小話−別れの場面

●ある列車にて

同じボックスに座りあわせた上品な中年の女性が窓を開けた。
プラットホームには息子らしき若い青年。窓越しに手を握っている。
あまり会話はない。一言二言交わすだけ。想いがありすぎて声が出ない感じ。
列車は動き出した。握っていた手が離れていく。
その瞬間彼女の目から涙がこぼれた。
離れていくホームを見ながらしばらく立ちつくしていた。
ハンカチを握りしめて。。。
「ごめんなさいね」と私達に小さく言って、窓を閉め自分の席に腰を下ろした。

なにか彼女の大事な場面に居合わせてしまってこっちの方が恐縮した。
どんな背景が彼女たちにあったのかなんてわからない。
でも美しく悲しい別れの場面は、私にとってとても印象的だった。


●友達(彼女)が最高にかっこよかった時

彼女と彼はほんの短い間つきあっていた。1カ月もなかったと思う。
想像するに淡い初恋のような感じの、優しいつきあいだったとも思う。
そして彼は急遽国に帰ることになった。。。
彼には仲良しの同国人が2人いて、前日は彼らと一緒にさよならパーティーをした。
写真撮ったり、お酒も奮発して、もちろんいつもより豪勢な食事。

次の日は出発の日。タクシーには彼含め2人しか乗れない。
彼の友達が荷物持ちも兼ねて乗り込んだ。
悲しくなるからって彼が言うので、私達はタクシー乗り場で別れることになった。

私が先に彼と握手した。「元気でね。会えて嬉しかったよ」って。
彼女も同じように彼と握手した。彼女は言葉を選べないようだ。
・・・え、それだけか?と思ったとき、彼は彼女を抱き寄せて両頬に軽くキスした。
彼女もそこでやっと魔法がとけたように自ら彼を抱き締めた。

あっさりした別れ方だったかもしれない。
でもだからこそ最高にかっこいい別れで、2人の気持ちが伝わったのでした。
彼らはタクシーの中で何を話し合ったんだろう? 
彼女のことをよく思っていてくれたら、すごく嬉しいけど。


●2度のお見送り

ドアに紙がはさまってた。「行って来る。見送りはいいから。」という文字。
昨日は空港まで一緒に行くって言ってたのに・・・
飛行機の時間には余裕がある。でも空港で果たして会えるんだろうか?

一人で行くには夜で怖かったから友達も一緒に来てくれるよう頼んだ。
けど、会えるかどうかもわからないようならヤダ、と途中で引き返してしまった。
一人で乗り継いで、紙切れを眺めながら空港へ向かった。

ボードを見るとチェックインが開始されたばかり。間に合うかな?
走っていく。そのゲートには人がいっぱい並んでた。探す。探す。探す。
「もう入っちゃったのかもしれない」諦めかけた頃にやっと見つけた!

びっくりしてた。両手を広げてつぶやいた。
「・・・どうして? 来なくていいよって書いたのに。一人で?」
「だからってサヨナラも言わず行くなんていやじゃん。でも会えて良かった」
「・・・もう時間だから行かなきゃ」
「うん、気をつけて」
「電話してね」
とりあえず賭は勝った。会えて話せた。また1カ月後には向こうで会える。


・・・2カ月後、またお見送り。今度はちゃんと市内から一緒に空港へ。
おじさんも一緒だったから3人でタクシーに乗り込んだ。
でもやっぱり言葉が見つからない。どうしてだろう。久しぶりに会えたのに?

ラジオから昔の歌が流れていた。女性の声。私は初めて聞いた歌だった。
「ねえ、この歌知ってる? これこそ今の心境だよ。覚えていてね」
タイトルを聞いてたので、後でCDを買った。詞の内容を読んだら切なかった。

空港ではおじさんと並んで手を振った。なんてあっさりしたサヨウナラ。
また会えるのかな? もう会えないのかも? 後ろ姿に手を振っていた。

・・・結局姿を見たのはあれが最後だった。
その後1年以上もたってから電話で少し話したけどね。
「会いたいね」ってお互い言いながらもう会うこともないのを2人とも知ってた。
99年08月26日
たびTOP  
HOME