パリ放浪記8


目次

朝の目覚ましは、一応僕の持っていたケータイを目覚まし代わりに使っていたのですが、おもしろいことにケータイはパリで「圏外」じゃないんですよ。いや、通じないんですけどね。ただアンテナが一本も立ってない状態になります。これって発信はできないけど、着信はできるんじゃなかったかなぁ。そんなあほな、ですね(笑)。

そんなことはどうでもよくて、今日は朝からユキオさんとは完全に別行動。ただ部屋の鍵は僕しか持っていないので、夕方頃カルチェ・ラタンのカフェで待ち合わせる。

ユキオさんは、少し郊外へ。
僕はサンジェルマンデプレの本屋群へ。

今日はリュックなんか背負って、いつになくやる気満々です。メトロのCLUNY LA SORBONNEで降りて、きのう行った中世美術館を通り抜け、ソルボンヌ大学方面へ。ソルボンヌ広場の角に、PUF(PRESS UNIVERCITAIRE DE FRANCE、フランス大学出版)の本屋さんがあります。一応、欲しい本のリストアップはしていったのですが、それとは別に、ただ品揃えを見ているだけでも十分楽しい。

僕の好きな作家のひとりに、ジュリアン・グラックがいます。
彼の作品というのはごく一般に日本で手に入るもので『アルゴールの城』があって、他は『森のバルコニー』と『狭い水路』『アンドレ・ブルトン』『異国の女に捧げる歌』『陰鬱な美青年』が古本屋さんに置いてあるか、図書館で読めるというぐらいです。
しかし、パリではもちろんそんなことはありません。ジュリアン・グラックの作品は普通にズラリ。ということで、僕がずっと読みたくてしょうがなかったジュリアン・グラック『LE RIVAGE DES SYRTES(シルトの岸辺)』を購入。これは架空の国を舞台に、破滅の美学を描いた長編小説。
他にジュリアン・グラックでは『LIVERTE GRANDE(大いなる自由)』これは評論集。
『LA PRESQU'ILE(半島)』。
『PEFERENCES(偏愛の文学)』
帰ってから気がついたことですが、買おうと思っていた『UN BEAU TENEBREUX(陰鬱な美青年)』を買いそびれていました。ジュリアン・グラックについては、三島由紀夫が『陰鬱な美青年』について少し触れています。彼は主人公アランを「死」ととらえることに疑問を感じている。

で、ユイスマンス関連では、FOLIOの『A REBOURS(さかしま)』を購入。
これには膨大な脚注がついていて、澁澤龍彦の邦訳版の脚注と合わせて読んでみてもおもしろそうだな、と思って。

ユイスマンスの『EN ROUTE(出発)』。
これにも膨大な脚注がついている。実はこの本は図書館に行っても邦訳が置いておらず、どうしたものかと思っていたのだが、最近偶然にも大阪の古本屋で田辺貞之助訳のものを見つけて狂喜乱舞していたところなのです。

ユイスマンスの『EN RADE(仮泊)』。
これは日本未訳。僕はAMAZON・COMで英語版を手に入れて、春休みにせっせと訳しておりました。この英語版は、前書きはブルトンに関する記述がおもしろかったものの、実にあっさりしたもので物足りなかったのですが、今回購入したFOLIOの方ではボリュームもあって読む楽しみがあります。

ユイスマンスの本がこうして手に入ったのは嬉しいのだが、ふと気がつくと、ユイスマンスの作品で店頭にあるものは要するに『さかしま』以後10年ほどの作品ばかり。実はこういうのはある程度日本でも邦訳があったりするのだが、僕が実際欲しかったのは、初期の未訳の作品だったり、後は悪魔主義にはまっていたころの彼のジル・ド・レに関する論文、それからカトリックに改宗してからの様々な宗教的な作品である。

中でも特に欲しかったのは、『L'ART MODERNE(近代芸術)』で、ユイスマンスは「目の作家」と言われるだけあって、優れた芸術作品に対する理解者でもあり、厳しい審美眼を持った評者でもあったのです。
しばらくいろいろ本屋の中を見てまわっていましたが、ちょっと他のところも見てみよう、といったん店を出る。

サンジェルマンデプレからカルチェラタンにかけては、学生街なので本屋さんも目白押し。PUFがあったところの、向かいの通りには、青い屋根のすごく目立つ巨大本屋がある。GIBERT JOSEPHという本屋さん。日本で言う淳久堂や紀伊国屋のような感じでしょうか。文房具ばかり売っているところと、本屋部門にわかれているらしく、本屋の方は5階建て(?)ぐらいで、中もものすごく広い。
とりあえず、ユイスマンスの上に書いた三つの作品以外ものが何か置いてないだろうか、と探し回る。2階の現代作家のコーナーに再びジュリアン・グラック発見。で思わず、『AU CHATEAU D'ARGOL(アルゴールの城にて)』や『LES EAUX ETORITES(狭い水路)』なども買ってしまう。

しかし、フランスの製本というのはどうなってるんでしょうか。
僕が買ったグラックの本はPUFのも、ここで買ったのも両方、ほぼ2頁ごとになんと「袋とじ」になっているという奇天烈な状態。それも上の部分が袋とじかと思うと、横の部分が袋とじだったり、立ち読みはおろか、普通に読むときだってカッターナイフが必要という・・・・・・なんだこれ、不良品やんって思ったら、彼の他の作品も全部そうなっていて、「まさか、作家の意向で・・・」なんてことを考えていたら、並べてある他の作家の本もたまにそんなふうになっていました。とすると、これは単なる不良品なんだけど、もしかしてフランス人は読めさえすればそんなことは気にしない?(笑)。

