憂鬱




 あれは、中学2年生のとき。
 何となくクラスで浮いてしまっていたあたし。あの日、日直で黒板を消していた。
 前の時間の先生は、黒板の上の方まで書いていた。背伸びをしても届かない。でも、誰も手伝ってはくれそうになかった。何か情けなくて、思わず涙が零れそうになったそのとき。
 黙って、黒板消しをあたしの手から取って、上の方を拭いてくれた高藤くん。あたしを見下ろしながら、言った。
「靴のサイズ、何センチ?」
 どうしてそんなことを聞くのか判らなかった。でも、取りあえず答えた。「24センチ」って。
「小さいなあ! 俺、28センチ。靴のまま、俺の靴履けんじゃない?」
 笑いながらそう言うと、彼は自分の靴を脱いでよこした。

「――で?」
「履けたの」
「……それだけ?」
「それだけ」
 何、それ。そう言いながら、親友の智子(さとこ)が大笑いする。
 あたしだって、彼がどうしてそんなことをしたのか、よく判らないのだ。よっぽど沙稀のこと、気になってたんだねえ、智子は残っていたビールを一気に飲み干した。
 その高藤くんに、今日、コンビニで会ってしまった。中学を卒業して以来だから、もう5年振り。地元から離れた大学に進んだので、こんなところで知り合いに会うとは思ってもみなかった。
 屈託のない笑顔。真っ直ぐな視線。
 好き、だったのだと思う。でも、あたしには何もできなかった。思いたくなくて、振り切ろうと努力をした。そうしてできた、小さな「傷」。そこから滲み出る、記憶の破片(かけら)。
 彼は、相変わらずだった。中学のときと変わらない、眩しい笑顔をあたしに向けた。それは、懐かしくもあり――妬ましくもあった。
 あたしはもう、あのころには戻れない。何も知らずに笑えない。真っ直ぐに誰かを見つめられない。
 彼はあたしたちを車で部屋まで送ってくれた。運転席から軽くてを挙げて「また今度」って言った。
 今度って、いつ? 1年後? 5年後?
 そのとき、あたしは彼の笑顔を素直に受け止められるだろうか? 時間の流れに取り残されたように輝く彼を、自分と比べずに受け入れることができるだろうか……?







かいさんから、「再開」をテーマにした作品を頂きました。
どうやらまた、めだまさんがおねだりしたらしい・・・。
でも、またください(爆)




もどりますか?


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