「モンブラン」





最近、けっこう忙しい。
とっておきのパイのために低温貯蔵させておくリンゴなどの果実を加工したり、いつものケーキを作る合間に、店のリニューアル案を考えてみたり、その為の勉強をしたり、もうすぐ来るクリスマスのケーキシーズンのアイディアをひねり出してみたり、そんな間隙をぬって美樹ちゃんがもちかけてくる難題を解決したり……。
そんなこんなでふと外を見れば、いつの間にか色づき始めた葉が、肌寒い風に揺れていた。秋まっさかり、のようだ。

ショウウィンドウの中を入れ替えに店内に入ると、嬉しそうな顔をして美樹ちゃんが近寄ってきた。つきあっている暇はないんだけど、彼女が目をつけた(失礼)お客様には必ずうならされるし、勉強にもなる。
「ひとみさん」
「どちらの?」
「2番」
この会話くらいならお客様にも失礼にならないだろう。これは短縮しなければ、「ねえねえひとみさんっ。またおもしろいお客様がいらしてますよおお」
「あらまた?どちらにいらっしゃるの?そのお客様」
「2番テーブルです」
という感じだろうか。さすがにこんな会話は店内では出来ない。

さて、肝心の2番テーブルのお客様だが、お二人連れだ。かなり年が離れているように思える。30代半ばに見える男性と、10代後半か20代前半くらいの女性。でも、なにがおもしろいんだろう。年の差だけじゃないと思うけど。
レジのところで美樹ちゃんが注文のお品をお持ちするのを見てみる。
お二人ともモンブランを召し上がるようだ。男性はコーヒー、女性は紅茶。
なんか楽しそうにお話されてるみたいだし、なんかよくわからない。
半ば失望しながら美樹ちゃんの手が空くのを待った。

「美樹ちゃん、どういうこと?」
厨房で聞いてみると、
「なんかびみょーにズレてるんですよね、あのカップル」
と、含み笑いをする。
「ズレてる?」
「話が全然かみあわないんですよ」
美樹ちゃんたらそんなにお客様のお話の内容まで聞いているのかとたしなめようとしたら聞こえただけだと弁解をする美樹ちゃん。まあいいとして、かみあわない話というのはどういうことなんだろう。
美樹ちゃんによるとざっとこんな感じの会話だったという。

男「モンブランってどういう意味か知ってる?」
女「ううん、おいしいよね、あたし大好き」
男「モンが山ブランが白。白い山ってこと」
女「でもほら、いろんなのがあるじゃない?どんなのが好き?」
男「いや、やっぱり本物の雪山は憧れだよね」
女「私はねえ、大きな栗がごろんごろん入ってるのがいいかな。代官山にあるお店の」
男「そうだよね、いつか一緒に行こうね」
女「うん、連れてってね」

「それって……」
絶句する私に美樹ちゃんがたたみかけるように言った。
「2人とも同じ話をしているようで違う話を勝手にしてるだけなんですよ」
そんなことってあるんだ。そんなんでうまくいくのだろうか。
「フン、そんなのどうってことないね」
いきなり後ろで新聞を読んでたはずの叔父が話に加わってきたので驚いた。
「オーナー、どうってことないって?」
美樹ちゃんが不思議そうな顔をして尋ねた。
「はたから思うほど2人の息が合ってないわけじゃない、ってことさ」
美樹ちゃんも私もいよいよ頭の上に?が回り始めたが、そろそろ仕事に戻らなくてはならない。

リンゴを甘く煮詰めながら厨房の窓から2番テーブルのお2人をそっとのぞく。
年も離れているんだろうし、趣味も嗜好も違うんだろうし、話はかみ合わない。
でも、こうやって見えているお2人は、美味しいもの(であってほしい)を一緒に食べて、心から楽しそうに笑っている普通のカップルだ。
「リンゴにパイはいかにも当たり前の組み合わせだし、美味しいのはわかるよな」
叔父の言葉にまたハッとする。
「一見合わないようでいて、実はしっくりきて飽きない組み合わせってのもあるんじゃないかな」
それがあのお2人ってことなのだろうか。
ケーキも恋も奥が深い。
ついでに叔父の眼力も奥が深い……ってことなのかな。
フロアでは相変わらず美樹ちゃんがお2人の会話に首をかしげていた。







<index><Cafe Harmonie>