グラックが本を出しているのは、ジョゼ・コルティという出版社で、グラックはそこ以外からの本は出していません。というのも、デヴュー作の『アルゴールの城にて』をガリマール社に持って行ったところ、出版を拒否され、逆に彼の作品を見出したのがジョゼ・コルティ社だとのこと。この不良品(?)について、他の作者はどこの出版社から出してるのかちゃんと確認してこなかったのですが、もしかするとジョゼ・コルティのだったのかもしれませんね。
別にいいけど。ただカッターで切らなくちゃいけないのが、面倒だというだけで。

ユイスマンスはどうやらこの階にはなさそうなので、5階まで上がっていくと、古典文学などのコーナーになっている。でもあまりにたくさんの売り場が並んでいるので、ここはてっとりばやく店員を利用。ユイスマンスの本を探しているんですけど、と聞いてみると親切に教えてくれたが、結局見つけたのはPUFにもあったのと同じ3冊。かなりがっかりするとともに、そこはかとなく哀しい。

気を取りなおして、全然関係ない本をあさることに。
僕の従姉妹の子供(3歳ちょっと)のために、ババールのブロック、プラスぬり絵のセットを買う。
ちょうど夏休みなので、子供用のいわゆる「夏休みの宿題」みたいなのが各教科店頭に並んでいる。これがけっこう可愛らしくて、その上もちろんフランス語なのでパラパラ見ていると難しいゾと思えるのが笑える。ということで、大学の友達用にフランス語版「夏休みの宿題シリーズ」数学、フランス語、ドイツ語を購入(笑)。
友達から『星の王子様』の綺麗な絵本を買って来てほしいと頼まれてもいたので、これもさっそく良いのを見つけて購入。というか、『星の王子様』をこっちで買って行く人というのはかなり多いらしく、ヴァリエーションも様々なら、王子様グッズなど多種揃えてあって、なかなか商売してらっしゃる。『星の王子様』のぬり絵も置いてあったので、これも買い(ぬり絵ばっかり買ってるような・・・・・・)。

なんだか荷物が重たくなってしまって、どっと疲れたので(なにせ本が10冊と、ぬり絵、宿題ノート、極め付きはババールのブロックが重い!!)、フラフラとカフェに入ってひと休み。日本の本屋と違って、妙に疲れているのは、本屋の背表紙を読む時に横文字だから変な見方をしなくちゃいけないから?(笑)・・・・・・当たり前だって。

先日買ったスォッチの腕時計はさっそくホテルに忘れているので(役立たず)、時間をきいてみると意外と時間がたっていて、すでに3時近い。何かコインロッカーのようなものに荷物を預けたい、と切望しつつも、そんなものはないので再び本屋へ。とりつかれたようになってますが、今日はがんばりどころです(笑)。

サンミッシェル通りの界隈をうろついていて、なんとなく入った本屋で店員のおじさんが親切そう(に見えた)ので、おそるおそるユイスマンスの本を探していることを告げてみると、ユイスマンスの何を探しているのかと聞かれたので、それはほぼ日本語やろ、というすごい説明をしてみたところ、いったいからそれが通じたものやら、おじさんは『LES ECRIVAINS DEVANT L'IMPRESSIONNISME』という本を渡してくれた。そうなんです!ユイスマンスは印象派についても、かなり熱い絶賛の評を捧げていたらしいのですが、それがいったいどういう内容のものだったのか知りたかったんです!
おじさん、日本語ができるの?それとも、僕とテレパシーで通じ合ってるの?(笑)
この本は特にユイスマンスだけの評論集というわけではなくて、他の、例えばマラルメやゾラ、ラフォルグ、ミラボー、モーパッサン、フェネオンという人達の印象派に対する評論集にもなっていて、これはなお嬉しい。

不思議なテレパシーおじさんにお礼を言って、店を出ると、気分は爽快。荷物も若干軽くなったような気になって(実際は重くなってるけど)、サンジェルマンデプレの方まで繰り出して、プラプラと洋服屋など見てまわる。なんとなく大きくなった気分にまかせて、僕的にモサくて素敵なシャツを購入。
より荷物を重くさせて、時間を尋ねると、もはや待ち合わせの時間が迫っているので、急いでサンジェルマンデプレのカフェ、ドゥマゴへ。
このカフェはお隣のフロールと共に、サルトルとボーヴォワールがデートしていたとかで有名なところ。ドゥ・マゴのテラスでユキオさんと合流し、ドゥマゴショコラ(これがおいしいのだけど、ものすごく濃い)を飲みつつ、今日の戦果を逐一報告する。ユキオさんはヴェルサイユの方まで行かれたそうな。

にしてもそろそろパリ滞在も折り返し地点に来ようとしているときに、僕はまだまだオルセーも見たいし、ルーヴルも見たりないし、モローやポンピドゥーやピカソ美術館も行ってないし・・・・・・と、この滞在中まさかパリを出ないのではなかろうか、と一抹の不安・・・じゃなくて、きっとそうなるんだろうと思っていたら本当にそうなってしまいました(笑)。

スタンドでバケットを買って、ホテルに帰る。



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