「骨」
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その日はとても久しぶりのオフだったので、つい3時間も立ち読みをしてしまった。
本屋で過ごすのは大好きだ。
あちらこちらと足の向くままに彷徨い、読みふける。しかし、3時間はやりすぎた。
腰が痛くてこれ以上立っているのが不可能に思える。駅前のバスの待合所にはすでに次発の客が行列を作っている。
しかし、乗りたい。
しかも座りたいのだ。
目算では私が座れる確率は五分というところ。
いけるか。
合図のアナウンスが流れた。
先頭のおやじが走り出す。
続いて制服のねーちゃん。
わらわらとバスの乗車口に群がる客達。
肩で牽制しながら乗り込むと最後部の3人掛の席が空いている。一番乗り降りしやすい端にゆっくりと腰掛ける。
ああ、至福の瞬間。
しばし眼を閉じ感慨に耽った後、まぶたを開くとすでに満員状態だった。もちろん私の隣もその隣も普通体型の女性が席を占めている。
そこへひとりの老女が杖をつきながら息も絶え絶えに乗ってきた。
「!」
車内はスシ詰状態で彼女は一歩も前に行けない。
こういうの見るとダメ。
でも今日は、今は、座ってたいの。
精一杯の誠意として左の端に思いきり寄ってみる。私の隣の女性も右に詰めている。
なんとか細身の老女ならいけそうなスペースが生まれた。彼女も雰囲気を察してこちらにヨタヨタと歩いてきた。そしてくるっと踵をかえし、どっっかっと思いきり勢いをつけて座ったのだった。
大股開きで。
「‥‥」
この時の状態で、私のスペースは幅25cm位だろうか。左端にはステンレスのパイプでできた手すりがあって、脇腹を押さえ付けられている格好だ。
結構きつい。
息をする度にろっ骨がパイプに当たる。
できるだけ静かに呼吸をするように努める。
その内、老女は居眠りを始めた。
そして、体重を私の方にかけてきた。
「‥‥‥!!」
老女が息を吸う度に私のろっ骨がミシミシと音をたてんばかりに圧迫される。
「☆×★△■#*〜」
背中を汗がつつーっと流れていくのが分かる。
一応季節は晩秋だったりする。
だんだん意識が遠のいていきそうになる。
もう、もう、だめだ。
朝礼で校長先生が長話をした時のように、目の前が白くなったり黒くなったりした。
その時だ。
老女の右隣の女性が立ち上がった。
とたんにわきの下から血液が体中に駆け巡った気がした。
私は生還した。
お風呂で確かめたらやっぱり青アザできてた。
教訓:クッションを持ち歩こう。
もどりますか?