話「財布記」




私は第2話でもおわかりのように、金運はいいらしい。
なんで金持ちじゃないのかわからないが、きっと違う方向に運を使い果たしているような気がする。
今回は、そんな話。


私はよく財布を落とす。忘れる。失う。
自転車のカゴに置き忘れてしまったり、電話BOXの中に、電車に、学校の机の中に、車の乗り降りの時に膝に置いてたのを忘れて落としたりもした。

しかし、必ず戻ってくる。

自転車のカゴの時は、気付いて戻った時には盗られていたが、後で喫茶店の掃除をしていたおばちゃんが、「ゴミ箱の中から偶然見つけた」と言って電話してきてくれたこともあった。もちろん札は無かったがカード類は無事だった。電話BOXには何回も忘れたが、大体みんな警察に届けてくれる。拾ってくれた人にお礼を言いに行くととある宗教に勧誘されたりとかはあったが、とりあえず財布は無傷で戻ってくる。

今までで一番すごい戻り方をしたのは、3年前の冬のことだ。
広島から実家に帰省する途中、当時まだケータイを持ってなかったので、実家に最寄りの駅にあった公衆電話から「2時のバスで帰る」旨の電話をした。その時に、またまた財布を置き忘れた。数分後に戻った時にはすでに無く、2時のバスに乗るのをやめて交番に届けてから帰る事にした。おまわりさんには「多分戻らないと思うよ」と言われて気分はディープブルー。2時半のバスにもタッチの差で乗れなくて結局3時の便になった。駅を出て10分後、1人掛の席に座れた。ショックと疲れでぼーっと前を見てたらすぐ前の席のオヤジが私と同じ名前の書かれた診察券を見てる。
「ふーん、変わった名前なのに珍しい事もあるもんだ。」
と、次の瞬間、我に帰った。
「ちゃうちゃう、私のだ、あれは!」
オヤジは財布の中身を取り出していろいろ調べていたのだった。
(おいおい、何も同じ方面の2便後のおまけにあたしの前の席に座るか?普通!)
偶然に驚きつつ私は作戦を素早く練った。泥棒として交番に引っ張っていく事もできる。でも、少し危険かもしれない。ここは、やはり・・・
「うわー、私の財布どこで拾って下さったんですかァあ?!」
バス中に響く大声にみんなが振り返る。もちろんオヤジも。かまわずまくしたてる。
「もー、今日広島から帰ってきて、帰りの新幹線の切符も入ってるし、どーしよーかと思ってたんです!ありがとうございますーーー!!」
オヤジは慌ててポケットに入れていた財布と中身を揃えて私に差し出す。(現金はとりあえずいいわ。切符とカードが戻れば)
「あ、あんたのだったんか、いや、あのバスの待ち合いのとこで拾ってな、」
「ああ、やっぱりあそこだったんですね!助かりました。」
「いや、うちの近くの交番に届けようと思ってな、金はもう入ってなかったんや。」


オヤジはしどろもどろになりつつも盗ったことは否定している。どうでもよかったが、一応後々の事も考えて名前を聞き出そうと思った。
「いいんです、切符があれば。でも本っ当にありがとうございましたぁ。せめてお礼がしたいので、ご連絡先を教えていただけませんか?」
とたんにオヤジは焦ったようにポケットの中から1万円札を出して私によこした。
「お、おじさん今日競馬で当てたからあんたにやるわ。」
「へ?」
「ほ、ほらお金無くて困るやろ?やるわ。」
私が対応を考えていると、更に五千円札が出てきた。
「な、とられたのより少ないやろけど、もうおじさんはええんや。」
「は、はあ。でも拾っていただいたのはこちらで、御礼をお渡しするのはこちらの方なんですけど」
「もう、いいから。な、な。」
私としては私のお金だからいくらでも戻ってきてほしかったがここまでのようだった。オヤジは真っ赤な顔をして降りていった。
バスが走り始めた瞬間、私は今思い出しても恥ずかしくなるくらい大声で悪態をついた。
「っかーーーっ!何が届けるつもりだ、ざけんじゃねーよっ」(ま、ほんとに拾っただけかもしれないんだけど。)後で私がおりる時、バスの運転手さんが
「途中で交番に寄ろうかと思ったんだけど、おねーさん頑張ってるし。」
と、にやにや笑いながら手を振ってくれた。

かくしてその時も財布は不思議な運命をたどって私の元に帰ってきた。
いつも戻ってくるからまた落としたりするんじゃないかとも思うけど、<可愛い子には旅をさせよ>って、言うしね。





もどられますか?

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