10月の花:コスモス
「純潔な心がおりなすハーモニーをあなたに」




トントンとノックの音。
「どうぞ」
「失礼します!」
私は仕事の手を休めて、顔をあげる。
「あぁ、君なの。どうしたのかな」
「あの、ちょっと質問があって・・・」
彼は、この占術アカデミーの新入生で、私の講座によく来る。
とても真面目なコだ。
「えーと、先生のじゃなくて、別のクラスで課題が出たんですけど」
彼の手元を見ると何か小さなカードを持っていた。
(ははぁん、Aセンセの例のやつね。)
「その課題というのが・・」
「待って!何も言わないでいいわ。」
彼の顔の前に手をかざし、1、2、3秒。
「ふふん、花のカードね。」
「す、すごい!先生、なんで分かったんですか?」
「占術のセンセイを甘く見ないでちょうだい。」
とウインク。これで先生としては当分、面目が保てる。
「ついでに何の花か当ててみましょうか?」
「はい!お願いします。」
彼は睫毛の長い大きな眼をさらに大きくさせている。
かわいい。
私は占うフリをして彼の瞳にしばらく見とれていた。

「せんせい、やっぱり難しい、です、よね?」
遠慮がちな声で我にかえる。
「ん?あ、そ、そうね、ちょっと難問だったわ。コスモスね。」
「うわぁ〜!当たりですぅ。」
「当然よ。で、コスモスのカードがどうかしたの?」
分かってるが、聞いてみた。
「あのですね、このカードが僕の状況を示してるとして、ですね、」
「どんな状況か、答えろってことね。」
「はい、」
「その問題の何がわからないの?」
「あ、あの。どうやったらわかるんでしょうか、状況が。」
彼はつまりは真面目すぎるのだと思う。遊びで答えればいいのに。
見えないものを見ようとしているのだ。
私が、先生が見えないものの見方を知ってると信じてるのだ。

「・・・これはね、インスピレーションを鍛える為のモノなの。」
「いんすぴれーしょん、ですか。」
「そう、占術は実は正解というものが無いのよ。だから答えは無限。」
私は彼の手からコスモスのカードを取って、彼の目の前に差し出した。
野原一面のコスモスが風に揺れてる写真。
「パッと見て、何を感じるかしら。いいイメージ?悪いイメージ?」
「えっと、いい方・・・ですよね?合ってますか?」
自信無さそうな声。
「さっきも言ったけど、正解は無いの。自分の感じるままに、ね。」
「は、はい!いい、イメージを感じます。」
を真っ赤に染めてカードを見つめてる。ホントにかわいい。
「じゃあ、どんなふうにいいのかしら。あなたのいいイメージは。」
「・・・どんなふうに、って。えーと、」
「考えないで、感じてね。」
「あっ、はい。やさしい、風が吹いてます。」
「うん、いいわよ、続けて。感じた事を全部言ってみて。」
「その風に、コスモスが逆らわずに柔らかく、」
「ふんふん。」
「それぞれがまるでオーケストラのメンバーのように美しい音を、」
「ほう。」
「奏でている、感じが、します。」
「すごいじゃない!出来たわよ。課題が。」
「え?」
彼も驚いていたが、私だって、正直びっくりしていた。
(このコ、実はコスモスのメッセージ、知ってんじゃないの?
と勘ぐりたくなるくらい。
「それが、今のあなたの状況よ。多分ね。」
「はぁ、」
「将来有望ってことよ。がんばって!」
「はい!ありがとうございました!」
彼はぴょこんと頭を下げて出ていった。こころなしか、少し胸を張って。

こうしちゃいれない、私も勉強をしなきゃ、いつか追い抜かれてしまう。
再び仕事に取りかかったとたん、
トントン、ノックの音。
「どうぞ」
「失礼します。あの、質問が・・・。」
別の生徒が例のカードを手に入って来た。
(やれやれ、ホントにコスモスだわ。)





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