話:金




人間もそうだけど、金魚ってその環境に応じて成長するもんだ。
十数年前のこと、母は夏祭りで嬉し気に金魚すくいをした。
のんびり屋の母にすくわれたのだから、だいぶん弱っていたに違いないが、3匹が母の手中におさまった。
だいたいがこのテの金魚は長生きをしないものだが、こいつらは元気だった。
いや、生けるもの全てを慈しむ聖母のような母の世話のおかげかもしれない。
彼らはすくすくと育っていった。
そこで母は彼らのお家を用意した。ま、いわゆる金魚鉢なんだけど、元火鉢。
この火鉢もそんじょそこらのものじゃない。暗殺されたI氏(伯爵)の息子宅で使われていたという、すごいのかすごくないのかよくわからないシロモノだ。
最大部で直径80cmくらいある結構大きいものだけど、やっぱりあちこちヒビが入ってて、水が漏る。そこで耐水性の接着剤を流し入れ、ムリヤリ固めた。
はい、金魚鉢の出来上がり。さすがに家の中には置いておけない重さだったので、庭に置き、猫に狙われないように上にモチ網をかぶせた。すばらしい。
金魚達は広々とした家に満足したように悠々と泳いでいた。

それから数年の月日がたった。
私は実家を離れていたので、金魚達の様子を聞く事はなかったし、おそらくはもうとっくにいないものだと思っていた。
ある日、実家に帰ると、あの金魚鉢がまだ庭にある。
「!」
まさかまだいるのかと半信半疑で中をのぞいて、驚いた。
「!!!」
彼らは2匹に減っていたが、生きていた。
そして、
   でかい
       のである。
小さめの鯉くらいは十分にある。最初、鯉を飼い始めたのかとも思ったが、
よくよく見ると金魚の形をしている。
もう火鉢が窮屈そうだ。こんなにでかくなるとは。

その金魚達は、母が病に倒れるのと前後して昇天した。今頃は本当に広い空でクジラくらい大きくなって泳いでるに違いない。





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