7月の花:サルビア
「燃えるような愛であなたを包みます」
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僕はサルビアの花が嫌いだ。あの葉の緑と鮮やかすぎるコントラスト をみせる赤の花の色が、こわい。
あのコはいつもひとりでいた。校庭の隅に小さく作られた花壇に しゃがみ込み、一心に花の世話をしていた。どうという顔ではなかった が、いつも下を向いているので暗い印象を受けた。
ある日、花壇の前を通った僕は、あのコの側に落ちていたハンカチを 拾ってやった。ハンカチを受け取りながら、まぶしそうに僕を見上げた 時のあのコの瞳は驚くほど薄い色をしていた。
その日から、僕は絶えず誰かの視線を感じるようになった。いつも監視 されている気がして、寒気をおぼえた。
何日かたって、僕はある事に気がついた。家の前の街路樹の根元に、 赤い花が植えられている。そしてそれは日を追うごとにその数を増やし、 僕の家を囲まんばかりになった。サルビアという花だと教えてくれた母 は、華やかでいいと喜んでいたが、僕は妙に気にかかった。
その日は夕方になって、突然雨が降り出した。僕は帰りに同じクラス の女の子と会い、彼女の傘に入れてもらって歩いていた。彼女の事が気 になっていた僕はチャンス到来、さりげなく肩に手をまわした。
その時、サルビアの苗を両手いっぱいに抱えたあのコが目に入った。 あのコは雨に濡れながら、まっすぐ私の方を見ていた。その瞳は、腕の サルビアの花の色が映って、まるで燃えているように、赤かった。
その後、同じクラスの彼女を家に送ってから、僕はどこをどう通った のかわからないくらいフラフラになりながら家に帰り、そのまま熱を出 して3日間寝込んだ。夢の中で何度もあのコの瞳とサルビアの花がぐる ぐる回った。
ようやく熱が下がった日、部屋の窓から外を見て、僕はあっと息をの んだ。あんなにたくさんあったサルビアの花がすっかり消えていたのだ。 そして、学校に行った僕はあのコまで消えたことを聞かされた。校舎の 屋上から花壇めがけて飛び降りたということだった。右手に握りしめた ハンカチが血に染まって、まるでサルビアのようだったらしい。
僕にはあのコがなぜ死んだのかわからない。でも、あの花を見る度 赤い瞳となんとも言えない後味の悪さを感じる。
そしてまた、サルビアの季節がやってくる。