今更Merry Christmas

そらいろ作



「何でって言われても 最初から そう言ってあったはずだろ?」
俺は 怒っていると言うよりは 呆れた口調で答えた
「だってぇ クリスマスだよっ?聖なる夜だよっ?」
電話口の向こうの彼女は さっきからほとんど半泣き状態だ
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜 そんな日は みんな 何処に行くんだよ?」
「・・・Hなホテル・・・」
「その前っ!」
「ステキなレストランで食事してぇ・・・」
「そうっ!そうだろっ?」
「だからぁ〜 わたし達も で〜とぉ〜」
甘えた口調で懇願してくる彼女
それでも どうにもならない事もある
今回が それのいい例だと思う
「じゃ 質問 俺の仕事は?」
「・・・コックさん・・・」
「仕事場は?」
「・・・レストラン・・・」
「どんな感じの?」
「・・・結構おしゃれ・・・」
「クリスマスに来てみたくない?」
「・・・一緒に行きたい・・・」
「じゃ そういう事で・・・」
いい加減 さっさと電話を切りたい俺
「じゃっ!じゃないも〜〜んっ!」
それでも 食い下がる彼女
「あのね・・・俺の仕事 パティシエって言うの」
「・・・前にも聞いた・・・」
「一応 お菓子職人」
「・・・それも聞いた・・・」
「クリスマスと言えば?」
「・・・サンタさん・・・」
「食べる方っ!」
「・・・けーき・・・?」
「なんで『?』がつくっ!」
「だってぇ〜〜」
「あのね ず〜〜〜っと前にも言ったと思うけど
クリスマスってのは 俺にとって一年で最大の見せ場なの
どんなすごい料理が出た後でも
最後の締めのケーキに お客さんが感動してくれるのっ!
そんな日に仕事は休めないし 休憩取れるほどの暇もないのっ!
わかったっ?」
俺は それでも 「だってぇ〜」を繰り返す彼女を残し
ちょっと 惨いかなぁ〜と思いつつも さっさと受話器を置いてしまった
『ごめんな・・・ちょっとだけ ガマンしてくれ・・・』
伝わる訳でもないのに 心の中でつぶやいて
俺は クリスマスケーキのデザインと
今後の彼女に頭を悩ませながら 眠りにつくのだった・・・・くすんっ・・・

「も〜 最近 毎晩これの繰り返しなんですよぉ〜」
ランチタイムが終わり 厨房の中も落ち着きはじめた頃
「最近 やけに疲れてないか?」と
スーシェフから声をかけられた事に端を発し
上記のやり取りを事細かに解説して 4行上の会話に至る と言う訳
「はははっ 俺も よくやったよ それ」
かなり気前よく笑ってくれる スーシェフ様
「もー だからって 笑い事じゃすまないんですよ〜」
こっちは かなり弱っている状態なのに・・・
「はははっ もっと話し合って うまくやるしかないな」
「アドバイスになってないですって〜」
「俺も 苦労したんだから たまには人の事見て笑っても罪はないと思うぞ」
「・・・あなたは きっと悪魔です」
「はははっ クリスマスに悪魔か?イケてると思うぞ」
「・・・ホントに悪魔ですよぉ〜〜」
俺は ただ乾いた笑いで その場を濁すしかなかった・・・くすんっ・・・

「よ〜〜 首尾はどうだい?一晩限りの主役様?」
ランチタイムが終わって 今夜の本番『クリスマス ディナー』に向けて
忙しく厨房内を走り回る俺の前に
相変わらずお気楽極楽なスーシェフ様が やってくる
「・・・まあ ボチボチです」
「俺は もう終わったぞ」
「・・・やっぱり 悪魔です」
スポンジケーキに 生クリームを絞りつつ つぶやく俺
「おっ いい感じに出来上がってるじゃないか?一個食ってもいいか?」
そう 言いつつ 既に手はケーキをつかみ 口元まで運んでいる
「あぁぁぁっ!何するんですかぁぁ〜〜っ!
予備 そんなに作ってないのにぃ〜!」
それでも そんな事はお構いなしに からから笑ったままのスーシェフ様
「一応 予備はあるんだろ?だったらいいじゃん?」
「だからってぇ〜〜」
俺は 半泣き状態だった
実際 間に合うかどうか 不安だっただけに
その一個が かなりの痛手になる可能性だってあるのだ
「その代わりに いい物やるよ」
そう言うと スーシェフ様は 耳元でぼそぼそっと 一言呟いた
俺は この店に来て 初めてスーシェフ様が天使に見えた

俺は 厨房の隅に置かれた椅子に ドカっと腰を下ろし
背もたれに全体重をかけて 脱力していた
「おつかれさ〜〜ん」
相変わらずの天使の微笑みを浮かべたまま
スーシェフ様が あまりもののコーヒー片手に近づいてきた
「やっぱり 君はセンスがいいね〜 今年も好評だったよ〜」
俺は いつもに増して充実していた
ケーキがウケたこともあるが それ以上に嬉しい事もあったからだ
「ありがとうございます それもこれも全て・・・」
「俺のおかげか?」
「俺の日ごろの行いがいいからだと思います」
「そう来ると思った」
そこまで言うと お互いに顔を見ただけで笑えてきた
俺は 久しぶりに 満足行くほど笑えた

心地よい疲れを引き連れて
俺は いつもの様に アパートの扉を開ける
部屋の電気を点け コートをハンガーにかける
そして ちらっと電話を見れば 案の定 留守電が入っている
俺は 紅くチカチカひかるボタンを Piっと押した
「ぴ〜〜〜っ」発信音
「もしもし サンタさんですか?」当然 彼女の声
「今日は ありがとう すごくビックリしました
いつもワガママばかりで ごめんね
でも すごくすごく嬉しかったです
手作りケーキ おいしかったよ
でもね ひとつだけ 注文つけてもいいかな・・・?」
彼女は 少し言い淀む
「あのね・・・なんで せっかくのクリスマスのメッセージが・・・
『サンタ参上』なのかな〜〜って思って・・・」
ぷちっ・・・ツーっツーっ
どうやら 言いきる前に録音時間が切れたようだ
理由?そんなのは簡単だよ?
「あれだけ言っておいて
今更『Merry Christmas』は言えないだろ?」







またまたそらいろさんから、頂いてしまいました(^_^)
今回は1000HIT記念ということで。って、こっちが渡すものでは(汗)
そらいろさん、これからもよろしくお願いしますね。



もどりますか?


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