THE WAY TO VAMPIRE



この日は朝もゆっくりと眠り、午前中はひとりで王宮の丘へ再び行ってみることにする。きのうは寄らなかったのだが、大通り沿いにあったイコンを売る店に行ってみたいのと、マーチャーシュ教会や漁夫の塔あたりをうろつきに行くのもいい。

王宮の丘ふたたび

今日はさすがにトラムも間違えずに乗って(つまり昨日は間違えた)、丘にも楽してリフトで上がる。 もともと「王宮の丘」というものはなく、ただ王宮の建物と丘とを区別するために便宜上こう呼んでいるだけで、ハンガリーの人たちはこの丘全体を「王宮」と呼んでいるそうだ。
右の写真で奥に見えているのは王宮図書館。そして門扉は正面から見るとアールヌーボー風の優雅なフォルムをしているのだが、おもしろいのは門の上にちょこんととまっている鴉である。大鴉というのは、ハンガリーのルネサンス文化をもたらしたマーチャーシュ王のシンボルである。なぜ大鴉なのかはわからないが、不吉な動物とされる鴉がシンボルになっているなんておもしろい王様だと思っていたら、彼の出身はトランシルヴァニアであったようだ。現在トランシルヴァニアはルーマニア領になっているが、ハンガリーに近いナジラードが彼の出身地らしい。マーチャーシュ王は学者を集めて、コロビナ文庫と呼ばれる文庫をつくり、ハンガリールネッサンスの最盛期を築いた。今でもこのコロビナ文庫は残っているのだが、その表紙には大鴉のマークがしっかりと入っている。

大通りできのう見つけたイコンの店へ行き、キリスト教を専門にしている姉にミカエルとガブリエルを両脇に従えたキリストの三連祭壇画を買う。これで少しは日頃の悪行を悔い改めてほしいものだ。小さなバザーが開かれていたので、そこも覗いてみた。ハンガリーのお土産というのは、実は行くまで全然思いつかなかったのだが、どうやらハンドメイドのレースやテーブルクロス、刺繍といったものが大半をしめているようだ。後はなぜこれがここで、という京都の土産物屋でもよく見かける光景。他に目についたものといえばチェス盤である。そういえばブダペストのセーチェニー温泉では風呂に入りながらチェスを指すのが名物になっているらしい。囲碁はするけど将棋チェスのたぐいはさっぱりなので、温泉チェスデビューを果たすか?もしハンガリー滞在中にチェスを教えてもらう機会があればぜひ買って帰ろう。

マーチャーシュ教会

大通りをまっすぐ進んでいくと遠くからでも目につくのが、マーチャーシュ教会。

ごちゃまぜ様式
この教会が建てられた13世紀にはロマネスク様式で、後にゴシック様式、バロック様式、一時期はモスクに改装されたり、と様々な建築様式で幾度も改築されているおもしろい教会。僕が見たかったのは、この教会の屋根である。僕のヘボ写真ではわかりにくいどころかあんまり写ってなくて申し訳ないんだけど、ちょうど右後ろにあたる部分が、その屋根。ここでは菱形を基盤にした幾何学的な模様が、まるで御菓子の家のように配置されている。イスラムやムガール美術の影響を受けたオリエンタルな雰囲気すら漂っている。このマーチャーシュ教会の装飾は、ヘレンドと並んでハンガリーを代表する磁器メーカージョルナイ工房が製作している。

ヴォルガ家にて

その後、漁夫の塔にのぼり、アイスを食べながらブダペスト市内をぼんやりと見下ろすことしばらく。きのうはこのあたりでやたらと結婚式を見た。きのうだけでも花嫁さんを6人見たと思う。王宮で結婚式をあげて、漁夫の塔で記念写真というのがコースにでもなってるんだろうか。と、あんまり観光ばっかりしててもしょうがないや、と思えてきたので、きのう書いてもらった地図を頼りにマリアさんの家まで行ってみる。
本屋さんやいろんな店を覗きながら行ったので、彼女の家に着いた頃はもう夕方遅く。カタシ先生も在宅で、マリアさんは夕食を作ってくれていた。ハンガリーの料理といえばグヤーシュなのだそう。グヤーシュというのはパプリカを使って、牛肉や野菜を煮こんだもの。ものすごく辛そうに見えるのだが、実は食べると全然辛くない。悪夢のような偏食魔である僕は、失礼になったら悪いと思って、あらかじめマジャール語で「おいしいです(フィノム!)」だけは言えるようにしといたんだけど(感じ悪いな)、別にそんな心配しなくても本当においしかったです。カタシ先生はもともと痩せ型の人だが、どう見てもハンガリーに来て以来血色もよく、ふくよかになられたのは十中八九マリアさんの料理のおかげとみた。
食事は、マリアさん、彼女の息子シモン(5、6歳ぐらいかな)と娘のアニャ(8歳)、居候その1のアラン、その2のカタシ先生、そして僕と実に賑やかだった。このシモンとアニャがものすごくかわいい。シモンは泣き虫でお姉さんっ子、とても人見知りする。アニャはしっかりしていて、いかにもお姉さんらしい話し方。見てるだけでもおもしろい。だけど、食事の後すぐに、マリアさんにちょっとした用事ができていなくなってしまった後、居候2人に僕と子供たちが残されることに。カタシ先生はこれまでシモンとアニャに相当日本語を仕込んできたらしく、二人とも妙に日本通になっている。「じゃんけんぽん!」で遊んでいるのがおかしい。アランに蝶を描いてみせて、彼が日本語でうまく発音できないでいると、アニャが「ちがうわ!“チョウチョ”よ」と教えてあげるのも、すごく微笑ましい。
マリアさんはなかなか帰ってこれないとのことなので、シモンたちが寝てから僕もユースへ帰る。なにやら妙に楽しい気分。

(つづく)

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