイ煙草というよりも、濃厚という印象が強いです。ただし吸っているうちにどんどんキツさは増してくるので、慣れないとなかなか吸えるものじゃありません。口の中は葉っぱだらけになるし(笑)。中にはとことん最後まで吸うために、爪楊枝で煙草を刺して吸ったりもするようですが、なんだかそれじゃ酒のつまみみたいで笑えます。
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本日の予定は、午前中アンヴァリッドの方からセーヌ川に向かって歩いて来て、午後からオルセー美術館へ。
・・・・・・というはずでしたが、どうも朝から具合が悪く、お風呂に冷たい水をはって、指先足先を刺激してみるがあまり効果もあがらない。調子に乗ってゴロワーズを吸いすぎたか?(関係ない)
パリくんだりまでやって来て、情けないことひとしおですが、この日はひとりホテルに残って寝ていることに。ユキオさんは予定通りオルセー美術館へ。
眠る気にもなれないので、ベッドに寝転んでテレビショッピングなど見てみる。本日の目玉商品はコードレスアイロンで、部屋中に散乱した洋服があっという間に整理されていく、というアイロンの機能とはあんまり関係ないんじゃないかという画面が展開する。でも日本とかアメリカのテレビショッピングと違って、どこからか沸いてくる「おーっ」という感嘆の声みたいなのはいっさいなく、わりと淡々と商品の紹介プラス使っている人のコメントが続いていく。・・・つまんない(笑)。
しばらく眠ってから、夕方ごろ近くのスタンドで雑誌を買って帰る。ユキオさんにはビーチサンダル付きという変なVOGUEを購入。
ホテルのロビーでしばらくぼんやりしていると、今パリに到着したばかりのアメリカ人男性が話しかけてくる(ひとむかし前のグランジファンといった外見)。ホテルが東駅の近くということもあるのか、近くを歩いていても歩いている人達の言語がいろいろでおもしろい。
しばらくは適当な社交的会話をニコニコ交わすが、ちなみに日本人以外の観光客は、パリの独特の「香り」についてどのように思ってるのか疑問に思ったので尋ねてみると、「そう?ちょっと臭うのかな。でもパリって下水道とかよく整備されてるんでしょ?」とあまりピンとこない様子。パリの下水道は見学コースになってるほど、その整備具合を宣伝しているらしいけれど、それでもその下水が臭うことには変わりなく、下水そのものは見えざれど臭し。それだけじゃなくて、やっぱり風呂嫌いのフランス人(なにもフランス人だけじゃないだろうけど)が醸し出す体臭というのも、パリ独特の香りには混ざっているんでしょうね。ただ、それを「臭い!」と感じるかどうかというのは、その状態が普通であるかどうかで、臭い状態が普通なんだったら別に臭くもなくなるんじゃないでしょうか。ということは・・・・・・壕に入れば壕に従えで、僕自身も臭くなってしまえば、もはやパリの悪臭をものともしなくなるんじゃないか、ってそんなのは清潔王国日本からやってきた僕には到底無理な話です。せめて清潔無臭だけが素晴らしいなんていう、腑抜け状態にならないよう気をつけるぐらいですね。
この臭いに関しては、日本に帰って来てから読んだ鹿島茂の『パリ時間旅行』におもしろい考察が載っていました。
ちなみついでに。
パリの臭いについて僕の好きな描写に、リルケの『マルテの手記』の冒頭があります。
「街路がいっせいに匂いはじめた。ヨードホルムと馬鈴薯をいためる油脂と精神的な不安と、僕はどうやらこの三種の匂いをかぎ分けることができた。・・・・・・(中略)・・・・・・子供は眠っていた。大きく口をあけて、ヨードホルムやいためた馬鈴薯や精神的な不安などの匂いを平気で呼吸していた。僕は感心してじっと見ていた。――――――生きることが大切だ。とにかく、生きることが何より大切だ。」(大山定一訳)
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例のアメリカ人とは早々に別れて、ホテルの近くにあるカフェのテラスで非常に濃いグランショコラを飲んでいると、前の道をユキオさんがホテルに向かって歩いているのを発見。
ユキオさんがオルセーに行って買ってきてくれたガイドブック(日本語版があります)と、オルセーの内部の地図を見比べつつ、明日こそはと計画を練りながらカフェで過ごす。
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